ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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体育祭休み明けの学校が無駄に長いと思う読者さんへ、作者から一言あります。
「本当にそれな」



コスチューム改良

ヒーロー基礎学を終えたA組。

体操服から制服に着替えながら千雨はぶつぶつとつぶやく。

 

「どうせヒーロー時だけなんだし……コスイベに出る時と同じようなもんだと思えば……いや、むしろコスチューム考えれば『ちう』で良かったんじゃねぇか……?『長谷川千雨』としてじゃなくて『ちう』としてヒーローしてるって考えれば……うん……まだなんとか……」

 

ヒーロー名を書いたゼッケンを着て行ったヒーロー基礎学で千雨の精神は完全に折られた。これ以上ないという羞恥心によってバキバキに折られていた。

そのおかげで、ヒーロー名については吹っ切れたのだが……。

 

「千雨ちゃん、緑谷ちゃんみたいになってるけど大丈夫かしら?」

「そっとしておきましょう」

 

遠巻きに精神状態を心配されていることには気付いていない千雨だった。

 

 

 

教室に戻ってからすぐに帰りのSHRが始まる。と言っても翌日の授業について副委員長の八百万から伝達と、相澤からの各種連絡位だ。

 

「長谷川。前に言っていたコスチューム変更についてだが、放課後コスチューム持ってパワーローダーのいる工房に行け。

それから職場体験の希望届けまだ未提出の奴は明後日までに出せよ。

諸連絡は以上だ。委員長挨拶」

「起立、礼!さようなら!」

 

飯田の挨拶に続けて全員が挨拶をしてSHRが終わると、途端に騒がしくなる教室内。

 

「そういえば千雨さん、ヘッドギアを変更したいと仰ってましたね」

「USJ事件とか体育祭で学校全体が慌しかったから遅くなったけどな」

「長谷川、コスチューム変えるのか」

「ああ。轟はあのダセェ異形っぽいやつから変えねぇのか?」

「……変える。これからは左側も使うしな」

 

八百万と轟の2人と話しながら教壇にあるリモコンを操作して5番目の棚と3番目の棚を動かし、千雨と轟はそれぞれコスチュームケースを取り出す。千雨は棚を戻しながら話を続けた。

 

「変えるなら今の全身白は絶対にやめたらどうだ?

シンプルだけど左側氷で覆うと遠目に見てて白い異形だし、正直言ってアレは無い」

「千雨さん、少々言い過ぎでは……」

 

2回も非難されて傷ついたのか、轟は落ち込み、八百万がフォローをする。左側は父親への反抗の結果だろうが……それでもアレは無いだろう、どう見ても。

とはいえ流石に言い過ぎたかと思い、千雨は少し考えてから轟に話し掛けた。

 

「轟、ちょっと席に座れ。

パーソナルカラー……あー、肌や瞳の色で似合う色似合わない色ってのがあるからお前に似合う色を見てやる。

きんちゃ、色見本表出してくれ」

「了解ですー」

 

ネットアイドルのコスプレイヤーとして衣装製作やメイクをする関係上、独学ではあるがパーソナルカラーは勉強済みだ。

コスチュームケースを自席の机に置き、椅子に座った状態の轟と向き合いそっと前髪に触れて見本と見比べながら色味を確かめる。

 

「髪色はどっちも青みがかってて肌も黄色みは強くないし、ブルーベースなのは確実か。

あとは色の明度や彩度だけど、髪色が半々だからどっちも似合いそうだが……」

 

千雨はクイッと轟の顎を持ち上げた。少し驚いた表情の轟を無視して、虹彩を見る。

黒と緑の瞳は白眼部分とはっきり分かれている。光の加減で多少色が変わるが、ダークグレーとエメラルドグリーンだ。

 

「ウィンタータイプだな。

髪が赤と白だからグリーン系は除くとして…鮮やかで濃い青系統やモノトーン。明るく透明感のあるアイシーカラーをメインにしても良い。個人的には鮮やかな紺色が良いと思うぞ、お前の雰囲気に合ってる。

ブーツとか装備が今のままなら白と紺の組み合わせは外れないし綺麗に纏まる。ああ、もし新しく装備増やすなら白か銀にしとけ。

つかお前整った顔してるし素材は良いんだから、もっと格好に気を使ってだな……」

「…………」

「……な、なんだよ?」

 

コスプレのために身に付けた知識ということもあり、プロデュースに思わず熱が入ってしまう千雨。

診断を終えて轟の顎から手をはなして似合う色のリストを電子精霊に用意させて渡すと同時に、ほぼクラス全員からの視線を感じて思わず身じろいだ。

 

「何今の……モテ技コンボ!?」

「ナチュラルに髪に触れてから顎クイしたんだけど!?」

「その流れで誉めるとか千雨ちゃん人たらし過ぎるよ!?」

「はぁ?モテ技?つか顎クイってなんだよ?あと人たらし言うな」

 

上鳴、芦戸、葉隠の順でツッコミがいれられた。

こちらの世界に来てからドラマなどを見る機会はあまり無く、ほぼ毎日特訓と新技開発と勉強の毎日。

ドラマや映画は話題合わせ程度にしか知らず、トキメキシチュエーションとは縁がない千雨が『顎クイ』を知らなくても当然である。

 

「顎をクイッと持ち上げてキスする奴。知らない?」

「壁ドンからの顎クイとかされたらヤバいじゃん!ね!」

「顎クイはわかったけど壁ドンが何でヤバいんだよ、隣室への苦情だろ?」

「千雨ちゃん違うよ、男子が壁際で女子に手でドンってする奴!壁ズンもいいけど!」

「……駄目だ、わかんねぇ」

 

イヤホン半分こもそうだが、2004年を生きていたネットアイドル女子と異世界2XX1年女子高生の間にあるトキメキに対する常識の溝は深い。

 

「……轟くん、嬉しそうだね」

「ああ。長谷川と仲良くなれたからな。コスチュームについて助言を貰えたし」

「……そっかぁ」

 

純粋に仲良くなれたと微笑んで喜んでいる轟に指摘することなど緑谷には出来なかった。

 

「ちう様、是非とも今の技の御教授を!」

「お願いします!ちう様!」

 

女子にモテたい上鳴と峰田が90度にお辞儀して千雨に頼んだ。しかし、虎の尾を踏むようにして千雨ヒーロー名を呼んだアホ2人が無事で済む筈がなく。

 

「……放っておいて良いのか、アレ?」

「コスチューム着てない時に呼んだアホに同情する必要はねぇ」

「そうか」

 

腹パンを食らって床に伏す2人を無視して、千雨と轟はコスチュームケース片手に教室をあとにした。

 

 

 

千雨と轟の2人が到着したのは開発工房。校内にはパワーローダーの開発工房の他に、文化祭で全学年がアイテム作成するための大工房や試作品実験室など様々な施設がある。

鋼鉄製の引き戸の周辺には各種工具が入った箱がいくつも置かれていた。おそらくサポート科の生徒のものだろう。

 

「失礼します、パワーローダー先生は……っ!?」

「あぁ!可愛い!知ってたより華奢!細い!良い匂いっ!

体育祭で私の想像していた以上の魔法少女(魔法)かつ魔法少女(物理)って感じで、しかも性格もかっこよくて!すごく感動して直接会いたいと思ってたら、コスチューム変更希望とか聞きまして!先生から講演依頼も有ったので来てしまいました!

というかコスチュームどこが駄目でした!?フリルならもっと足せるんですけど、やっぱり尻尾つけます!?それとも鈴!?それはそれで有り!」

「落ち着けアホ、放して先に挨拶しろ」

 

扉を開けた瞬間に見知らぬ女性に抱きしめられた千雨。後ろにいた轟もビクッと反射で動くほど突然のことに、千雨は驚きすぎて硬直した。

そんな抱きしめてきた謎の女性の背中にパワーローダーがチョップを食らわせたお蔭で千雨は解放された。

 

「あの、パワーローダー先生……この人はまさか……」

「イレイザーヘッドからコス変について聞いてる。

このデカ女が長谷川お前のコス担当デザイナーだよ。……サポート科への講演を依頼してたんだが、お前に会うと言って聞かなくてな」

「クモイです!蜘衣 縫!

ああもうやっぱり可愛い!小さ可愛い!!それでいてあのかっこよさ!ああもうスッゴく私好み!!!好き!!!」

「ふぐっ!?」

 

再び抱きしめられた千雨。デカ女と言われたように、蜘衣の身長は轟より大きく180センチ以上あるのだろう。千雨の顔が胸に埋まる身長差だ。

肩で切り揃えられた青紫の髪に、蜘蛛のような複眼で縦に左右6つの赤い眼があり、腰の後ろ側から青紫の細い蜘蛛の脚が6本と1本の突起が生えている。クモの異形型個性らしい。

背中を叩いてタップしてなんとか放してもらう。

 

「蜘衣は雄英の卒業生だ。

大手デザイナー事務所の開発部門トップをするほどコスチュームやアイテム作成の腕はピカイチなんだが、見ての通り暴走しやすく趣味に走りやすい」

「でしょうね……!」

 

会って10分も経っていないが、パワーローダーの言葉はよくわかった。

この暴走っぷりと千雨のコスチュームを思えば納得である。

どうやら自身が大柄のため、自身より小さく性格がカッコいい女の子が好きらしい。ハァハァと顔を赤らめて息を荒げている様子はどう見ても危険人物である。

ちびちう姿を見たらもっと酷くなりそうだ。

 

「轟は変更する内容を聞いた上で俺が判断してやる。こっち来い」

「はい」

 

パワーローダーは轟を連れてパソコンの前にある椅子に座って相談を受け始めた。どうやら蜘衣の暴走に巻き込まれたくないらしい。千雨に押し付けたとも言う。

 

「それで!どこの変更を!?」

「猫耳が嫌なんでそれ変えて下さい」

「それを変えるなんてとんでもない!」

 

沈黙。

 

「猫耳が嫌なんでそれ変えて下さい」

「ブレないのね!……わかったわ。なら犬耳にしましょう!わんこ系魔法少女!」

「違う、そうじゃない。

そもそも動物耳から離れて欲しいんですけど」

「ええー?一応これには意味があるのよ?」

「……意味あったんですか?」

 

どう見ても蜘衣による趣味の産物だろうとしか思えないのだが、意味があってのデザインらしい。

 

「集音機能と無線の送受信用アンテナ内蔵ハイテクヘッドギアよ。兎耳だと長すぎてぶつけて破損しやすいし頭部が重くなるからコンパクトな猫耳型なの」

「……集音機能あったんだ」

「このヘッドギア、耳を完全に覆っているけど周囲の声が付けていない時と同じように聞こえていたでしょう?音に関連した個性との戦闘も想定して、ノイズカット機能を着けながらも人の声はしっかり拾うの!

要望に書いてなかったから取り付けてないけど、各種情報を表示する透過型ヘッドマウントディスプレイ機能もつけられるわ。その場合はサングラスと一体型になるけど」

「ヘッドマウントディスプレイって……」

 

SFここに極まれりかよ……。

そんなツッコミを千雨は心の中でしているが、そもそも電子精霊たちによって仮想ディスプレイやプログラムを実体化出来る時点で千雨の能力もファンタジーよりSFである。

 

「そういう色々な機能の詰め込みもあって耳部分を外せないんだけど……それでも変える?

あ、猫耳から変える場合は犬耳、犬のたれ耳、リス耳、ネズミ耳、キツネ耳、アライグマ耳のどれかで、なんなら尻尾もつけるわよ!というかスカートに尻尾つけて良いかしら!?」

「おい待てなんだそのラインナップ」

 

ロクなものがないが、おそらくこのラインナップは蜘衣の趣味なのだろう。そして彼女はケモ耳を外す気がないという強い意志がかいまみえる。

千雨は深いため息をつく。こういうタイプは絶対に自分を曲げないからだ。

まぁ『ちう』として活躍する分には今日のヒーロー基礎学で吹っ切れたから諦めるかと思い、他の要望を出すことにした。

 

「猫耳のままでいいです。尻尾はいりません。

あ、ヘッドギアとサングラスは絶対に一体型にしないで下さい」

「素顔NG?」

「絶対NGです。あと予備のサングラス1つお願いします。

それからスカートのポケット片方だけじゃなくて反対側にも布地厚めの頑丈な奴お願いします。遠距離攻撃でポケットに手を入れるので」

「あの体勢が攻撃モーションなのね、わかったわ」

「サポートアイテムになるんですけど、帯電するための発電機か充電器をお願いします」

「それって電撃パンチのためよね!?」

「その話!!!詳しくお願いします!!!」

 

蜘衣と話していると、ガラッと大きな音を立てて開いた扉からサポート科の発目が来襲。どうやら話が聞こえていたらしい。

発目の格好が制服ではなくツナギ姿からして、工房で開発しに来たのだろう。

 

「発目、蜘衣の講演に対する課題レポートはどうした?」

「プロによるコスチューム改良なんて胸膨らむ出来事を前にすれば、課題なんて1時間あれば終わりますよ!パワーローダー先生、これ課題のレポートです」

 

発目はサッと数枚のコピー用紙の入ったクリアファイルをパワーローダーに渡して、すぐに千雨に詰め寄る。

 

「発電機ということは自力で発電出来ないということですが、あれはやはり相手の電気を吸収することで実現できた技ということですね!?」

「あっはい」

「発電機となると耐久性も考えて大型になりやすいわよ。コンパクトで大容量の充電器の方が持ち歩くには現実的ね」

「この第11子の充電器なんかいかがですか!?この電池は私のベイビーたちの主要電源部品としても使っておりまして!」

「市販の物よりずっと軽くて良いわ!Z社の物を参考に?」

「分かりますか!?Z社は大手というだけあって素晴らしいパフォーマンスですが重量がありすぎるという所を独自改良しまして……」

 

蜘衣と発目の二人が千雨を置いてきぼりにして盛り上がり始めた。どうしたものかと思って、千雨はパワーローダーと轟の様子を見る。

 

「この変更は大幅な改良になる。ここまでの大幅な場合はデザイナー事務所に申請書作成して依頼になるぞ。

早くて週明け……遅くても職場体験前には戻ってくるが、それでいいのか?」

「お願いします」

 

千雨がブレーキのない暴走機関車のような2人に振り回されている横で、轟のコスチューム改良が順調に進んでいたようだ。

元々千雨が申請していたのに、ついてきた轟の方が進んでるってどういうことなんだと思いながら、暴走しかけている技術者2人の会話に割り込んだ。要望はねじ込める所にねじ込めておかねば大変な事にされかねない。

 

「電力を大量に出し入れ出来るのと耐久性は忘れないで欲しい。

あともし出来るならデバイスの充電も出来るように頼む」

「デバイスといえばプログラムの実体化!あれもスッゴく気になってて!」

「デバイスとデータが必要なこと以外は口外無用なので諦めて下さい」

「あ、私のベイビー第17子の外付けハードディスクとかどうです?スマホサイズで容量2テラあるんですよ」

「発目、それ買う」

「話がずれたけど充電器は私も工房で作るから発目ちゃんの充電器と比較テストしてもらって良いかしら?」

 

女三人寄れば姦しいと言わんばかりに装備についてそのまま討論が白熱。

轟はパワーローダーの好意もあり、そのまま終わるまで工房で待っていた。

爆発も事故も起きないで済むなんて奇跡のように平和だから待っているくらい構わない。そう語るパワーローダーの目は穏やかに、それでいて光を失っていた。

 

最終的に千雨の黒猫魔法少女風コスチュームデザインはほぼ変わらず装備の増加で終わり、3人は連絡先を交換。

コスチュームケースをパワーローダーに渡して轟と千雨は一緒に下校。

 

その後、轟といることが再びSNSに載せられ、帰宅してから再び火消しをする羽目になった千雨。

轟に関わる毎に炎上してると気付き、距離を置こうと決意したのだった。

 

 




オリキャラ設定
蜘衣 縫 クモイ ヌイ(32)
雄英卒業生で、若くして大手デザイナー事務所の開発部門トップデザイナーになる腕の持ち主。
185センチの高身長な女性で異形型の外見。個性は蜘蛛糸。腰の後ろにある突起から糸を出せて、糸の太さや色が自在に変えられる。
自身より小さく可愛いものと動物が好き。
チームデビューしたワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツのコスチュームデザインをした人でもある。

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