麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
物資補給と言う小休憩から戻って来たスマラにお客さんが居た。
「スマラさん、少しだけ話がしたい」
金髪を雑に伸ばし、片目を前髪で隠している男。
剃っていないのか、少しだけ不恰好に伸びている。
言えば何でも揃えてくれる立場であろうに本島に最低限の事以外何もしてないのが見て取れる。
毒物を警戒して口につけていないのか、はたまた単純に喉に通らない気分なだけか…顔色も良くは無い。
おそらく後者だろうとスマラは当たりをつける。
純粋に家と家の繋がりの深める為だけに普通に結婚させるだけとは思えもしないが、それでも実際に結婚を執り行うまでは何もしないだろう。
黒足の性がヴィンスモークだったのは意外だけれども、今までの手配書に家名が載って居なかった点、これまで一切関わり合いや話題が出てこなかった点から私と似たような境遇だったのだろう。
ヴィンスモークにとっての価値はまだ図り損ねてるけれど、ビッグマム海賊団にとってはまだヴィンスモークと正式な繋がりを得た訳ではない。
今の時点で毒殺する理由がないのだ。
今更毒殺を実行するくらいなら、新入りの傘下を向かわせるよりももっと簡単に麦わら一味を全滅させられる方法がある。
大幹部を筆頭に幹部十数名でも送り込めば麦わら一味は簡単に終わる。四皇本人がやってくればそれこそチェックメイトなのだから。
目の前の男、黒足のサンジは麦わら一味を離れてこのお菓子な船に乗って初めてスマラに向かって言葉を発した。
今更?
万国に入って考えが纏まったからだろうか?
だとすれば内容は何?
今までについて?
これからについて?
私が話していなかった事?
いずれにしても、私が弁明する事は何も無い。
「話をするのはいいけれど、こんな場所で良いのかしら?」
「……出来れば内密に。少なくとも船内の俺の部屋まで来て貰っても良いですか?」
「別に構わないわ」
やはり誰が聞き耳を立てているか分からない甲板では駄目な話みたいだ。
ビッグマム海賊団の船である以上、船内でも全く気を許せる訳がないが、それでも外よりは壁に囲まれている部屋の方が良いとサンジは判断したらしい。
盗聴されていようがどうでも良かったスマラはサンジの提案を素直に受け入れる。
「何でもいいから軽く摘まめる物と飲み物を頂戴」
船内に入る直前、側に付いているチェス兵に軽食を要求してサンジに着いて船内に入って行くスマラ。
面と向かって話がしたいと言われてそれを承諾したのなら、読書をしながら話を聞くのは失礼にあたるだろう。
ならば、栄養補給も兼ねて何か口にしながら話を行った方が時間効率的にも有意義な時間の使い方だ。
サンジの部屋は船内の中心にあった。
まだ客人だからか客室と言っても良い部屋だ。
スマラに与えられている部屋と同等以上のランクだった。
無駄な調度品なんかも飾られている。
サンジはスマラに備え付けのソファーに座らせると自身も対面に座り、早速話を切り出してきた。
「早速で悪いんですが……最初からこう言う計画だったのですか? 無関係を装って船に近づいて有能で使えそうな人材を引き込む調達員と……」
「その解釈は無理があるわ。私があの船に拾われたのは完全な偶然で、麦わらが私の事を気に入ったのは想定外。そんな運だけに頼ったヘッドハンティングなんて非効率的過ぎるわ。
そもそも東に海で旗上げしたばかりの貴方たちがここまで成長するとは誰にも予想出来なかった。その場の強さだけを考えるなら平和な東の海よりも新世界の方が手っ取り早く戦力を持ってこれる」
あの場で麦わら一味に拾われたのは完全なる偶然だ。
そして、既に縁を切った相手の意図を組んで行動してやる程お人好しではないし、向こうも忘れていなかったにしても半ば放置だ。
恐らく目を付けたのはウォーターセブン……世界政府と交渉してからだろう。
それまでは殆ど世間に姿を表していなかったし、世界政府になら伝手やスパイくらい幾らでも居てそこから情報が伝わったのか……。
もっとも、頂上戦争で大将と戦ったせいで新聞に載ってしまい、そこまでの時間差は全体的に見ればないに等しいけれど。
「そう理由を述べても貴方は納得しないのでしょうね。でもこれだけは言わせて。私はビッグマム海賊団が世界で一番嫌いよ。天竜人よりもね」
「……余程嫌っているのに、何故?と聞いても?」
「新世界に入れば基本的に海軍及び世界政府、四皇、その他有力海賊団の支配が何処にでも及んでいるわ。大人しくしていれば一般人として紛れ込む事も出来たでしょうが、海賊の船に乗ってナワバリに近づくとなれば話は別よ。
貴方も知っていると思うけれど、ビッグマム海賊団の情報収集力は世界政府にも匹敵するわ。ナワバリの近くの情報なんて勝手に入って来る。奴等に知られた以上、これ以上私の日常が汚される前に交渉した……」
新世界まで戻ってしまった以上、ビッグマム海賊団が己の動向を意識しないはずがない、とは考えていた。
麦わら一味やシーザー・クラウンと言うきっかけがあったにせよ、ここまで接触を図ってくるとは思ってもよらなかったのが私のミス。
ドフラミンゴがなんて言っている暇も無くドレスローザで、新世界初めの島であるパンクハザードで隙を着いて、それよりも早く新世界の海面に浮上した時点で麦わら一味を離れて入れば良かった……。
そう後悔してももう遅い。
向こうがそのつもりなら、こっちも最大限活用するまで。
それで……とスマラはサンジに目を向ける。
「貴方は私の事を聞いてまで何が言いたいのかしら?」
「俺は……。俺は家族の問題にケリを付けに行くだけなんです。アイツ等と直接会って交渉して俺の結婚を取り下げる為にこの船に乗った。……でも、簡単に終わるはずがない」
「親に縛られる気持ちは分かるわ。私も同じだもの」
「えぇ。だからスマラさんが嫌々向かっているなら協力出来るんじゃないかと……」
サンジが今頼れる存在と言えば同じ船に乗っているスマラしか居ない。
サンジから見れば自分と同じ様に嫌々従っていると思い、一緒にビッグマム海賊団から逃げる仲間になれば良いと考えていたが……。
思ったよりも反応が薄い。
それもそのはず。
嫌々従っているのは確かだが、スマラは何時かこんな状況になるんじゃないかと昔から予想していた。
予想していたから、実際に使いを寄越して来た時に観念したのだ。
決して報酬に惹かれたわけではない。
「でもまぁ、ビッグマム海賊団と血縁を結んでも良いことは一つもないのは確かね。狙いは大方ヴィンスモークの持つ技術力。ビッグマム海賊団も人材は豊富だと思うけど、一時期は世界一の天才と共に研究所を構えていたヴィンスモークの当主には及ばない。海賊団の強化に他陣営の力を取り入れるのはもっとも手っ取り早く力をつける方法だけど、ビッグマムは自身の子供にそれを強要して行って海賊団の強化を行ってきた海賊よ」
「よく知っているんですね」
「嫌でも知ってるわ。 貴方は結婚した相手方の家族がどうなっているか知っていて?」
「知る訳もないですよ。縁を結んで強化を図るんですから、良好な関係を何十年も続けているんじゃないですか?」
「そうならビッグマム海賊団は今よりも大きな組織になっているわね」
「つまり……」
縁を結んだ相手が海賊でビッグマム海賊団の傘下にでも加入しない限り、消して来たと言う事は言葉にしなくても伝わったはずだ。
「でもまぁ、飽くまでも私の想像に過ぎないわ。実際に居城に行ってみない事には何とも言えないわね」
カカオ島のショコラタウンで想像よりもかなり良い統治をしている事を目の当たりにしているスマラは、今語った予想が正しいとは思えなかった。
あの書店巡りがなければ、予想とは言わずにそう言った海賊だとサンジに伝えていただろう。
果たして予想は合っているのか?
こればかりは実際に結婚し過ごして見なければ分からないだろう。
幾ら悪逆非道な四皇とは言えど、結婚式で相手家族を皆殺しにする短気さは無いだろうとスマラは考えるが……。
本題に入ろうと思う。
サンジがスマラに話を持ち込んで来たのは、己と同じ立場であると思い込み協力関係を結んでビッグマム海賊団から逃げる事を目標としてだ。
サンジとて四皇が易々と逃がしてくれるとは思ってもいない。
ましてやサンジはビッグマム海賊団に喧嘩を売っている麦わら一味のコックだ。
縁を結ぶ以前に喧嘩を売ってきた相手の戦力を削り、人質としてナワバリから逃がすはずもない。
「協力関係は無理だけど、貴方が本気で逃げる時はそれと無く手助けする事は出来なくもない……かもしれないわ」
「それは……一緒に逃げないって意味ですよね」
「えぇ。元の鞘に収まるだけだもの。待遇が良い方に鞍替えするのは2年前に知っているでしょう? それに、どうしょうもない程憎悪していたらもう逃げてるわ。
まぁ、私の期待以下なら一緒に逃げて……いえ、バラバラに逃げた方が逃げられる確率はあげられる?」
早速先の言葉を違えようと考えているスマラ。
しかしそれは、スマラの期待値を下回った場合のみだ。
ここまで長い期間広大なナワバリを納めて、新世界に根を張って世界中に影響を及ぼすほどに成長した海賊団だ。
何十年も収集した、略奪した物品はそこらの海賊を遥かに超えるだろう。
それ故に、期待はある。
むしろ世界政府が禁書指定している歴史書だって一冊や二冊位あるかもしれない。
部屋に沈黙が訪れる。
サンジの言葉を待っているスマラだが、言いたいことは既に終わった様な気もする。
これ以上の話は無駄。
席を立とうとしたスマラだったが、ドアのノック音で忘れていた事を思い出す。
「失礼します。要望のお飲み物と軽食をお持ちしました」
そう言えば話が長引くと思い、飲み物と食べ物を頼んでいたのであった。
手際よくテーブルに並べて部屋を出ていくチェス兵。
どうするの、これ?
話は終わった。
さっさと立ち去って読書タイムに戻っても良いが、自らが頼んだ物なだけあって手を付けないで部屋を出るのは味気ない。
早く戻って早速買ったばかりの新刊を読みたい気持ちもかなりあるが、どうせ読み終われば暇になるのは目に見えている。
ならばここでゆっくりしているのもまた一興だろう。
サンジ自身女性に甘いこともあり、スマラが留まってゆっくりとしていても無碍にしないだろう。
一先ず、黙って用意しても貰った物を頂く事にしたスマラ。
カカオ島がチョコレートの島であることもあり、チョコレートラテにガトーショコラ、チョコチップクッキー、チョコブラウニー等々。
チョコ尽くしである。
甘い。
非常に甘い。
この甘さに会うのはブラックコーヒーだろうに……とスマラは準備をした者に心の中で愚痴る。
ゆっくりと軽食を頂くにはやはり読書が必要、ということで早速買ったばかりの本を選んで鞄から取り出す。
甘い物ばかりの口直しも兼ねてホラーサスペンスだ。
是非とも甘い軽食を中和していい感じになって欲しい。
一方で己の部屋で寛ぎ始めたスマラをサンジはただただ見ていた。
詳しい事情は聴いていないが、これまでの話や雰囲気から何十年もビッグマム海賊団から逃げていたんだと感じていた。
時折見せる表情から、ビッグマム海賊団の事は特に嫌っていたはずだ。
それなのに、それなのに一回捕まっただけでこれまで見せていた嫌悪感にあるまじく淡々としている。
内心は計り知れないが、余程嫌ならば新聞やイワンコフから見聞きした頂上戦争の様に暴れれば良いだけだ。
なのに、その様な行動を取らないと言う事はサンジと同じ様に誰かを人質に取られているのか、それともサンジには知られていない取引でもあったのか……。
考えても仕方ない。
そう結論を付けたサンジは頭をくしゃくしゃと掻くと、目の前に用意されていたカップを手にとって一気に飲み干す。
一先ずは、大将三人を同時に相手取れる実力を持ったスマラが敵対せずに、運が良ければ手助けしてくれる結果を喜ぼう。
スマラは軽食と飲み物を全て食べ終えると、サンジに「それじゃあせいぜい頑張りなさい」と一方的に声をかけてから部屋を出ていった。
その足で自身に与えられた部屋に戻った。
今から甲板に出ようにも、既に日は陰り始めている。
まだ涼しいで済むが、一刻もすれば肌寒く居心地が悪くなるだろう。
本一冊も読めずに部屋に退去せざるを得ないくらいなら、端から部屋に戻っておいた方が賢い。
部屋に戻ると椅子に座って読書だ。
読書をしながら考えるのは明日の事。
ナワバリに入り快速で向かっている本島は明日には着くだろうと聞いていた。
明日には……明日にはビッグマム海賊団と対面する事となる。
実に何十年ぶりだろうか?
数年前までは新聞で奴らが暴れた事件の概要を知るくらいで、直接的には全く関わりが経たれていた相手。
怖いとはもう思わない。
あの時よりも背丈も伸び、能力の使い方だって段違いに上手くなっている。
それでも、それでも心の奥底に刻まれている記憶は、私を万全な態勢にさせてくれない。
あの巨体。自分勝手な言動。
仲間すらも気に留めずに暴飲暴食。
いつもいつも命令口調。
脳内に浮かぶアイツはいつも余裕そうに笑っている。
その表情を崩させれたらどれ程気分が良いことやら。
しかし私には無理だ。
可能性があるとしたら麦わら一味だけれど……今のままだと幹部にも勝てないでしょうね。
まぁもうここまで来てしまったのだからしょうがない。
何十年と自由に過ごしていたツケを払うだけ。
何気なしに見た窓の外。
その先にはビッグマム海賊団の本拠地:本島『ホールケーキアイランド』が存在している。
あと数時間……向こうの都合を考えれば遅くても明日には顔を合わせる事となだろう。
これ以上は考えたくもない、とばかりにスマラは視線を落として読書へと戻った。
今は楽しい時間を満喫しよう。
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