麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
スマラは囚人図書室から離れながら『もしも』を考える。
あそこから逃げ出せる可能性は低いけどゼロではない。
たった二人で此処までやって来たとは到底考えられず、何処かに味方が潜んでいると予想するのが妥当な線だろう。
スマラよりも数歳下のクリームが目の前に居座って見張っているが、ビッグマム海賊団の強みである数の暴力でもなく、最高幹部でもないただの四皇幹部。
ただ、というのは語弊があるが、それでもビッグマム海賊団の中で数えればそこそこレベルの強さだと推定。
一般的な海賊団で考えれば船長クラスだが、一人なら麦わらでも万全の体調なら勝てる相手だろう。
あの監獄の本から出られさえすれば逃げ出すチャンスはあるはず。
これに懲りて、四皇と戦うのはまだ早いと諦めてくれれば良いのだけれど……。
そんな簡単に行くわけないよね。
戦争では白ひげにまで噛みついていた馬鹿だもの。
コツコツと響く廊下に、スマラ以外の足音が耳に聞こえて来た。
こんな辺鄙な場所に一体誰がやって来たのか?
思考を止めて視線を前に向ければ、前からやって来るのはブロンドの腰のやや上まで伸びた髪を二つに纏めている女の子。
歳は泥棒猫に近いくらい若い。
もっとも、悪魔の実や素で齢以上に若く見える者もこの世界では珍しくない為、自身の感覚はあまり信用できないが。
こんな所までどんな用なのだろうか?
堂々としているから妹の一人なはず。
なら油断は出来ない。
覇気も殆ど持っていない様な小娘に遅れを取るつもりはないが、悪魔の実の能力次第では一発逆転も不可能ではない為、見聞色の覇気で何が起きても対処できる様にして歩みを続ける。
向こうもようやくスマラに気づいたらしく、一瞬視線が交差した。
「「…………」」
が、それだけだ。
スマラの事を知らないのか、それとも興味がないのか。
どちらにせよ、突っかかって来ないのならそれは楽で良い。
この先にどんな用事があるのか分からないが、スマラにとっては関係無い事だった。
警戒を最低限まで戻し、スマラはここ数日慣れ親しんだ自室に戻る。
時刻は夜。
既に夕食の時間を終え、スマラも先程運んで貰った夕食を食べ終わった頃。
空には雨雲がかかり、城に容赦なく雨風が叩きつけられている。
こんな天気だと結婚式は大丈夫なのだろうか?とふと頭の中を過ったが、ママなら悪魔の実の力で天候くらい簡単に変えてしまうだろう。
そもそも、結婚式があと何日後の何時から始まるのか、そもそも己も出席しなければならないのか?
それすら伝えられてない現状。
これで当日になって出席しろと言われたら横暴だ。……ママは横暴なのが当たり前だから、常に最悪を想定するべき。
この事に関して言えば出席を前提に心構えを作っおこう。
事前に出ると分かっていれば面倒だとは思いつつも諦めがつくが、読書しようとしている時に言われて気分が下がるよりはマシだ。
チェス兵に伝言を頼み、兄の……この場合はペロスペロー兄さんだろうか?……に確認を取れば話は早いのだろうが、下手に触って出席や他の面倒事を引き受けるハメになるのが御免である為、こちらからは何も言わないのがこの城で穏便に生きていく為に必要な事である。
とにかく、明日の結婚式はどうなるのだろうか?
本気で警戒してなくとも、城中の至る所で戦闘が起こっている。
麦わらは脱出できたのだろうか?
このままビッグマム海賊団が麦わら一味を全員押さえ込んで、結婚式は予定通り執り行われる。
なんて結果には確実にならんだろう。
これまでの麦わら一味の実績がスマラをそう思わせる。
立ち寄った島では必ず何か起きていた。
今回も予想外な結果を生み出すはず。
と同時、流石に四皇ビッグマムは陥落出来ないだろう、とも安易に考えていた。
「まぁ、こんなにも悩む事なんて明日になれば全て……かは分からないけど、ひと段落はつくはず。私はそれまで部屋に籠って読書を堪能してれば良いだけだわ」
そう、結局は何も出来やしないのだ。
ならば明日の不安よりも、目の前の読書に集中する方が有意義な時間の使い方。
スマラは、毎日のように部屋に戻る直前に持って帰ってくる本の山の中から一冊の本を抜き取ると、ベッドに腰掛けてページをめくる。
寝るまで、眠気が襲ってくるまでまでまだ少し余裕はある。
ベッドに入って何もしない時間が過ぎるくらいなら、寝落ち寸前まで読書を続けるのがスマラの日常だ。
明日は結婚式だが、予定を聞かされてないのだから出席しない方針で考えているスマラには、起きる時間だって何時だって構わないはず。
そこから数時間、眠気がやって来るまで読書を続け、そのまま寝落ちしたスマラだった。
朝、目が覚めるとスマラは寝ぼけ目で身体を起こしてボケーッと頭が覚めるのを待つ。
その間に、部屋の外に立っているチェス兵に朝食を持って来させる。
出来立てのトーストを牛乳で飲み込んでいると、別のチェス兵がノックして入出してきた。
「失礼します。女王陛下からの言伝を預かって参りました」
それ来た。
この日、このタイミングでママから私への言葉なんて一つしかない。
「昼前より開始予定の三十五女プリン様とヴィンスモーク三男サンジ様の結婚式に出席しろ、とのご命令です。ご準備をお願い致します」
全く、当日に言うべき事ではないだろう。
昨日、お互いに予想外だが対面しているのだから、その時にでも一言言えば良いだけ。
そうでなくとも今みたいにチェス兵に使いをやらせれば……。
そう考えた所で辞めた。
どうせ直前に伝えて困らせようと考えていたのか、本気で今の今まで忘れていたか、今日の朝思いついたのどれかだろう。
相変わらずビターに対してはかなり嫌っている態度を取っている。
が、元々子供=己の命令を絶対遵守する者と思っているビッグマムに、初めて離反と言う形で反抗した次女に対する態度としては間違ってはいない。
悪いのがどちらかなんて、どっちの視点で語るかの違いでしかないのだ。
スマラにとってはママの命令を無条件で受け入れるのが嫌だったから、世界中の本を読みたいと言う欲望もあって逃げ出したに過ぎない。
今でもママの上から目線での命令には思うところがあるが、子供の頃とは違って諦めて受け入れる事も覚えたスマラは、今の己が全て受け入れて戻って来たと言う自覚がある為、ママの命令には心の中でどうあれ基本従うつもりでいた。
そうでなければ戻ってなど来ない。
無駄に逆らって図書室通いを禁止される方が困る。
「分かったわ。出席以外の命令は?」
「いえ、特にございません。式に出席するだけです」
「なるほどね。服装は適当に任せるわ」
「かしこまりました。後ほどご準備して運び込ませます」
そう言ってチェス兵は退室して行った。
遅くても一時間後には結婚式に出席してもおかしくないドレスコードを持って訪れるだろう。
「はぁ……。とりあえず朝食を食べ終えましょう」
モグモグ。
スマラはため息を吐いて、残りのパンを口に入れて消化し始めた。
結婚式と言うからには食事も当然あるはずだが、立食式なら食べる量は調整出来る。
仮に各々準備されていても、一般的な量なら食べ切る事は不可能ではない。
あまり食事を取らないと思われがちなスマラだが、読書に夢中になっていなければ普通に一日三食食べる。
食事量だって一般的な範囲は食べているし、能力を多用した後なら大ぐらいの域に達する事もあった。
最近は戦闘こそしていないものの、麦わら一味の船に乗っていた頃よりも見聞色の覇気のリソースを増やしている。
だからか、いつもよりも多めに食事を取るのに不都合はない。
今朝の新聞を読んでいると、伝えられた通りチェス兵がドレスコードを持って来た。
ぐだぐだしていてもどうせ着て出席しなければならないのだから、手伝いの手を借りてさっさと服に着替える。
着替え終わると、一面鏡の前に立つ。
クリーム色の髪の毛と対比になるような黒いドレス。
肌の露出はあまりない。
肩も背中も見せず、ひらひらと長い裾。
「これじゃあ、結婚式と言うよりも葬式ね」
まるで喪服だ。
わざと選んでいるのだろうか?
きっとそうだ。
薄い色や白の方がまだ目立たなくて済んだだろうに。
わざわざ対比に近い黒を選んだのは嫌がらせ以外の何物でもない。
選んだのはママだろう。
むしろママ以外ならその者のファッションセンスと常識を疑う。
結婚式に黒。
絶対に目立つ。
家族間だけなら、いつもの事だから笑われようが指を指されようが無視出来るし、チョイスはママの命令のはずだから何か言われたところでママを引き合いに出せる。
当の本人が何か言って来ても、直接手を出されるよりは何倍もマシだ。
問題は招待客の方だが……。
十中八九、彼らを通じた裏にいる者達へのアピールの意味合いが強いはず。
果たして誰が招待されているのやら……。
ドレスコードに着替えると、呼ばれるまで読書をして待つ。
わざわざ自ら進んで会場へ向かう気は全くない。
チェス兵か弟妹の誰かに呼ばれるまで、自室でギリギリまで時間が過ぎるのを待って会場に居る時間を極力待つのだ。
ドレスコードを持ってきたチェス兵は時間になるとまた部屋に呼びに来ると言っていたので、このまま忘れ去られて出席しないと言う希望はない。
ママがわざとチェス兵をスマラの下に行かせないように命令していればチェス兵はやってこないだろうが、ママの目的を考えるにそれはないだろう。
それなら初めからスマラを出席させなければ良いだけの話であるし、遅れて出席させるなら朝の時点で話を伝えないはず。
式が始まった時間にチェス兵を送り付けて、式典の途中で式場に足を運ぶように仕向けて客人にスマラの失態を見せつける。
新婦の姉でありママの娘であるスマラの責任と捉える人がいるかは不明だが、それでも注目はスマラに集まるのは確かだ。
そうしなかったのは、客人の前で娘が遅れて出席するなんて、一般的に見れば母親が恥をかく事をやらせたくなかったのかどうか。
ま、ここまで考えたところで真相はママ本人にしか分からない。
そしてスマラもわざわざ尋ねる気も無かった。
下手な会話はそれだけで互いに嫌になるだけだ。
朝の時間を過ぎて昼前の時間。
常識的な式の開演時間に近づいた頃になってようやくチェス兵が部屋にやって来た。
会場に着いてから周囲を気にしないで読書の続きをする為に、持って行っても不自然でない程度に小さな鞄に本を詰め込んで準備完了だ。
出席さえすればママも文句は言わないだろう。
どうせ長ったらしい話しや興味もない社交が待っている。
文句を言われたらその時はその時だ。
チェス兵に連れられて会場に向かう。
如何やら屋上をそのまま丸ごと会場にしているらしい。
この日の為に飾り付けや食欲をそそられる料理がここぞとばかりに並べられている。
親族だが食べても良いのだろうか?
会場に入ると、一瞬静まって視線を集めてしまうが直ぐに静寂は破られる。
コソコソと内緒話の様に耳元に口を近づけて会話しているのだろうが、音として成り立っている以上スマラの耳に聞こえない道理はない。
内容はほぼ全てが麦わら一味と一緒に行動しているとされているスマラが、この場に現れた事について。
驚くのも無理はない。
頂上戦争で2年間姿を消した後、スマラが海兵世界政府の人間に見つかったのはシャボンディ諸島でほんの少し程度。
魚人島では海底の底故に政府側の人間はいるはずもなく、その後のパンクハザード、ドレスローザでは船から降りていない。
ゾウでビッグマムの下へ帰る様になった事は誰にも知らない出来事だったのは確かだ。
案内された席は真ん中辺り。
どういう基準で決めているのか、スマラには全くもって分からなかったが、この位置なら弟妹達に囲まれていて監視がし易いのは確かだろう。
今更何もする気は起きないのに……。
いつまでこの様な対応が続くのだろうか?と鬱陶しくなるスマラだったが、戻って来てまだ一週間も経っていない現状仕方ない対応だとは理解している。
短くても数か月、下手すると数年はこの様な生活が続くだろう。
途方もない時間が掛かるだろうが、この城にある蔵書を全て読み切れる頃には単独遠征出来るくらいまでは信頼が回復しているだろうか……。
そもそも初めから信頼などないだろうに。
テーブルに着き読書をしながらぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。
門の外が騒がしくなった事があったが、式場には何ら問題は無く招待客の入園が続く。
さっさとこの無駄な時間が過ぎれば良いのに……。
そう思えば思うほど、時計の針は進みが実際に遅くなったかのように進まなかった。
大まかな展開は決めていますが、細かな場所が決まっていないで、次回も遅くなりそうです。
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