麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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2ヶ月経ってないのでヨシ。


七十二頁「夜、刻々と近づく…」

 

 シーザーが暴露しようとした己の親の名前。

 別に知っている人はこの海に幾らでもいる。知らない人が知っている人から聞き出すのも間違っていない。

 別に世界政府が空白の歴史の様に存在をもみ消している訳ではないのだから。

 

 無知を既知にしていくのはスマラにとっても好ましいことではある。

 むしろ、読書と言う形で己が率先して行っている形だ。

 

 そう、気になって調べたり聞き出すのは問題ないとスマラは思っている。

 自分にとって地雷でもあるそれを己が見聞きしている範囲で行われない限り、と言う条件付きだが…………。

 

 

 

 話し合いの最中に彼らが目視出来る場所までノコノコとやって来たのは私だ。

 話の流れをちゃんと耳に入れていたのも認める。

 ならばシーザーの口から私の親について語られるのも予想していたし、実際にシーザーは麦わら一味の圧に負けて語っていた。

 私も当初はそれを黙認していた。

 先に述べた通り、私の口から言うのは憚れていたが他人の口から知られる事に関しては良かった。

 しかし。しかし、話を聞いて行くうちに不快感がどんどんと混み上がって来たのだ。

 

 シーザーがアイツの名前を言葉にする寸前に我慢の限界が訪れた。

 感情のコントロールを失った私は威圧だけに留めようと思っていたにも拘らず、覇王色の覇気を全開で叩きつけてしまった……。

 我ながら失態だ。いえ、消化しきっていると思い込んでいたモノが未だに私の中でくすぶり続けていた、と言う事かしら。

 

 

 

「……ハァ。ダメね」

 

 スマラは何度目かのため息を吐き出した。

 時間は既に夜。あれから既に数時間が経過していた。

 

 コントロール出来ていない覇王色の覇気を船の上で叩き付けた。場合によっては敵対行為として捉えられても可笑しくはない。

 しかし、船長を除く全員が戦闘態勢に移行しようが、能天気な船長だけは違った。

 彼はケロッとした表情で「何だよ~。それくらい聞いてもいいじゃねーか。 それもとなんだ?スマラが言いたかったのか?」と言った。

 更に「それならそうと言ってくれれば俺たちは何時でも聞いてたぞ~」と続ける始末。

 恐らく本気で言っているのだろうが、今この時は能天気さに空気が救われた。と思ったのはスマラだけ。

 場の雰囲気に居たたまれなくなり甲板を後にしたのだった。

 

 

 心が落ち着かない時でも読書だ。

 ふとした瞬間に現実へと戻り、先の件を思い出して辞め息を吐くのだが、それでも本の世界に飛び込んでいる時は悩まずに済む。

 

 それらを繰り返して早数時間。

 時刻は既に夕方を過ぎ夜へと変わっていた。

 

 時間を意識すると、くぅ~と可愛らしいお腹の虫が鳴る。

 流石に食事を取らなさ過ぎた。これ以上は流石に厳しい状態に突入する。

 能力で引き伸ばす事も出来なくないが、能力を使うにも体力を消耗する。

 その消耗する体力の為に栄養を補給しなければならないのに体力を使って補給を遅らせるのは、倍々に体力を消耗しているにの違いはない。

 戦場や敵地であれば我慢する事も考えたが、ここは敵地でもないし友軍地でもない。

 友軍地ではないが、自分に害をなす事はしないだろう。故に食事を取ろう。

 

 読みかけの頁に栞を挟んで移動する。

 月明かりと記憶している間取りを頼りに歩いてキッチンへ。

 既に夕食の時間は過ぎているのだろう。気配は殆ど無かった。

 キッチン前にたどり着くと灯りが付いているのが分かる。

 一瞬、ドアノブを捻る前に昼間出来事が頭を過ったが、それも一瞬だけだった。

 

 私は何も悪くない。……多少の責任はあるにしても、元々の原因を作ったのはシーザーだ。麦わら一味が興味を持ったからだ。

 

 そうやって、自分を正当化して誤魔化して気持ちを戻す。

 ドアノブを捻って部屋の中に入った。

 部屋の中に居たのはサンジとロビンの二人だけだった。

 ロビンは読書、サンジは明日の朝食の仕込みを行っていた。

 

「おっ!やっと降りてきた。お腹、空いてるでしょう?冷めてますので温め直すので少しお待ちください」

 

 サンジはスマラが部屋に入って来るのを見て、食いしん坊共に食べられない様に残して置いた夕飯の残りを温め直し始めた。

 何時も通りの対応。内心では気にしているのかもしれないが、表面上の態度は全く変わらない。

 そんな態度に少しほっとしつつ、スマラは礼を述べてテーブルに着いた。

 

「え、えぇ。ありがとう」

 

 何であれ感謝は伝えるべきだ。

 こちとら食客の身。言い方を変えれば居候。

 船での仕事を一切していない身だ。

 食べさせて貰っている立場を考えれば感謝くらい言葉にしても罰は当たらないだろう。

 むしろ、それすらしないのならクズに成り下がる。

 もっともクズに成り下がろうが、ゴミに成り下がろうが、他人の評価はあくまでも他人からの評価。

 何を置いても読書や、まだ見ぬ本を最優先事項に置いているスマラにとってはどうでも良い事だ。

 心が傷ついたり、気になったりしない訳ではないが、多少の評価ならどうでもいいと斬り捨てられる。

 どうだって私の評価には親が引っ付いてくるのだから、今更何をしてどう評価されようか大して変わるはずがない、と達観にも言える域まで昇華された価値観でスルーする。

 

 料理が出来上がるまで時間がある。時間があるなら読書だ。

 スマラは様式美とも言える行動原理の如く席に着くと、本を取り出して読書を再開した。

 

 ジュージュー。パチパチ。

 

 室内にはサンジがフライパンで料理を温める音と、

 

 ……ペラ、……ペラ。

 

 スマラとニコ・ロビンが本の頁を捲る音だけが静かに鳴り響く。

 各々が目の前の事に集中しているからこそ響き渡る生活音。

 停泊しているからか、ユラユラ、ギィギィと船が波に静かに揺られる。

 

「そう言えば…」

 

 静かな部屋に声が響いた。

 静寂を破ったのはロビンだった。

 

 スマラは自分に話しかけられたとは思わずに読書を続ける。

 自分に話しかけられる様な話題が無い。それに雑談をするなら同じ船の仲間であるサンジの方が適任だろう。

 彼なら女性であれば誰だって喜んで相手になるだろう。良い方に言うなら紳士的、悪い方に言うならチャラ男。

 

 しかし、続けて出た言葉にスマラは無視できなくなった。

 

「戦争ではルフィが世話になったようね。目立つのを極力避けているはずの貴女が、あの状況でルフィの味方をするとは思えないけど何かあったのかしら?」

 

 蒸し返される2年前の黒歴史。

 あの時の私は何か可笑しかった。

 平和で何もしなくても生活を送れる日々をようやく手に入れたと思えば、戦争と言う厄介事を生活圏内の直ぐ側で起こされた上に巻き込まれた。

 えぇ、白ひげに殴りかかったり、センゴクの売り言葉を買って敵対を決めたり…。

 ここ数年で…いえ、初めての黒歴史かもしれないわ。

 

 スマラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ…ていると個人的には思っているが、実際はロビンから見れば何も変わっていない様に見える表情で答える。

 

「新聞に掲載されていないけど、昼間と似たような事があったのよ。麦わらへの援護は成り行き。安全な島に着き次第船を降りるわ」

 

 淡々と事実と今後の予定を述べるスマラに、サンジが悲しそうに叫ぶ。

 

「えぇ!!?次で降りちまうの~~!!?最後まで航海しましょうよ。美味しい食事だって毎日三食おやつだって絶品をお届けしますよ~~」

 

 美人航海士と美人考古学者が既に仲間だと言うのに欲張りな男である。

 もっとも、コックとしての腕だけを見ればスマラも認めざる得ないのは確かだ。食に拘りを人一倍持たないスマラでさえ、そう思えるサンジの腕は既に世界トップレベルと言っても過言ではないだろう。

 どっかの海賊に目を付けられなきゃ良いけど、とスマラは淡々と拒否する。

 

「いいえ、この船が最後の島にたどり着く事は無いわ」

 

「それは、ルフィだと海賊王になれないと言う意味かしら?」

 

 そうとも取れる発言に噛みついたのはロビン。

 麦わら一味は誰だってルフィが海賊王になると信じて疑わない船員の集まりだ。

 そんな船員達に『お前らの船長が成れるかよバーカ』と暴言を吐くものなら、叩き潰される事間違いない。

 言葉選びを間違ったと悟ったスマラは補足を重ねる。

 

「誰が海賊王になろうが私にはどうだって良い。私が言いたいのは、現四皇ですら最後の島に辿り着くのに二十四年以上もかかっているのに、新世界に入りたてのルーキーが経った数か月で四皇を出し抜いて辿り着けるはずがない、と言いたいのよ」

 

「確かに正しい考えね。それで、数か月も有ればこの船を降りると」

 

 そう。スマラは頷いて肯定を示す。

 一つ『この船が最後の島に辿り着く事はない』と言う根本的な発言に関しては全く否定しないのには触れない。

 幾ら麦わらが成長を重ねようが、生物としての格が違う四皇には勝てるはずがないと、スマラは冷静な部分でそう思っているからだ。

 能力や覇気の有無ではないのだ。この身体からして違う。

 もっとも、それをどれだけ丁寧に告げた所でこの船の船長は全く聞く耳を持たない事を重々承知しているので、スマラはこれ以上語らない。

 

 

「ルフィは海賊王になる。俺はそう信じてますし、誰だって己の船の船長が海賊王になるはずだと信じて着いて行っているんじゃないですかね? そんなことよりも、夕食の温め直しが終わりました。どうぞ召し上がってください」

 

 コトッ、とサンジがお皿をスマラの前に置いた。

 湯気がもわぁと沸き上がり、美味しそうな匂いがスマラの食欲を刺激する。

 流石にこれ以上は我慢できない。普段は読みながら食べる食事も、今回ばかりは食事だけに集中する。

 

「いただきます」

 

 素材と作ったサンジに感謝を述べてフォークとナイフを使って口に運んでいく。

 ルフィやウソップの様にバグバグと急ぐわけでもなく、かと言ってナミやロビンの様にゆったりと食べるわけではない。

 一つ一つの動作を丁寧に綺麗に、それでいて決してゆったりとはしてない絶妙なペースでお皿に盛りつけられている料理を片づけていく。

 

「綺麗な食べ方ね。何処かで習っていた?」

 

「…習っていたら何かあるの?お生憎様だけどこれは独学。作法のマナー本でも読んでいたら勝手に知識に入って来るわ」

 

「知識を得るのと実践するのは別の事よ」

 

 本を読んで知っていても、それを使う機会が無ければ身に付かない。

 つまり、スマラには丁寧に食事を行う機会があったと言う事だ。

 言葉の裏にそんな意味を持たせるロビンだったが、スマラはそれを汲み取って無視する。

 

「話はそれだけ?」

 

 私は忙しいのよ。とわざわざ話しかけてきたロビンを拒絶する一声。

 ロビンはそれに対して笑みを浮かべる。大人な対応。

 サンジは既に使った器具の片付けに入っている。

 どうやら、これ以上足を踏み入れる事はしないようだ。紳士的な考えからか、それとも彼もまた家族に触れられたくないのか。

 

 どうやら、本当に戦争でルフィを助けたお礼を言いたかっただけらしい。

 それ以上会話を行わないまま、スマラは遅い夕食を食べきる。

 最後の一口を口に含みしっかりと噛んで飲み込んで、飲み物で口内を洗ぐとナプキンで口周りを綺麗に拭き取ると席を立つ。

 

 ごちそうさま、サンジにそう伝えてシンクに食器を置くとそう言えば、とふと気になった事を尋ねる。

 

 

「そう言えば、次の進路は決まっているの?」

 

 通常だと記録指針を辿って航海するのが偉大なる航路の常識だ。

 しかし、何かしらの目的があって海を渡るのなら記録指針は邪魔になる。

 島を記録した永久指針を使って目的の島へ船を進める。

 

 今後四皇を倒すつもりで作戦を考えているのなら、記録指針を辿って島を巡るだけでは勝てない。

 傘下や本体から離れている部下を各個撃破して戦力を地道に削って行く。

 そうやって戦力を少しずつ少しずつ削ってようやく四皇本人が拠点にしている島へと上陸する事ができる。

 それでも数千にも及ぶ部下、億越えが当たり前の幹部に10億すら超えて来る大幹部が立ちふさがり、奇特で有効打な作戦でも組まない限り四皇本人と戦う前に全滅だ。

 故に、次に向かう島は決まっているはずだとスマラは辺りを付けて質問をした。

 

「えぇ、トラ男君によるとドレスローザと言う国に向かうそうよ。貴女は知ってる?」

 

「新聞を読んでいるのだから知らないはずがないわ。……それにしても、ドレスローザとは思い切ったわね」

 

 ドレスローザ。数十年前に王下七武賊のドンキホーテ・ドフラミンゴが国王に即位した珍しい国だ。

 当然スマラの知識にも入っている。

 が、何を目的としてドレスローザへ向かうかは不明なままだ。

 四皇打倒に関する鍵を握っているのは確かだろう。ドフラミンゴは闇のブローカーとしても有名であり、取引先に四皇が絡んでいる為、潰して戦力の低下でも考えているのだろう。

 スマラはそう辺りをつける。

 

 

 そのままドアと出て廊下を進み階段を上がる。

 寝るのなら女部屋だが、寝る前にもう少しだけ読書をしていたい気分だった(何時もその気分だろう)

 本を開きながら考えるのは次の島、ドレスローザの事。

 

 王下七武海の天夜叉が治める国。

 闇のブローカーという点だけでも厄介な気配を感じるというのに、それ以外にも何かしらきな臭い感じがする。

 船を降りられるのなら街レベルの文明発達がある島なら何処でも良いと思っていたけれど、流石にドレスローザは無しね。

 そもそも街で散策するだけでファミリーに見つかって何かしらの接触を図られる可能性がある。

 確実に放っておかれないわね。

 船から出ないのが吉だけれど、そうなると更に次の島は四皇に近づく事になる。

 それはいけない。

 やはり公開中に適当な場所で下船して海を漂流するのが無難なのでは?

 

 このまま船に乗ったままだとかなり不味い事になる。

 これまでの経験上スマラはそう考えるが、幾らスマラとて新世界の海を手漕ぎボートで漂流しようとは進んで思わない。

 東の海ではもっとも安全な海であり、ただのシケだったから能力で無力化しながら漂流していたのだ。

 

 

「……」

 

 目を瞑って少し考える。

 早めに船を降りる為になりふり構わう訳には行かない。

 しかしドンキホーテ・ドフラミンゴはダメだ。

 原因はドンキホーテファミリーにあると言える。ドレスローザ王国自体は悪くない。

 新聞で耳にしたことがあるそれなりに有名な王国なので、近場の島とも交易しているだろう。

 客船でなくとも貿易船でも問題はない。

 国も豊かな発展を遂げているので、スマラの本来の目的である見知らぬ本にも出会える可能性は高い。

 何度でも言うが、国王がドンキホーテ・ドフラミンゴでなければの話だ。

 

 新聞を読んだ程度の知識しか知らないが、ドレスローザ王国の王朝が変わった原因は前代国王が乱心し、ドフラミンゴがそれを止めたからだと言われている。

 ここまで考えて、スマラはドフラミンゴの能力を思い出す。

 

 確か、彼の能力は糸を操る能力だったはず。

 単純に糸を鞭の様に扱う事もあれば、目視出来ない糸を使い神経に接続して人の身体を無理矢理動かす事も可能なはず。

 あぁ、なんとなく真相が考察出来る。

 この考察を証明しようとは思えないが、麦わら一味が彼が支配している国に乗り込むならば彼らがドフラミンゴの黒い部分を世間に公開してしまうかもしれない。

 つまり、クロコダイルと同じ様な現象を起こす可能性があるかもしれない。

 否、もし見えない部分で悪政を強いていたのなら、麦わら一味は確実に無視しないだろう。

 限界ギリギリまでやれば、麦わらはドフラミンゴに勝てない事もないはずの実力を持っている。

 

 となれば、この船に引きこもって麦わら一味がドフラミンゴを打倒するのを待てばいい。

 下手に敵地に飛び込む事は無い。

 事態が収拾した後に、しれっとフェードアウトすれば良いだけ。

 

 

 そう決めたスマラはパタンと本を閉じて就寝へと移行する。

 流石に疲れた。少し長めに睡眠を取っても問題ないはず。

 

 何もしていない?

 否。

 ストレスは読書時間を除いて色々と溜まっているのだ。

 今日は特に起こり過ぎた。

 故に睡眠でリセットする。完全に無くならないだろうが、幾ばくかはマシになるだろう。

 そもそも、スマラも人間なので三大欲求には抗えない。

 

 

 

 最大の問題に立ち向かう事になるとも知らず、スマラはスヤスヤと眠る。

 時計の針が丁度真ん中に登った頃の事だった。




今回も予定に無かった話です。次回こそはドレスローザ終盤までは持って行きたいなー。

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