麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
本を読む。船が大きく揺れる。
本を読む。何かが爆発する音が聞こえる。
本を読む。大きな鳴き声が耳を痛める。
本を読む。船がまた揺れ始める。
偉大なる航路に入ったと思った後、スマラは見聞色の覇気を発動する事を止めて、ひたすらに読書を続けた。
スマラの知識では偉大なる航路に入ると、双子岬で多少の足止めを喰らうはずだ。
なので、見聞色の覇気も切りゆっくりと読書をしているのだ。
途中でゾロとサンジ、ウソップの三人が大慌てで船内に入って来て、折れた舵棒を操作し始めても、スマラは全くの気にも留めなかった。
ようやく静かになってきた頃、外からナミのスマラを呼ぶ声が聞こえてきた。
呼ばれたからには仕方なく応えなければならない。
スマラは本に栞を挟むと、念の為リュックサックを手に持って外に出た。
「何のようかしら?特にこれと言った物は見つからないのだけれど?」
「幾ら読書してたからって全く状況を理解してなかったの!?いい良く聞いて、ここはクジラのお腹のなの!!」
「………それで?何でクジラのお腹の中と言え、景色や島があるのかしら?」
「って冷静だな。おい」
「山みたいなクジラだぞ。偉大なる航路は初っ端からぶっ飛んでるのか」
ウソップがスマラの冷静さにツッコミを入れ、ゾロが悪態を吐く。
冷静さを失っていないが、一応緊急事態だ。イレギュラーな事なので対応に判断が付かないスマラは、ゾロの言葉をヒントにして脳内検索を行った。
山みたいなクジラ。メモリーコネクト・オン。
対象に当てはまる生物を一匹、確認完了。
アイランドクジラね。世界一大きなクジラで、西の海に生息する固有種。
何故こんな場所に?と思うが、ここがお腹の中なら脱出する方が優先度が高い。
幸い、あの小島には人の反応があるみたいね。
「偉大なる航路の双子岬にアイランドクジラが居るという情報は知らないわ。イレギュラーな要素と考えてよろしくて。ですが、この先の海を航海するにあたって、この程度の事は起こりうるわ。対処は任せる」
「偉大なる航路には船ごと食われるなんて事が頻繫に起こるの!!?」
「うわぁぁぁ!!!やっぱりバケモノの巣窟なんだよぉ~。助けて下さいスマラ様~~」
スマラにすがりつくナミとウソップ。スマラは無視して船内に戻った。
「ホントに困ったらもう一度呼びなさい。穴を空けて出してあげるわ」
物騒な解決案を提示しながら。
スマラとしては無理ではないが、多少力のかかる解決策なので出来れば穏便に脱出して欲しい。
物騒な解決案を聞いて顔を青ざめているナミとウソップは、スマラが思っていることは届かなかった。
「おい!何か飛び出してくるぞ!?」
「「今度は何だよ(なの)!!?」」
海面から飛び出してくる謎の物体に、悲鳴を上げたナミとウソップ。スマラは悲鳴を聴きながら、自分の出番がないことを祈った。
本を読んでいると、時間が経つのが恐ろしく早く感じる事が多々ある。それは、スマラに限っての話ではない。
人は楽しい事をしていると、時間が早く経つとに感じるようにできている。スマラにとってそれが読書であっただけの事だ。
これまで通りに読書をしていると、外からルフィが声をかけてくる。
「スマラ、久しぶり!」
「久しぶり?」
スマラはルフィの言葉の意味が分からない。勿論、「久しぶり」と言う言葉が長く合わなかった人に言うべき挨拶ということは知っている。
スマラが疑問に思っているのは、何故その言葉を今言うのか?数十分間合わないでいたが、久しぶりというには少々間が空きなさ過ぎている。
そんなスマラの疑問に答えたのは丁度キッチンに入って、食事の準備をし始めたサンジだ。
「あぁ、こいつはクジラのお腹の中に入る前に逸れちまったんですよ。だからじゃないですか?」
「そう。そう言えば私が甲板に出た時は居なかったわね。外に居たのね……ということは無事に外に脱出出来たのかしら?」
「あぁ、今から花のオッサンと昼飯にするところだ!スマラも来いよ」
「花のおじさん?人なのそれ?」
「髪型が花見てぇなんだよ。ほら、一緒にいこう。紹介してぇんだ」
「仲間と紹介するつもりじゃないでしょうね?いいわ、貴方だけだと不安だから行くわ」
スマラは読みかけの本に栞を挟み、その本を手に持ったまま外に出た。
少し前に甲板に出た時と違い、熱を感じる太陽と赤い土の大陸に聳え立つ二つの灯台。傍らにはこの船を飲み込んでいたアイランドクジラが見えた。
外に脱出できたのはホントらしい。花のオッサンとやらが関与しているとスマラは考えた。
ルフィに連れられて花のオッサンのところに行くと、確かに髪型が花に見えなくもない。
しかし、人間だ。スマラの知識が確かならこのご老人は……。
「…双子岬の灯台守り人クロッカスね。噂は聞いたことがあるわ」
「私の噂かね?大層な物は有りはせんよ」
「スマラっていうんだ。俺の仲間候補。スゲー強ぇんだ」
「候補…まぁ言い方はそれぞれね。私はスマラ。ただの旅人をやっているわ。この船にはちょっとした事情が有って乗っているだけよ」
スマラと花のオッサン、クロッカスの挨拶はそれだけで終わった。
食事がまだ来ないということもあり、スマラはその辺にあった椅子に座って読書を始める。
テーブルを挟んで反対側にはナミがノートやら羅針盤、海図やらを広げて何かの作業をしていた。そのナミに向かってスマラは少し疑問に思ってた事をぶつけてみた。
「ねぇ。ちょっと聞いてもいいかしら?」
「なぁに?スマラから質問って珍しいわね」
「船のマスト。修理中だったみたいだけど、何があったのかしら?偉大なる航路では船の些細な状況が命とりになるのよ?」
ルフィと共に船から降りた時、ウソップが鉄をマストに釘で貼り付けて修理中なのが見えた。
幾らクジラのお腹の中にいたと言え、船がひっくり返ったりしなければマストは折れないはず。
スマラはマストに何があったのか?と疑問に思ったのだ。
スマラの忠告じみた疑問に、ナミは言いづらそうに話してくれる。
「あ~あれね。ちょっとラブーンの態度が気に入らなかったからルフィが使ったのよ。あ、ラブーンって言うのはそこのクジラの名前ね」
「は?え?マストを使った?気に入らなかったから?宜しければ始めから話を聞かせて?」
偉大なる航路出身のスマラでも、流石に今の言葉では理解が追い付かない様だった。ナミに説明を求めると、簡単に経緯を話してくれた。
「なるほど、仲間を待ってうじうじとしていたアイランドクジラを、あのおバカさんが新しい誓いを上書きさせて慰めてあげたのね。いい話だわ。まるで物語みたい」
「そうね。あいつはそこまで考えて行動したか分かんないけど」
「ただ、どうしてマストを使ったのかしら?わざわざ壊してまで?全く理解不能だわ」
「……大丈夫。私達も同じく気持ちだから」
「…話はもういいわ、ありがとう。どうぞ作業の続きをして」
スマラはナミにお礼を述べると読書の続きに入った。
「あーーー!!!!??」
直ぐに読書は中断となった。ナミが叫んだからだ。
幾ら能力で音量を調節出来るからと言って常時調節しているわけでないスマラは、真っ正面でナミの大声を受けて耳をふさぐ。
ラブーンの額に海賊旗を書いていたルフィがこちらに「うるせーな」と反応し、昼ご飯を持って来たサンジとマスト修理がひと段落ついたウソップもやって来る。
不意打ちで耳にダメージを受けてしまったスマラは、ナミにキィッっと睨んだ。
「今度は何なの?」
「羅針盤が壊れちゃったの!方角を示さない!!?」
「……別に壊れていないわ。偉大なる航路では普通の羅針盤は使えないの。情報収集は大事だと言ったはずよ」
スマラはそれだけ言うと、サンジが持って来た昼ご飯をよそって食べ始める。そろそろ初対面な態度は止めて、本を読みながら。行儀が悪い?知ったことではない。
スマラが説明する気がないのを感じたクロッカスはナミに説明する。ナミだけでなく、サンジとウソップも同時に手を止めて説明を受けた。この先の航海での生命線とも言える話だからだ。
ルフィ?全く無関心ではないが、難しい話は他の仲間が聞いて理解していれば大丈夫だ!と言わんばかりに食事に夢中である。そのペースで食べていたら説明を受けている三人の分が無くなる勢いだ。
本を汚さないようにと食べていた為、周りで何やら起きていたが、スマラは気にも留めなかった。
女性が食べる普通の量よりも少しばかり少ないが、初めによそった昼ご飯をゆっくりと食べるスマラ。読書と並行して食べているので、進み具合は遅いがそもそもの量が少ない。
記録指針の記録が貯まる頃には流石に終わっていた。
目で文字を追いながらチラリと視野を広げて歩く。歩き読書はスマラにとって難しくも何ともない。
無事に船まで戻ると、ゾロが甲板で寝ているのを横目に船内に戻った。定位置ともなった場所に座るとそのまま読書を堪能する。
いつの間にか船は出航していたが、スマラはこれまで通り気にしない。新たに見ない顔が二人乗っていても気にしない。
船は偉大なる航路の入り口、双子岬をラブーンとクロッカスに見送られて出航した。
パタンと本を閉じた。読んでいた本が読み終えたからだ。
スマラはリュックサックの中に本をしまうと、新しい本を取り出さずに部屋中にいるナミに声をかける。質問内容は行き先。スマラとてこの先の島に興味がないわけではない。
街があるのか?書店は?交易は栄えている島なのか?そもそも人のいない島なのか?
出来れば珍しい場所にある本を読みたいスマラは、行先の島が知りたかった。クロッカスもいたところだ、まさか知らないということは無いだろう。
「ねぇ、次の島はどんな島なの?」
「え?あ、スマラも気になったりするんだ。読書以外どうでもよさそうに考えてる節があったから」
「えぇ、知らない島で知らない本に出合うのは楽しみだわ」
「やっぱり本関係なんかい!!?っと次の島ね。私も名前しか知らないんだけど、『ウイスキーピーク』ってところなの。詳しい島の内容はそこの二人が教えてくれるはずよ」
ナミが指さした方向には男女二人が毛布にくるまって、この船の設備に異を唱えていた。寒くて暖房設備を欲しているようだ。
ナミに視線を向けると、彼女もコートを羽織って耳当てを付けている。外の外気は相当寒いみたいだ。窓の覗いてみると、
「雪?あぁ、だからそんなにも厚着なのね」
外には雪が降っていた。吹雪とまでは行かないが、甲板に多少積もっている事から長い時間雪が降っているのだと推測できる。
窓の外には雪かきをしているサンジと、積もった雪で遊んでいるルフィとウソップの姿が。サンジはマフラーを巻いているが、ルフィとウソップはいつもの服のままだ。
外の景色から分かる様に外気に触れていない船内でも、暖房機がないここは普通の服だと寒い。現にナミは厚着で、見知らぬ二人は毛布にくるまっている。
「ねえ。寒くないの?その服は動きやすさ重視だと見えるけど」
「能力で自分が感じる熱量を変換しているから問題ないわ。流石に雪の中をこの服で歩くつもりはないけれど」
何時もの事だ。熱量を増やして温かくしているのだろう。
スマラの能力にかかればこのようなことは容易い。やろうと思えば、部屋中の熱量を変換して温度を調節することも可能だ。
体力を消耗するので言われてもやるつもりはないが。自分さえ快適であれば良いのだ。
と、話を元に戻そう。
スマラがナミに声をかけたのは、次の島の情報を手に入れるためだ。ナミからは見知らぬ二人に聞けば分かると言っていた。
ならば、聞くだけ。早速真正面を向いた。
始めて気に留めた二人は水色の髪を後ろでまとめている女の子と、頭に王冠を被っている男だ。見るからに普通じゃないのが分かる。
女の子だけならまだしも、男の方が完全に怪しい。王様ではないことは何となく分かるが、何かを企んでいるようにもスマラは見えた。
が、二人の事情などスマラにはどうでもいいこと。ただ次の島の情報教えてくれれば後は知らぬふり。この二人が麦わら一味に何をしでかそうと、仲間ではないスマラには関係のないこと。スマラに被害さえ及ばなければ。
「で、貴方達なら次の島を知ってるのかしら?教えてくださる?」
「これまで一緒の船に乗っておいて、今更なのね」
「本読んでいただけだもんな。まあいい。俺は…」
「名前なんか聴いていないの。次の島の名前と人口。交易がどの位栄えているのか。それだけで十分よ。どうせ直ぐに降りるのでしょ?」
「くぅ~、なめやがって」
「Mr.9抑えて、この人の目は普通じゃない気がするの。いいわ、教えてあげる。次の島は『ウイスキーピーク』よ」
「ウイスキーピーク……聞いたことないわ」
ならば自分が通ったことのあるルートではないのだろう。スマラは水髪の女の子の話を聞く。
分かった事は音楽や酒造が盛んな街。ある程度交易はあるが、ローグタウンには負ける。大都市ではないのだろう。
スマラは女の子から話を聞くと、「ありがとう」とお礼を述べてから読書に戻った。次の島ウイスキーピークの話を聞いたスマラは内心でガッカリしていた。
一つ目の島には本をあまり期待できそうない。人口もそれ程多くもないようだし、ローグタウンで買った本がまだ沢山ある。一応覗いてみるが、期待はしないでおこう。
次の島が期待外れだったことは忘れて読書にめり込む。偉大なる航路初航海で度々変わる天候や海流に弄ばれるが、スマラは知ったことじゃないとばかりに無視した。
そして時間が夕方に差し掛かってきた頃、ようやく海は穏やかになり水平線にはサボテンの様な山が見えてきた。ウイスキーピークに到着だ。
ウイスキーピークに到着です。次回、歓迎と罠?どちらも十分です。