麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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サムライレムナント発売したので遅くなました。


七十七頁「遠くに感じるものは」

「テメェこのトリ野郎!! ウチのクルーとスマラさんに何してくれやがるッ!!」

 

 麦わら一味のピンチに駆けつけて来たのは一味のコックであるサンジだった。

 スマラはドフラミンゴと戦いつつも見聞色の覇気で周囲の状況を把握し、丁度サンジがこちらに向かって来ているのを知っていた。

 いい感じにサンジが近づくまで戦闘を長引かせ、射程距離になったらフィードアウト。

 後は船に戻って余波が襲って来たときの為に待機しておけば問題ないだろう。

 

 完璧に近い作戦だ。

 後は黒脚がドフラミンゴを抑えている間に船を安全地帯に進めるように促すだけで良い。

 麦わら一味とトラファルガー・ローの作戦や四皇崩しの作戦なんて知った事ではない。

 そもそも、幾ら麦わら一味とトラファルガー・ローが組んで作戦を練った所で崩れる程四皇は甘くないの。

 

 何処からその様な自信が湧いて来るのか、スマラは自分の作戦が上手く行ったのを自画自賛し、満足そうに頷く。

 船に戻った所で誰もスマラを見ていない。居残り組の視線は空中で戦っているドフラミンゴとサンジに向いている。

 

 誰もドフラミンゴと戦っていたスマラの心配をしていないのか?否、スマラがドフラミンゴと並ぶ位に強いのを知ってる、見て理解したから心配しないだけだ。

 それくらいなら、2年前の時点で手も足も出なかった実力差を持っていたサンジの心配をするのが妥当だろう。

 サンジが強いのは理解しているが、相手は大海賊であるドフラミンゴだ。

 ルフィですら勝てるかギリギリな相手に仲間を心配しないのは仲間ではない。

 

 

 

 スマラは甲板の柵に寄りかかってサンジとドフラミンゴの戦いを眺める。

 当たり前に近いが劣勢なのはサンジだ。

 奮闘しているがドフラミンゴには一歩及ばず、ドフラミンゴの糸に捕まってしまう。

 ドフラミンゴの能力を正確に把握していなければ、把握していたとしても対処が難しい非常に厄介極まりない能力である。

 このままサンジはやられてしまうのか?否、同盟相手がやられるのを黙って見ているほど冷酷ではない男が近くにいた。

 想定外の敵に不利を取りボロボロになっていたが、スマラとサンジが時間を稼いだお陰で体力を少し回復してこの場に割り込む事が出来たトラファルガー・ローである。

 ローが参戦してからは一気に戦況か加速し乱れる。

 ドフラミンゴが船に降り立ったローに狙いを定めると同時に、グリーンビッドから海軍の戦艦が飛んでくる。更には遥か上空からは隕石だ。

 無茶苦茶のオンパレード。

 流石に船を捨てて逃げるべき?と悩んだものの、能力が常識を外れるローが全て往なした。

 隕石をどうにか出来てしまうのは素直に感心してしまうスマラだった。

 

 彼女の場合、生き残るだけなら隕石が起こす衝撃波の範囲から逃げれば良いだけなのでどうとでもなるが、麦わら一味の船を守り切れるか?と自問すれば答えは難しい。

 出来ないとも言えなくもないが、出来るとは言えないのがスマラの限界だった。

 直感と才能だけで能力をのうのうと扱っている弊害であるが、かといって今更鍛錬を始める程活力は無い。

 まぁ、船を壊されずにこの場を脱出出来るのならスマラはどうだって良い。むしろ早く逃げて読書へ戻りたいと言うのが本音だった。

 

 そうこうしているうちにも場は動く。

 ローが転がっている奇天烈おばさんを抱えて橋へ飛ぶ。

 麦わら一味を逃がすための囮を買って出てくれたのはスマラ的に評価高い。

 勝てる勝てないはどうだって良い。船を逃がしてくれただけで良い。

 ありがとう。貴方の事を忘れないわ。

 スマラは数分後には忘れる記憶に刻んだ。

 

 

 

 サニー号はグリーンビッドから離れてドレスローザ近海に陣取った。

 ローは次の目的地であるゾウを目指せと言ったが、仲間が揃っていない上に船長の許可が降りていない以上ドレスローザを出港する訳にはいかない。

 ナミが風と波と雲を読み取りつつ舵を取り、ブルックが後方からドフラミンゴがやってこないか見張り、サンジは今後の予定を再配布する為にも電伝虫を握り散らばった仲間に連絡を取り、そんなサンジをチョッパーが治療していく。

 そんな様子を横目にスマラは座って読書を楽しんでいた。

 

 最早やる気は平均以下。

 もう今日は動きたくない。波風はもう飽きた。長く外に居過ぎたら本に悪い。

 既に今日は2回も戦っている。本気を出してはいないが、ドフラミンゴとの戦闘はそれなりに身体と能力を使って体力を消耗させられた。ジョーラへの一方的な戦いを戦闘と言っても良いのかは分からないが。

 

 ともあれ、後はずっと読書をして過ごしていたい。

 元々私の立場は食客に近かったはず。

 でもしかし、何の作業もしないでただただ食事を貰うだけの立場に甘んじる……のも少しだけ、ほんの少しだけ居心地が悪かったのも確か。

 私が頼んだ訳ではないが、東の海から新世界まで運んで貰ったのは事実。

 運搬料替りに主力が全く役に立たない相手が襲って来た時に限って助けて手助けをするのもやぶさかではなかった。

 しかし、しかしだ。

 

 クロコダイル、前線から何年も離れている自然系能力者を相手取るなんて大した苦労ではなかった。

 空島の神、確かに能力は強力だし奢らずに鍛錬も積んでいたみたいだけれど覇気を知らず能力的な相性も良かった。

 大将青雉、あそこで出会ったのは予想外だったけれど立場上本気で私を捕まえる気は無かったと推測。

 頂上戦争、快適な暮らしをぶち壊されて色々と考え無しに行動してしまった為自業自得。

 2年間の修行、口車に乗せられたにせよ約束は約束で初めは片手間に追い払えた強さも終盤にはめんどくささも感じる強さに。

 全て私がなぁなぁで流されて約束してしまったが為に起こった戦闘と言えるだろう。

 初めの頃の敵は弱すぎて注視せずに読書を続けながらでも勝てる相手だけど、それが今や真剣に対処しなければやられてしまうレベルまで来ている。

 さながら物語の主人公に立ちふさがる敵の如く強くなっている。

 ならば、この先もどんどん敵の強さは上がっていくだろう。

 

 それこそ私が手に負えないくらい……既にドフラミンゴ辺りがギリギリ。

 本気でやりあうなら私でもかなりの痛手を負ってしまうレベルに来ている。

 非常に腹立たしい事だけど、私を通して奴等を見ているから本気で排除しようと思わないだけでしょうね。

 あぁ、イライラする。

 今になって顔がチラつくのは非常に気に食わない。

 とはいえ、新世界まで進める様な海賊の船に乗っている時点でバレるのは明白だったわ。

 ……面倒でも新世界に入った時点で船から落りて手頃の島まで漂流する方が居場所をかく乱出来て良かったのでは?

 

 

 

 なんて読書をしながらぼんやりと思考しているスマラ。

 目線で追っている文字列は頭の中に入っているが、本の世界に飛び込む程は集中出来ていない。

 スマラはパタンと本を閉じてしまい込んだ。

 

 今は辞めにしよう。

 こんな日もあるさ。

 

 サァーっと風が吹く。

 ドフラミンゴとの戦闘が無ければ気持ちの良い風で良い読書日和だっただろうに。

 でも今はそんな気分ではない。

 ここ数年間で初めてだった。

 常に読書、読書こそが最高の清涼剤。

 人間の三大欲求よりも読書。

 それこそがスマラのアイデンティティだったはずなのに、今はそんなアイデンティティすらも役に立ちやしない。

 

 スマラはぼーっと空を見上げて雲が流れる様子を眺める。

 そこには何もない。

 思考を停止し、ただただ雲が形を変え大気の移動と共に流れる景色を視界に入れるだけ。

 眺めて何を想うでも無し、ただただ眺めるだけ。

 

 ま、こんな日もあって良いか……。

 

 これ以上関わりたくないとばかりにスマラは、見聞色の覇気で軽く周囲を警戒する以外の反応を切って空を眺め続けた。

 電伝虫越しで行われる麦わら一味の会議を無視して。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

 

「…………笑えない冗談はやめてよね」

 

 

 雲と空を眺めて30分程。

 スマラはぼんやりするのを辞めて身体を起こして立ち上がった。

 周囲に意識を向けると、電伝虫を複数体使って一味総出で会話している様子がみれる。

 作戦会議に集中して誰も気が付けていない様子だった。

 

 否、未だ目視は不可。

 空気の流れに沿って浅く広範囲に広げていたスマラの見聞色の覇気だからこそ、ギリギリ引っかかったと言える。

 それと……隠しようの無い覇気の数々。

 あぁ、噓であって欲しい。

 

 身体が震える。

 こんな事何十年ぶりだろうか。

 

 少なくとも2年前に最強の一角である白ひげと対峙した時でも無かった感覚をスマラは真正面から受け止める事が出来ていない。

 今すぐに行動を起こさなければならないと分かっているのに行動出来ない。

 

 逃げろ、逃げろ。

 逃げなきゃ終わる。

 約束とか放って置いて今すぐにこの船から飛び降りて遠くの島へ逃げるべきだ。

 

 冷静でない頭が『今すぐに逃げろ』と囁く。

 と同時に『今更この距離で逃げても無駄』だと別の声も上げる。

 

 どっちだ?どう動くのが正解だ?

 現状維持を続ける為に抗うか、何十年も自由で怠惰な日々を暮らし続けてきた制裁を黙って受け入れるか……。

 

 冷静な部分が見聞色の覇気で奴等が近づいてきているのを把握して知らせ続けて来る。

 この距離で迷わずサニー号に向かって一直線で向かって来ているのを見ると、奴等の狙いが誰だか不明だがサニー号に乗っている誰かだと言う事は分かった。

 

 確かめる方法はある。

 スマラがサニー号から離れれば良い。

 それでスマラを追いかけるかそれともサニー号に向かったままなのかで、少なくともスマラ自身が狙いなのかそれ以外なのかは判明する。

 もし己を追って来たのなら、麦わら一味は無関係になる。

 そうなると、必然的に最後に麦わら一味を助けた結果を残して離脱する事になる。

 逆に追って来ずに麦わら一味を追いかけるなら、悲しき事だがしれっと2つの因果から逃げ切る事が出来るチャンスになる。

 

 そうだ。ここで船を捨てて逃げるのが最善の策だ。

 正解は簡単に導き出せた。

 導きだせた……なずなのに、何故私は動けないでいるのだろうか?

 

 

 葛藤ですらない。

 何を悩んで何を考えて身体が動かないのかスマラ自身にも不明。

 不可解だ。……不愉快だ。

 

 何度も似たような場面を観てきた気がする。

 観てきた否、読んできた。

 本の世界にしかないと思っていない場面が現在、スマラの前にあった。

 本として、ただの文字列として目に通して頭の中でイメージしていた頃は何とも思わずにただの演出だと思って読んでいた。

 しかし、有り得ないと割りきっていた現状が目の前にある。

 そう、本当に小説の中の主人公が抱えていた感情はあったとのだと、スマラは感動にも近い感情を抱く。

 

 感動している?そんな暇などないのに?

 分からない。私が何を思っているのか分からない。

 逃げなきゃこの先の平穏は完全に断たれるのは分かり切った事だ。

 私一人なら絶対に、百パーセント逃げていたのに……麦わら一味を見捨てて逃げるのに抵抗があるのは何故?

 物語に書いてあった現実味の無い感傷が実際に目の前にあったから?それだけで私は動けないでいるのか?

 それだけ……こうやって悩むと言う事は、私にとって『それだけ』では無かったと言う事なのだろうか。

 ……あぁもう。そうではないでしょう。

 ギリギリだけれどまだ間に合う。

 麦わら一味を捨てて逃げるなら今しか無くて、後数分もすれば奴らは目視出来る距離まで迫って来るだろう。

 そんな近くまで近づかれたのなら、私でも逃げ切るのはかなり難しくなる。

 ……誰が出張って来ているかにもよるけれど、確実に今の戦力で勝てるレベルが出てくる事は無いでしょうね。

 幹部の一人を倒せた所で、今度は怒り狂った幹部をまた複数人も相手しなければならない。最高幹部ともなれば私ですら勝機は薄い。

 麦わら一味全員が揃っていたとしても、生き残りたいのなら撤退するのが最善の策。

 

 うじうじと悩む。

 即決が基本なスマラにしては長すぎる長考。

 その判断力の低下が今後のスマラの運命を左右した。

 

 

 

「もう無駄よね」

 

 気がつけば、目視出来る距離まで奴等の船が近づいていた。

 今更逃げても追いかけて来るだろう。

 逃げつつ戦うのは出来ない。

 海上ではスマラも不利だ。

 

 スマラは諦めて傍観の体制に入る。

 能力で視力を上げて迫りくる船を観察するスマラ。

 見えるのは超巨大ガレオン船だ。海軍の軍艦一隻よりも遥かに大きな大きさを持っており、麦わら一味が乗るサニー号の何十何百倍なのかも見当がつけないほどの差だ。

 あの大きさの船が不自由無く動かせる人員が乗っており、それら全てが雑兵が行っていると考えればとんでもない乗組員を起用していると言うことになる。

 少数精鋭と言う言葉や実際に麦わら一味がそうであるが、数と言うのは基本的に力になる。

 あれだけの船を動かせる人数と財力、それでいてあれが本船でない可能性も考えれば、一概の海賊と規模が全てに置いて桁違いだと痛感せざるを得ない。

 

 ガレオン船もこれまた特徴的な船だ。

 デカイ以上に気になる点が二つ。

 一つは船の一部、またはほぼ全てがお菓子で作られている点。

 どうやって?どのようにして?何故?と普通の人は疑問に思う者も出るだろうが、帆に描かれている海賊旗を見れば知る者には一目瞭然。

 そちらは気になるとはいえ、スマラなら「あぁ、あのコックならそんなこともできるだろう」と納得がいく。

 問題はもう一つの方だ。否、問題と言う問題は無い。

 ただ、物凄く気になるのだ。船首の顔が陽気に歌っている現象は。

 

 何アレ?

 今まで幾つもの海賊船を観てきたけれど、あんなアホらしく思える船首は始めてみたわよ。

 世界中探したって船首が歌ったりする船は無いわね。

 それよりも……何時伝えようかしら?

 「四皇の本船が目視出来る距離まで近づいてきているわよ」そう言うのは簡単だけれど、その後の反応と白熱しているあの会話に入れと?

 無理だ。やだ、めんどくさい。

 遠距離から攻撃してこない以上、私が何か行動を起こすのも不味いだろうし……。

 流石に近距離まで近づて来れば誰かが気づくでしょう。

 黒足なら流石にあの覇気の量を見過ごすほど甘くないでしょう。

 

 

 とりあえず静観だ。

 奴等、四皇『ビッグ・マム』海賊団が何を求めて此処に現れたか不明だが「ここまで来たらなるようになれ」とスマラはボケーッと空を仰いだ。

 

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