麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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八十五頁「囚人図書室、再会」

 

 『ジェルマ66』

 その存在は何年も昔から世界経済新聞に連載されている物語から知名度は高い。

 しかし、あくまでも世界政府が海軍のアピールの為に創作されれた物語だと知られており、その物語の悪役を勤めている組織だって架空のものだと凡その一般人には思われている。

 が、モデルとなった海軍の英雄は何名も存在しており、悪役のモデルだって存在している。

 それこそがジェルマ66。

 

 北の海にかつて栄えた大国であり、現在は領土を持たない傭兵国家として世界政府にも認められている。

 そのジェルマの国王こそがヴィンスモーク・ジャッジ。かの大天才ベガパンクと共に研究をしていた科学者でもあり、麦わら一味のコック黒足のサンジの実の父親でもあり、間接的にだが親族となる相手だ。

 黒足がヴィンスモーク家だと言うのは驚いたが、あの強さの一旦が血筋的にあるのなら納得は出来る。

 

 

 そんなヴィンスモーク家が目の前に居た。

 父親であり国王であるジャッジは金の兜を被った金髪、その他は詳しくは知らないがピンク髪の女性、赤青緑髪の男性3人。

 主役でもあるサンジ意外のヴィンスモーク家が揃っていると考えていいだろう。

 

 そんな彼らを横目に、さっさとこの場を退場しようソファーから腰を浮かそうとした時、ママから予想外の言葉を投げかけられる。

 

 

「あぁ、そうそう。コイツがあたしの家族で二人いる汚点の一つ、次女のビターだ。噂くらい聞いたことがあるんじゃないかい?」

 

「あぁ2年前の頂上戦争の記事には驚かされた。しかし、彼女は麦わら一味のメンバーなのでは?」

 

「ハハハ、こいつは短くない航海を共にした仲間を裏切って此処に帰ってきたんだよ。そっちの三男坊が結婚に応じた謎が解けたはずだよ」

 

 

 黙って聞いていれば、事実を歪曲して喋るママの説明につい口を出してしまっていた。

 

 

「目の前で嘘を教えられるのは気に障るわ。ヴィンスモークの三男が此処に来たのは彼が彼自身で決めた事だし、私が戻ってきたのは城の書物を読めると言う報酬があったからよ」

 

 

 そこのところ履き違えないで貰える?と若干睨みながら言うと、ママはニタニタと笑みを隠さずにあっけらかんと言い放つ。

 

 

「ハハハ、そうだったのかい? まぁなんだって良いさ。周りがどう思おうたってお前には興味も湧かないはずだよ」

 

 

 そんな事は無い。

 確かに、知らない場所で知らない人が勝手に想像するのは勝手だと思うし、そのことについて私は何とも思わない。

 が、私を知る人が勝手に私の行動の意味を決めつけてしまうのは気に障るから、興味が湧かないのは間違っている。

 しかし、ここで言い返しても何の意味もない。

 実力では天地がひっくり返っても敵わない私が何を言ったって無駄だだろうし、その反応を見聞きして楽しんでいる節もある。

 趣味が悪い。流石世界最強レベルの海賊は性格も終わっている。

 

 

 やっぱり何も言わずに一目散に立ち去るのが正解だった。

 これ以上顔を合わせたくなかったスマラは今度こそ立ち去るつもりで、ママにアイサツを述べる。

 

 

「もう要件が無いのなら私は戻るわ。仕事も進めなくちゃならないので」

 

「あぁ、待ちな。一つ運び事を頼まれてくれないか?」

 

 

 そんな私を呼び止めるママ。

 何が「頼まれてくれないか?」だ。

 ママが自分の子供に、特に私に何かを言う時はほぼ強制に近い。

 そんな事も分かってないはずもないのに……。

 

 顔だけ向けて続きを促す。

 ママは相変わらず気に障る表情で私に用件を述べる。

 

 

「なぁに、この電伝虫をある場所まで届けるだけさ」

 

 

 絶対に嫌がらせ目的以外何もないだろう。

 これだけ広い城で、資金だって膨大な金額があるはずで、無ければその辺の海賊や国を襲って奪えば良いだけの海賊だ。

 電伝虫くらい一定の部屋には備えてあるはずなので、わざわざスマラが届けまでもない。

 仮に電伝虫を置いていない部屋に持って行く必要があったとしても、百人単位で存在しているチェス兵にそんな雑用をやらせればいい。

 以上のことから、やはりママの頼み事は単純な嫌がらせでしかない。

 

 目的は何?

 私の時間を奪う?

 それならそもそも自由時間を作れなくすればいいだけの話し。

 なら持って行く先に何かある、と考えるのが普通な予想だけれど……。

 

 

「場所はこの図書室の一角。モンドールが直接管理している囚人図書室。もう少しである二名の海賊が投獄されるはずなんだが……」

 

「まままママ!! れ、例のふふ二人、れ、連行しましたあッ!」

 

「話をすればだねぇ。それじゃあオレはこのくらいで。悪いが多忙でね。側付きはそのままだから、常識の範囲で城を堪能してくれ」

 

 

 伝令が訪れ、予定が出来たママはジェルマに挨拶してこの場を立ち去る。

 最後に、

 

 

「電伝虫、ちゃんと届けるんだよ。いいね」

 

 

 有無を言わせない言葉を放って去っていく。

 私の意見など一切無視だ。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 口から出る吐息は誰にも聞かれることなく消えていく。

 既にこの場にはスマラしか居なかった。

 

 ママが立ち去った後も図書室に残り、棚に収納されてる本を興味深そうに覗き込むジャッジと長女のレイジュ。

 美人と有らば目がない長男次男四男のイチジニジヨンジはスマラのナンパに精を出していたが、全く相手にせず無視を決め込んでいたらようやく諦めた。

 粗方見終わったのか、ママがいなければ己の城に帰って落ち着きたいのか分からないが、ジェルマはママが立ち去ってから十分もしない時間で図書室を後にした。

 

 

 目の前の机にあるのはママから渡された電伝虫。

 あれから既に10分近く経っている。

 持って行かなければ不都合だというのなら、スマラの下にチェス兵…それか名も知らない弟妹達が催促にやって来るだろう。

 が、誰一人としてやって来ない。

 つまり、この電伝虫はスマラへの嫌がらせの為だけに用意されたものだと言う事になる。

 

 それが分かったからため息が口から漏れ出たと言う訳である。

 

「無視、しても良いのだけれど……」

 

 無視すればどうなるのか、子供の頃の体験から知っている。

 既に破っているような物だが、行くのと行かないのではその後の対応も変わるだろう。

 それに、どうだって電伝虫を持って行くよりも、スマラをその場に誘導している節がある。

 それならば時間が経とうが足を運ぶのが吉だろう。

 

 それが分かっているから余計に気に食わない。

 とは言えいつまでもうじうじと時間を浪費するのも無駄な行為だ。

 もう一度ため息を吐くと、スマラは電伝虫を持って指示された場所へ向かう事にした。

 

 

 

 

 指示された場所は図書室の一角。

 最奥に位置するそこは、モンドールの能力で作られた本の中でも、ビッグマム海賊団に逆らったものの命を取られなかった者達が閉じ込められている区画。

 ならば当然、スマラと引き合わせたい人物は限られている。

 

 スマラがその場に着くと既に通話は終わっているらしく、見張り役としているオペラだけがソファーに寛いでいた。

 オペラはノックもされずに開かれた扉から入ってきたのがスマラだと認識すれば、確認の為に上げていた視線を手元の本に戻しながら言った。

 

 

「ん? あぁ、ママが後で問い詰める様に言っていたが、遅れてでも来たのなら上々だファ」

 

 

 別に視線を向けない事は何とも思わない。

 自身であっても同じ様な対応で流すだろうから。

 オペラの言葉で、やはり電伝虫を持って行く事よりもスマラをこの部屋に向かわせる事が目的だったと確認した。

 

 

「囚人は目の前の本の中にいるファ。何を話そうが勝手ファが、脱獄に肩入れだけは許されてないファ」

 

「そんな事しないわ。今のあなた達を相手するのは無駄な苦労だもの」

 

 

 三十年前はまだリンリンと僅かな兄姉だけが敵だった。

 それが今は下に何十人も自身に届きうる人数が存在している。

 簡単に命を手放す気にはならないが、奴等の居城の中から無事に逃げ切るのは相当骨を折るだろう。

 いや、ここまで来てしまった以上、向こうが手放す気でいなければ無理だろう。

 どう足掻いたって勝てないビッグマムでも難易度が最上級なのに、それに加えてスマラよりも強いカタクリを筆頭とする将星、一対一でもそこそこ厄介な実力を持つ弟妹達数十名も加わればそれこそ積み。

 あの場所、ゾウでカポネ・ギャングベッジから受け取った手紙の内容を了承した時点で、スマラが彼らに不利益を与える権利は失ってしまったのだ。

 

 

 

 スマラの言葉を完全に信用した訳ではないが、それでも満足そうに頷くオペラは視線を手元の本に戻した。

 スマラが脱獄の手助けをしようものなら直ぐに止められるように、見聞色の覇気でこちらの行動を監視していると思うが、真横で監視されているよりはマシ。

 さっさとママの機嫌を良くするだけの要件を終わらせようと、スマラは囚人、麦わらのルフィと泥棒寝猫ナミが捕まっているページの前に立った。

 すると、案の定ルフィは予想通りの言葉をスマラに向かって吐き出す。

 

 

「おいッ!? スマラか? 頼む、ここから逃げしてくれ!!」

 

「待ってルフィ。いえ、私だってこれまでの関係を疑いたくないんだけど……。初めからこの為だったの?」

 

 

 スマラとオペラの会話が耳に入っていたのか不思議になるほど、ルフィはスマラに率直に助けを求めた。

 逆にナミは冷静に状況を見ている。

 見ているが、その予想は間違っている。

 傍から見ればその通りかもしれないが、ビッグマムの仲間だと思われるのは心外だ。

 間違いは早急に解かなければ。

 

 

「いいえ。ゾウで、ドレスローザの沖合でビッグマムの船に鉢合わせるまで三十年も接触は無かったわ。

 とは言え、信じないでしょうね。私としてはもう用事は無いのだけど……」

 

「スマラならそこの奴ぶっ飛ばしてここから出せるだろうッ。頼む、このままだとサンジとの約束を守れねぇ!!」

 

「何を約束したのか知らないけれど、それは到底無理な話しよ。私がママに殺されてしまう」

 

「ママ……やっぱりビッグマムの娘だったのね。そうじゃなきゃ可笑しいもの」

 

「ここまでヒントで出そろっていて感づかないのはバカだものね。シャーロット・ビターが本名。スマラは自分で付けた名よ」

 

「えぇ!?! スマラってビッグマムの子供だったのか!? だったら殺される事はないんじゃねぇのか?」

 

「馬鹿言わないで。あの人は、自分の子供だろうが自分の思い通りにならなければ平然と殺す気で殴る人よ? 今でこそメリットの方が大きいから殺されていないだけ」

 

「つまり、スマラはそんな場所が嫌で逃げ出して世界を旅していたって訳ね。ねぇ、だったら何故今になって戻って来たの?」

 

 

 ナミの言葉にスマラは少しだけ間をおいてから答えた。

 

 

「私の欲望を満たすには、どの道新世界には戻らなきゃ行けない場所だった。偉大なる航路、新世界へと時間は短かったけれど麦わらの要望に条件付きで従ったのは、移動に伴う時間と労力と金銭の削減の為だけよ。ここへ帰って来たのは……2年前の戦争であれだけ注目を集めてしまったもの、ママが目を付けない理由は無かった。私も予想はあったけれど、麦わらの押しに負けて了承した結果が今よ」

 

「それじゃあ、オレ達に着いてこなければ、スマラは自由だったのか……。なんかごめん」

 

「謝る必要は無いわ。きっかけはどうあれ、あなたの誘いの乗ったのは私よ。そもそも、遅いか早いかの違いだけだった……」

 

 

 目を伏せながら言った。

 裏表の無い彼の目は、今のスマラにとっては毒でしかない。

 

 これ以上話す事は無い。

 そもそもこの会話は聞かれている。

 余計な会話は早々に切り上げるべきだ。

 

 スマラは檻の本から背を向ける。

 後ろから呼び止める声が聞こえてくる。

 

 

「待ってッ、このままじゃ私たちずっとこの場から逃げ出せないの。せめてここから……」

 

「無駄だ。コイツはママの言いなりファ。ママだけでなく兄貴達でも問題なく捕らえる事は可能なんだファ」

 

 

 ナミが言いかけた言葉は流石のオペラも声を挟まざるえなかったらしい。

 偉大なる航路に入ってから戦闘している姿は何度か目にしてきて、圧倒的な悪魔の実の力と身体能力で実力者をねじ伏せて来たスマラは無敵だと思っていた。

 しかし、新世界の最上位の世界ではスマラも無敵ではない。

 我らが船長であるルフィですら2年前は届かなかった領域は、ナミが思っている以上に高い壁だったことを再認識する。

 

 助けは求められないし、求めても無駄である。

 

 この先、一体どうなってしまうのか。

 ナミの脳裏には一生このままで死んでいく未来が垣間見えた。

 

 しかし、隣から

 

 

「おいスマラ。お前、本当にそれで良いのかよ」

 

 

 ルフィがスマラに言う。

 歩みを止めたスマラにルフィは再度問いかける。

 

 

「オレには本を読む楽しさは全く分からねぇけどよ。お前が本を読んでる時はとても楽しそうだったぞ」

 

「読書なら此処でも出来るわ。むしろ無料で膨大な量を読める分、旅をしてた時よりも」

 

「旅してた時みてぇに楽しめるのかよ」

 

「…………。」

 

 

 ホントに、嫌になる程勘が良い人だこと。

 スマラは心の中で悪態を吐く。

 勘が変に鋭くて、能天気な癖して偶に核心を突いて。

 

 だけど、もうどうしょうもない。

 外なら逃げる事も考えられるが、本拠地まで戻って来てしまった以上それは無理だ。

 

 

「四皇が四皇と呼ばれる所以は貴方はまだ知らない。覇気を扱えるようになった? 悪魔の実の能力を更に扱えるようになった? それでも届かない高みが四皇よ」

 

「うるせぇ。お前が決めるなよ! オレは今のお前が窮屈そうで見てて嫌になる。だから逃げたくなったらオレ達の船で……」

 

 

 

 それ以上はダメだ。

 たしかに、麦わらの言うことには一理あるとスマラも自己分析して認めている。

 だけど、それ以上口にしてしまえばスマラも麦わらも不味い事となる。

 

 

「ここに来る前に黒足と話したわ。彼、帰りたがっていたから説得するなら頑張りなさい」

 

 

 これ以上の言葉を言わさないように、それだけスマラは囁くと囚人図書の部屋を出る。

 後ろから声が聞こえるが、もう知らない。

 無視だ無視。

 これ以上彼の言葉を聞いていたら、諦めた気持ちが戻って来てしまう。

 彼の何がスマラの気持ちを駆り立てるのか、自身にも分からない。

 戦争でも場の空気を持って来て次々と味方を作り上げるあの才能がそうなのか……。

 

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