麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
「撤退よ。私が抑えている間に脱出しなさい」
スマラが淡々と指示を出すと、三人はモモの助を抱えて脱兎の如く駆け出していく。
向かう先は船の中央に位置するソルジャードック。
スマラは知る由も無いが様々な乗り物が格納されており、潜水艦や戦車、買い出しの小舟まで揃っている。
ともかく、あの奇天烈なおばさんさえ足止めしていたら勝手に逃げ出してくれるだろう。
その為の時間稼ぎに入る。
「それで?天下のドンキホーテファミリーの幹部様が一介の海賊船に何の御用で?」
「麦わら一味は超新星の中でもずば抜けて知名度が高いのですよ? まあ、若様はそれ以外にも見ている部分があるザマスが……」
牽制なのだろう。
会話の合間にもジョーラは能力で作り出した泡をスマラに向かって撃ちだしてくる。
不意を突けば当たる人も居るだろうが、受けてしまえば能力の低下は見てわかる様な能力を態々受ける様な事はしない。
舐めプはしないのだ。
当然地面を蹴って回避。
跳び退けた横目で泡が当たった場所を確認すると、先ほど目に付いた男部屋のように奇天烈な外見へと変化してしまっている。
やはり回避するのが得策。
あの泡かジョーラ本人に直接触れる事が能力の発動条件とみていいだろう。
覚醒しているかは不明。
能力の覚醒は上澄みの実力者でなければ開花していない一つ上のステージだ。
ドフラミンゴならともかく、目の前の奇天烈老婆がそのステージに立てているとはスマラには思えなかった。
ジョーラはスマラに攻撃を回避されようが気に留めていなかった。
他の事に気を取られている訳ではなく、単にスマラ相手だと回避されても仕方ない事だと諦めているのだろう。
王下七武海の幹部ともなれば、楽園の馬鹿海賊と違って実力差というものを弁えているようだ。
そうこうしているうちに、船から脱出した四名が海の上から船に向かって叫んでいるのが聞こえて来た。
「サニー号から離れろー!!」
「私達は無事に脱出出来ました~!」
「さぁ、サニー号が壊れない程度に叩き潰しちゃいなさい!」
上から順番にチョパ衛門、骨吉、オナミである。
ナミが一番物騒である。
スマラが交わしてくれた約束を盾に調子に乗っている節もあるが、敵からすればたまったもんじゃない。
ジョーラ達の一番の懸念点は彼女だった。
「お黙り!! ワタクシが若様から預かった任務は三つ。一つ、麦わら一味の船を奪取すること。二つ、モモの助の確保。最後にスマラの引き抜き若しくはドン・キホーテファミリーに危害を加え無いと確約をもらう事!」
高らかに己の任務を公開するジョーラ。
普通は喋らない物なのだろうが、能力の相性故の圧倒的な優勢状況から気が緩んでいるのだろう。
「分からないわね。船の奪取は敵の逃げる手段を消すから合理的だし、私と敵対したくない理由は業腹だけれど当たり前だわ。でも、モモの助の確保は分からないわね」
「ワタクシとて若様のお考えを全て理解しておりませんわよ。ですが、任務が下った以上ワタクシはそれに応えるのみ。さぁ! モモの助を渡すでザマス!!」
ジョーラも任務を真意を理解している訳では無かった。
が、モモの助を敵に奪われてはならない事は分かった。
はてさてどうするべきか。
ドン・キホーテファミリーが好意的に接してくるのは予想外では無かった。
ドフラミンゴ程の人物が己の出生を知らないはずがないし、闇のブローカーなら繋がりがあるも必然。
これまでも私と敵対しないようにと動いて接触して来た者は数えるのも面倒になる程いた。
直近だと政府がこれに当たる。
スマラはジョーラの攻撃を回避しつつ考える。
ドフラミンゴの提案に乗って麦わら一味を裏切るのは無しだ。
幾ら温厚な彼達とは言えそう何度も裏切ると海賊狩りを筆頭に、悪魔の子やまだ顔を合わせたばかりなサイボーグがスマラを叩こうとするだろう。
幾らスマラに好意的なルフィが船長であろうと、船員の意見を無視してやり過ぎるのはいけないことだ。
麦わら一味はそんな一味なのだ。
スマラは麦わら一味を捨ててドン・キホーテファミリーに乗り換える事を捨てた。
約束は交わした。
嫌々だろうが新世界まで乗せてもらったのは恩である。
恩には仇で返す訳にはいかない。
かと言ってドン・キホーテファミリーと敵対をしたいわけではない。
スマラは善良な一般人を気取っている為、海賊とは本当は関わり合いを一切持ちたいないのだ。
まあ、既にそんな理想的な生活は諦めるに至っている。
ドン・キホーテファミリーと敵対しても良い事は無い。
戦えばドフラミンゴに勝てないまでも逃げることは容易だろうが、そんな徒労をするくらいならそもそもこの時点で逃げている。
逆に仲良くしても良い事は一つだけしかない。
ドン・キホーテファミリーの組織力を使い、まだ見ぬ物語と出会える可能性が高まるだけ。
下品であるが涎の垂れそうなメリットであるが、ここ最近の行動や現在地を加味するとメリットよりもデメリットの方が上回る。
なので、ドン・キホーテファミリーとは一切の取引は行わない。
「モモの助?と渡したら船から手を引くのかしら?」
「若様の命は先ほど言って差し上げたばかりでしょう? ボケには早すぎるのではなくて?」
「言ってみただけよ。なら交渉決裂ね。悪いとは思わないでね」
形式は大事。
一応提案して、却下され、年齢で弄られた。
あまり気にしないとはいえ、スマラとて妙齢の女性なので多少は気にする。
面と向かって言われるとイライラする程度には常識的な反応を示す。
スマラは甲板の芝生を蹴って距離を詰める。
能力まで使った速度は数メートルの距離を1秒にも満たない時間で埋めた。
移動の勢いを殺さずに踏み込んで蹴りを放つ。
「ふッ」
「ガはッ……」
当然ながら回避が間に合うはずもなく、スマラの蹴りを喰らって吹き飛ばされるジョーラ。
彼女に取って救いだったのは、スマラが能力を使ったのは移動に対してだけで攻撃は素の身体能力だけで行った点と、吹き飛ばされた先が船の壁だった二点だろう。
攻撃そのものに能力の力を上乗せしなかったのは情け故か、それとも単純にそこまで必要ないと考えた結果か。
単純に、移動に使用しただけで疲れた線もある。
船の壁を突き破って吹き飛ばされたジョーラは船内で痛みに悶えていた。
回避は敵わなかったジョーラだが、咄嗟に武装色の覇気を纏う事は間に合ったのか、激痛が身体を走るだけで済んだのは運が良かったのだろう。
見聞色の覇気で意識があるのを感じ取ったスマラが、ジョーラに向かって淡々と言い放つ。
「殺さないのはドフラミンゴが私に歯向かわない為よ。殺してるならともかく、生かしているなら彼も私にちょっかいをかけないでしょうし」
「ば、馬鹿おっしゃいなさい!! 確かに貴女のバックは若様ですらおいそれと触れられない領域。ですが!! 貴女を攻撃しても動かないのは2年前の戦争で証明済み。若様なら必ずしも敵討ちに出て下さいますわ~~!!」
「チッ……面倒だわ」
ジョーラの命乞いを聞いを聞いたスマラは思いとどまる。
殺しと言う行為に対してではなく、単純にジョーラを殺した後に発生するゴタゴタを天秤に乗せた結果、殺さないで無料化する方が多少は厄介事が減ると言うだけの事。
殺しについての嫌悪感は既に無くなっている。
産まれからして殺し殺されは日常的だった上に、半強制的にさせられていたからだ。
本人の性格的にも殺人について然程興味が無かったのも加味している。
必要があれば躊躇なく殺すし、必要が無ければわざわざ犯す必要のない行為。
スマラにとって殺しとはただそれだけの事。
そんな性格だからこそ、家族達に馴染めなかったのだろう。
「油断しましたわね~~~~!! わたくしの芸術は止まらないザマス。あぁ、貴女もわたくしの思う通りに綺麗にしてあげる~~♪」
思いとどまったスマラの隙をついてジョーラは能力を発動した。
卑怯とは言ってはいけない。
スマラは海賊では無いと自称しているがジョーラは海賊なのだ。
目的、任務、己の為、若様の為ならばどんな手を使ってでも達成させる。
それがドン・キホーテファミリー幹部の覚悟だ。
スマラは能力の泡が迫ってくるのを見て、芝生からマストを足場にして宙へ逃げる。
そして月歩の要領で移動しながた悪態を吐いた。
「…やはり海賊の言葉は信じられないわね。確実に殺すか意識を奪って手足の一本でもへし折っておくべきだったかしら?」
「いや、恐いんですけど!!? ってちょっと! これ一人乗りなんだけど!!?」
ヒョイと飛び乗った先に居たナミが突っ込みを入れた。
スマラが飛び乗ったのはナミが操縦しているウェイバーと呼ばれる空島で見られる貝を使った乗り物だ。
波と風向きを熟知していなければ乗りこなすのが難しい乗り物だが、天性の才能で完璧に乗りこなしている。
そんな絶妙なバランス感覚が必要な乗り物に飛び乗ると言う事はバランスが崩れて……
「あれ? 軽いッ!!? 何で?」
ナミはスマラが後ろに乗り込んできたのに全くバランスが崩れず、スマラが体重を殆ど感じさせない事に気づいた。
スマラとナミは海に放り出される事は無かった。
「能力で体重を軽く調節したのよ。小物程度なら乗せても問題ないでしょう。それに、海に落ちたら私は溺死してしまうわ」
「う、羨ましい能力ッ」
「そんなことよりも良いの? 船が奇妙なオブジェクトに早変わりしたけれど」
「噓ッ!!? フランキーに怒られちゃう~!?」
スマラが促して、ナミはようやくサニー号の現状を思い出した。本人的にはスマラが一人乗りのウェイバーに乗り込んで来た事に託けて、頭から綺麗サッパリ忘れてしまいたかったのかもしれない。
しかし、ナミだけが現実逃避していても意味がない。買い出し用のミニメリー号に乗り込んだブルックとチョッパーはしっかりと船が奇妙なオブジェクトに変えられたのを見て、ギャーギャー騒いでいる。
奇妙なオブジェクトとなり果てたサニー号の甲板から、ジョーラが待機していた部下達に指示を下す。
「お前達に活躍の場を上げるザマス。ヘンテコな乗り物を壊してモモの助を確保しなさい。スマラとて海に落ちたらただの金槌。落としてしまえば怖くな~~いッ!!」
ジョーラの第一優先はモモの助の確保。サニー号を船としての機能を奪った今、それに全力を捧げられるというもの。
スマラが手を出して来る予想もあったが、今の状況では守り切る事は不可能だとジョーラは考えた。それが甘すぎる考えだとも知らずに。
「モモの助を奪え~!!」
「モモの助ってどれだよ」
「ワノ国の子供って話だとよ。あの姉ちゃん達足元に居る奴じゃねぇのか?」
「あんな小さな小舟、波にあおられるだけ沈んじまうぞ。ボーナスゲットーー!!」
「待ってよ、俺が先だァ!!」
「ずりーぞ!! 俺だって!!」
ごぞってスマラとナミを狙い始めるジョーラの部下共。
スマラが視線を下に向けると、震えているモモの助がナミの足に引っ付いていた。
小さくて見えていなかったようだ。安定の点から言えばミニメリー号の方が遥かに条件が良いのだろうが、モモの助にとってはナミの側が断然に良いらしい。単純に男の側よりも女性の方が良いと言う下心だったのかもしれない。
が、今になって言えばそれは、現状でもっとも安全な場所の近くに陣取れたと言っても過言ではない。
「ナ、ナミ!! 敵が来ようぞ!! ほね吉にチョパえもん拙者を守ってくれ~!!」
「慌てる心配はないわよ。むしろ、能力者二人の方に行かなくて助かったわ。さぁ、やっておしまいッ!! 私たちに歯向かった事を後悔させてやるのよ」
スマラが真後ろに居るからか、普段とは違い敵が襲って来ているにも関わらず調子に乗っているナミ。
そんなナミをジト目で見つめるスマラ。
「貴女、立場を分かっているのかしら? この状況下だと私の能力だけじゃあ守り切れないわよ」
「え……?」
「私の能力は基本的には私が直に触れること。この乗り物ごと転覆させられる可能性は無くは無いわね」
それこそ、スマラですら防げない覇気を込めた力業で立っている舞台から壊されてしまえばどうしょうもない。
もっとも、それはナミとモモの助を守りながら、と言う前提条件があればの話だ。
スマラ一人ならば脚力で空気を蹴って陸まで逃げ切る事は簡単だろう。追撃の銃弾程度なら能力で跳ね返せる訳で、足場にしている攻撃すらも無意味になる場合の方が高い。
しかし同乗者が居て、それらを守る必要があるとなれば、難易度は少々変わってくる。
それ相応の能力の使い方を学んで、習得しようと鍛錬を積んでいたのなら確実に守れると断言出来たであろうが、生憎とスマラはこれまでずっと孤独だった。
独りで戦う術を何十年も昔から定着してきたのだ。今更他人を守りながら戦えと言われても困るだろう。実力差が漠然を出ている戦いなら雑にやっても問題はない。しかし、王下七武賊の幹部で海の上と言う条件下では難易度は爆上がりだ。
故に、
「まぁ良いわ。この程度、能力を使うまでもないわ」
吹き荒れる覇王色の覇気。
海軍中将ですら一部を持っていく覇気は容赦なくジョーラの部下の意識を奪っていった。
ドボン、ゴロンと海に落ちたり潜水艦の甲板に倒れる。
潜水艦の甲板なら打ち身程度ですむが、海に落ちた者は最悪だろう。意識がない為自力で起き上がる事は不可能。沈んだら助けてもらわない限り溺死は確実で、浮力で受けた者も顔が海面を向いていれば呼吸が行えずに溺死。仲間に助けてもおうにも、ジョーラが引き連れてきた部下はあえなく全員スマラの覇王色の覇気に意識を持って行かれている。助けられる者は誰一人としていない。
最悪死んでしまうだろうが、スマラは全く気にしなかった。能力者を海に落とそうとして殺す気でいた奴等に賭ける慈悲はない。王下七武賊であろうが海外をやっているのだ。死ぬ覚悟は既に出来ていなければ可笑しい。
そういうわけで、無法者には容赦しないスマラだった。
能力を雑に使うだけでは完全に守り切る事が不可能だと判断したスマラは、ジョーラの部下共の攻撃が届く前に対処した。
確かに嘘は言っていなかった。能力を雑に使うだけでは、ナミとモモの助を確実に守りきる事は不可能だったのだから。
むろん、誤解したナミがスマラに怒りの声を上げるのは当然だった。
「ちょっと無力化出来るならもっと早く言いないよ! 慌てたのを返しないよー!!」
「言ったでしょう。能力だけでは完全に守り切れないって。手段が全くないとは言葉にしてないわ」
「ッ~~~。そう言う事じゃないのよ。まぁ良いわ。あのオバサンはどうなったの?」
あれではまるで絶体絶命のように聞こえたじゃない、そんな言葉をナミはグッと飲み込む。これはあれだ。ルフィやゾロと似たような感覚だ。つまり、言っても意味は無い。
我慢してナミはスマラにジョーラがどうなったのか聞いた。この距離だとサニー号の甲板はギリギリ見えるか見えない距離だった。
ナミはスマラが見聞色の覇気で遠くの気配を察知出来る事を思い出し、良いように扱う。言わなきゃ動いてくれないのだ。逆に言えば動いてくれる可能性は高いと、これまでの航海で理解していた。雑な扱いでもある程度はやってくれるのだから、今は働いてもらおう。
スマラはナミに聞かれて、無意識に発動している見聞色の覇気に意識を向けた。
ジョーラの気配は……ある。が、動きは全く見られない。少なくとも意識は飛んでいないみたいだ。
牽制レベルとは言え、覇王色の覇気を受けても意識を保てるので流石王下七武海『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴも部下とも言える。
「意識はあるみたいだけれど、動きは無いわ。船を奪還するにはチャンスだと思うわ」
「良し! チョッパーとブルック行くのよ~!」
「船を取り戻すのは賛成ですが、私たちだけですか? お嬢さんも来て下さると心強いのですが……」
「ダメよ。万が一があったら誰が私を守るのよ。……狙いはモモの助でしょう? だったら易々と近づかないのが正解。分かったら行きなさいッ!!」
ナミがビシッとそれらしき事を言ってブルックとチョッパーにサニー号の奪還を任せた。
決してジョーラが怖いわけではない。そう、これはモモの助を守っているのだ。故に最大戦力を手元に置くしかなく、それなりに戦えるブルックとチョッパーをジョーラ捕縛とサニー号奪還に向かわせるだけだ。
うんうん、と頷くナミを横目でスマラは見聞色の覇気を強めたのだった。こんな海上でドフラミンゴとやり合うのは分が悪いのよ。
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