ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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ちょい難産だった……
次はUSJ……ちう様どうなるかな?( *´-`)


役職とマスコミほど面倒なものはない

戦闘訓練の翌日。

 

オールマイトが雄英の教師に就任したというニュースは日本全国を驚かせ、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。

 

もちろん登校してきた千雨にも朝からマスコミが突撃。

 

「オールマイトについて聞かせてもらえませんか!?」

「インタビューは学校の広報窓口を通してください」

 

目線を読んでいた本から一切上げずに一言で切り捨てて早足で校門をくぐった。

これが麻帆良仕込みのマスコミ対応力である。

流石のマスコミも、ここまでの塩対応でカメラスルーされるとは思ってもみなかったらしい。難なく切り抜けた。

 

どの世界でもこうしたマスコミ集団というのは湧くらしい。

いくら近隣に民家がないからとはいえ、オールマイトを呼ぶようなコールは迷惑行為になる。

千雨は全員機材壊して上司に怒られろと思った。

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。

爆豪。おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」

「……わかってる」

 

朝のSHRで相澤からの簡単な講評がされる。やはり一番問題のあった第一戦の爆豪を注意した。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。

"個性"の制御……いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させねぇぞ。

俺は同じ事言うのが嫌いだ。"それ"さえクリアすればやれることは多い。焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

そして緑谷にも制御出来ないことを改善するようにと言われている。他は特に注意はないようだ。

ヒーローとしてどちらも問題しかないのだから、注意されて当然だろう。

 

「…………さて、HRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに……」

 

区切られた言葉に緊張が走る。

またテストなのだろうか。頼むから面倒なものは来ないでほしい。

 

「――――学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来たー!」

 

無駄に警戒して損したじゃねーか。

思わず机に突っ伏す。

 

「委員長!!やりたいですソレ俺!!」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ!!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

「リーダー!!やるやるー!!」

 

クラスの大半が勢いよく話しながら手をあげる。

集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられるとして、ヒーロー科の人間からすればやりたくて仕方がない役職なのだろう。

 

だからこそ、千雨の眉間に刻まれたシワを言語化すると、こうなる。

騒がしい。誰でもいい。はやく終われ。

 

「静粛にしたまえ!!

"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……!『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!

周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……!

民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは、投票で決めるべき議案!!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!

何故発案した!!!」

 

真面目で正論を言う飯田。その右手はまっすぐと伸びている。

やりたいのか、お前。

 

「日も浅いのに、信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

「だからこそ、ここで複数票獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか!?

どうでしょうか先生!!!」

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

寝袋に入って寝る態勢にはいった相澤がテキトーに告げる。

すぐに投票となった。千雨は誰に入れるか考え、名前を書く。

 

 

結果は、緑谷と千雨が3票、八百万が2票。以下1票と0票。

おい誰だ投票した奴。

 

「僕3票ー!!?」

「なんでデクに……!!誰が……!!」

「0票……わかってはいた!流石に聖職といったところか……!」

 

悲喜交々といった様子の教室内。

そんな中、椅子から立ち上がり手を上げて言う。

 

「学級委員、辞退します」

「ええっ!何で!?」

「票が集まったのに、何故辞退するんだ長谷川くん!」

 

まさかの辞退にざわつくクラス。そして全員の言いたいことを独特な身振り手振りをつけながら聞く飯田。

 

「飯田さんの言う通り、人をまとめる、人を導くというのは簡単な仕事ではありません。ただ『やりたい』だけで出来る仕事ではないでしょう。

しかし、人望だけで出来る仕事でもありません。

何よりも大切なのは『やりとげる意志』です」

 

千雨の言葉にクラスが静かになる。

人を惹き付ける話力。説得力。カリスマに通じる才能だ。

それを如何なく発揮する千雨。その意志はただひとつ。

 

 

―――学級委員とか面倒な役をやる気はねぇ。

 

 

「勇敢さ、冷静さ、寛容さ、判断力、魅力、知力、カリスマ……誰かの上に立つ、人を導くには沢山のものを求められます。

それをまとめたものを人望と言い、ヒーローとして求められるものになります。

しかし、何よりも求められるのは、投げ出さないで仕事をやりとげるという意志、『やる気』です。

やる気がないトップについていくものはいません。

だから、やる気のない私よりも緑谷さんと八百万さんに……」

「いいえ、今の話を聞けば、尚更引き受ける訳にはいきませんわ!

人望を持っていることもそうですが、長谷川さんなら務めあげられます。

人を導くことを理解しているのですから!」

 

千雨の辞退に対して目の前に座っていた八百万が反論する。

そこは素直に受け取っておけ。投げ返すんじゃねぇよ、お嬢様。

 

「……八百万さん、それは過大評価です。私は器ではありません。

それに、八百万さんなら出来ると思うから辞退……いえ、推薦するのです」

「長谷川さん……!

わかりましたわ!長谷川さんに推薦された以上、私が全力で副委員長を務めてみせます!」

「あっはい……よろしくお願いいたします……」

 

感極まったのか、立ち上がった八百万に両手を握られる。

ぐいぐいとくる八百万からの好意に思わず体がのけぞる。近い。

 

結果として、学級委員長が緑谷。副委員長が八百万に決まった。

 

「緑谷、なんだかんだアツイしな!」

「八百万は講評の時のがかっこよかったし!」

「にしてもカッケェな長谷川……!」

「人間出来てるなー」

 

クラスが千雨を評価する中、内心で面倒事を回避出来たことに安心している千雨だった。

 

 

 

 

 

「良かったのか?」

「急にどうした。なんのことだ?」

 

昼休み。大食堂にてカレーを食べていると目の前に座りオムライスを食べていた常闇が話しかけてきた。

 

「学級副委員長。何故、八百万に譲った?」

「私に向いてないからな。

それに、ああいう仕事はやりたい奴にやらせりゃ良い。

投票してくれた常闇には悪いけどな」

「となるとやはり、俺に投票したのは長谷川か……」

 

千雨は常闇に投票していた。しかし常闇の得票は1。

つまり2人は互いに入れていたのだ。あとの2票は誰かは分からないが。

 

昼食を食べていると、突然警報が鳴った。放送で「セキュリティ3が突破されました」と流れる。

このセキュリティ3とは、上級生いわく誰かが校内に侵入したらしい。

突然の出来事に雄英高校の生徒たちは大混乱だった。みんなが一斉に出入口へと向かう。幸いなことに出口から遠い席であったため、走り出した人に巻き込まれることはなかった。

逃げ出す生徒の様子から逃げようと立ち上がる常闇。対して千雨は動かず、のんびりとコーヒーを啜っていた。

 

「長谷川……逃げないのか?」

「あのすし詰め状態の出入口に行きたくない。人ごみは嫌いだ」

 

食堂の出入口に対して多くの生徒が一気に出ようとして、すし詰め状態になっている。

 

「暴動、スタンピードか……」

 

この程度の群衆大移動は麻帆良ではたまに見かけた状況である。

大食堂での限定品争奪戦とか。遅刻間際の登校時間とか。麻帆良祭の準備期間とか。

かつての日常茶飯事だったからこそ、千雨は人混みに巻き込まれない冷静さを身に付けている。

ただのマイペースともいう。

 

「……あれは、飯田か?」

「ん?」

 

すし詰め状態になっている中から、ふわりと浮いて抜け出したのは、見覚えのある顔。飯田だ。

コーヒー片手に様子を見守っていると、飯田は浮かびながらズボンを膝までまくり上げ、空中でブーストを掛けた。

 

麗日の"個性"による無重力状態なのだろうか。無重力状態でエンジンの"個性"を使ったため、グルグルと回転しながら飛んでいく。まるで手裏剣かねずみ花火のようだ。

勢いよく飛んだ飯田は出入口のEXITとかかれた非常口看板の上の壁にはりつく。そして非常口のピクトグラムみたいなポーズで大声を張り上げた。

 

「大丈ー夫!!

ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!

ここは雄英!!最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!!」

 

よく通る声が大食堂に響きパニックを鎮めていく。押し合っていた生徒たちの動きが止まり、遠くて聞こえない人のために伝言のように廊下の人々へ伝えられて行く。

そして倒れた人や怪我した人が近くの人に助けられて移動していき、事態は収束していった。

 

「……ほら、治まったみたいだし、常闇も座ったらどうだ?

リンゴ残ってるぞ」

「……うむ」

 

常闇は千雨に促されて着席し、残っていたデザートのリンゴに手を伸ばす。

フォークで刺したリンゴをくちばしの横から差し入れて少しずつ咀嚼する常闇。こうして美味しそうに食べている様子に何故だか嬉しくなる。

多分、ペット感覚だと思う。

 

「にしても、マスコミか……セキュリティ堅いのに、どうやって侵入してきたんだろうな?」

「んぐ……誰かが手引きしたか、はたまた防壁を乗り越えてきたか……いずれにせよ、教師陣が対応しているだろう」

「……それもそうか」

 

マスコミの侵入については教師陣が調べていることだろう。気にはなるが……たかがマスコミ。気にしすぎか。

頭の片隅に追いやり、コーヒーを飲み干した。

 

 

 

警報が鳴ったことに対する確認等により5限は授業取り消し。まだ決まっていなかった学級委員以外の委員会決めが行われた。

 

 


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