麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
ジョーラは思いの外簡単に拘束する事が出来た。
スマラの覇王色の覇気で戦意が削がれていたからだった。虚勢を張る様に「まだ負けてない」と言うが口だけで手足は震えて使い物にならなくなっていた。
ドフラミンゴの部下と言えどこの程度か。武闘派で無かったのが幸いしたわね。
スマラはジョーラが鎖でぐるぐる巻きにされているのを見て、ほっと一息を吐いた。
能力者なのだだから欲を言えば海楼石の手錠を付けて欲しいところだが、麦わら一味にそんな高価な物は存在しない。
基本的に、世界で最も硬いと言われている海楼石を加工出来るのはワノ国の技術のみ。現在ワノ国を支配している百獣のカイドウはその技術力を持って世界政府や他の海賊、その他裏社会の人間たちと取引して利益を生み出し、その利益で海賊団を強化している。
海楼石の手錠を備蓄している海賊団が居るかもしれないが、それはカイドウの傘下か、裏社会から流れてきたものを高価格で買い取っただけの事。
つまり、麦わら一味がそんな高価な物を持っているはずがなかった。そんなお金があれば、目の前の航海士さんが好きな家具や洋服に費やしているだろう。
海楼石の手錠は能力者を封じ込める以外にも役に立つ。硬い性質から、余程の覇気使いでなければ壊すことは不可能。今回で言うならば、ジョーラに嵌めておけば逃がさない上に能力まで封じ込める。
まぁ、私としては海楼石の手錠は数少ない弱点になるのだから、この船に無いのは嬉しいのだけれどね。
スマラは海楼石の便利性と厄介さを改めて認識しながら、サニー号の甲板でドレスローザを眺めていた。
「ボーっと海を見て楽しいのか?」
「……楽しくないわ」
ふと声がした。視線を横に向けるが誰もいない。
視線を下に向けるといた。
一部を刈り上げ残った髪を頭上で一纏めにする独特な髪型。ちゃっちな物ではなく、きちんとした布を使って織られた着物。
子供ながらにしてワノ国の侍を彷彿させる容姿。間違いなくワノ国出身なのだろう。否、スマラは興味がないので聞いてないが、時折ワノ国の次期将軍を名乗る子供だ。
スマラがキチンと耳にしていれば頭を傾げる事を口に出すモモの助だったが、彼は彼でスマラの事が気になっている様子。
麦わら一味の仲間なのかそうでないのか良く分からない人。
気が付いたら船に居て、麦わら一味の誰も何も言わないから敵ではないのだろう。
身長が高くクールな印象でカッコイイ。
女好きの血を引いているモモの助が興味を引くには十分な容姿を持っていた。
目にするスマラは何時も本の頁を捲っていた。
知的で華奢なら身体的に戦闘なんてこなせない、なんてモモの助は幻想していた。
しかし、現実は違った。
ジョーラに襲撃され、おナミにしがみついて震える事しか出来なかったモモの助は見た。
戦いなんて知らないと思われたスマラが怖いオバサン相手に圧倒している姿を。雑魚を威圧だけでなぎ倒す姿を。
その姿を見てモモの助は思い出す。ほんの数日前……父を殺す要因となったバケモノを。
あのバケモノとは全く異なる。性別からして違い、スマラは細く華奢な体付きをしている。
身長が高い方であった父上をも遥かに上回る肉体を持ったバケモノ。
対してスマラは女性にしては長身であるが精々2メートルに届かない程度に収まっている。
なのに、どうして似ていると感じたのだろうか?
モモの助には知識も無く子供故の肌で感じた感覚でしか分からなかったが、恐らく覇王色の覇気の有無だろう。
ルフィも覇王色の覇気を持っているがモモの助の前では使ったことが無く、また雰囲気というか圧というか……とりあえず違った。
末恐ろしい。しかし、そんなバケモノに近い彼女が何故この船に乗って大人しくしているのか不思議だった。
怖い。
怖いが気になって仕方がない。
おナミやチョパえもん達は自分を捕えに来たジョーラを縛り上げるのに夢中でモモの助は暇だった。
丁度いいとでも言うべきか。
そこでモモの助は一人海を見ているスマラへと声をかけたのだった。
「楽しくないのに見てるのか? 意味が分からぬ」
「警戒よ警戒。なんでか知らないけど、あなたがドフラミンゴに狙われているのでしょう? 私は私の足の為に守っているの」
「うむ。それはありがたい。 が、襲撃は退けたでないか。もっと緩んでいても良いではないか。ほれ、拙者が退屈を紛らわせてやろうぞ」
光栄に思うが良い。
モモの助は下心満載でスマラと触れ合う為に近寄った。
しかし、スマラは心底嫌そうにモモの助の額にデコピンを喰らわせて断る。
ビシッ!とそれなりに強い衝撃と音を立ててモモの助の額を弾いた。
「嫌よ」
「い、痛いでござる!!? い、いや、侍は痛く、ない」
能力は勿論、覇気も力もそこまで込めてない一撃を受けたモモの助は仰け反って額を抑える。痛くない痛くないと口に出しているが、目尻には涙を浮かべており悶絶している姿をみれば、強がっている子供にしか見えない。
か弱い女の子のデコピンなら、子供相手に優しさを見せる人のデコピンなら、本当に少し痛む程度の軽いもののはずだ。
しかしモモの助は仰け反り数分もの間痛みに悶えていた。
つまり……コイツ、普通にデコピンしやがった。
本気ではないが加減はしていない力でデコピン……スマラのそれは大の大人ですらモモの助と同じ様になったであろう威力。
大人げないぞ。優しさの欠片も無い。
いいや、普通に何も考えずに能力と覇気を込めずにデコピンを行った結果なのかもしれない。
無関心だが人として最低限の良心と言うか常識と言うか……とりあえず子供に大怪我を負わせない力加減は持っているようだ。
まぁ、もとはと言えばモモの助が下心でスマラに近づいたのが悪かったのだ。
その辺りはサンジを見習った方が良い。彼も女性にしたして下心を持って接する時もあるが、本気で女性が嫌がる行為は絶対に行わない紳士なのだから。
「ワノ国の子供は強いのね。 まぁ良いわ。それよりも勘違いしているみたいだけど、まだ安全とは言い切れないわ」
「へ?」
「幹部を捉えてるとなれば、ドフラミンゴが部下を捨てる非情さを持ってない限り必ず別の人が送り込まれて来るわ。目的である貴方はドレスローザから離れていないもの」
「そうか。だから警戒しておるのだな。感謝するぞ」
「えぇ、存分に感謝なさい、ワノ国の将軍候補なら国に帰った時に本を読まさせてもらうわ」
まぁドレスローザでドフラミンゴが失脚するか、次の島では必ず絶対に船から降りてみせるわ。
スマラは内心で全く違うことを考えていた。
ワノ国まで絶対に同行しない意志を感じられるが……またなぁなぁで降りるタイミングを見失ったりしないだろうか?
ナミ辺りはこのままずっと乗ってそうな雰囲気を感じ取っているが、スマラの意志に対して運命は逃してくれるのだろうか……。
「ん? もしかしてドフラミンゴ本人がやって来る事はないだろうな?」
「かなり高いわね。もっとも、ドフラミンゴの優先度が貴方なのか、シーザークラウンの確保なのか、どちらかに寄るけれど……。私だったら貴方の確保でしょうね」
「何故だ!?!」
「私を計算に入れないのなら戦力的に此処が一番手薄だからよ」
そのことを見越し、本来ならサンジが船番に残る予定だったのだが、当の本人は情熱的なドレスローザの女性たちの存在に惹かれてしまった。
まぁ、こうしてスマラが手助けしているのもサンジのスマラへの信頼の印なのかもしれないが……向けられた本人は真底嫌そうだ。
ドフラミンゴの思考を読んで警戒を続けるスマラだが、そもそも彼女は読書に夢中になっていてドレスローザでの作戦を知らない。
故にドフラミンゴは現在、島の端に位置するグリーンビッドでシーザークラウンの身柄を受け取るために向かっており、トラファルガー・ローとバチバチにやり合っている。
そんな事を知らないスマラは今にでもドフラミンゴがドレスローザの王宮からやって来ると警戒しているのであった。
プルプル……。
プルプル……。
「ん? 電伝虫が鳴ってるぞ!! 出ても良いよな?」
電伝虫の呼び鈴に気づいたチョッパーが現在の最高責任者であるナミに許可を求める。
ナミは許可を出す。
「良いわ。ただし、知らない人、危険人物だった場合は何しないで切ること」
「おう!! 分かったぞ! もしもし?」
ナミも一応は警戒しながら許可を出す。
危険人物とは恐らくドフラミンゴを言っているのだろう。
出ない、と言う選択肢はない。もし仲間が助けを求めてかけてきてたらどうする?
チョッパーは恐る恐る受話器を取った。
電伝虫は特性通り、繋がった側に居る人物に顔を似せて声を出した。
「トニー屋か……。良かった。そっちは襲撃がなかったのか」
ノイズと共に聞こえて来た声はトラファルガー・ローのものだ。
声が荒い。息切れと言うよりも、大怪我で呼吸が乱れて声を出すのも辛いのだろう。
スマラは会話を黙って聞いた。
「直ぐに船をグリーンビッドに回せ!! お前らにシーザーを預ける!!」
用件だけ言って直ぐに切れた。
会話の途中に何かが崩れる音が聞こえて来たところから、トラファルガー・ローは戦闘中で余裕がないのが分かる。
トラファルガー・ローも単なる億越えと言うわけではなく、麦わら一味が休止中に王下七武海に選ばれる程の実力は持ち合わせている。
となると、相手は単なる雑魚では無く同格以上の存在となる。
このドレスローザにそんな人物など一人しかないだろう。
「は?? 取引の対価に身柄を渡すだけだったじゃないの!? 説明をしなさいよ、説明を!! ルフィか!!」
「状況から察するに、取引は何らかの原因で中止。ドフラミンゴと戦っている陽みたいでしたね。ナミさんどうしますか?」
「化け物どうしの戦いに近づくなんて自殺行為……と言いたいところだけど、私たちが行かない訳にもいかない状況よね……」
どうやら、トラファルガー・ローの立てた作戦は失敗。その尻拭いをこの待機チームで行わなくちゃならないみたいだ。
ナミ、チョッパー、ブルックも戦えると言えば戦えるが、敵の最高戦力を相手取るには不安になる面子。
しかし、この場には最高戦力にも劣らない実力を持っているであろう人物が乗っている。
ナミはチラッチラッとスマラの方に視線を寄越しながら指示を飛ばす。
「良し。とりあえずグリーンビッドに向かいましょうか。船に危害があればよろしくね」
「……えぇ。私も足が無くなるのは困るから」
ナミのおねだりにスマラは苦々しく了承をする。
ドレスローザさえ出港して次の島に辿り付けさえすれば……。
そう思わずにはいられない。それか、麦わらがドフラミンゴを蹴り落として……海軍がやってきたらスマラとて安静に出来ないので即座に却下する。
以前なら、麦わら一味と共に行動する以前なら海軍が駐在する島であろうと問題なく立ち寄れた。
手配書も無く末端の海兵まで顔を知られてない以前なら、余程の問題行動を起こしさえしなけ安全で快適な毎日を送れていた。
偉大なる航路に、新世界に戻ると言う目的を持って船に乗らせて貰っていなければ継続していたであろう日常。
もっとも、いずれにしても偉大なる航路や新世界には長い時間をかけようと戻るつもりであったので、何十年と遅いか早いかの違いであるが……。
「うぅ……。自ら若様の下へ向かおうだなんておバカな事」
と、ドフラミンゴの居場所を今更ながら知ったスマラが鞄の中から本を取り出して祝福の時間を過ごそうとしていると、スマラの覇王色の覇気とそれなりに強い一撃を喰らって気絶していたジョーラが目を覚ました。
海楼石ではないが鎖でぐるぐる巻きにされているジョーラは身動きこそ出来ないが、能力を封じている訳ではない。
注意が必要だ。麦わらのように身体を伸ばす拘束が役に立つ能力とは違い、動かなくても能力が発動できスマラにとって相性の悪い能力者ならなおさらだ。
スマラは本の文字列を追う作業を辞め、直ぐにでも動き出せるように重心を整えながら様子を見守った。
「め、目を覚ましたぞ!! どうするのだ?」
「能力を使われる前にやっちゃいなさいッ!!」
「よ、よしきた。動けない相手に気が乗らないけど、能力は厄介だしな。『ヘビーゴング』ッ!!!」
「えぇ、海賊の世界は残酷ですので……。あ、ナミさん? それはやりすぎでは?」
「要はもう一回気絶させれば良いんでしょ? 『ウィザーエッグ サンダーボルト=テンポ』ッ!!」
サニー号に雷が落ちる。オーバーキルな気もするが、幹部ではあるが、戦闘員と言うよりは工作員な側面が強いジョーラには十分過ぎる攻撃だった。
ナミの雷を受けて今度こそ気絶してしまったジョーラ。これで近くは意識が戻る事はないだろう。
ジョーラの意識が飛んだの見たスマラは視線を本へと戻す。
ギャーギャー言いつつも、何だかんだってやる時はやれるじゃない。楽できるからありがたい事この上ないわ。
この先はそうもいかないだろう。電伝虫からの会話を聞くに、既にドフラミンゴと戦闘に入っている模様。
既に敵対行為を取っているとは言え、スマラとして非常に好ましくない状況だ。
とは言え、約束を反故にして逃げるわけにも行かない。
スマラにとって良い点と言えば、トラファルガー・ローと戦闘している点だろうか。ドフラミンゴと言えど彼を無視して船を襲う事はないだろう。
そうスマラは楽観的な予想を立て、一時の読書時間を堪能するであった。
何故ドフラミンゴとの取引が中止になったのか知らないまま、麦わら一味船番5名はグリーンビッドに船を進める。
ドフラミンゴが実は王下七武海を辞めてなどいなくて、このドレスローザに上陸している海軍本部大将『藤虎』と共闘しているなど、情報を仕入れる手段がない彼らはまだ知らない。
本来なら拘束されど意識までは失わないジョーラですが、スマラの攻撃と覇気で失ってしまいました。
これにより、ドフラミンゴの王下七武海脱退が誤報だった情報がナミたちは得られてません。
本筋にはそこまで影響は無いはず……。
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