ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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\テーレッテー/


一回戦 vs上鳴

千雨は控え室1にて、第3試合の様子を中継で確認する。

 

どうやら芦戸と塩崎の対戦は、第1試合や第2試合よりも白熱しているようだ。

塩崎の伸ばすツルが芦戸を捕まえる前に酸で溶かされてしまい拘束が上手くいかない。

芦戸が足から酸を出して接近戦を仕掛けるが、死角からツルを伸ばしてくる塩崎に苦戦。

互いに個性で牽制と打ち消しをしあっていて、これには観客も大興奮。

 

最終的に、芦戸が酸で溶かす速度よりも早く塩崎が大量のツルで何重にもなるようにして芦戸を捕らえ、場外にしての勝利だった。

 

 

 

酸とツルを撤去する時間を挟み、第4試合。ステージで向かい合う男女。

千雨と上鳴だ。

 

「…ここまで結果見えてると、悲しくなるね」

「上鳴のやつ、長谷川とは相性最悪だからなァ」

「電撃はマンタが吸い取って無効にされちまうし、かといって近接戦闘はあの超パワーと超スピードがあるし…」

 

観客席にいるクラスメイト全員で上鳴の個性でどうすれば千雨に勝てるのかと考えるが、考えれば考えるほど上鳴では勝てないとしか思えなくなる。

もはやどれだけ持ちこたえられるかだ。

 

「でも、勝ち筋が完全にないわけじゃない…」

「デクくん、もしかして千雨ちゃんが言っとったアレ?」

「うん。

騎馬戦で長谷川さんのデータの実体化には機械が必要って言ってたからね。

上鳴くんが機械を破壊すれば長谷川さんはマンタやクジラが使えなくなる。それから電気で痺れさせてから場外に出せば勝てるけど…」

「千雨ちゃん、実力が未知数だもんね。障害物競争から新技出しとるし」

「だからこそ、少しでも詳しく知りたいんだ」

 

緑谷はノートとシャープペンを構えてスタートの合図を待った。

 

 

 

「スパーキングキリングボーイ!ヒーロー科、上鳴電気!

障害物競争から女子トップ!ヒーロー科、長谷川千雨!」

 

両手をズボンのポケットにいれて気だるげに立っている千雨。その様子は余裕綽々と言わんばかり。

対する上鳴は冷や汗をかきながらも覚悟を決める。

 

「戦闘訓練の時の俺と…」

「スタートォ!!!」

「同じだと思うな、よっ!?」

 

合図と共に接近しようと動いた上鳴が、突如として後ろに倒れた。

 

「スタートと同時に上鳴が後ろに倒れたー!?長谷川、一体今度は何をした!?」

 

一歩も動かない千雨と、倒れて痛そうに腹を押さえる上鳴。

実況のプレゼント・マイクも解説の相澤も、そして観客席の誰もが驚いた。

 

「な、何!?今の!?」

「長谷川の新技か…?」

「今の長谷川の技なの?上鳴の自爆だったりしない?」

「逆にあり得る」

 

観客席ではクラスメイトであるA組も一体何が起きたのかとざわつく。

その中で1人、眉間にシワを寄せて舌打ちをする。爆豪だ。

 

「ちげぇ。今のはアホ毛の技だ」

「え、爆豪は何が起きたのかわかんの!?」

「両手をポケットに突っ込んでて、油断してるっぽいのに…?」

 

唯一クラスの中で今のを知っていたらしき爆豪に全員の注目が集まる。

 

「あれが戦闘態勢なんだろ、一回見た」

「え、あれが?いつ見たんだよ?」

「クジラ出してから俺を落とす時、ポケットに片手つっこんでやがった」

「あー、爆豪が突撃した時か」

「下からじゃあ一切見えなかったけど、やっぱ長谷川の技なのか!」

「どんな原理だろう?」

 

立ち上がろうとした上鳴に、千雨はゆっくりと近付きながら無音拳を上鳴に当てる。

顎や頭など急所は狙わず、脇腹や肩、腕などに当てていく。

 

「オラオラ、どうした?倒れたままか?」

 

上鳴はゆっくりと近付いてくる千雨を見ながら、放電が届く範囲に千雨が来るのを痛みに耐えて待つ。

上鳴にこの見えない攻撃を防ぐ手段はない。だからこそ、勝機を窺う以外なにもない。

 

「長谷川が上鳴へ一歩一歩近付くが、上鳴の身体に見えない何かが今もぶつかっているのか、上鳴はケガが増えていく!

いやマジで何してんだ!?イレイザー、お前の生徒だろ!?」

「知らん。…が、仕掛けがあるのは確かだな。

一応それぞれの個性を紹介したらどうだ?」

 

相澤の勧めもあり、プレゼント・マイクは今戦っている…いや、一方的な試合の2人の個性を解説する。

 

「上鳴電気、個性"帯電"!

電気を放出する"個性"だ!放電するワット数は調節可能!

ただし放電し過ぎると脳がショートしてしまうぞ!」

 

「長谷川千雨、個性"電子操作"!

電子機器へのハッキングと、電子データで出来た7匹のモンスターを操れる"個性"!

モンスターを形成するエネルギーを身に纏うことで、一時的に超パワーや超スピードを使うことも出来る!その他にも、モンスターと同じようにプログラムしたデータを実体化させることも出来る!」

 

大画面にはそれぞれ写真と名前と個性が表示される。

 

「両者共に電気系統の個性!

しかし、この勝負は一方的な長谷川の勝利で終わるのかー!?」

 

千雨の無音拳による攻撃はまだ続く。上鳴との距離は3メートルを切った。

拳圧を飛ばすために必要な距離は1、2メートル。もう少し近付いても大丈夫だと思いながら千雨はゆっくりと近付き上鳴をなぶる。

プレゼント・マイクの実況が響く中で、A組では常闇が冷静に試合を分析する。

 

「長谷川…何に怒っているのかは解らんが、一撃で倒せる相手であるのにわざと急所を外しているな」

「うん、獲物をいたぶる猫みたいだね…」

「長谷川の奴、ドSかよ…!」

 

常闇の言葉を聞きながら、尾白と峰田が千雨を評価する。

 

「でも、上鳴ちゃんに怒ることなんて…―――あったわ」

「え、マジ?」

「チア姿にさせられたからじゃないかしら?

千雨ちゃん、着替える時も嫌々で恥ずかしそうだったもの」

「…上鳴ィ!そのままボロボロになって、長谷川の怒りがオイラへ向かないようにしてくれー!」

「峰田くん、薄情すぎるよ…!」

 

上鳴をいたぶる理由がチア姿の復讐なのだと知った途端に同志・上鳴を切り捨てた峰田。

最低すぎる。

 

そんな観客席とは裏腹に、上鳴は諦めていなかった。

ここまで力量差と相性差がある千雨に、逃げるよりも一矢報いたいと思ったからだ。そしてそのガッツで女の子にモテたいからだ。動機が半分不純である。

近付いてきた千雨にタックルするようにして勢いよく接近し、右手で千雨の左腕を掴む。

 

「いくら長谷川でも、ゼロ距離ならどうだ!?

無差別放電130万ボルト!」

「くっ!」

「ここで上鳴の放電が決まったー!!逆転なるか!?」

 

バリバリと大きな音を立てて放電する上鳴。呻く千雨。

油断していた千雨の隙をついた上鳴の逆転勝利かと見ていた全員が思った。

しかし、放電で呻いていた千雨が倒れる様子は無い。それどころか―――。

 

「く…ふ、くく…笑いを堪えるのに、必死になっちまった…。

―――私が、お前への対策を取らずにいるとでも?」

「無傷!!!同じ電気系統だからか、上鳴の放電はノーダメージだァー!!!

つーか長谷川ガールの右手に電流が集まって滅茶苦茶光ってる!!どーなってんだ!?」

 

上鳴の放電が終わった時、千雨はまったくの無傷。それどころか、右手が電気を集めているかのように電光を発している。

バチバチ、ジリジリ、チキチキ。弾けるような、焦がすような、軋むような音。かなりの高電圧なのが伝わってくる。

 

これはエクトプラズムからの助言によるもの。

先日の助言を元に身体強化に電子精霊たちを纏う技を試したところ、電子精霊たちの電力だけでは電撃での攻撃と言えるほどのパワーがなかった。

電子精霊は発電出来ないからだ。

しかし、この技は電子精霊を纏っていることで蓄電という特性を持つことがわかった。

静電気や充電器から得た電気を纏っている電子精霊が蓄電し、そのまま全身または身体の一部に集めて纏うことも出来る。

といっても、充電器程度の電力で出来るのはスタンガン程度の威力。雷天大壮のように雷化は出来ない。

 

しかし、今はその条件とは違う。

上鳴が放電した電力は充電器や静電気とは比べ物にならない。人の大きさの充電器のようなものだ。

上鳴の体内にあった電気量は充電器の数十倍。

見た目はネギ先生の雷化というには足りないし雷速瞬動も出来ないが、身体の一部に集めればかなりの威力となる。

 

千雨は、右拳に先程上鳴が放った放電で吸収した電力の2割を集束している。

全て使わないのは今後の試合のため。

また、これほどの電気量となると、電子精霊たちの協力があるとしても何割まで制御しきれるのかわからないからだ。

正直なところ不安が大きいためあまり使いたくないが、右拳に集束してしまった以上、使うしかない。

そもそもこの試合はチア姿にした上鳴が相手だ。もとより優しくする気はなかった。

 

千雨の右手に危険を察知した上鳴が離れようとするが―――遅い。

 

「チア姿にしてくれた礼だ。しっかり味わえよ?」

 

千雨は一瞬で距離を詰めて電気を纏う右拳で上鳴にボディーブローを決めた。

その瞬間、電光が周囲に広がり放電して轟音が響き、上鳴の身体はスタジアムの壁まで吹き飛んでいった。

 

「長谷川ガールの電撃ボディーブローが決まったと思ったら!

今のはなんだ!?強すぎるだろ!!!」

「…おそらく、上鳴の放電を無効化したんじゃなく、吸収して纏ったんだろう。

超パワーに加えてあの電力を使ったパンチ…あそこまでの威力を出すには条件があるだろうが、凄まじいな」

 

ミッドナイトが即座に手を上げて宣言をする。

 

「上鳴くん、場外!長谷川さん、二回戦進出!」

「完全勝利!!!あえてもう一度言おう!完・全・勝・利!!!

予選から見せていたプログラムの実体化無しでこの強さ!!!長谷川、無傷で二回戦進出だァー!!!」

 

スタジアムに歓声と拍手が響く。

ミッドナイトが上鳴を保健室へ運ぶようにとハンソーロボに指示を出している間に、千雨は観客席にお辞儀をしてからステージを降りて出入口へ向かっていた。

 

第4試合を見ていたプロヒーローたちが和気藹々と評価していく。上鳴の放電の威力も凄まじいものだったが、それ以上に千雨の万能さが際立った。

障害物競争と騎馬戦での様子では、飛行による支援と戦術指揮が得意と思わせていたのが、トーナメントでは一転して近接戦闘の強さを見せつけた。

しかも近距離攻撃だけでなく遠距離攻撃技も併せ持つタイプ。

救助や支援だけでなく遠近両方の戦闘も出来るとなれば、サイドキックどころか将来のトップ10入りは確実と言える将来性だ。

 

そんな歓声の中で、先程の威力に峰田は全身を震わせていた。

 

「ややや、ヤベェよォ!!あんなん食らったら死ぬだろ!!長谷川のやつ、オイラも殺す気だろ!!!?」

「いや上鳴死んでないから大丈夫だって…多分」

「常闇!助けてくれ!お前なら長谷川の怒りを鎮められる!!オイラ、死にたくねぇよォー!!!」

「諦めて腹を括れ」

 

常闇は首を横に振って峰田の懇願を却下した。

上鳴や峰田ほど女好きではないとはいえ、常闇も健全な男子高校生だから「女子のチア姿を見たい」という峰田たちの気持ちが全くわからないという訳ではない。

しかしそれよりも常闇は友である千雨の味方であったし、騙した2人が悪いということは火を見るよりも明らかだった。

 

「にしても最後の電撃ボディーブロー、あれ強力だろ」

「パンチの威力に加えて電撃だもんね。たとえガード出来ても電撃を食らって痺れるから動けなくなるし」

「あ、長谷川さんが上鳴に近付いてたのって、もしかして電気を吸収するためかな?」

「その可能性は高い」

「千雨ちゃん、第一回戦から新技目白押しって感じやったなぁ。

………ん?」

 

千雨の戦闘を考察していくA組の面々。

麗日はふと隣から聞こえてくる音に目を向けた。

 

「上鳴くんの"個性"も強力だけど、同じ電気系統でも長谷川さんの個性は出来る行為の範囲がやっぱり広い。

体育祭じゃ見せていない武器の実体化もあるし、電撃吸収がマンタたちでなくても出来て電気を纏うことも出来るとなると、近接戦闘において恐ろしい強さだ。にしても纏える電気は身体の一部だけ?電気量はどれほど?

それに最初に見せたあの見えない攻撃、かっちゃんの解説が正しいならポケットにいれる体勢が大きく関わっているんだろうけど、ポケットになにか秘密があるのか?それともあの体勢じゃないと出せないのか?

そもそも見えない攻撃はどんなものなのか聞いてみないとわからないし、攻撃範囲がどれくらいなのかもわからない。とはいえ見えない上に音もしない攻撃となると不意打ちされたら確実に当たる。もし急所を狙われたら一撃で終わるのをあえて外していたみたいだった。

もし戦闘になったら急所をガードしておくしか対策がない…どうにかして当たらないようにしないといけないけど、長谷川さんが超パワーで接近してくる可能性もある訳で、対策としては…―――」

 

ガリガリとノートに細かく書き込みながらブツブツと呟いている緑谷。その勢いはとどまることを知らないと言わんばかりだ。

 

「終わってすぐなのに、先見越して対策考えてんだ?」

「ああ!?いや!?一応…ていうかコレはほぼ趣味というか…長谷川さんが隠してる実力を見れる機会だし、クラス外のすごい"個性"も見れる機会だし…。

あ!そうそう、A組の皆のもちょこちょこまとめてるんだ、麗日さんの"無重力"も」

「……。

デクくん、会った時から凄いけど…体育祭で改めてやっぱ…やるなァって感じだ」

 

麗日が苦笑しながら緑谷を誉める。緑谷は麗日の言いたいことがあまりわからずにいた。

 

「さァ―――どんどん行くぞ、頂点目指して突っ走れ!!」

 

プレゼント・マイクの声が響く。第一回戦はこれで残り半分、4試合だ。

 

 

 


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