ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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罪と英雄 中編

「ちう様!轟さんをお連れしました!」

 

しらたきが千雨に見えるように敬礼をする。

無事に間に合ったが、プロヒーローやサイドキックは同行していない。

 

「轟くんまで…」

「何で君が…!?それに、左……!!」

「私が呼んだ!左使うとは思ってなかったけど。

つーか轟までプロ置いてきやがったのかよ……!」

「悪ぃ長谷川。一刻を争うと思ってな。

緑谷からのメール見て数秒"意味"を考えたよ、一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういうことする奴じゃねぇからな、お前は。

向かってる途中で長谷川の電子精霊が来て、そいつから詳しい状況聞いた。

大丈夫だ、数分もすりゃプロも現着する」

 

轟は話しながら氷と炎を交互に使い、ヒーロー殺しを牽制しながら動けない緑谷とプロヒーローを氷で地面から押し上げ、炎の熱で氷を溶かして氷上を滑らせて移動させる。

 

「こいつらは殺させねぇぞ、ヒーロー殺し」

 

ヒーロー殺しの"個性"で動けなくなっている3人を背に、今度は轟が立ち向かう。

 

「轟くん、そいつに血ィ見せちゃ駄目だ!

多分、血の経口摂取で相手の自由を奪う!皆やられた!」

「それで刃物か。俺なら距離保ったまま……っ!?」

「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」

 

ナイフを投げたヒーロー殺しに頬を切り裂かれ、轟は一瞬で間合いを詰められた。

ヒーロー殺しの左手のナイフを氷筍で防ぐが、上空に投げられた日本刀が轟に向かって落ちてくる。その隙に轟の頬を伝う血を舐めようとしたのを炎を纏って寸前で防ぐ。

落ちてきた刀を緊急防壁で防いで弾いたものを轟の氷結を回避しながらヒーロー殺しはキャッチして轟の氷を叩き斬る。

 

「っぶねぇ!」

「わりぃ轟、防御遅れた!」

「あのシールド、長谷川の新技か。

長谷川、俺は攻撃と牽制に集中する。動きに合わせてくれ」

「ああ!」

 

轟に攻撃するヒーロー殺し。その攻撃が轟に当たらないように千雨が防ぎ、轟が背後の3人を守るように氷と炎で牽制する。

 

「…何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなきゃ。そいつは、僕が…」

「継いだのか、おかしいな……。

俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。おまえん家も、裏じゃ色々あるんだな」

 

ヒーローの家で生まれ育ったとはいえ、轟からすれば家族を誇りに思える飯田の家庭は、自身の家とは大きくかけ離れていると思っていた。

だからこそ、かつての自分と同じ憎悪を宿した目をしているのが気にかかっていた。

 

「己より素早い相手に対し、自ら視界を遮る……愚策だ」

「そりゃどうかな」

「緊急防壁っ!」

 

千雨が轟の左腕に刺さりそうになったナイフ2本を弾く。轟が崩れた氷に向かって炎を走らせたが、ヒーロー殺しはそこには居らず、真上へと跳んで日本刀での突き刺しで飯田を狙っていた。

轟がヒーロー殺しに向かって炎を出そうとした所で、動けるようになった緑谷がビル壁を蹴ってヒーロー殺しに瞬時に接近して赤い襟巻きを掴んで、ヒーロー殺しを引きずるようにしてビルの外壁にぶつける。

 

「緑谷!」

「なんか普通に動けるようになった!!」

「時間制限か」

「いや、あの子が一番後にやられたハズ!俺はまだ動けねぇ……」

「飯田もまだ動けないみたいだし、何か条件がある筈だ」

 

ヒーロー殺しは肘鉄で緑谷の脇腹を攻撃して拘束から逃れる。

緑谷が再び動きを封じられる前に、轟が地面に氷を走らせて牽制する。

 

「血を摂り入れて動きを奪う。僕だけ先に解けたってことは、考えられるのは3パターン。

人数が多くなるほど効果が薄くなるか、血の摂取量で効果時間が変わるか……血液型によって、効果に差異が生じるか……」

「血液型……俺はBだ」

「僕はA……」

「血液型……ハァ、正解だ」

 

血液型で効果に差異が生じることを何故か教えたヒーロー殺し。子供相手とはいえ一対多でも余裕だということの表れだろうか。それともブラフか。ヒーロー殺しの様子から前者だと察する。

 

「わかったとこで、どうにもなんないけど……」

「さっさと2人担いで撤退してぇとこだが……氷も炎も避けられる程の反応速度だ。そんな隙、見せらんねぇ」

「うん。きっと長谷川さんのシールドで防御しながらも無理だ。

プロが来るまで、このまま近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」

「轟、お前は遠距離広範囲攻撃が出来るんだ、後方支援に徹しろ。近接になった時のスピードなら緑谷の方が上だし。

緑谷、お前に無茶させるけど……いけるか?」

「大丈夫。僕も長谷川さんと同意見だ。僕が奴の気を引き付ける!」

「相当危ねぇ橋だが…そだな。

3人で守るぞ。長谷川はサポート頼む」

「OK、無茶すんなよ」

 

囮役として緑谷がヒーロー殺しの気を引き、轟は緑谷の動きに合わせて氷と炎を使う。千雨は緑谷への攻撃を防御して血を流させないようにする。

これが今の状況で取れる最善策だと信じて。

 

「んだコイツ、動きが速くなって……!」

 

ヒーロー殺しが先程までより動きが良くなっている。まるで個性が増強系かのようだ。殺人のために剣術だけでなく肉体の鍛錬を行っているのは明白。それでも予想以上のパワーとスピード。

警戒をより強める千雨だったが、ヒーロー殺しはフェイントを使い千雨の防御より早く緑谷の足首を切りつけた。

 

「緑谷っ!」

「長谷川さんは轟くんを!」

 

緑谷と轟と千雨が飯田を救けようと必死に抗う中、動けない飯田は思い出していた。

ヒーロー殺しに言われた言葉。緑谷の救けに来たという言葉。千雨とヒーロー殺しの会話。轟の守るという言葉。そして自身の『殺してやる』という心からの叫び。

この10分にも満たない間に、飯田は殺意と悔悟で揺らぎ続ける自身の在り方に気持ちの整理が出来ず、思わず涙をこぼした。

 

「止めてくれ……もう……僕は……」

「やめて欲しけりゃ、立て!!!」

 

轟は飯田の言葉に対して激励をする。

何年もの間、憎悪を糧にしていた轟だからこそ飯田の胸の内に巣食う闇が分かった。そういう人間の視野がどれだけ狭まっているかも。

同じような状況から緑谷と千雨に救われた轟だからこそ言える一言を、飯田に。

 

「なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!!」

 

一番最初に目指していたものを飯田に思い出させるために、轟が叫んだ。

それと同時に、ヒーロー殺しが刀に着いた緑谷の血を舐めながら、轟の氷を斬る。

 

「氷に、炎。

言われたことはないか?"個性"にかまけ、挙動が大雑把だと」

 

ヒーロー殺しは轟の炎を左側に移動しながら回避。刀を轟の伸ばされた左腕の下から斜めに刺しこみ、袈裟斬りにしようとする。

 

「化けモンが…!」

「緊急防壁!!!」

 

轟の胴体を袈裟懸けに斬られる前に千雨が防壁で刀を止める。しかしヒーロー殺しはその隙にもう片手で持っていた細く小さなナイフ1本を轟の左腕に刺す。

 

「強力なシールドだが、面での防御で範囲に制限がある」

「ぐっ!?」

「轟っ!!」

 

2本目を刺そうとするヒーロー殺し。しかし刺されるよりも早く、轟の後ろで飯田が立ち上がって走り出した。

 

「レシプロ…バースト!!」

 

動けるようになった飯田の蹴りで緊急防壁で止めていた日本刀が折られ、飯田はそのままヒーロー殺しに蹴りを食らわせる。

 

「飯田くん!!!」

「解けたか……意外と大したことねぇ"個性"だな」

「轟、怪我は…」

「大丈夫だ」

 

刺さったナイフから血が少し流れている。しかし無理に抜いては出血が酷くなるためそのままにするようだ。

 

「轟くんも緑谷くんも、関係ない事で……申し訳ない……」

「また、そんな事を……」

「だからもう、2人にこれ以上、血を流させるわけにはいかない」

 

飯田は目の前のことしか見えていなかった。友に血を流させてしまった。兄の名を使った。救けようとする3人に遠く及ばない。憎悪にとりつかれてヒーローらしからぬ行動をした。

だからこそ、今一度正しくあろうと飯田はヒーロー殺しに立ち向かった。

 

対して、ヒーロー殺しは刀を折られたことよりも飯田の言葉に対して静かに怒りを顕にした。

 

「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。

お前は私欲を優先させる贋物にしかならない!

"英雄"を歪ませる、社会のガンだ。誰かが正さねばならないんだ」

「いいや人は変わる、変われる。

たとえそれが受け売りでも、感化されたものでも、贋物であろうとも!"英雄"たらんとする気持ちに偽りはない!

正すために殺人を選んだお前こそ、社会のガンだ!」

「いいや、言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など…ない」

 

ヒーロー殺しに反論する千雨。しかし飯田はヒーロー殺しの言う通りだと訂正した。

 

「それでも……それでも、折れるわけにはいかない……。

俺が折れれば―――インゲニウムは死んでしまう」

「論外」

 

飯田の言葉が逆鱗に触れたのだろう。ヒーロー殺しの形相が恐ろしいものへと変わった。

ヒーロー殺しが襲ってくるよりも早く、轟が炎を出す。

未だに逃げずに個性を使う轟に、動けないままのプロヒーローが声を張り上げた。

 

「馬鹿っ……!!ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ!

応戦するより逃げた方がいいって!!」

「そんな隙を与えてくれそうにないんですよ。

さっきまでと様相が変わった」

「それよかまだ動けないんだろ、そのまま臥せってろ!」

 

ヒーロー殺しの動きはまるで最初は遊んでいたと言わんばかりに格段に良くなっている。それだけプロヒーローと飯田を殺そうとしているのが轟と千雨には分かった。

炎で牽制している轟に飯田が声をかけた。

 

「轟くん、温度の調整は可能なのか!?」

「炎熱はまだ慣れねぇ、何でだ!?」

「俺の足を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

 

話していて警戒が薄れていたのだろう。ヒーロー殺しが範囲攻撃の出来る轟狙いで細身のナイフを投げた。

 

「邪魔だ」

「緊急防壁!」

「轟くんは一旦下がって後ろに……っ!」

「お前も止まっていろ」

 

千雨がナイフを防いだとはいえ、2人の視線が上に向き、飯田が轟を守るように前に出た。

その瞬間、ヒーロー殺しは轟へ再びナイフを投げて千雨が再度展開したその防壁を足場にして跳躍し、飯田へ大きめのナイフを投げて右腕に突き刺す。

その痛みで飯田は膝をついた。

 

「はぁっ!?足場にするとか有りかよっ!?」

「飯…」

「いいから早く!!」

 

ヒーロー殺しの攻撃はまだやまない。再びナイフを投げられないようにと千雨が防壁を張る。

飯田は左手で右腕に刺さったナイフを抜こうと腕を動かすが、ダメージが大きすぎたのか左肩から腕全体に激痛が走る。

そこで飯田は口でナイフを引き抜き、轟は飯田の足を排気筒を塞がないように凍らせた。

個性のエンジンが使えるのを確信した飯田はヒーロー殺しに向かって跳躍。同時に緑谷もヒーロー殺しに跳躍して差し迫る。

緑谷の右拳と飯田の左脚がヒーロー殺しへ確実にダメージを与えた。

 

「やったか!?」

 

頭部と腹部へかなり強烈なダメージが入ったヒーロー殺しはまだ飯田の殺害を諦めていないのか、折られた刀を飯田に向かって振るおうとする。

 

「お前を倒そう!

今度は…!犯罪者として―――…ヒーローとして!!」

「たたみかけろ!」

 

飯田の蹴りが脇腹に入ると同時に、轟の炎がヒーロー殺しの顔面を焼く。

落下してきたヒーロー殺しと緑谷と飯田。轟は器用に緑谷と飯田だけを滑らせ、ヒーロー殺しに警戒する。

 

「立て!まだ奴は…」

 

そう言って見上げた先には、力なく轟の氷の上で気絶しているヒーロー殺しの姿があった。

 

「こんにゃ、はんぺ、お前ら確認してこい」

「イエッサー」

 

二体がそっと近付いてヒーロー殺しの様子を確認する。不用意に近付いて気絶した振りだった場合を警戒してだ。

 

「ちう様、完全に気絶してます」

「じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは……」

「轟、お前たちは怪我してるだろ。動き回るな」

「我々が探してきますので、皆さんは安静にしていて下さい」

「じゃあ僕らは念のため、武器を全部外しておこう」

 

路地裏の奥の方へと浮遊していく電子精霊たちと、てきぱきと行動する緑谷と轟。飯田は半ば呆然と、あっけなく倒されたヒーロー殺しを見上げていた。

ヒーロー殺しの武器を外しながら、緑谷がふと千雨に声をかけた。

 

「そういえば長谷川さん、どうして飯田くんのピンチがわかったの?」

「職場体験初日の朝、解散前に電子精霊を監視としてつけておいた。

電子精霊は動いてる電子機器がありゃ、私から離れても大丈夫なんだ」

「大丈夫とはいえ、名古屋にいるんだろ。

無理してねぇか?」

「一切無理してねぇよ。言っただろ、私は後方支援専門が希望だって。

本来、こういう遠くからの通信とかハッキングによる電脳戦が主力なんだよ。つーか戦闘は専門外って何度言えば良いんだか……。

通信はともかく、ハッキングも電脳戦の技術も学校の授業じゃほぼ意味ねぇから仕方がないけどよ」

 

そもそも、ヒーロー科の授業でハッキングなど高度かつ専門的な技術を求められる授業やハッキング技術を身に付ける授業はない。

今後も学校の訓練では用いられる事のないであろうスキルだ。

 

「そういえば、グラントリノも付け焼刃とか言ってたっけ……」

「ちう様、ロープ見つけてきましたー!」

「武器も外し終わったぞ」

「じゃああとは縛るか」

 

地面にヒーロー殺しの持っていた武器を並べ終わった轟。

千雨は横になったままのプロヒーローに声をかけた。

 

「そっちのプロヒーローさん、まだ動けなさそうですか?」

「ちょうど動けるようになった。

あとプロヒーローじゃなくて、ネイティブって名前だ。救けてもらって悪かったな」

「ネイティブさん、ですね。

ヒーロー殺しの拘束をお願いしても大丈夫ですか?」

「それくらいお安い御用さ」

 

ネイティブがヒーロー殺しをロープで拘束していく。

 

「ひと段落したし、ネイティブさんには後のことお願いします」

「長谷川、通信切るのか?」

「ああ。いつまでも繋いでても無駄だろ。三人ともちゃんと治療受けろよ」

「それでは失礼致します」

「また学校で~」

 

ディスプレイが緑谷たちの目の前からフッと一瞬で消える。電子精霊たちも敬礼をしながら光の粒子を残して消えていった。

 

回線を切断した電脳空間で千雨はひと段落したことに安心しつつ、一息つく。

 

「さて……それじゃあ後始末を始めるか」

 

電子精霊たちに指示を出し、キーボードを叩いていく。

千雨の夜はまだ終わらない。

 

 


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