麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
ホールケーキ屋上。結婚式場。
幸せ一杯で執り行われるはずの結婚式は既に無茶苦茶。
ビッグマム海賊団はメンツを潰された恨みで裏切り者と侵入者を追い詰める。
何とかベッジの能力で籠城に決め込んだ麦わら一味、ファイヤタンク海賊団、ジェルマ66だったが、ここは上空数百メートルの逃げ場のない屋上。
四方八方をビッグマム海賊団の戦闘員で囲まれて絶体絶命の大ピンチ状態。
彼らは一か八かの掛け、と言うか籠城戦を長引かせるよりも早急な撤退を決断したようで、ベッジが人の姿に戻り共犯者のシーザー・クラウンに抱えられて逃げ出す。
そんな逃げ出す暇も与えない包囲網と数十名に及ぶ億越え賞金首の猛追だったが、ビッグマム海賊団に裏切りられたジェルマ66が助けられた借りを返す為に全力で支援する。
そんな様子をスマラは読書をしながらなんとなく把握していた。
能力を使えばこんな喧騒の中でも快適な読書をする事は不可能では無いが、この場にはスマラの能力を問題なく対処出来る覇気使いが数名暴れている。
何時流れ弾が己が身を襲うかも分から無いのに、周囲の状況を全く把握出来ていないのは不味い。
誰かの流れ弾然り、意図した攻撃であっても強力な覇気を纏った攻撃を相殺するのには骨が折れる。
故に、読書をしながらでもスマラは見聞色の覇気で己に向かって来る攻撃の把握と、この場の状況把握は辞められない。
まぁ、何も動かない私よりも、思った以上に抵抗する麦わら達にかかり切りなのは確かよね。
簡単に無力化出来るとはいえ、私の周囲には見張り役が複数名立っているし……。
ママ、しいては弟妹達に甚大な被害を出すならその前にカタクリ兄さんが止めに入るだろうけど……。
やっぱりチェックメイトよね。
本の頁から顔を上げて遠くを見ると、各幹部たちに捕まった麦わらと黒脚、ビッグマムとカタクリ兄さんにボコボコにされて捕まったジェルマ66のメンツ、ベッジとシーザーは空中で何かに阻まれて進めていない。
まぁ当然よね。真正面からでは勝てないから暗殺を考えたのでしょうし、一度懐まで潜り込まれた敵を簡単に逃がすほど四皇の戦力は伊達ではない。
赤髪なら少し話が違ってくるみたいだけれど、ビッグマムは四皇の中でも頭一の幹部の多さ。
何せ何十人ものビッグマムの子供達が幹部であり、その一人一人が賞金首。億越えだって普通に居て、十億近い額をかけられている者は数名にも及ぶ。
賞金の額や頭数だけが全てを言い切る事は出来ないが、それでもビッグマム海賊団は数も質もトップクラスだ。
幾ら少数精鋭で逃げるとはいえ、全員が全員億越えの超人でも無い限り逃げ切るのは不可能だろう。
これは必然的な結果。
これまでの航路を少なから同行してきた手前、麦わらなら奇跡でも起こるのではないだろうか?と物語に現実を当て嵌め、ほんの少しだけ期待していたスマラだったが、幾ら彼でも四皇の壁は高かったと言う事。
筋は良いのだから、このまま肉体的にも精神的にも成長を続ければいずれは勝てる道筋だって見えてくるだろう。それが何年、何十年後かは分からないが。
もっとも、それならばこの場から生きて逃げることが出来なければならない。
完全に息の根を止められた寸前まで、可能性は無くなったとは言い切れないが、それでもこの状況下で逃げ切れる予想を立てる方がどうかしている。
今度ばかしはどうしょうもない現行犯。
一度牢屋に閉じ込められた時はまだ、サンジを連れ戻しに来ただけと言う、牢屋に閉じ込められる以上の事はされない可能性もあったが、今回は目の前で邪魔されたくない結婚式はぶち壊してママの暗殺を助けた。
幹部に捕まって動けない状況ともなれば、生かしておく理由もビッグマム海賊団には存在しない。
これで助かるのなら奇跡でも起きなければ不可能だ。
そんな不可能を心の底で期待していたスマラも、今度ばかりは……と諦めた。
その時、大きな爆発が起こり城を襲った。
「な、何が!?」
「分からん!! 会場外からの攻撃だ!!」
「外へ通信繋げ!!」
「その前に、倒れるぞ!!」
爆発の影響凄まじく、城の一部が欠損して崩壊する程。
このまま倒れれば内部に居る者達もそうだが、屋上に居る者達全員が危ない。
この地上数百メートルの位置から落下しても死なない人間が全体の人数に反して多いこの場だが、それでも想定外の出来事に混乱は当然と言える。
こんな足場が崩れ落ちる出来事が起こり、場がパニックにならない方が可笑しい。
斜めになって崩れ征く地面。
周囲の物だけでなく、建造物までも崩れて落ちていく。
読書を辞め、パニックになって監視網が解かれた状況を確認したスマラは、能力で降ってくる物や壊れた建造物の瓦礫から身を守りながら思考する。
麦わら達は無事にこの場から逃げ切る事が出来たようね。
あそこまで追い詰められておいてこんな状況が起きるなんて……やっぱりあの戦争から生きて逃げられただけはある豪運。
だけど、この場から逃げられたからと言ってそう易々と逃げしてくれる相手じゃないのは誰にでも分かる。
ママを筆頭に最低限の人を残して追っかけるはず。
そうなると……逃げ出すのには絶好のチャンス、なのよね。
スマラの脳内に湧き出る、逃げられる最初で最後かもしれないチャンスだと言う考え。
この混乱に、連中の視線は逃げる麦わらとカポネ・ベッジに釘付けだ。
スムージーによって付けられた見張り役も、崩壊していく城から身を守ろうとしてスマラには注視していない。
いずれは誰かが気づくだろうけど、それまでは逃亡者を捕える事だけに全力で、スマラを探す暇何てないはず。
城が崩壊するのと同時にしれっとこの場を抜け出し、適当な小舟でもかっぱらって麦わらやカポネベッジとは別方向に舟を進めれば、数時間くらいはこの島から離れた位置まで来れるだろう。
そこから更に全力で逃げれば、三十年前とは違って完全に逃げ切る事は不可能ではないはず。
城が崩壊する。
傾くのレベルを超えて崩れていく屋上から身を投げ出される。
生身なら死ぬかもしれないが、自殺願望がある訳でもないので能力を使って身を守る。
落下速度を弄れば、枝から落ちる花弁の様にひらひらと落ちていく。
風に、流れに身を任せて地上へ落ちる。
途中、総料理長でありビッグマム海賊団の最古参メンバーであるシュトロイゼンが城を保っていた能力を解除し、生クリームへと元へ戻す事で全員を落下から守るクッションになったのだが、それのせいでスマラは生クリームに押しつぶされる様に地面へ急降下。
痛くはないが、急に予想していなかった加速がついて驚いた。後生クリームが若干べたついて最悪。
若干数負傷者は出たものの、ゲストを含めて重傷者は居なさそうだ。
これもケーキへかけていた能力を解除したシュトロイゼンのおかげ。
後片付けが途轍もなく大変そうな状況だったが、今は来賓含めて全員が無事だった事を喜ぶ……暇もなく、逃げた裏切り者と侵入者を捕えるためにモンドールの号令で動き出す。
そんな様子をスマラは少し離れたところで見ていた。
周囲には見張り役も揃っている。
結局のところ、絶好のチャンスを見過ごしたのだ。
逃げる事を諦め、ビッグマム海賊団に残りの人生を捧げる……は言い過ぎかもしれないが、此処で生きていくと決めた。
昔のようにふらふらと旅をする事は出来ない。
が、割り振られた仕事で成果を少しずつ出して行けば、ある程度の自由は認められるはず。
モンドールの図書室には数万もの書物が集められていた。
毎日、起きている時間全てを費やしても十数年はかかる計算だ。
今までの様に各地を放浪しながら同じ冊数を読もうと思えば倍以上の年数が必要になるのは、これまでの三十年が知っている。
何日も海を彷徨って新しい書物に在り付けない日々もあった。書店を見つけても興味が引かれた本が少なかった。手持ちの路銀が少なかった。
理由は様々だが、独りで放浪して生計を立てているととにかくお金が足りず、新しい本を見つける手間もかかる。
それらが醍醐味だと言う気持ちもあるが、目の前に不労所得で読める本が何千冊も置かれていると、軽く吹き飛ぶ感情だ。
ママは今でも嫌いだが、目の前にある山積みの本を差し出されると仕方なしに受け入れてしまう。
そんなスマラの好物であるエサが無かったとしても、2年前に東の海から新世界へ戻ると決めたその時から、この未来は見えていた事だ。
一人で戻っていたらもっと長い時間を掛けて戻っていたであろう。
偉大なる航路を進み、たどり着く島々の街で書店を巡り、記録羅針が次の島を指すまでの時間以上の滞在をして、時には襲ってきた海賊を返り討ちにして路銀と本代を稼いで、ゆっくりとゆっくりと戻って来ていたはずだ。
麦わら一味と出会い、彼らの航海に便乗して戻って来らからこその速度。
一般的な海賊よりも遥かに順調で短期間での前半制覇。2年間の修業期間はあったものの、とんでもないスピードなのは間違いない。
彼らの船を降りる機会は何時でもあった。
四つの海からは一番初めの難所とされる偉大な航路入り直後、アラバスタでの長期滞在、海賊たちの島ジャヤは論外として、ウォーターセブンではサイファーポールからは逃げに徹していたらニコ・ロビンの件もあってそう真剣に追って来なかったははずで、その後の頂上戦争では売り言葉に買い言葉だった。
麦わら一味の船から降りる機会を自ら逃し続けていたのは自分自身で、新世界まで戻ってくれば時間の問題なのも理解していた。
だから、スマラはもうビッグマム海賊団から、家族から、ママから逃げる事は無い。
自由な時間はもう貰った。
恩返しと言うほど生まれてこの方恩など貰った試しはないが、それでも生まれたてで無力だった赤子を自我が芽生えて反抗するまでは育ててもらったのは確かだ。
家族、親だからなどと言う血で繋がった関係性が生み出す無償の愛、などとこの家族にとっては有り得ない事を言うつもりもない。
それでももう逃げないと決めた。
ママの歯車でもいい。
フラフラとどっちつかずの立場は辞めだ。
積極的に関わる気は今でも無いが、それでもこの流れる血にシャーロット・リンリンの血が流れている以上、何処まで行ってもスマラは四皇『ビッグマム』の娘なのは変わらない。
それは麦わら一味と出会ってからの海軍や政府の対応、その他有力な海賊の反応が示している。
それ故に。
もう疲れた。
逃げるだけの人生は。
もちろん、新世界と偉大なる航路前半以外の四つの海の片田舎でのんびりと暮らしていれば、そのような苦労は起こり得ないのかもしれない。
そんな事は織り込み済みで、この新世界へ戻って来た。
様々な状況に流されての選択だったが、その選択肢を選んだのはスマラ自身である。
だから後悔は無い。
無い、事も無くはないが、現在進行形で読書が出来るなら問題なし。
そう感情を押し込めて平静を保つ。
感情的に行動すると、何時も厄介な結果に陥るのは何度も経験してきた。
今回で最後のはずだ。
だから、今日、今この時間さえ我慢して何も起こさなければ、毎日読書して偶に古代文字の解読を行うだけの簡単なお仕事の日々が待っている。
それだけだ。それ以上の仕事を誰も私に期待なんてして来ない。
保険の私が丁度良く、欲していた技術を不完全ながらも習得して近くまで戻っていたから、他の海賊に利用されるくらいなら、と当たり前のように手元に戻しただけの存在。
だから、だから、どうか何もない平穏な日々を送らせて欲しい。
「ウェ~~ディ~~ング、ケ~~キ!!!」
そうは問屋が卸さないのがこの世界。スマラの人生。
聞こえて来た声にざわついていた報告は一時中断。
この場に居る誰もが声の方向へ視線を向ける。
その先には土埃と逃げて来るスムージー。
恐怖が甦る。
幼い頃も何度かあったあの病気。
「食い煩い。まだ治ってなかったのね」
突発的に或る物が食べたくなり、目的の物を口にしない限り止まることの無い暴走。
発病原因は、楽しみにしていた物が食べられなかった時に起こりえる。
対策しようにも、せいぜいママの近くで食材と料理人を待機させておく事くらいだが、今回は物が物だった。
求めた料理はウェディングケーキ。麦わらとカポネベッジに破壊されたケーキを食べられなかったのがとても効いているらしい。
状況的に、ただのケーキでは駄目だろう。
ママが求めているのは結婚式場にあったウェディングケーキそのもの。
これが普通のウェディングケーキならまだ作る術はあっただろう。
しかし、数十分前に儚く崩れ去った、あの巨大なウェディングケーキだ。
レシピこそ探せば出てくるであろうが、巨大なウェディングケーキを作るには時間も人員も、材料もまた相応に必要となる。
そして、裏切り者と侵入者の対応にも追われる今。その様な余裕はビッグマム海賊団には存在しなかった。
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