ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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喋らせにくさは千雨ちゃんと良い勝負。
それでもカッコイイから出した。悔いはない。

制服とか場所とかは、色々こじつけた独自設定です。



再びの中学、新しい友と装備と力

千雨の真新しい制服はセーラー服である。

 

デザインは一般的なもので、学園祭で着ていたものとほぼ同じ。夏服は半袖で白とスモーキーブルー。冬服は長袖で黒。

男子は冬服だと学ランになるようだ。

 

編入学先は円扉中学校という静岡県にある公立中学。駅近くのマンションに部屋を借りて生活することとなった。

借りたというよりも、ヒーロー公安委員会の社宅という形でマンションの一室を与えられたが正しいか。ヒーローも利用しているマンションのため、ヒーローが代理で監視するのだろう。

精神状態の把握として義務付けられている日記を会長にメールで提出している。書くことなんてそんなに無いので、ニュース記事とかの日記になっているが。

 

 

転校先が都内でないのは、言ってしまえばマスコミ対策であり、安全対策である。

会長や委員会が保護した子供と生活していればマスコミに嗅ぎ付けれかねない。

そして、都内は地方と比べて犯罪発生率が上がる。千雨はまだこの世界に来て間もないため、犯罪に巻き込まれた場合に"反撃"しかねないからだ。

救けを待つくらいなら殴ってしまえ。千雨が魔法世界で学んだことである。

 

今日から転校生として半年間過ごすことになる円扉中学は公立校で平均的な学校である。

名門私立の学校では都内同様に目立ちやすい。地方にあり、都心からある程度アクセスしやすく、県庁所在地ではない場所の公立校として選ばれた。

 

高校は出来れば国立で学費の心配の無い高校に行きたい。というか、是非雄英に来るようにと根津校長から言われた。

教師二人を不意討ちとはいえ無傷で人質に出来るのだから当然か。

ヒーロー公安委員会の会長からも保障する代わりにヒーローになることを条件付けられているため、その場合はヒーロー科一択である。

倍率のエグさで落とされそうだが。

 

 

 

転校先は円扉中学の3年A組で、間違えにくいのは良いと思った。

クラスには男女あわせて30人近く。クラスには様々な個性持ちがいた。異形型は目立つのも当然ではあるが、それ以外の生徒も髪色や肌色が様々で目立つ。

そして千雨は改めて思ったのが、元クラスメイトたちが同等の個性的な奴らであったということ。やっぱり麻帆良はおかしい。そう思ってしまっても不思議ではなかった。

 

「えー、中途半端な時期の転校生だが、皆仲良くするように。

ちなみに長谷川は雄英のヒーロー科志望だそうだ」

 

担任の言葉にざわつく教室。

それもそうだろう。なにせ雄英のヒーロー科と言えば倍率300の超難関校。日本一のヒーロー科と言っても過言ではないのだ。

とはいえ、千雨はそんな事はあまり気にしていない。落ちるかもしれないからだ。

 

「ああ、長谷川の席は窓側の空いている席だ。

全員このあと始業式で、それからホームルームになる。長谷川は最後尾に並んでくれ」

 

窓際一番後ろの席に向かう。

隣は男子で、頭部が黒い鳥のような鳥頭人身の異形型の見た目。背はそれほど大きくはないらしい。

 

「隣よろしく。えっと…」

「常闇踏陰だ、よろしく」

 

軽く会釈して座る。静かそうな隣人に少し安堵し、小さなため息をついた。

この世界に来て約1ヶ月。悩み事ばかりである。

 

 

 

 

転校の10日前にさかのぼる。

 

転校に伴って一人暮らしとなった千雨は身体を鍛えようと考えていた。

 

というのもこの世界、犯罪発生率が酷い。

先進国のほとんどが犯罪発生率20%で、日本だけは一桁の6%。

個性の発現によって犯罪発生率は軒並み上昇し、ヒーロー関連の法律施行によって諸外国では20%でなんとか安定しているのが現実である。

もちろん、発展途上国や問題を抱える国については言うまでもない。

 

では、何故日本だけが犯罪発生率が一桁台なのか。

それは日本のNo.1ヒーローが世界中で平和の象徴と呼ばれるほどの凄いヒーローなのだ。

平和の象徴にして不動のNo.1ヒーロー、オールマイト。

万能をヒーローネームとしているその人物は20年以上も日本でトップに君臨している。

 

ニュースにも頻繁に出てくるヒーローで、それは事件事故の解決だけでなく、広告やコラボグッズなども多い。

オールマイトの成した伝説とも呼べる偉業の数々は、ラカンのおっさん並みに意味がわからないほどであった。どちらもムキムキだし、前髪長いし、笑い方もどことなく似ている気がする。

いや、スカートめくりだとかパンツ抜き取りとかするヘンタイ親父のラカンは基本的に人として最低だから、トップヒーローと一緒にしたら失礼だろうが。

 

そんな世界だと近代史で知ったため、猫2匹分の戦闘力と言われた千雨は今のままでは危険だと察したのだ。

開発したアーティファクトアプリがあるため以前と同じ猫2匹とは言い切れないが、アプリ無しの身体能力は猫2匹である。

 

ちなみに引っ越す前は監視の目があったため、実行に移すことは出来なかった。

不審な行動をしていたとして問い詰められたり警戒されるのは遠慮したかったからである。

 

 

 

そんなわけで、引っ越ししたその日から千雨は身体を鍛えるための調べ事を始めた。

ちなみに家具家電は公安委員会の援助で購入。最新の電子機器、特に最新スマートフォンと高性能パソコンには思わず笑みが溢れそうだった。

 

「桜咲たちがやってた瞬動術は身に付けておいた方が良いよな…逃げるための足は必要だし。

電子の王、再現、世界図絵」

 

アーティファクト、世界図絵。

見た目は魔法学校で配られる魔法の教本である。本革で装丁されたその本は週刊少年漫画雑誌くらいの大きさと厚さだ。

能力は魔法に関するあらゆる問いへの答えを開示する百科事典。もちろん魔法だけでなく、気についても記載されている。

 

使うには、ある程度読むための前提知識が必要になるのだが、そこは電子精霊たちの力を借りれば万事解決だ。

 

「瞬動術のやり方…これか。

えーっと?…足の指先に気か魔力を込めて、地面を掴んで蹴って、着地で地面を掴む。

…気か魔力使うんじゃ無理だな」

「ちう様、どうですか?」

「気は身体鍛えてねぇから無理だし、魔力操作も出来るようになるまで時間かかるし…やっぱ無理だな。

でも何かあった時に反撃出来ねぇ世界だし…どうしたもんか」

 

魔法使いの移動方法として開示されたものには、箒や杖での飛行もあったが、それは目立ってしまう。なるべく物を使わない移動が好ましいのだが、やはりそうウマい話はない。

電子精霊の問いに答えながらどうするかと考えていた所、あっさり解決する。

 

「ちう様、魔力操作ならばすぐに使えるようになりますよ」

「そもそも僕ら精霊を使役してるし」

「精霊使いの才能あるもんねー」

「…へ?」

 

電子精霊の言葉に思わず固まる。

確かに千雨は彼ら電子精霊を使役している。しかしそれが魔力操作とどう繋がるのかわからなかった。

 

「ちう様、魔力というものが自然の持つエネルギーを利用しているのはわかりますか?」

「ああ。

魔法は精神力で自然の魔力を支配して呪文でそのエネルギーの方向を決定付ける。だから魔力は精神力を消費する。

気は体内の生命力を燃焼させているようなものだから体力を消費する。そしてこの二つは外と内、陰陽のように相反する。

神楽坂とか高畑が使える咸卦法ってのは、相反するその両方を使うって聞いた」

 

魔力と気の違いについては夏休みの旅行という名の冒険前に教えてもらった。その時はゲームの仕組みかよと思ってしまったが。

 

「精霊というのは自然に宿る魔力の中でも意志を持つものですので、純粋な魔力以上に制御が難しいのです。

言うことを聞かない動物の手綱を引くのと、荷車を引くことの違いみたいなものですね」

「んー…精霊相手だと意志の無い魔力より言う事きかせるために制御が難しくなるが、その代わり、言うことを聞かせられれば私自身の力はそんなにいらないってことか」

「そのとおりです!

ちう様なら僕らに命令するように力を望めば貰えるかと!」

「ちう様は精霊に好かれやすいみたいだし」

「アーティファクトの使用も出来てますし、魔法使いとしての才能はありますよ」

 

電子精霊たちの助言を受けて改めて考える。

魔法世界では綾瀬がアリアドネー戦乙女騎士団の士官候補生となっていた。勿論、夏休み前の時点で魔法少女よろしく色々出来てたから下地あってこそだが…そんなに簡単に出来るようになるのだろうか。

 

「こういう100%非日常ファンタジーな魔法のことは正直知ろうとしてなかったが…そんなもんなのか?」

「普通の人は魔力を認識してから精霊を認識しますが、ちう様の場合は逆になりますから少しは楽かと」

「精霊を従えられる精神力を持っていることは僕らとアーティファクトが証明してますからー」

 

アーティファクトとは従者となる者の才能に左右される。

千雨のアーティファクトは、精霊に好かれ従えられる才能と電子機器やプログラミングの才能の2つが組み合わさった末のものだろう。

 

「魔法を勉強してた綾瀬や近衛は火を灯す呪文から習ったって言っていたな。魔法学校のカリキュラムから独自にスケジュール組んだって綾瀬も言ってたし…」

「ちうたまのアーティファクトなら、僕たちが代理で魔力を動かすことも可能です」

「魔法陣とか結界へのハッキングみたいな感じで」

「成る程…。

そういや自身に魔力を供給する方法があったな…戦いの歌だったか?」

 

世界図絵で調べながら魔力を身に纏うための呪文研究などをする。

電子精霊という意志を持つ魔力の塊がいるので魔力の操作について覚えることは簡単だった。

 

そう、覚えることは。

それを実際に身体に付与したり、運用することはとてつもなく難しかった。簡単には強くなれないとは思っていたが、千雨もここまでとは思っていなかった。

 

というのも、千雨は魔法発動体の道具―――いわゆる魔法使いの杖を持っていない。

正確には、アーティファクトである力の王笏を杖として代用し電子精霊たちの補助があれば簡単な魔法は使えるようには既になっている。

だが、人目のつくところでおもちゃのような魔女っ子ステッキを振るうのは流石に恥ずかしい。それに目立つ。

そのため、力の王笏無しでも出来るようにと特訓しているのだ。

 

魔法発動体は出力を安定させる役割を持つ。それがないため、千雨は一定の魔力出力というものを発動体無しで身に付ける特訓をしている。

高位の魔法使いならば問題ないが、初心者にそれを求めるとなると難易度は数倍になる。

そのため、初歩的な魔力操作を覚えるのに、時間がかかっていた。

 

 

 

始業式を終えた教室で、帰りのホームルームが始まるまで千雨はアーティファクトの世界図絵を開いて、発動体の自作が出来ないか調べていた。

発動体は隠しやすい腕輪か何かが良い。指輪だと人に見られやすく、学校では取り上げられかねない。

 

転校初日なのに分厚い辞書のような本をどこからか取り出し開いた千雨に、周囲は近付く筈もなく。

チラチラと時折見ながらも、話しかけずに遠巻きにしている。

 

千雨は放課後に電子精霊のこんにゃを呼び出して、発動体について話していた。

 

「装飾は少ないものが良いが、やっぱ文字とか石とかは必要か。

先生の使っていた奴と同じ文字にするとして…これもしかして手作り必須?」

「仕方がありませんが」

「マジかよ」

「シルバー粘土で作れば大丈夫かと」

「それ発動体として大丈夫なのか?壊れねぇ?」

「そこは作成に我々が手を貸しますので、頑丈にしますから」

 

こんにゃの薦めもあり、半日で終わった学校帰りに材料を揃え、指輪とバングルを作った。

指輪は平打ちリングと呼ばれる飾り気のないシンプルなものに文字をスタンプ。

バングルはよく見かけるCバングルではなく円形のもの。幅が1センチほどで同じように文字の刻印はあるが他に飾り気はないシンプルなものだ。どちらにもサイズが変わる魔法をかけてあるため、突然抜け落ちたりはしない。

また、通常ならば銀粘土の作品は壊れやすいのだが、そこは電子精霊によって、本来ならあり得ない事だがかなりの硬度になっている。銀粘土を提案したのは入手のしやすさに加えて、電気を通しやすい素材であるため電子精霊たちが手を加えやすいのも理由である。

 

発動体として使えるかは確認済み。学校にはバングルをリストバンドの下に隠して付けていくつもりだ。

 

 

普段使いするバングルで魔力操作の練習をする。

発動体の無い状態で練習していたからか、すんなりと魔力を纏えた。

全身が薄ぼんやりと光の膜を纏っているかのようだ。

 

「う…な、なんか変な感覚だな。うっすら光ってるし…ファンタジーやべぇ」

「ちう様の使う力は大体ファンタジーかと」

「それは言わないお約束」

 

電子精霊たちの言葉はこの際無視して、ここからは瞬動術の特訓である。

一度魔力を解除し、ジャージ姿で自転車に乗って近くの海に向かい、浜辺で再び魔力を纏う。

 

「えっと…指先に力を入れて、掴んで、蹴る!」

 

グッと指先に力を入れて踏み込み、着地に失敗して思いっきり転んだ。

魔力で強化しているため怪我はしていないが、踏み込んだ場所の砂地が大きく抉れているのを見て、自分で自分の力にドン引きしていた。

 

 

 

翌朝、登校しながら千雨はため息をついていた。

 

「あそこで着地が出来ないとか、想定外過ぎるだろ…」

「ちう様、元気だしてー」

 

昨日、あれから何度も浜辺で瞬動術の特訓をしていたのだが、転びまくった。魔力のおかげで怪我こそないが、砂まみれになるまで頑張っていた。一向に上達しなかったが。

 

「魔力は問題ないし、踏み込みも…まぁ威力あったけど問題なく出来た。

コツさえ掴めりゃなんとかなると思うが、他の方法も考えておくしかないか…魔力込めて走るとか」

「それでも自動車は抜かせる速度出せますし、良いかもしれませんが…」

「そういう奴らがザラにいる世界だからな。

やっぱり習得するほか無いか…」

 

千雨は勘違いしているようだが、そんな高速で移動が出来る個性を万人が持っている訳ではない。

どちらかと言えば麻帆良学園など魔法関係の人々である。

 

電子精霊たちと話しながら歩いていると、隣の席の常闇と出くわした。もうすぐ学校だからおかしくはないが、常闇は千雨を見て目を丸くしている。

 

「それは…長谷川の"個性"か?」

「あ?ああ…こいつらか」

「俺の個性と似ている」

 

どうやら見ていたのは千雨ではなく電子精霊のようだ。

ふよふよと浮遊する電子精霊たちは常闇に近付きあいさつしている。

何故だか流れで一緒に登校することになった。

 

「自我を持つ"個性"は珍しいと言われていたが、長谷川も同じとは知らなかった」

「別に…人に言いふらすような個性じゃないし」

「そうか。

それでも見せてもらったからな。これが俺の"個性"、"黒影(ダークシャドウ)"だ」

「ヨロシクナ!」

 

常闇の身体から伸びる黒い実体を持つ影が親指を立ててあいさつしてきた。

 

「…よろしく」

「雄英を目指しているのだろう?俺も雄英志望だ。

合縁奇縁。長谷川と友宜を結びたい」

「友宜?」

「ああ」

「…教師に何か言われた?」

 

転校初日から周囲と関わらない千雨に対して、教師がいじめなどの危機を抱いたなら納得がいく。

 

「否、俺の意志でだ」

「…変な奴」

 

変わった口調で、見た目が異形型の常闇だが…何故だか仲良くなれた。

静かなのを好み、互いに踏み込まないからかもしれない。

そんな常闇が千雨の隠しているバングルの存在を知って彼の厨二心が疼くのはまた別の話。

 

 

 

千雨は勉強の合間に何度も繰り返し繰り返し瞬動術の練習をする。途中で魔力切れで倒れかけたりしつつも、2ヶ月。

11月初め。すっかり秋めいて冷え込むようになったある日。

グッと指先で地面を蹴り、親指の付け根部分で着地して指で地面をつかみ、かかとを着地させる。

柔らかく、しなやかに。指先からかかとまで、足裏に神経を集中させて。

転ぶ衝撃を覚悟して目を閉じたが、大きな音がしたものの痛みも衝撃もない。足裏の砂の感覚にそっと目を開け、振り替えった。

およそ5メートル。砂埃の先に先程まで立っていた場所がある。

 

「…出来た……」

 

砂埃も音もあるが…初めて転ばずに瞬動術に成功した。

 

「はは、思ったより才能あるんじゃねぇか、コレ?」

 

初めて逆上がりが出来た時や、自転車に乗れた時に似た達成感と感動に思わず頬が緩む。

感覚を忘れないうちに何度も何度も練習する。少しずつ砂埃や音が減っていく。この調子で毎日特訓すれば―――。

 

「…って待て待て!

この私がなんでファンタジーというかビックリ人間みたいなことやってるんだ!?

私はどこにでもいる平々凡々な一女子学生で…」

 

ファンタジーに対するアレルギー反応のように自身の発想に反論するが、同時に習ったヒーロー関連の法律施行と、ヒーローの敵退治映像が脳裏をよぎる。

 

「……いや、死んだら元も子もないし、うん。

…普通…生存戦略だから…普通。…この世界で無力のままとか無理だし…うん…」

 

「自己暗示だね」

「現実逃避だね」

「そこウルサイ」

 

非常識な力に対抗するためには非常識な力を身につけなければならない。

だからこれは、仕方がないのだ。そう自分に言い聞かせる。

 

 

じわじわと一般人から逸般人へ成長していく千雨であった。

 

 

 


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