麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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八十四頁「図書室、再会前」

 

 スマラが長い長い家出から戻り、ポーネグリフの解読を押しつけられて早数日が経過していた。

 

 朝と言うよりも昼前になると漸くベッドから這い出て、今朝の朝刊をじっくりと目を通して昨日の世界事情を頭に入れつつ、ワッフルやパンケーキと言った軽い食事を甘いコーヒーと共に流し込む。

 1時間以上時間をかけて世界経済新聞を読み終えると、ゆったりとした服装に着替えて部屋を出る。

 行き先は当然宝物庫……ではなく、別の場所に存在している図書室だ。

 

 スマラが羨むブクブクの実の能力者であるモンドールが主に管理しているその場所は、世界中を放浪して来たスマラですらなかなかお目にかかれない蔵書量を誇る。

 右を見ても左を見ても、永遠に続くかのような隙間なく本が埋まった棚、棚、棚。

 きちんと時間をかけて読もうとすれば、優に数年は必要になるほどの冊数。

 

 これらを集めるのに一体どのくらいのお金がかかったのか。

 いや、海賊なのだから略奪した物や、裏社会の人から献上された物が殆どだろう。

 麦わら一味は律儀に買い物をしていたが、ビッグマム海賊団は根っからの海賊をやっている。

 欲しい物は奪い取り、他の海賊と鉢合わせれば虐殺を地で行く奴等だ。

 真っ当な手段でお金を手に入れて買っていた私を見習って欲しい。

 むしろ、素晴らしい本を執筆した作者様にお金が届く様に支払うべきである。

 

 それはそうとして、本に罪は無いので無料で読める本は幾らでも読む。

 一先ず本棚の端から端まで制覇し続けて、最終的には全ての書物を読む事が目標としているスマラは、今日も今日とて両手で持てるだけの本を抜き取ると、絶対に崩さないバランスを持って用意させた机に降ろす。

 ふかふかなソファーに座って持ってきた本を初めから読み進める。

 監視役の者の視線など無視だ無視。

 時折、管理者であるモンドール、上の弟妹達がやって来ては嫌味を言って返って行くが、本の世界に夢中になっているスマラには届かない。

 

 昼を過ぎ、朝起きてから6時間以上経過し、夜になってもスマラの読書は止まらない。

 勝手に灯される光がある為尚更時間の間隔が曖昧になる。

 また1冊読み終え、丁度シリーズ物でなかったのが幸いしようやく夜だと知ると、持って来た本を戻すのを雑用係に任せ、今度は部屋に持って行く本を数冊抜き取り図書室を退出した。

 そのまま部屋まで歩いて直行。

 部屋に戻ると用意されている食事をとって寝間着に着替えて再び読書の時間。

 ある程度気が済むまで読み進めると灯りを消してベッドに潜る。

 

 

 以上がスマラの一日のルーティンである。

 ポーネグリフが保管されてある宝物庫には初日以外足を運んでいない。

 つまり、言い渡された仕事をサボっているのである。

 

 見張り役もいるのに咎められないのか?

 シャトーに着いた二日目こそはそう思っていたが、三日目つまり二日連続で図書室に足を運んで読書していても強制的に仕事場に戻される事は無かった為、スマラは調子に乗ってサボりまくっている始末。

 一応モンドールや見張り役の弟妹達にお小言を頂くが、己よりも弱く何も出来ない者の言うなぞ聞く耳を持たず。

 この数日間、ビッグマム本人はともかく、将星やスマラに近しい齢の兄弟姉妹は誰一人として見ていない。

 読書中はともかく、移動中にでもすれ違いもすれば流石に気付くはずなのにだ。

 それだけ忙しいという訳なのか。

 それとも城の中で大人しくしていたら興味も湧かない程の関心も持ち合わせていないのか。

 

 まぁ、それはどっちだっていいわ。

 私に無関心でいてくれた方がこちらも過ごしやすい。

 

 

 と、むしろ有難るスマラは、今日も今日とて読書に勤しむのであった。

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 読書中のスマラにも聞こえるレベルの怒声が城に響き渡る。

 読んでいた本から顔を上げ、見聞色の覇気で軽く周囲を調べてみるが、己に対する敵意は見当たらない。

 今までに無い出来事だった為、少しだけ本の世界を置いて思考して見る事にする。

 

 怒声が響き渡る前、城が振動した。

 この城が動く、と言う前提は無しだわ。

 このお菓子のお城は多分、シュトロイゼンが能力を使って作ったお城のはず。

 でなければこんな巨大なケーキを作れるはずもないし、それをお城に加工なんて物語の幻想よ。

 太陽や雨風にさらされているのだから、数日と持たずに崩壊するのがオチ。

 食材を建物のようにする事の出来る能力者なんて、昔一緒にいたシュトロイゼン以外に私は知らない。

 と、ここまではかなりどうだって良いの。

 そんなお城が揺れた、ということは恐らく何かがぶつかって来た。

 攻撃……にしては一度だけなのが不思議だわ。

 その後の怒声は、ぶつかった何かに対して?

 よく分からないわ。

 

 ならば、知っている人に聞けばいい。

 スマラは近くにいる弟妹の誰かに聞いた。

 心なしか、いつも以上に幼い者だ。

 

 

「ねえ、今のは何? 尋常じゃない声がしているのだけど」

 

「……関係無い事だ」

 

「この城で暮らしている以上、無関係とは言い切れないわ。襲撃なら怖いもの」

 

「嘘つけ。そもそも、今までずっとここに居る俺たちが知る訳もないだろう」

 

「お姉さん馬鹿でしょ」

 

「じゃあその電伝虫は何? 軽い報告くらい受けているでしょう。それとも、簡単な報告すら与えて貰えない下っ端なのかしら?」

 

「コイツッ……」

 

「やめろって。こんなのでもコンポート姉さんの次に産まれた次女よ。実力だってカタクリ兄さんですら警戒する程なの」

 

「ここから動かさなきゃ軽い概要くらい良いだろう。何かあったら俺が責任を取る」

 

 

 スマラに情報を教えるか否か。

 少しだけざわついたが、最終的にはこの中で年長と思われる男が責任を取る形で教えてくれる。

 ここまでの手間取りから、スマラに対する情報行動規制は曖昧と言う事。

 トップであるママが放置気味だからか、上の兄弟姉妹にしか細かな指示が行っていないのか、はたまた単純に誰もが厄介者の縛り付けなど後回しで良いと考えているのか。

 

 

「麦わらがわざわざ俺達の本拠地に乗り込んで来たらしい。それで今……仇討ちの時間だ」

 

 

 そう言えば、と最近は読書に夢中で忘れていた情報を思い出す。

 黒足がここまで来ておいて迎えに行かない麦わらではないわよね。

 連行された悪魔の子を追って世界政府の玄関エニエス・ロビー、火拳を助け出すために大監獄インペルダウンに、海軍総戦力と世界最強の男率いる白ひげ海賊団がぶつかった頂上戦争。

 大切な者の為となれば世界政府の三大機関ですら乗り込むのに躊躇ない麦わらなら、四皇の本拠地であろうと行かない理由にはならないわね。

 そうなると気になるのは……。

 

 

「そう。一体誰が倒されたの?」

 

「……クラッカーのアニキだよ。将星だぞ? ウチの主戦力がやられちまうなんて誰が考える?」

 

「まぁ、その麦わらも満身創痍。今なら、兄弟姉妹たちでかかれば捉えることも要因だろうよ」

 

「最悪の世代のガキ共は最近調子に乗り過ぎ。少し前もスナックの兄貴が怪僧にやられちまうし……」

 

「馬鹿ッ! 情報を与えてどうする」

 

「クラッカーのアニキも油断したんだろうさ。卑怯な手を使ったかもしれないが、今から行われる仇討ちはそうもいかないぞ。武闘派の兄さん姉さん達が休む暇も無く襲う物量。他の四皇幹部ですら怯む猛攻だ」

 

 

 知らない情報だ。

 まぁこの海賊団の誰が誰にやられようがどうだって良い。

 それよりも今は麦わらがクラッカーを倒した事だろう。

 正直言って意外も意外だ。

 修行中に仕方なしに相手をした感じ、私の能力を突破出来るなら文句なしに私よりも強い。

 その辺の海賊には負けない自信があるけれど、四皇の最高幹部ともなれば私は勝てない。

 四皇本人でなければ一方的にやられる事は無いと想像するけれど、最高幹部ならこちらの攻撃は覇気と能力の練度で届かず、能力に頼った防御も破られる可能性は十分にある。

 上手く行っても実力は拮抗して何処まで行っても平行線で終わる。

 新世界でも十分通用する私ですら四皇の船の最高幹部は強い。

 

 そんな一人を麦わらが破った?

 有り得ない……とは言わないけれど、かなりの激戦だっただろう。

 弱虫クラッカーが現在どの程度の実力なのかは知らないけれど、最高幹部の一角に席を置く程度の実力は持っているはず。

 それを破ったのね……。

 凄まじい成長速度だわ。

 確かに冥王レイリーの進言は正しかった。

 あの2年間の修業期間が無ければ新世界に入って少し経って四皇に目を付けられたら終わっていた。

 この調子で成長し続けるなら、数年後には四皇の一角と呼ばれていても可笑しくはないけれど……今戦うのは早すぎる。

 それほどまでに格別した力と覇気を持っているのが四皇なのよね。

 そう言えば、結局未来視は習得出来ていないみたいだし……カタクリ兄さんにやられてお終いね。

 まぁ、その前に怒り狂っている弟妹達の猛攻から逃げきれればの話だけれど。

 

 

 

 気になった事も聞き終えれば興味は薄れていく。

 今更麦わらが誰に勝とうが負けようが興味は無い。とは言い切れないが、気になって読書に手が付けられなくなる程ではない。

 せいぜい夕食の時にでも結果を聞いて終わり。

 勝てば驚き、負ければ当然と思うだけ。

 

 スマラは頭の片隅に押し寄せて読書へと戻る。

 麦わらが来ていると知り、何か行動を起こすのではないか?と警戒していた弟妹達だったが、スマラがこれまで同様に読書に集中し始めると過半数が呆れた目を寄越して来た。

 マイペースなスマラを見るのは初めてだったのだろうか?

 こんな調子で呆れていたら持たないぞ。

 何てったって彼女は、同格以上の相手でなければ基本的に読書をしながら相手をするのがデフォルトなのだから。

 

 

 

 

 

「ん~~~っは、続きは……未発売? 良いところで終わってるじゃない」

 

 

 また1冊の本を読み終えると、続きが発売されてない事を残念がりつつ別の本に手を伸ばしかけて……。

 時間を確認するついでに、周囲が騒がしい事に気づいた。

 ざわざわと人が多い。

 

 最後に意識を読書に向ける前に比べて、数名……ではなく十名以上増えている。

 さらに言えば、読書中だろうが常に広げている見聞色の覇気に多数の反応あり。

 ほぼ無意識化の中で使っている見聞色の覇気なので、効果範囲は狭いがそれでも数十メートルはおぼろげに感知できる制度を持っているスマラからすれば、遠巻きに見張っている者ですら常に意識の数パーセントは警戒に割いている。

 そして、この島に、いやビッグマム海賊団の船に乗ってからというもの、常に見聞色の覇気は大小なりとも反応はしていた。

 なので読書中は直接的な攻撃でもされない限り見聞色の覇気を半分無視している状態だったのだが……それが仇となったのだろう。

 

 本の頁から視線を上げて、見聞色の覇気で気配を探ることに集中すると一際馬鹿でかい気配とそこそこ強い気配が複数人、連れ立って図書室に近づいてきているのを今更ながら感じ取った。

 この気配を今の今まで気づかないのは、気が抜けていたでは済まされない失態。

 誰に言うでもなく言い訳をするならば、初日以降の接触は一切無く、向こうは話題にするのも嫌な存在だと思い込んでいたからだ。

 しかし、ここは奴の居城なのだから、個人的な部屋であろうと何処に現れる事を否定出来ないし、それを阻む者は誰一人として存在しない場所。

 

 今更移動しようとしたって、どうしても鉢合わせになるのは間違いない。

 私との関係性を知らないはずもないのに、どうして見張り役はこの予定を伝えなかったのだろうか?と思わずにはいられないものの、スマラ自身が本の世界に没頭して声をかけても高確率で反応しない事、わざわざ知らせてやる義理もないと黙っていた事、そもそも予定をいちいち知らされてないどいない事。

 スマラが個人的に警戒しなければ、この鉢合わせは回避できないのも当然だった。

 

 

 

「あ? おや、こんな場所に居たんだねぇ。ポーネグリフの解読は順調かい?」

 

 

 スマラを視界に入れた途端にそう言いながら鋭い眼光を向けて来るのはビッグマム。

 スマラは読書に意識を割いている様なポーズを取りつつ、見聞色の覇気を全力で発動させて未来視をしながら応える。

 

 

「経った半年未満の期間、同じ船に乗っていただけでおいそれと解読出来るようになるのなら、世の中の考古学者は無能ばかりね」

 

「ハハハハハハァ、お前には本を読みたいと言う際限なく溢れる欲があるだろうさ。当時10歳ぽっちだった小娘が私に逆らおうとする程の欲がね。地頭の良いお前なら不可能じゃないはずだよ」

 

「欲だけでは解決しない事だってあるでしょう。それとも、本気で私にポーネグリフの解読を期待しているのかしら?」

 

「馬鹿言っちゃっいけないよ。あくまでも複数ある内の一つに過ぎない事を忘れるんじゃないよ。しかし……」

 

「此処の出入りを禁止するなら、私は逃げるわよ」

 

「まぁ良いだろう。一先ず1年以内に解読をして見せな。どのポーネグリフでも、一部でも構わない。話はそれからだ」

 

 

 一先ず可能性を探って確保したは良いものの、本当に私が活躍するのか分からないから判断期間を設けた、と言う事ね。

 私からすればはた迷惑な話しだけれど、ママが私の、他人の予定や気持ちなんか考えるはずもない。

 欲深いのはどっちよ。

 誰に迷惑をかけずに生きている私を見習いなさい。(スマラ当社比)

 

 

「えぇ、成果を上げればいいのでしょう。無償で私を留めておく程あなた達が優しいはずもないのは知ってるわ。要件はそれだけ?」

 

 

 正直、ママが己に今の話をする為だけに時間を割く事は無いと断言出来る。

 後で伝えに来るくらいなら、私をママの下に呼び出すかそもそも初日に顔を合わせた時点で伝えれば良いだけの話。

 となると、別件で図書室に足を運び、そこに私が偶々居合わせたから思いついたことを伝えたといった具合の方が遥かに説得力がある。

 ママに集中していて逸らしていなかった目を横にずらすと、金の鉄仮面を被った大男(と言っても平均身長が高い家族からすればそこまで大きくない)とさらに後ろには四人の男女が見えた。

 

 北の海で猛威を振るっているジェルマ66がそこにいた。

 あぁ、ママは彼らに居城を案内していたのね。

 それなら尚更己の存在は不愉快だろうと、スマラはこれ以上何か言われる前に図書室を離れようと腰を上げた。

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