ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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騎馬戦後編です。
滅茶苦茶迷いましたが、こうなりました。


最後まで諦めずに

「さぁて残り時間は3分を切った!!!

1000万は文字通り高みの見物!3位4位が常に入れ替わりまくってるな!

最後まで油断するなよー!」

 

プレゼント・マイクのアナウンスが流れる。残り3分。

爆豪はポイントを奪ったB組へ反撃を仕掛けている。獲られては獲り返しを繰り返している爆豪たち。

 

「あのクソアホ毛、逃げ切る気だな…!」

「爆豪、もう諦めろ!この混戦状態で1000万は無理だ!」

「あの高さじゃ、俺のテープでも届くの難しいって!」

「ウッセェ!!!

しょうゆ顔、周囲のザコ共の騎手をテープで両腕封じろ!それで少しはマシになる!」

「おっおう!」

 

1位になるという飽くなき執念の炎を燃やす爆豪。

しかし組んだチームの芦戸、切島、瀬呂では1000万獲得は難しいだろう。

 

轟はポイントを狙ってくる騎馬を上鳴の放電と氷結の連携技で確実に動きを封じていく。

一応と言わんばかりにハチマキを集めていくが…どうしても、上空を見てしまう。

 

 

1位の緑谷と、それを支える長谷川。

 

 

あの時。USJで緑谷が最後に飛び出した際に、緑谷を救けようと飛び出した長谷川。入学初日のテストから圧倒的だった。

オールマイトと緑谷の2人と同様に超パワーの持ち主で、特別枠での入学。頭脳も能力も秀でたクラスメイト。

宣戦布告するならば長谷川も該当した。

しかし、長谷川は緑谷と違い、オールマイトの"何か"を持っていない。オールマイトに目を掛けられていない。

だから、宣戦布告をしなかった。

 

―――それがどうだ。

 

あの2人が手を組んだ結果、手が届くどころか掠りもしない。オールマイトの…生きる伝説がいる高みとはこういう事だと教えんばかりに、圧倒的な強者。

 

 

それでも負けたくない。それではいけないのだ。

右だけで…母の力だけで、勝たなければ!!!

 

 

飯田の肩を掴んでいた轟の左手に力が入る。

それを肌で感じた飯田もまた、上空を見上げた。

空に浮かぶ幻想的な白いマンタの群れ。その中の1つから黒影のものらしき黒がちらちらと見える。

 

良き友であり、そして良きライバルでもある緑谷くん。

彼に挑戦せずに諦めるなど、それでは自分はいつまでも未熟者のままだ。

轟くんのチームとして。そしてなにより自身の可能性に。"今の自分"に、勝利するために。

 

飯田は覚悟を決めて、頭上の轟に声をかけた。

 

「―――轟くん、氷で足場を作る時に必要なものはあるか?」

「必要なもの…?骨組みがありゃ望んだ足場を作りやすいが…」

「なら、上空に向かって氷で足場を…道をつくれるか!?」

「…出来る」

「八百万くん、今から言う道具を連続で頼めるか!?」

「…勝つためなら!」

「え、ちょ、おい飯田…まさか!」

「ああ!取るぞ、1000万!」

 

成功する可能性は低いかもしれない。

成功しても着地がうまくいかないかもしれない。

 

それでも―――わずかな可能性に賭けずして、トップの座は掴めない!

 

ステージのライン際から、上空へ伸びる氷の柱のような道を一瞬で作り出す。道は高くなればなるほど強度が不安になる。

しかし、それが崩れるというならば、崩れるよりも早く!

 

「獲れよ、轟くん!トルクオーバー!」

 

飯田のレシプロバーストによる超加速が荒削りの氷の道を駆けて跳び、マンタの群れへと突っ込む。

轟はマンタの群れを凍らせて落とそうと考えていたが、まるで映像のようにすり抜けた。そこで初めて轟たちは周囲のマンタが実体を持たない立体映像でしかないと気付く。

 

そして轟はその勢いのまま、振り向きながら驚愕の表情をした緑谷の額に巻かれたハチマキへ手を伸ばし―――掴んだ。

 

轟は落下しながら、八百万が事前に作っていた錘のついたロープを複数投げてそれに沿うように氷を作る。着地用の滑り台だ。

無事に地上へと戻った轟たち。

大画面に表示された1位の部分には、轟チーム。

 

この逆転に、観客もプレゼント・マイクの実況も、沸き上がった。

 

「な―――何が起きた!!?何をした!!?

轟チーム、ここに来てまさかまさかの!!!奇跡の!!!

大!!!逆!!!転!!!

轟が1000万!!!

誰も彼もが諦めていた1000万を!!!獲ったぁぁあああ!!!!」

 

プレゼント・マイクの実況と歓声を聞きながら、千雨たちは一体何が起きたのかを確認する。

地上のスタジアムの端から伸びる氷の柱と降りるための滑り台の氷。そして地上で脚から大量に煙を出している飯田。

 

「轟くんの氷と飯田くんか!」

「くそっやられた!

この高さにまで道作って跳ぶとか、普通死ぬぞ…!?」

 

一歩間違えれば、命の危険があった。獲れずに終わる可能性もあった。着地も失敗する可能性が大きかった。

それでもなお、自身と仲間の可能性を信じて―――勝利を掴むための、勇気を見せた。

更に向こうへ、前へ進むために!

 

そんな友の強さに、ライバルの勇気に、緑谷の心もまた奮い立つ。

 

「―――取り返そう!1000万!」

「よく言った、緑谷!

制空権は私らにあるからな。逆落とし作戦でいくっきゃねぇ」

「逆落とし…?」

「お前ら、ジェットコースターとか大丈夫だよな?」

「…へ?」

「ま、まさか…!」

 

逆落とし。ジェットコースター。

 

この言葉が導く答えは、ひとつしか思い浮かばない。

緑谷と麗日は顔をひきつらせる。常闇はなんとなく察して、黙って覚悟を決める。

 

「そのまさかだ!

常闇!マンタの手綱を両腕に絡めて緑谷の足ちゃんと掴め!!

麗日!しっかり手すりと常闇の肩掴め!!

緑谷!気合いで落ちねぇようにしろ!!

―――全員、気持ちで負けるんじゃねぇぞ!!!」

 

千雨の激励が全員の覚悟をひとつにした。

 

地上で1000万を守るべく、他の騎馬に襲われないための氷壁を作り出していた轟たち。

そこへマンタは一気に加速して、ほとんど90度に近い急降下突撃。

 

「ここでマンタ急降下ー!!!

緑谷チーム、ポイントを奪った轟チームに急降下突撃だー!!!」

「なっ―――!?」

 

時速60キロに加えて、隙が生じていた轟の後ろから首もとのハチマキを1本奪った。

そのままV字を描くようにして急上昇。5メートル近く上昇したところで獲ったポイントを確認する。

シートベルトがないため、常闇が腕に絡めている手綱と、麗日と千雨の両サイドにある手すりのみ。緑谷ふくめて全員油断したら落下しかねない状況である。

 

 

「1000万か!!?」

「駄目だ、70ポイント!もう一回!」

「よし!再突撃!

全員気張れ!!」

 

マンタが再度急降下する。

 

「緑谷チーム、制空権の強みを活かして轟チームに再び急降下突撃ー!!

1000万を取り返すまで何度でも突撃していく緑谷チーム!!轟チームは1000万を守れるのか!!?

そろそろ終了時間が近いぞ!!!最後まで粘れよボーイズアンドガールズ!!!」

 

2度、3度と繰り返し突撃するが、予測されて八百万の作る盾と轟の氷に防がれる。

 

「くっ…!」

「突撃を予測されてるな」

「フェイク・マンタ、トルネード!

こんにゃ、ねぎ!てめぇらが鍵だ…頼むぞ!」

「イエッサー!」

「いってきますー!」

 

上空に浮遊させていたフェイク・マンタの群れに轟チームの周囲を旋回させる。まるでマンタの群れが渦のようにグルグルと回っている。

その渦の中に電子精霊のこんにゃとねぎの2匹も飛び込んだ。

 

「長谷川さん、再突撃は?」

「するに決まってんだろ!

とりあえず今の轟チームは飯田が動かねぇところを見るに、エンジンが使えねぇみてぇだ。

八百万もこの渦の中じゃ下手に防壁を張れねぇ。そんで轟は左を使う気はねぇから氷壁が溶かされることもねぇ。

残りのチャンスは3回…いや2回だな。しっかり掴まってろ。

常闇、黒影を最後の突撃で合図したら頼む」

「わかった。勝利のために託すぞ、緑谷、長谷川」

「デクくん!勝とう!」

 

この状況でも最後まで諦めない千雨と、信じてくれる麗日と常闇のためにも。

そして何より、オールマイトの期待に応えるためにも。

緑谷は行くぞと叫んだ。

 

「マンタの群れ…!八百万、防壁頼めるか?」

「実体がないとはいえ、マンタに周囲を旋回されて視界の邪魔をされていますし、これでは緑谷さんたちが何処から来るかわからないので防げませんわ!」

「飯田は…」

「ダメだ、俺のエンジンもまだ使えない…!

それに先ほど作った氷壁で逃げ場が無い!マンタも同時に動いているから抜け出すことも出来ん!」

 

轟はマンタの渦の中で舌打ちをする。

轟自身の手で退路を絶ってしまったが、ここで壁を壊してもマンタの群れで視界が塞がれている以上、いたずらに敵を増やすだけ。

八方塞がりの状況。

1000万を獲れたのは偶然だったのだと強く実感する。

 

「ひとまず氷壁を背後にして警戒するぞ」

 

全方位への警戒から、前と左右に警戒範囲を狭める轟たち。

そしてマンタの渦の向こう側、上鳴側から緑谷たちが突撃してきた。

 

「っ!上鳴!」

「無差別放電、130万ボルト!!

…!?」

 

上鳴が放電で突撃を止めようとした。

しかし、上鳴の放電した電気は緑谷たちの乗っているマンタの口内へと流れていく。周囲に流れた電気も他のマンタが吸いとり、緑谷たちに一切放電が効いていない。

 

「放電が、吸いとられた!?」

「私の個性は電気系統―――放電は効かねぇよ!」

 

千雨の作り出すデータ体はエネルギー源となる電気を吸収する性質を持つ。

そのまま上鳴の横へすれ違いながら首にあるハチマキを獲って、氷壁にぶつかるまえに離脱する。

 

今度は200ポイントで現在270ポイント、現状5位だ。

 

すぐさまマンタの渦によって、轟たちからは緑谷たちの姿が見えなくなった。

プレゼント・マイクのカウントダウンの声が響く。残り10秒をきっている。

次は何処から―――轟がそう思った瞬間、緑谷が目の前に現れた。

 

「轟さん、前っ!」

「!」

「うおおおおっ!!!」

 

緑谷の勢いにゾクリと何かを感じ取った轟。

左腕の腕に炎を揺らめかせながら防御しようとするが、それを緑谷は伸ばした右腕を振るってかき消す。

轟は左を使ってしまったことに動揺して固まる。

緑谷が再び右腕を伸ばしてハチマキを狙うが、八百万が咄嗟に出した盾で防がれてしまった。

マンタに乗っている緑谷たちはそのまま八百万の横を通るようにすれ違って、今度は氷壁を登って背後にまわる。

 

「常闇!」

「―――!黒影!」

 

常闇の体から黒影の腕が伸びて何かを掴む。

それとほぼ同時にTIME UP!というプレゼント・マイクのアナウンスが入った。

千雨は氷壁を登って空中に移動していたマンタへ地上に戻るように指示する。

 

「ごめん…取れなかった…!」

「デクくん…」

 

騎馬を崩し、マンタから降りた緑谷が泣きそうな声で謝る。

信じてくれた3人に、背負った思いに応えられなかった。そんな緑谷に何て声をかけるべきかと思い、悲痛な顔をする麗日。

 

「何落ち込んでやがる緑谷、麗日」

「でも、千雨ちゃん…」

「1人じゃねぇから、仲間って言うんだぜ?

なぁ、常闇」

「え…?」

 

緑谷と麗日の視線が常闇に向かう。

 

「緑谷の初撃から轟は明らかな動揺を見せた。

最後の八百万の盾は予想外だったが…すれ違う際、電子精霊のこんにゃとねぎと黒影が取り返した。

―――喜べ緑谷、お前の勝ちだ」

 

黒影が手を開く。

そこには電子精霊が2匹と―――1000万505ポイントのハチマキ。

 

 

「―――――1位、緑谷チーーーム!

逆転に次ぐ逆転!執念の勝利だァー!!!」

 

 

マンタの渦で姿を隠しながら轟たちの背後に潜ませたこんにゃとねぎに1000万のハチマキを探らせて、最後の瞬間に氷壁を登って後ろに回り込み、黒影がこんにゃとねぎが浮かばせたハチマキを2匹ごと掴んで獲ったのだ。

電子精霊たちだけではハチマキをバレずに獲ってこれるほどのパワーとスピードがないため、黒影の協力が必要不可欠だった。

 

これが千雨に出来た最後の策。氷壁にぶつからないように飛行していたのも、最後に正面から攻めたのも、轟たちに背後への警戒をさせないため。

最後の1回だからこそ出来た逆転。

 

プレゼント・マイクのアナウンスが高らかに告げる。

その言葉に緑谷は嬉しすぎたのか、地面に両足が埋まるほどの勢いで涙を飛ばす。噴水かよ。

 

2位は爆豪チーム、3位は轟チーム、4位は心操チーム。

この4チーム計16人が最終種目へ進出することになった。

 

「千雨ちゃん、常闇くん!スゴい!やったー!!」

「麗日っ!個性使って振り回すな!」

「うわわっ!ごめん千雨ちゃん!つい!」

 

麗日の個性で浮いた状態でぐるぐると振り回されていたが、なんとか止まって解除する。恐るべし無重力。

 

「ビックリした…」

「ホンマごめん!」

「いや、もういいよ。

あー…その、なんだ。麗日…信じてくれてありがとな」

「千雨ちゃん…!

もー!信じるに決まっとるやん!仲間なんやし!!」

「ちょっ!抱き付くなっ!離れろ恥ずかしい!」

 

千雨は麗日に抱きつかれた。今度は千雨が浮くことがないように手をグーにしている。

 

「…その、緑谷と常闇も、騎馬戦で最後まで信じてくれて、その…ありがとう」

「むしろ僕の方が救けられたよ!ありがとう長谷川さん!」

「お、おう…」

 

全力で返される感謝と好意に思わずのけ反る千雨。

相変わらず好意を寄せられることに不慣れだなと常闇は考えたが、ここは緑谷たちの感謝する勢いに乗るしかないとばかりに言葉を紡ぐ。

 

「お前の電子精霊が1000万がどれか持ち上げて教えてくれたから出来たことだ。長谷川も、俺を信じてくれてありがとう」

「ツマリ、俺タチノオ陰ダナ!」

「ちうたまのお役に立てたなら本望です!」

 

黒影と電子精霊のこんにゃとねぎがハイタッチする。

主人である常闇と千雨の2人よりも陽気なその姿に、思わず4人して小さく笑ってしまう。

 

「うん!助かったよ!」

「可愛ええなぁ」

「ああ、お前たちのお陰だ」

「調子良すぎだろ…」

 

ワイワイと騒ぐ千雨たちから少し離れた場所で、騎馬から降りた轟に八百万と飯田が謝っていた。

 

「すみません、私が最後まで警戒しておけば…!」

「それを言うなら俺も…」

「気にすんな。最終種目には進出出来ている。

……」

 

轟は3人への声掛けもそこそこに、自身の左手を見た。

左を攻撃には使わないと決めていた自身での制約。あの瞬間、緑谷に気圧されて使ってしまった。

それによって最後の最後で逆転させてしまった。

 

「いけねぇ…これじゃ…親父の思う通りじゃねぇか…」

 

緑谷たちに負けてしまったこと以上に、左を使ってしまったことの悔しさで轟の心はいっぱいになっていた。

 

 





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