麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
結婚式が始まる10時より少し前。
残り10分程。
幸せな場の雰囲気に全くあってないスマラ。
招待客からも様子見されて場違い感が浮いて出る。
後で殴られるを承知で無断欠席するべきだったかしら?と早くも飽き飽きして来た頃だった。
「おいおい、マジかよ。ビッグマムとジェルマが血縁関係を結ぶってだけでもビッグニュースだろうが、ここに来てもう一つドデカイニュースを仕込むたぁリンリンもサプライズが過ぎるぜ」
会場内にひときわ大きな来客が現れ、式場がまだ騒がしくなった頃。
式の開始まで後わずか、と言う時間になってようやくスマラへと声を掛ける猛者が現れたのだ。
手元の本から顔を上げると、目に移ったのは異形な姿。
鳥だ。
種族までは分からなかったが、白い毛並み、黄色い嘴、黒いマントとシルクハット、赤白スプライトのズボンの巨体。
おそらく悪魔の実の能力。動物系の獣人形態なのだろうその姿。
面識は無くとも見覚えは無かった。
互いに一方通行で知っているだけの関係なのは、両者の写真が世間一般的に広まっているからだろう。
スマラは手配書で、鳥人間は世界経済新聞の社長と言う肩書で。
「世経の社長さんが四皇と繋がっている、それこそビッグニュースじゃないかしら?」
「ハハハ、馬鹿言っちゃいけねぇぜ。俺は新聞屋。より面白いニュースがあるのならそれを記事にしないでどうする。政府から記事の隠蔽を頼まれる事もあるが、それは海賊だろうが然り。俺はいつだって民衆が面白く感じるニュースを俺好みで伝えるだけさ!!」
これは、確かに世界一の新聞会社の社長をやっている事だけはある人物の様だ。
政府とも海賊とも取引を行い、片方に都合のいい記事を、モルガンズにとって面白いと思う記事を作る事は彼にとって日常茶飯事なのだろう。
その記事によって記事にされた者から恨みを買おうと、彼にとってはそれこそが最高の称賛。
どこか壊れていないと、世界一の新聞会社の社長なんぞ務まらないのだろう。
悪魔の実の能力者ということは、億越えの賞金首には及ばないにしてもある程度の戦闘能力も有していると考えられる。
ビッグマムの茶会に招待されている常連と考えれば、政府や海賊以外にも太いパイプは繋いでいて、何だかんだ何年もの間その地位を守り切って確立しているのだろう。
「それで、麦わら一味を捨ててリンリンの下へ戻ったのは何か理由があっての事なんだよなぁ? 麦わら一味じゃあこの先勝てないと理解したからか? それとも、麦わら一味からのスパイか? はたまた、四十年近くも及ぶ捜し物が見付かったからか?」
どうなんだ?教えてくれよ。と、モルガンズは紙とペンを手にスマラに詰め寄る。
押しつけてくる顔を片手で押しのけつつ、スマラは適当に答える。
こう言った記者には沈黙が効果的に思えるが、有能で熱心な記者には沈黙すらも偏見的に捉えて記事にしてしまう厄介さがあるのを、様々な物語を読んだ結果とほぼ毎日読んでいる新聞から分かってしまう。
なので、
「巡り合わせよ。私が誰かの味方になる事は無いわ。その時その時の状況と約束によって立場は様々だし、私は己の身を一番にして生きているだけ」
「今もそうだと? 当時はまだ子供で俺も伝手を使って調べてみたが、リンリンも固く口を閉ざしてやがる。事件の真相を話してくれやしねぇか? 勿論謝礼はするぜ」
「私は逃げた。三十年近くにも及ぶ逃走劇も今になってようやくお終い。それだけよ。今更蒸し返す話でも無いわ」
「だったら麦わら一味と行動を共にしていた理由はなんだ? 確か……アラバスタ王国でのクロコダイル失脚事件では既に麦わら一味と行動を共にしていたはずだよな。当時の麦わら一味はただのルーキーの一人。誰もが四皇と対立出来る程大きな海賊に成長するとは誰も予想だにしていない時期。麦わら一味に何がある?」
スマラは純粋に驚いた。
アラバスタ王国では確かに船を降りて内陸部まで足を延ばし、王女の護衛と言う形でクロコダイルと戦いもしたが、あの事件は結局のところ麦わら一味を追ってアラバスタ王国に上陸していた本部大佐スモーカーの功績と報道されていた。
海軍及び世界政府の発表をそのまま記事にしていた訳だが、新聞会社の社長は事実を知っていたみたいだ。
政府から事実隠蔽の要請が殆どだろうが、にしてもこの男本人の前でよく言う。
と、何度も何度も麦わら一味について聞き出そうとしてくるモルガンズの相手もいい加減飽きてきた頃。
横から第三者の声がかかる。
「その話、私もとっても興味があるわ」
「ゲッ……。あっちで談笑していたんじゃないのかよ」
「こんな面白そうな会話を逃してなるものですか。歓楽街の女王として、話のネタは常に持っておきたいものよ」
「……誰?」
「ステューシーよ。リンリンとは仲良くさせて貰っているの」
「はぁ」
黄色のしゅわしゅわする液体が入ったグラスを持ちながら現れたのは、歓楽街の女王を名乗る女性だった。
ふわふわした金髪を白色の帽子の中に隠し、長いまつげに口紅塗られた口元、祝い事の席に相応しい真っ白なドレスコートは彼女に似合っている。
確かに歓楽街の女王と言う異名に相応しい容姿と立ち振る舞いを持っている女性だ。
スマラはその異名が指す歓楽街が何処に存在しているのか知らなかった為、首を傾げる事しかできなかったが、一つだけ確かなことがある。
それは目の前の女が油断ならない相手だという事だ。
見た目は暴力なんてこの方したことがない様な雰囲気を醸し出しているが、立ち振る舞いは戦闘経験を積んでいる者の物だ。
何処の誰だか知らないけれど、四皇と傭兵国家の結婚式に足を運ぶ程の人物。
何の目的があってこの場に居るのか分からないが、警戒しておくに越したことはないのは確かだ。
差し出された手を握り返しつつ、スマラはそう結論付けて思考を終わらせる。
相手増えた事で一対一では無くなったが、ステューシーの目的がスマラの話である以上一対二と不利になっただけだ。不利とは違う。
単純に聞き攻められる相手が増えただけだ。厄介さは二倍。
「それで、麦わら一味は貴女の目から見てどう映るのかしら?」
「どうもこうも無いわ。初めは成長に期待が持てるルーキーに過ぎなかったし、実際に新世界でも問題なく航海出来る程成長した。でも、四皇には届かない。それだけよ」
「本当か? 今までずーっと独り旅だったアンタが一時的では無く長期間も船に乗っていたんだ。頂上戦争でも目を掛けて守っていただろうよ」
「アレは……成り行きで仕方なくよ。そもそも仏のセンゴクが余計な事を口に出さなければ白ひげと敵対したままだったわ」
「じゃあ潜伏期間が二年間もあったのにシャボンディ諸島に戻ったのは?」
「冥王との約束。本当ならアレでおさらばだったのだけれど、また海軍がシャボンディ諸島をうろついていたから仕方なく。その後も全部降りるタイミングを失った、もういい?」
「麦わらは誰に匿われていたんだ? 潜伏するにしても誰の手も借りずに偉大なる航路を行き来するのは難しいぜ」
「…………」
それは言えない。
王下七武賊の海賊女帝に匿われていたと言っても良いが、それは微かにある義理に欠ける。
麦わらは気にしないだろうが、麦わら好意を寄せている海賊女帝が怖い。
悪魔の実の力、覇気の練度、海賊としての影響力、どれをとってもスマラよりも優れている彼女をわざわざ怒らす意味は無い。
ビッグマム海賊団の下にいる以上おいそれと攻めてくる事はないだろうが、何時ママの気が変わって追い出されるか不明な以上、無意味に誰かが不利になる情報を話す事はない。
話したところでモルガンズが新聞記事にして世間に広めるか、広めた所でハンコックがその新聞を読んで情報の出所に思い至るか?と言う考えはどうだっていい。
触らぬ神に祟りなし、と言う言葉がある通りスマラが何も言わなければ何もないだけだ。
モルガンズからは面白くないと思われるだろうが、何も実力行使で出るほどの実力は無いと見れる。
ステューシーがどう動くか怖いが、笑みを浮かべて会話を楽しんでいる様子しかスマラには分からなかった為放置だ。
「チィ、流石に何でもかんでも喋る訳ねえか。一応謝礼金は幾らか出せるが……」
「要らないわ。もうこの話題は終わりでいいでしょう。もう式が始まるわ」
「そうね。こうして知り合いになった以上、時間は幾らでもあるもの。他にも面白い話を聞かせて頂戴」
スマラが促すとステューシーは去っていった。
何の為に近づいて来たのか全く分からなかったスマラが首を捻っていると、ラッパから始まる音楽が鳴り響く。
ヴィンスモークとシャーロットの結婚式が始まる。
司会者のアナウンスと共に新郎新婦が会場に現れ、周囲は祝福の声で一杯になる。
結婚式とは祝福されるものだ。新郎新婦も合意の下式を挙げるのであり、その家族も余程の憎悪が無ければ式典には嬉しい気分になる。
その招待客は尚更だ。祝福の意志が無ければそもそも式に参加しないだろう。ビッグマムの招待を断れるか?と言う問題はこの際置いておく。
そんな幸せいっぱい空間の中、一人だけ場違いなドレスを着てつまらなそうに上を見上げている女性が一人。当然そんな陰険な人物何人もいるわけがない。親族枠として無理やり参加させられているスマラだ。
ママの命令だから仕方なく参加しているだけ。意図は多分招待客に頂上戦争で話題に上がった次女が戻って来た事を知らしめる為。この場には様々な業界のトップ層に位置する人物が何十人も招待されている。言葉は要らないだろう。
スマラの役割は結婚式に出席する事以外何もない。この式で何か企んでいようと、スマラには何も伝えられていないので、実質招待客と同じ様にこの場には居て飲み食いしているだけで良い。
内心で「早く終わらないかしら?」と思っていようがその態度を表に出そうが、この場に居て結婚式の進行を妨げてさえいなければ何をしていても良いのがスマラだ。
妹の結婚が嬉しくないのか?
どうせ親同士の取り決めだろうし、そもそも結婚するプリンは昨日の夜廊下ですれ違った以外接点が全くない。というか今初めて新婦の姿を見て、昨日廊下ですれ違った人だと知ったぐらいだ。
そんな初対面の妹が結婚するからと言って喜べと言われて喜ぶ方が無理がある。むしろヴィンスモークの三男である黒脚の方がまだ知見である。だからと言って喜ぶ気持ちにはならないが。
スマラがぼんやりとしている間も結婚式は進行する。
新郎新婦が会場に現れ、総料理長のシュトロイゼンの合図と共にウエディングケーキが現出現する。会場の床から飛び出して来たのはどいう言う原理だろうか?
人が乗っても崩れない巨大で、この大きさならこの会場に招かれている者全員にいきわたるどころか大喰らいのビッグマムも満足できる大きさだ。血引いてる故にスマラも、先程のまでの無関心ぶりは何処へやら。ウエディングケーキを食べたいとワクワクしていた。
あれだけ大きなケーキだもの。ママが半分食べてもこれだけの人数にいき渡る分量は残っているだろう。まさか、私だけ無しなんて事は無いわよね? 無かったら騒動を起こしてやる。
当然ながら、そんな事で騒動を起こす様な度胸は無く、そこまで食に対して熱意がある訳ではない。この様な家族一同が揃った場所で騒動を起こせば即座に取り押さえられるとか、結婚式の進行に何か起こせば自由意志を剥奪されるか殺されるか、それを避ける為に無理を承知で逃げる必要があるとか。そんな未来に怯えた訳では無い。
ウエディングケーキの上部分には人が立てる場所が設置されており、新郎新婦はそこへ向かっている。乗っているティーカップを運ぶ雲は一見すると夢物語のようだが、ビッグマムの能力なら無機物に魂を与えて人間の様に動かす事も可能だろう。ママが命令を下せば、億越え賞金首の兄弟姉妹達だけでなくそれらも相手をしなくてはならない。雑兵にもならない力だとして数で押されれば何れは能力と体力の限界値がやってきてお終いだ。
まさしく四皇を名乗るに相応しい戦力を全体で持っている。
サンジとプリンがウエディングケーキの上に降り立ち、本業かも分からない神父の前で誓いを交わす。
会場の一同は用意されている幾つもの円卓の席に座り、誓いの儀式を見上げる。スマラも使用人の誰かに案内されて座る。
不自然でない程度に周囲を確認すると、同じ席にもスマラの周囲の席にも見知らぬ弟妹が座っていた。
何かを警戒している? こんな状況で騒動を起こす馬鹿は普通は現れない。外に向けた警戒ならここまで中をガチガチにする必要はない。ならば中に襲撃者を想定している? いや、警戒していると言うよりも……。
スマラは不信感を覚えた瞬間だった。
他の兄弟姉妹と違い椅子に座らず、会場内の一番外側で壁に寄りかかっていたカタクリから異常な雰囲気が溢れ出るのを感じ取った。
一人だけ怖い顔をいつも以上に歪ませて前の方へ歩いて行くカタクリを横目に、スマラは何が起きても対応出来る様に見聞色の覇気を意識して使用して能力を使える様に身構える。
身構えるスマラに弟妹達は何も反応しない。いや、新郎新婦に気を取られているのが半分、残りの半分は急に動きだしたカタクリ兄さんに戸惑いをみせているから。
ケーキの上に作られた壇上では誓いのキスまで進行していた。プリンが俯き、サンジがヴェールを上げ……プリンが泣き崩れる。
何十メートルも上空の様子故に何が起こっているのか誰も理解出来ていない。分かるのは予想外の事が起きていると言う事だけ。
スマラの未来視に神父が撃たれるシーンが見え、その一秒後に神父が倒れる。
神父を襲った攻撃は客席から、より正確にいうのならカタクリから放たれていた。
そして、神父とカタクリから放たれた攻撃の一直線上の上には、寸前までサンジの頭が位置していたのをスマラには見えた。
つまり、カタクリ兄さんの目的は黒脚の殺害。
直前に慌てて移動を開始した理由は、何らかの要因で予定していた殺害が出来なくなったからだろう。
たしかに、完璧主義で未来が見える兄さんしか動けなかったはずだ。
まぁそれはそれでどうだって良い。問題は、この先にに訪れる騒動をどうやって乗り切るか。
何もしてないのは明白だけれど、ママの私への感情は兄さん姉さん達を通じて伝染しているようにも思える。
最悪逃げる事も視野に入れなければならないが……。
ひとまずは様子見で傍観するのが一番楽そうね。
血塗られた結婚式の幕開けだ。
更新速度アンケート
-
最速投稿(1,000文字超)
-
倍速投稿(2,500文字程度)
-
等速投稿(5,000文字超)