ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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昨日は途中で寝落ちしました。
そういう日もあるから許してヒヤシンス。


第一種目から全力で

「雄英体育祭!!

ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に1度の大バトル!!

どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?

ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!

 

「ヒーロー科!!

1年!!!

 

A組だろぉぉ!!?」

 

A組の入場に合わせてプレゼント・マイクに実況される。

USJ事件は1番ホットな話題だからこそメディアも大注目しているのはわかるが……あからさま過ぎるほどにA組贔屓なのは、相澤と同期だからか。

各クラスが7つあるゲートからスタジアムに入場していく。

観客の熱気は麻帆良での体育祭やまほら武道会、魔法世界での闘技場を思い起こさせて少し懐かしい。

 

ああ、観客席にいきたい。こういうのは参加するよりも見るほうが楽しいんだ。

 

「泰然自若か、長谷川」

「いつも通りの自分で十分だろ。

どうせ今は私なんか誰も見てねぇだろうしよ」

 

常闇に話しかけられてため息まじりに返す。

1年生は221名。他の生徒が見られていると思えばなんとも思わない。

 

ゲートからスタジアムにある号令台の前に並ぶ。

 

「選手宣誓!!」

 

鞭を振るいながら号令台に立ったのは、過激すぎるコスチュームで国をも動かしたことで有名な18禁ヒーロー、ミッドナイト。

彼女の登場には観客もメディアも一部の男子生徒もテンションが上がっている。

彼女が1年ステージの主審らしい。

18禁なのに高校にいて良いのかという常闇の疑問に峰田が全力で良いと言っていた。峰田お前いい加減にしとけよ。

そんな騒がしい生徒たちを一喝しながら主審として競技に移るべく司会進行をする。

 

「選手代表!!1-A、爆豪勝己!!」

 

大丈夫とは思えない選手代表だ。嫌な予感がする。

ちなみにヒーロー科の入試1位だったのが代表となった理由。千雨の方が獲得点数は高かったものの特別枠ということから除外された。

面倒なことをするつもりはなかったから良いが。

 

前に進み出た爆豪がマイクにむかってやる気無さげに宣誓と言う。定番であれば「スポーツマンシップに則って正々堂々と~」とか言うが、あの問題児の爆豪がそんなことを言うはずもなく。

 

「俺が1位になる」

「絶対やると思った!!」

 

切島のツッコミに思わずだよなぁと言いたくなる宣誓だった。

案の定、生徒全員から爆豪へブーイングが飛び、飯田も叱責している。

それに対して爆豪は、せめて跳ねの良い踏み台になってくれと言いながら右の親指で首を切る仕草をする。

挑発に余念がない。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目、行きましょう!

いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!

さて、運命の第一種目!!

 

今年は…………コレ!!!」

 

ミッドナイトが指し示した仮想ディスプレイに映し出されたのは、障害物競争の文字。

 

スタジアムの外周およそ4キロを走る。11クラス、221人の1年生全学科の生徒たちによる競争だ。

コースさえ守れば何をしても構わない。

ミッドナイトは上位何名が予選通過かは言われなかった。ここから既に精神的に焦らせているのだろう。

 

「4キロの障害物競走か……なんとかなるな。

お前ら、データのダウンロード状況は?」

「そろそろ85%ですー」

「まだ数分は時間かかりそうだな……。

わかった、そのまま続けてくれ」

 

千雨は電子精霊と話しながら、ゲートの1番後ろにてスタートの合図を待つ。

狭いゲートだから前や中間にいては逃げ場がなくて危険という考えもあるが、何よりも人混みが嫌いだからだ。

 

ゲートの3つの緑のランプがカウントするように音を立てながら消えていく。

そして、スタートとミッドナイトの声がマイクを通して響く。

 

「さーて、実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!」

「無理矢理呼んだんだろが」

 

どうやら実況解説席にはプレゼント・マイクだけでなく相澤もいるらしい。

余程無理矢理連れて来られたのだろう。声だけで不機嫌だとわかる。

そして開始早々に轟が地面を凍らせたのを確認し、やはり後ろにいて正解だったと思った。

 

「さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門!

ロボ・インフェルノ!!」

 

テンションMAX状態のプレゼント・マイクは無視して実況にはいる。

それを更に煽るかのように、轟が巨大な0ポイントロボ、エグゼキューターを凍らせて第一関門を抜けていく。

不安定な体勢で凍らせたため、ロボが倒れることによる後方妨害も同時に行う姿が各所に設置されたカメラロボが映す。

 

「1-A、轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!

すげぇな!!いち抜けだ!!

アレだな、もうなんか……ズリィな!!」

 

その後も引き離されまいと突破していく1年生たち。中でもA組が多い。

千雨は、みんな頑張ってるなぁと他人事のような気分でそれらを見ている。

 

「……ん?ってオイオイオイオイ!

オイィ!!

よく見たら、1人だけゲートから全く動いてねェじゃねぇか!A組の長谷川!

もうスタートの合図きってるし、先頭の奴らは既に第一関門越えたぜ!?どうした!!?」

 

千雨が1人でゲート前にいまだに立っているのをゲート横のカメラがとらえ、ゲート前でスマホを弄っている様子がデカデカと大画面に映される。

そう、千雨はまだスタートをきっていない。データのダウンロードが意外と時間がかかっていたのだ。そのためのんびりとスタジアム内の大画面を見ていた。

 

「長谷川、お前予選落ちする気か。はよ行け」

「はいはい……丁度ダウンロードも済んだし、出し惜しみする気は無いしな」

 

相澤に急かされながらも、千雨はその場で写真を撮るかのようにスマホをかざす。

 

「零を壱に―――"仮想具現(バーチャル・リアライズ)アプリ"、起動。

スカイ・マンタ」

 

スマホの外部カメラ部分から光が溢れ出し、光は千雨の目の前で集まり形を作っていく。

1秒もかからずにおよそ3メートルほどの大きさの白いマンタとなり、空中で浮遊している。

マンタの上部には頭鰭と繋がる手綱と、落下防止のための逆U字型手すりが目の後ろからまっすぐ後ろへとかかるように左右に付けられている。

遠くからだと風の谷の民が使う某飛行具のようだ。

 

「おおおおおっ!!?なんだアレ!?マンタか!?」

「長谷川の"個性"によるものだろうが……あれは俺も初めて見た」

 

 

そりゃ初公開なんで。

 

 

―――"仮想具現(バーチャル・リアライズ)アプリ"

千雨の作成していた新技であり、事前に作成したプログラムを実体化する技。

原理としては、電子精霊たちが実体化するのと同じく、魔力と電力をエネルギーとして実体化している。

電子精霊たちでも出せるようにプログラムが組まれているのと、仮契約カードも不要なところがアーティファクトアプリとは異なる特徴だ。

 

海洋生物なのは、データを実体化する際に最も実体化しやすい形態だから。

こだわろうと思えば翼竜とかペガサスとか何でもプログラム出来るが、その分データが大きく重くなる。

 

この技の欠点は2つ。

1、事前に作成したプログラム用データしか実体化出来ないこと。

2、データの入った電子機器が使用できなくなると、消えてしまうこと。

 

 

今回実体化させたスカイ・マンタは、3~10メートルほどの白い空飛ぶマンタ。落下防止の手すりと手綱付き。サイズが大きくなればなるほど実体化に時間がかかる。

最大積載重量は500キロ。最大時速60キロまで出せる。勿論風圧を軽減する障壁プログラムも組み込まれている。

 

 

千雨がマンタの尻尾側から背に乗り両手で手綱を掴むと、そのまま5メートルほど上昇して飛行。

ゲートを抜けて轟に足を凍らされている生徒や、凍った地面を進む生徒、そして第一関門である巨大ロボの頭上を悠々と長い尾を揺らしながら飛ぶ姿は優雅だ。

 

「1-A長谷川、空飛ぶマンタで一気に追い上げていく!!んでもって、そのまま第一関門さらっとクリア!

シヴィーぜ長谷川!!流石は特別枠入学者!!!

ゲート前に残っていたのはハンデにしちゃ少なかったか!!?

つーかアレ……楽しそう!!」

 

地上には一足先に駆けていく轟。それを追う爆豪、常闇、瀬呂、飯田と並んでいる。

その後ろにB組がいるものの、やはりA組が多い。

 

「長谷川のやつ、見かけねぇと思ったら……!」

「何あれ楽しそう!」

「飛ぶとかズルくね!?」

「1人だけ楽してんじゃねぇぞー!」

 

地上の後方から聞こえる恨み節を聞き流し、轟たち先頭の面々を追う。

こちとら会長に活躍を見られているのだ。そう簡単には負けられない。

 

「オイオイ第一関門チョロイってよ!んじゃ第二はどうさ!?

落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!

ザ・フォール!」

 

深さ10メートル以上ある深い峡谷のようになっているそこは、数十箇所の足場と足場を繋ぐロープが張り巡らされている。

ロープ幅が10センチ近くだろうと、道具も命綱も無しで1本の綱を渡っていけなんて無茶ではなかろうか。

そんな考えを余所に轟はロープを凍らせて幅をつくり、氷の道を渡る。

なるべく足場と足場の距離が近いルートを勢いとバランスで渡ったようだ。

靴が凍った地面でも走れる特別製というのもあるだろうが、身体能力ありすぎだろ轟。魔力で身体強化してないのにスゴすぎる。

 

「1-A轟を追う長谷川、そのまま飛行するマンタに乗って第二関門を難なくクリア!!

ビリから一気に2位に躍り出たのは流石だが、障害物競争の障害全部回避可能って最早ズリィな!!

つーか電気系の"個性"じゃねぇのか?」

「長谷川の"個性""電子操作"はプログラムの実体化が出来る。

あのマンタはソレだろ」

 

実況席にいる相澤はカメラが映す千雨を見ながら話す。

 

千雨の今回の体育祭参加目的とは【長谷川千雨の"個性"は"電子操作"である】という印象付けのためだ。

そうすることでいつか魔法を使うことがあっても"個性"によるものだと納得させやすい。

内緒にするよりも、現実味がある。

 

というか我ながら中々良い"個性"の名称と内容にしたものだ、と内心で自画自賛してしまう千雨だった。

 

「―――っと!話していたら、長谷川が猛追してきた爆豪に抜かされたー!」

「爆豪はスロースターターだからな」

「爆豪が選手宣誓通りにトップ狙ってるが、どうなる!?」

「クソがっ!!ジャマだアホ毛!」

「うわっ!危険すぎるだろ爆豪の奴!」

 

千雨に向かって思いきり爆破してきた爆豪。女子相手でも容赦なしなのか、同族嫌悪している千雨だけなのか。

千雨は手綱を使って爆豪から離れながら後ろを見る。

 

……飯田も追い上げてきたし……あとは、常闇とB組か。

今のところ三位、女子の中ではダントツ1位。ビリから追い上げしたということも相俟って注目度は高い。このままトップ5以内をキープが得策か。

 

爆豪と距離を取りつつも、その背に追い付けるように2メートルほど後ろを飛ぶ。

 

「先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずにつき進め!!

そして早くも最終関門!

かくしてその実態は―――……一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!!

地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!!

ちなみに地雷!威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!」

「人によるだろ」

「地雷エリアとかアホか!!アホだろ!!?やっぱこの学校アホだろ!!!?」

 

思わずツッコミを入れてしまったが、仕方がないと思う。誰だってツッコミするだろう。

麻帆良体育祭でも種目によってはヘリコプターや飛行機を使ったりしてたが、さすがに地雷は無かったと思う。多分。

魔法やアーティファクトは良いのかって?

―――それはそれ、これはこれである。

 

地雷を踏まないように気を付けて進む轟。そんな轟を爆豪が追い抜かす。

トップ2人が引っ張りあいながら争っている様子を上空から見る。

 

「既に上位に食い込んでいるし、爆豪と轟の争いに入る必要はねぇし……じっくりいくか」

 

コースの端に寄って争いに巻き込まれない位置を飛ぶ。すると後方から地雷の規模としては大きすぎる爆発が起こった。

そして、その爆風に乗るようにして飛んで来る人影。

 

「後方で大爆発!?何だあの威力!?

故意か偶然か―――A組緑谷、爆風で猛追―――っつーか!!!

抜いたあああああー!!!」

「緑谷!?

相変わらず、意外性出してくるなアイツ……!」

 

緑谷が一気に先頭へと飛び出したことで、爆豪と轟は争うのを止めて緑谷を追い越そうとする。

 

「元・先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!

共通の敵が現れれば人は争いを止める!

争いはなくならないがな!」

「何言ってんだお前」

 

再びの大爆発。千雨は土煙で前が見えなくなったため、慌てて上空へと逃げる。

どうやら緑谷がやったらしい。地雷原を抜けて1人走っていくのが見える。

 

「緑谷、間髪入れず後続妨害!なんと地雷原即クリア!!

イレイザーヘッドお前のクラスすげぇな!どういう教育してんだ!」

「俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう」

 

緑谷をこのままマンタで追いかけたいが、爆豪と轟に妨害されるのは勘弁してほしいので2人の真後ろあたりを飛行。

この2人の攻撃を一身に浴びるなど、ただの自殺行為だ。

 

スタジアム内からはプレゼント・マイクの実況が聞こえてくる。

 

「さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!?」

「無視か」

「今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――……緑谷出久の存在を!!」

 

緑谷、轟、爆豪に続く形で、プレゼントマイクの実況と歓声が響くスタジアムにゴール。

順位は4位。女子の中ではトップでのゴールだ。

 

マンタに乗ったまま、ぐるりと会場を飛び回れば客席から手を振られた。

恥ずかしいが、こうして自分の能力が注目されて喜ばれているというのは少し嬉しい。

ネットアイドルとして活動していた時にあったファンからの賞賛の嵐を思い出してしまう。

 

にしても、上位にA組連中が多い。B組がもっと突っかかってきて目立つと思ったが、なに考えてるんだ?

疑念を抱きながらも、ゲート近くでマンタから降りる。

 

「千雨ちゃん、4位おめでとう」

「蛙吹もお疲れさん。13位か」

「ええ、第二関門の綱渡りで順位上げられたの。

千雨ちゃんが出したマンタ、スゴかったわ」

 

丁度ゴールしてきた蛙吹と話しながら、ミッドナイトの終了宣言を待つべく号令台へ向かう。

そんな2人の移動とほぼ同時にゴールした八百万。

 

「くっ……こんなハズじゃあ…………!」

「八百万、お疲れ様……って、峰田……」

「一石二鳥よ、オイラ天才!」

 

左頬を腫らして鼻血を流している峰田が、八百万に"個性"を使ってくっついていた。

千雨は無言で身体強化して峰田の首を後ろから掴む。

 

「は、長谷川!?」

「今すぐ離れるか首を折るか、選べ」

「はっ離れるっ!離れるからやめてくれ!」

 

千雨から殺気を感じたのか、マジで首を折られかねないと察知したのか、峰田は素直に八百万の体操服についたもいだ髪を取り去った。

ちなみに峰田が髪を取り去っている間も、千雨は首を掴んだままだった。

取り去る最中にうっかり触れること(ラッキースケベ)は許さないと言わんばかりの態度が、千雨が割と本気で首を折る気でいるのだとわかる。

 

峰田が八百万からもいだ髪を全て取ったのを確認して、千雨は峰田を投げ捨てた。

変態に優しくする心は無い。着地くらいは自力でどうにかするだろう。

 

 

蛙吹とともに八百万を労りながら、千雨はゴールした他のクラスメイトたちがいる号令台前に向かった。

 

 

 


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