ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

49 / 110
ゴールデンウィークも終わりが近いですね。
作者は家でのんびりネギまとヒロアカ全巻読んでました。これこそ贅沢な休日の使い方。別に無理に出掛けずともいいのです。

それはそれとして、ピカチュウ見たい。



救助レース

千雨が嘆きの昼休みを終えて、午後のヒーロー基礎学。

 

ヒーローコスチュームに着替え、指定された運動場のゲート前に集まっていたA組の面々は、職場体験先で良い経験を得て自信ある顔をしている者もいれば、思っていた活動が出来ずにいたのか少し落ち込み気味の者もいる。

 

「ハイ、私が来た。

ってな感じでやっておくわけだけどもね。

ハイ、ヒーロー基礎学ね!

久し振りだ少年少女!元気か!?」

 

オールマイトが普通に登場して授業が始まった。

いつものように登場時に大きな声でポーズを決めることなく、そのまま始める。

 

「ヌルっと入ったな」

「久々なのにな」

「パターンが尽きたのかしら」

「尽きてないぞ、無尽蔵だっつーの」

 

幼い頃からオールマイトを見て育っているからなのか、物怖じせずに批評をしてくる。有名人というのも大変なのだ。しかもアメリカンキャラでやってると余計に大変なのだろう。千雨としてはどうでも良いことであるが。

 

「職場体験直後ってことで今回は、遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」

「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」

 

オールマイトの言葉に、即座に飯田が質問を投げかけた。

 

「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?そう、レース!

ここは運動場γ!

複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯!4組に分かれて、1組ずつ訓練を行う!

私がどこかで救難信号を出したら街外から一斉にスタート!誰が一番に私を救けに来てくれるかの競争だ!

もちろん、建物の被害は最小限に、な!」

 

そう言いながらオールマイトは爆豪を指差した。初回の授業で一番施設を破壊していたからだろう。

緑谷も一緒だったが、二人して鉄筋コンクリートのビルひとつ半壊状態にしたのだ。緑谷は"個性"はともかく性格的に壊しそうにないが、爆豪は積極的に壊しに行きそうである。

千雨が「だろうな」と言えば爆豪は案の定噛み付いてきた。

 

「何が『だろうな』だ!このクソアホ毛!」

「どう考えてもクラス1の施設破壊王はお前だろ」

「言っておくけど、長谷川少女も建物に穴空けてたから、気をつけてね?」

「ハッ!ざまぁ!!」

「即座に指されるお前と一緒にすんなよ8:2バカ」

「あ?」

「やんのか?」

「2人とも!メンチ切るなって!授業中だぞ!」

 

切島が間に入り仲裁したのに対し、同時に舌打ちする。

別に千雨は昼休みのことで八つ当たりしているのではない。爆豪が噛み付いてくるから相手しているだけだ。たった4文字しかも罵倒ですらないのに噛みついてくる方が悪い。

しかし周囲にはどんな理由だろうと相変わらずの煽りっぷりだとしか見られていないのだった。

 

閑話休題。

 

早速ゲート前から運動場内に移動する。1組目は瀬呂、飯田、尾白、芦戸、緑谷の5人だ。

他の生徒たちはVTR中継で確認出来るようゲート近くにある『OZASHIKI』と書かれた待機場所にいた。

 

「飯田まだ完治してないんだろ、見学すりゃいいのに……」

「クラスでも機動力良い奴が固まったな」

「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら」

「確かにぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まんないんだよね」

「何か為す度、大怪我してますからね……」

 

入学初日の"個性"把握テストでも、初めての戦闘訓練でも、体育祭でも、"個性"を使う度に怪我をしていた緑谷だ。今日の授業はレースとはいえ、また無茶をして怪我をしそうである。

 

「俺、瀬呂が1位」

「あー……うーん、でも尾白もあるぜ」

「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげぇぞ」

「デクが最下位」

「ケガのハンデはあっても、飯田くんな気がするなぁ」

 

1組目の面子を見ながら、この中で誰が1位か予想をたてる面々。それぞれの"個性"や今まで見てきた使い方を基に予想をする。爆豪の意見は完全に私情と私怨だ。

 

「飯田の"個性"はこんな入り組んだ場所じゃそう使えねぇと思う。この中じゃ瀬呂と尾白かな。

緑谷は……ミスらなきゃ1位狙えるんじゃねぇか?ミスらなきゃ」

「長谷川、それってどういう……」

 

千雨の隣にいた轟が千雨の言葉の意味を聞こうとすると同時にスタートの合図がきられた。

 

合図から、全員が一斉に飛び出した。一番早いのはやはり瀬呂だ。テープを器用に使った移動は見事である。

 

「ホラ見ろ!!こんなごちゃついたとこは上行くのが定石!」

「となると、滞空性能の高い瀬呂が有利か」

 

その瀬呂のすぐ横に緑谷が追いつき、そして追い越したことにクラス全員が驚愕した。

 

「おおお緑谷!?何だその動きィ!!?」

 

ピョンピョンと跳ねるように軽やかに入り組んだ工業地帯のパイプなどを足場にして移動している。"個性"を使う度に怪我をしていたというのが嘘のようだ。

それは小回りの利く移動で、爆豪の動きに似ていた。

 

クラスのほぼ全員が感心しながらレースの行方を見守っていたが、緑谷は足を滑らして落下した。

 

「落ちたー!?」

「……ああいう移動方法を編み出したり覚えたりしたとして、そうそう完璧に出来ないもんだ。

どんな足場の時はどう着地するべきか、ミスった時のリカバリーはどうするか、空中で体勢を立て直しながら瞬時に周囲の状況を把握する必要がある。

ああいうのは経験とバランス能力のセンスが勝るんだよ。習得したての緑谷の課題だな」

「ああ、だからミスらなきゃって2回言ったのか」

 

千雨の解説に轟が納得した。

 

「しかも落下した後に再び登るためのルートを探さなきゃならねぇだろ?

工業地帯特有のどこも同じに見える空間じゃ何処から上がる事が出来るのか、そしてどこに出るのかも分からなくなる。位置把握が出来なきゃかなりのロスだ。それが焦りを生んで……ほら、またミスった。

これで緑谷が最下位確定だろ」

「はー……久々ながら長谷川の解説、分かりやすいな」

「ンなもん普通わかんだろクソ髪。

つーかデクが最下位なのは当然だアホ毛」

「そうカッカすんなって爆豪」

 

しばらくして1組目の5人全員がオールマイトのいる場所に到着し、待機場所に戻ってきた。

次は2組目のレースである。

 

「2組目は砂藤、長谷川、葉隠、切島、上鳴か!」

「この中じゃ長谷川がダントツ1位だろ」

 

千雨は超スピードの移動に空飛ぶマンタがあるのだ。機動力はクラストップである。爆豪は自分こそがトップだと言って譲らないが。

 

「でも長谷川さんのマンタだと入り組んだ場所で出すには大きすぎるんじゃない?そうすると緑谷みたいな移動になりそう」

「なるほど」

「じゃあ砂藤が1位になる可能性あるな。あいつも増強系だから緑谷みてぇに移動出来るだろ」

「それ言ったら、そもそもあの瞬間移動みてーな移動が使える長谷川のが早いって」

「あの2人が1位2位確実だな。

葉隠、切島、上鳴の3人はレースだと"個性"使えないから地力で頑張るしかねぇもん」

「そしたら切島3位だろ。あいつ足速いぞ」

 

ワイワイと予想立てながら、スタートの合図を待つ。

合図と同時に全員飛び出した。一番最初に建物の屋上に出たのは砂藤だ。

 

「砂藤が一気に上に来たな!」

「やっぱ増強系は良いよなーシンプルな分出来る事多くて」

「長谷川も一気に上に……っ!?」

 

次の瞬間、モニターには空中を走る千雨が映っていた。

 

「何アレ空中走ってる!?」

「CP9の月歩かよ!?」

「瞬歩!?」

 

CP9の月歩でも、死神の瞬歩でも、勿論滅却師(クインシー)の飛廉脚でもない。更に言えば、虚空瞬動を会得したという訳でもない。タネも仕掛けもある。

簡単に言ってしまえば、先日ヒーロー殺しとの戦闘で出した緊急防御のサイズを足裏サイズの足場にして、着地する位置に足場を展開しているのだ。

少量とはいえ電力を消費するため長時間の使用には向かない。虚空瞬動などに比べたらコストが大きい移動方法だが、習得していない今はマンタなどを出せる空間的余裕がない時の移動に役立つ。

 

今回の救助レースならば遮蔽物のない上空に上がってマンタを出しても良いのだが、この新技の実践的なテストは必要であるため、このままオールマイトの立っている演習場の一番高い場所に向かった。

スタートから1分もしないうちにオールマイトの下にたどり着いた。

 

「到着っ!」

「1位おめでとう、長谷川少女!現時点で最速記録だ!

相変わらず凄いな君は……さっきの空中移動、どうやってるの?」

 

オールマイトの移動方法は超パワーによる跳躍だが、空中で方向転換は出来ない。空中で方向転換出来れば空中戦になっても機動力を確保出来る。それは大きな強みだ。

 

「黙秘します」

「君は本当に手の内を明かさないね、まったく……」

「明かす時には明かしてます」

 

千雨の到着からしばらくして、砂藤がゴールした。

 

「お、追い付いた……」

「砂藤少年が2位だな!よく頑張った!」

「おつかれ。ひとまず糖分補給しとけ」

「おう……」

 

千雨に促されて、ポーチに入れていた角砂糖を水を飲むように口に流し込む。見ているだけで口の中が甘くなる光景だ。

 

「長谷川早すぎるだろ……」

「それを言うなら砂藤、お前もっと移動技考えたらどうだ?緑谷はミスってたけどよ」

「移動技なぁ……まぁさっきの緑谷を参考にしたお陰で2位になれたけど。

そういや移動技充実してるよな、長谷川。高速移動に、マンタに、さっきの空中走るやつで3つか」

「三十六計逃げるに如かずって言うからな」

 

千雨の対敵時の基本方針は、強敵相手や不利な状況なら逃亡一択である。そもそも戦闘は義務じゃない。ヒーローが逃げるのは恥だなど知ったことではない。

死ぬくらいなら逃げてでも生き延びる。そして強い味方を呼ぶ。

最終的に勝てば良かろうなのだ。

 

「長谷川、ヒーロー志望としてそれはどうなんだ」

「私のことはともかく砂藤、お前も緑谷同様に跳躍する時にパワーを使って距離稼いでるんだろ。跳躍と着地以外の跳んでる最中は"個性"解除するのはどうだ。

糖分の節約になるし、使いどころ見極めたら消耗も減るだろ」

「その"個性"の切り替えが難しいんだって……。でも空中で糖分補給も出来そうだし、良いかもな。

長谷川、"個性"の切り替えに良い特訓ねぇか?」

「その場で"個性"使ってジャンプして飛び上がりながら糖分補給する練習すれば良いと思う。あとは知らん」

「……適当に考えてねぇか?」

「他に思い付かないんだよ。

どっちにせよ糖分補給しながら使用していくしかないだろ」

 

"個性"の特訓方法など、"個性"ではなく"魔法"を使っている千雨には分からない方法である。

そんな2人の会話を聞いて、オールマイトが声をかけた。

 

「長谷川少女の移動案は増強系"個性"のプロじゃメジャーだね。私も同じ移動方法だが、空中では無防備になりやすい。

もし砂藤少年が今後の移動方法に"個性"のオンオフ切り替えを取り入れるなら、跳んでる間の警戒は怠らない方が良いぞ!何があるか分からないのが実際の現場だ。

それと切り替えの特訓については慣れしかないし、長谷川少女の特訓方法が今のところ一番良いと思うぞ!」

「なるほど」

「すごい、プロっぽい意見だ」

「……『ぽい』じゃなくて、私正真正銘のプロだからね?長谷川少女」

 

残りの3人が到着するまで、そのまま増強系トークがはずんでいた。

 

 

 

女子更衣室で着替えながら、先ほど終えた基礎学の課題を考える。

 

「機動力上げる方法ないかなー……」

「それ言ったら私もだよ、響香ちゃん」

「透ちゃんと響香ちゃんは"個性"が移動に使えないものね」

「欠点減らして得意を伸ばすしかないだろ。2人とも索敵と隠密得意だし」

「ウチも自分を浮かせた時にもっと酔わないようにせんと……」

「私も課題だらけですわ……」

「いやヤオモモは充分すごいじゃん。今日も電磁石とロープ作って移動してたし」

 

軽い反省会のような会話をしていると、聞き覚えのある歓喜した声が聞こえた。

 

「見ろよこの穴ショーシャンク!!恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!!」

「……峰田の声だな」

「……そういえば、男子更衣室側との壁に穴がありませんでした?」

「……向こう側がポスターか何かで塞がれてたよね?」

 

男子更衣室と女子更衣室。ポスターで塞いだ穴。そして峰田実(女子の敵)

壁の向こう側で一体何が起きているのか、0.5秒で女子全員が同じ答えをはじき出した。

 

「ウチがやる」

「頼んだ」

 

耳郎が壁に左耳のイヤホンジャックを差しながら敵の様子を窺う。

覗くのであれば右耳のイヤホンジャックを突き刺すのみ。

 

失明の危険?世のため人のためだから、仕方がないよね。

 

「八百万のヤオヨロッパイ!!

芦戸の腰つき!!

葉隠の浮かぶ下着!!

長谷川の隠れ曲線美!!

麗日のうららかボディに、蛙吹の意外おっぱァアアアア」

 

最低最悪の言葉を聞き、全員が汚物に慈悲無しと言わんばかりの目をした。

ドスッと壁に空いた穴からイヤホンジャックを壁の向こう側にいる覗き魔に刺したのだろう。そのまま心音を流し込み、悲痛な叫び声が響いた。

 

「ありがと響香ちゃん」

「何て卑劣……!!すぐに塞いでしまいましょう!!」

 

女子の敵に対し、全員怒り心頭である。

八百万がすぐさま"個性"を駆使して壁の穴を塞ぎにかかる。

 

「……ウチだけ、何も言われてなかったな」

「耳郎、どうした?」

「…………長谷川は、仲間だと思ってた」

 

耳郎の視線は千雨の胴体に向いている。より正確に言えば胸。胸部に。

別に千雨はそこまで大きい訳ではない。ごくごく平均の大きさだ。クラスの中では下位である。

 

しかし当人たちにとっては友情に影響するレベルでとても重要なポイントなのだ。

 

「そう変わんないだろ。それにこれは身長による差だと思うぞ、成長期を待て」

「同い年なのに……何で……」

「……耳郎の気持ちは分かる。同い年の発育じゃねぇ奴とか私も見てきたから」

「長谷川……」

 

3-Aには大きいのも小さいのもいた。身長的な意味でも、胸部的な意味でも。

かつて修学旅行で同じ班となったクラスNo.1の那波と入浴もしたからこそ、千雨にも耳郎の気持ちはよくわかった。

 

「―――でもやっぱり敵だよね、うっすら渓谷あるし」

 

その時、耳郎の目からハイライトが消えていた。

 

「落ち着け、これは寄せているだけだ。背中と脇の肉を持ってきているんだ」

「細いのになんであるのさ!」

「つーかなんでそんなに私に来るんだよ!八百万に行け!」

「現実的に考えてんの!」

「知るか!そこは大きい夢持っとけ!」

「お二人とも、私がどうかしましたの?」

 

下着姿で近付いてきた八百万。ドバーンという効果音が付く胸部に、耳郎が自身の胸を押さえる。

 

「八百万、お前は今こっち来るな。頼む」

「えっ!?わ、私、何かしてしまいましたか!?」

「お前は悪くない、タイミングが今じゃないってだけだ」

「3人とも、はよ着替えんとあかんよー?」

 

落ち込む耳郎に、所詮は汚物の言葉だ気にするなと励ましながら着替える千雨たちだった。

 

 

一方男子更衣室では、峰田が目を押さえている格好で氷漬けにされていた。

冬将軍の如く、冷気を放つ轟によるものだ。

周囲の気温は吐息が白くなるほどで、着替え途中だった男子の大半は鳥肌をたてる。

原因は明らかに先ほどの峰田の言動だろう。

千雨に高い好意を持っていることは普段の態度から明らか。なお、それが恋愛なのか友愛なのかはクラスでも審議中である。

 

「ひぇ……」

「こわ……」

「と、轟くん。気持ちはわかるが"個性"の使用は……」

「お……落ち着いて……ね?」

 

飯田と緑谷が及び腰になりながらも轟に声をかける。

特に叫んだりしておらず極めて落ち着いているのだが、無言で凍らせた轟からは魔王を彷彿させる圧があった。

 

「―――轟。このままでは長谷川にも迷惑をかける事になるぞ」

 

常闇の言葉に冷気を出すのを止めた轟。その場にいた男子一同は常闇が神か勇者に見えた。

 

「……そうだな。

それに凍ったままだと土下座させらんねぇか」

 

その場にいた男子は髪の間から覗く轟の目付きを見て、正真正銘エンデヴァーの息子だと再認識したのだった。

 

 

 

その後教室に戻った峰田は女子全員から汚物を見る目で見られたが、(氷の魔王)が恐ろしいこともあり土下座で謝ったことで許されたのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。