ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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前話という名の、この作品を続けるにあたって解決せざるを得ない千雨の難題。
果たして作者はこの重くて面倒な難題をどう解決させるのか!そもそも作者に解決出来るのか!
正直言います、もう逃げたい。
そんな逃避から書き上げました。よって前話と続けて読むと感情がジェットコースター。

「うんうん、それもまた二次創作(アイカツ)だね!」ということで許してください。

そしてタイトルからお分かりになられると思いますが、作者は今話を書けて大変満足です。



放課後隠れアイドル

オールマイトの正体を看破し、詰め寄った日の夜。

 

帰宅した千雨は言わなきゃ良かったかと思いつつも、今更考えても仕方がない事だと思った。

きっと今日言わなくても、オールマイトとはヒーローの価値観の違いで対立していただろう。彼自身から話されずとも、オールマイトの『行き過ぎた自己犠牲精神(内なる狂気)』にどこかで気付いて同じように詰め寄ったに違いない。

そもそもオールマイトの現状が聞いた通りであるならば、あの在り方は絶対に認められない。あの自己犠牲を認めてしまうということは、ネギを日常に引き戻そうとした自分をも否定することになる。

 

この価値観の違いは、いずれにせよぶつかる宿命だった。

 

そう結論付けて思考を切り替え、その日の宿題にとりかかる千雨だった。

 

 

 

翌日、今日も今日とて何時ものように常闇と登校だ。

 

「長谷川、今日はいつもより荷物多いな」

 

普段は背負っているカバンひとつなのだが、今日は大きめのトートバッグも持っている。

 

「ちょっと放課後に用があって」

「そうか……では今日も下校は別だな」

 

常闇との下校は心引かれるが、本日中にどうしてもしなければならないミッションが千雨にはあった。

 

蜘衣の送り付けてきた衣装の件である。

 

昨日オールマイトと緑谷の会話を待っている間に蜘衣と電話が繋がり、衣装の作成にストップをかけられたのだ。

頼んでいない衣装を送りつけられるのは迷惑だと言えば、しぶしぶ納得してもらえた。

その時「送らないと約束するが、その代わり既に送った衣装を着た写真と映像が欲しい。くれなきゃまた送る」と言われ、約束したのだ。ちなみに作らないという選択肢はないと言われてしまった。

何が蜘衣を掻き立てるのだろうか。

 

相澤にメールでその事を伝えると、今日の放課後に備品室を使って良いとのこと。備品室は学園祭で行うミスコンの衣装部屋でもあり、カーテンによる簡易仕切りだが試着スペースがあるらしい。

そういう訳で、学校で使うメイク道具等を持ってきているのだ。

普通なら学業に関係ないものを学校に持ってくるなと言われるだろうが、天下の雄英高校は校則がゆるい。よって、ヒーロー科として使うものだと言えば許される範囲である。

 

 

 

放課後になり、クラスメイトと会話する間もなく向かった職員室で受け取った蜘衣からの段ボール2箱を持って備品室にきた。

昨日の2着に加えて、また送られてきたのである。

備品室にてダンボールを開けて衣装を取り出した。

 

「流石プロ……」

 

新しく送られてきた衣装は1着だけだが、とにかく豪華だった。

一番目立つのが白いファーのついた紺のベルベット生地のマント。ファンタジーの王族か女騎士のイメージなのだろう。

襟付きの白いナポレオンジャケットは袖口にレースがあしらわれマントで見えない背中側に金糸で刺繍がされている。ピンクのネクタイにはCの刺繍がされ、青のフィッシュテールスカートはギャザーを寄せ中のパニエの裾部分が見えている。マントもあるため他の衣装より重い。

どう見積もっても最短3日はかかりそうな衣装を蜘衣はどうやって1日で仕上げているのか。まさかとは思うが、趣味なのに周囲に手伝わせているのだろうか。

それとも本業の服飾関係者というのは化け物なのかと思わずにはいられない。

 

合計3着の衣装はどれも水族館ショーをイメージしているからなのか、青系統のものだ。多分送ってこないだけで赤とかピンクとか黄色とか緑とかも作っていそうである。

……1人プリユアシリーズ全キャラ衣装とか、いつかさせられそう……いや、これ以上考えるのはやめよう。

 

備品室の片隅にある試着スペースで着替えてメイクをすれば、みんなのネットアイドルちうである。懐かしさに思わず泣きそうになったがメイクを崩さない為にティッシュで押さえる。

これまでこの世界のアイドルの現状を調べ上げ、デビューしたいと意気込んだものの……体育祭で本名が全国区になったため、オフラインでデータの肥やしになっていた。そこに舞い込んできたプロの衣装で撮影など、くすぶっていたコスプレイヤー魂が歓喜せざるを得ない。

 

「おっけー!ちうは今日も元気だぴょーん♡」

 

衣装に着替えてメガネを外し、メイクもバッチリ。何処からどう見ても美少女アイドルちうに変身した結果、テンション爆上げ。

水族館ショーで本領発揮出来なかった不完全燃焼もあり、ノリノリだ。あとはホームページの運営が出来て、チャットでちうを崇め立てるファンがいれば問題ない。

 

「お綺麗ですちう様!」

「素敵!」

「流石はネットアイドル界のクイーン!」

 

やんややんやと褒め称える電子精霊たち。その声が余計にちうとしての充足感の高まりを加速させる。嗚呼、生きてるって素晴らしい。

全ての衣装に袖を通してポージングし写真撮影。照明係と撮影係はもちろん電子精霊たちである。ちなみに衣装は全て仮契約カードに登録した。

 

「それじゃあちうの特別ショーを披露するよー☆

ミュージックスタート!」

 

ちうの精神テンションは今!麻帆良時代に戻っている!ちうが文化祭の時にコンテスト優勝したあの当時にだッ!もはや昨日の出来事など忘れたと言わんばかりである。むしろ意図的に忘れているのかもしれない。

送られた中で一番動きやすい薔薇をあしらわれた衣装を着て、ちうの十八番曲のひとつ『ハッピー☆マテリアル』を歌いながら水族館のショーをアレンジしつつも再現する。歌も振り付けもバッチリだ。

 

「~~~~~~~~~♪……」

 

最後の一小節を歌い、ラストはカメラに笑顔でウインク決めポーズ。

自画自賛してもまるで問題にならないレベルで完璧な動画だ。やはりネットアイドルクイーン。この輝きは止まることを知らない。まさに世の男ども全員がひれ伏すレベル。

 

しかし現実に引き戻すかのように、聞こえる筈のない他人の声がちうの背後から聞こえた。

 

「長谷川……?」

「ギャァァアァァアアア!!!?!?」

 

自己陶酔しすぎて、備品室にクラスメイトの半数以上が来ていたことに気づいていなかった。ちう、驚きのあまりアイドルらしからぬ絶叫しながら吐血。

なおここにいるのは轟、緑谷、上鳴、切島、瀬呂、尾白、峰田、耳郎、八百万、麗日、芦戸、蛙吹の12名である。

 

「ななな、なんでここに!?いつから!?」

「昨日出来なかった職場体験の話しようと思って……」

「机に鞄あるし帰ってないのに居ないなぁと思って……」

「相澤先生から備品室にいると聞いて……」

「なんか音楽聞こえてたし……」

「ドアが開いてたから、つい……」

 

鞄を教室に置いてきた事に加えて鍵の掛け忘れという痛恨のミス。夢中になりすぎてカメラしか見てなかった。

なんとかこの場から逃げようにも出入口は塞がれ、窓もない。つまり逃げられない。

しかも1人だけなら撲殺と証拠隠滅をして逃走するのだが、この人数では無理である。

 

「あの長谷川が素顔であんなにアイドルアイドルするとは……」

「どこからどう見ても歌って踊るアイドルヒーローだね」

「とっても可愛らしくて素敵ですわ千雨さん!」

「長谷川!さっきの最初から見たい!」

 

「ころせ!!!いっそ一思いに!!!ころせ!!!」

 

耳郎、麗日、八百万、芦戸のコメントに手で顔を隠そうとしながら叫ぶ千雨。その両手を轟が掴んだ。

 

「体育祭でも思ったけど、やっぱり素顔綺麗だな」

 

花ほころぶ笑みと言わんばかりのやわらかな初めて見せる微笑みでちうを褒める轟。少女漫画ばりにキラキラした光と花が周囲に見えるのはイケメンパワーによる錯覚なのか。

芦戸を中心に女子が目を輝かせる。これに心ときめかせない女子は居ないだろう。

しかし轟から微笑みを向けられた千雨本人はときめくよりもパニックによって顔を真っ赤にしていた。

 

「う、あ、わ、わかったから手を放せ!は、はず、恥ずかしいんだよ!……見ないでぇ……!」

 

涙を浮かべながら恥ずかしがる千雨。逃走も隠密も阻害された上に両手をふさがれ、千雨の精神状態はギリギリである。見られていた事もあり、このまま壁を突き破ってダイナミック直帰するレベルだ。

 

そのあまりのギャップに周囲は思わず言葉を失う。

普段の爆豪と張れる口の悪さと男前な言動を裏切る程ノリノリでアイドルさながら歌って踊ってたのに―――恥ずかしいのか、と。

 

至近距離で視覚的暴力(超かわいい羞恥するちう様の魅力)を浴びた轟は脳が処理落ちした。ただでさえ歌と踊りで魅了されていたのだ。その破壊力は計測不能だろう。

突如硬直した轟に千雨は不審そうに声をかける。

 

「……と、轟?どうした?」

「かわ……」

「長谷川、これ以上轟の脳と精神に負荷をかけるのはやめよう」

「負荷って何だよ!?」

「負荷は負荷ですよちうたま」

「自覚されていないのですね……」

 

千雨に自覚はないようだが、対象にとってはとてつもない負荷(魅了スキル)である。

メガネを外しメイクをした千雨はあの美少女だらけの麻帆良3-A女子の中でも上位に食い込む魅力の持ち主になる。これだけでネットアイドルとして拝まれるレベルなのだ。

しかし千雨の真の恐ろしさは外見の魅力ではなく、的確な助言で内面に惚れさせる精神性と言葉にある。

それこそ30人以上の美少女を振り切ったネギ先生(父の背だけを追う10歳の天才少年)を落とすレベルだ。

 

仮契約カードに書かれたバーチャル・アイドル(仮想の崇拝対象者)という称号は間違いない。

 

「轟の語彙力が完全に喪失している……!」

「轟くん、しっかり!」

「かわ……」

「だめだ、意識が戻らない」

「気絶させた方が良いんじゃ?」

「ひとまず長谷川と物理的距離を置かせよう」

 

轟の意識を戻そうと男子一同があれこれ手を尽くす。

 

長谷川(アイドル)のパンツ見え」

「滅べ」

 

なお、峰田だけは峰田(欲望に忠実)だった。

 

 

 

「驚いたが、映像以上だったな……本物は」

「ほんとにもう勘弁して。忘れろ。いっそころせ」

 

あれから、意識を取り戻した轟と制服に着替えた千雨。千雨は一刻も早く逃げたかったが、耳郎と芦戸に拘束されて逃げられなかった。そんな訳で、千雨も交えて教室で職場体験の話をした面々はそのままの流れで全員で駅まで下校する。

 

「初めて素顔見たけど綺麗かわいかった」

「ね!」

「普段も素顔出せばよろしいのに」

「……素顔で人前に出るの、顔赤くなっちまうし恥ずかしいから無理なんだよ……」

 

顔を赤くして顔をしかめさせる。

クラスメイトならば先ほど見られてしまったお陰で素顔でも多少は大丈夫だろうが、流石に普段も素顔というのは精神的に無理だ。

 

「俺はてっきり衣装着てノリノリだったのが恥ずかしいと思ってたわ」

「普段はあの男前で名言炸裂させて、それでアイドル出来て、でも素顔は恥ずかしいとか、お前……」

「そっちも恥ずかしいけど!仕方ないだろ、素顔とか恥ずかしいんだから!」

「長谷川、さっきのアイドル衣装姿の写真撮ってたんだけど、呟いていい?」

「やめろアホ面」

「ちょ、爆豪と同じ呼び方すんなって!アホ面じゃねぇし!

あ、じゃあせめて俺と飯食いに行こうぜ!な!?」

「……わかった。素顔は無理だが、飯くらいなら行ってやる」

「っしゃあ!」

 

拡散されるくらいならばと思い、上鳴と食事の約束をする。

その様子を見ていた峰田が便乗しない筈もなく。

 

「長谷川、さっきの写真ばらまかれたくなかったら、オイラとイイ事」

「……」

「ジョウダンデス、ゴメンナサイ!」

「棒読みじゃねーか!」

 

即座に謝罪と撤回をした峰田。冷気と共に魔王の視線を注がれたら誰だってそうなるだろう。

 

 

 

ワイワイと騒いでいれば、あっという間に駅だ。上り線組と下り線組に分かれる。

下り線組は蛙吹、麗日、緑谷、轟、八百万、耳郎、千雨の7人だ。

千雨が八百万と耳郎の3人で会話している横で、蛙吹と麗日、緑谷と轟がそれぞれ会話をしている。

 

「千雨さん、デザイナーの方から慕われているんですね」

「気に入られてるのは否定しないが……頼んでないのに衣装送ってきたからな。しかも動画と写真要求されたし……」

「それはまた……なんというか……」

「あ、そういや長谷川の歌ってた曲って誰の?ウチ普段ロック中心に聞いてるけどアイドル曲も気になるんだよね。インディーズ?」

「あー……あれはインディーズのというか、中学のクラスメイトたちが作った奴だよ」

 

あれは麻帆良でガールズバンド『でこぴんロケット』結成する前に和泉以外の釘宮、椎名、柿崎3人が中心となって中学2年の時に作った曲だ。クラスの出し物として披露するという事で歌と振り付けを覚えたのが懐かしい。

今思えばエヴァンジェリンやザジも巻き込んで全員で歌ったとんでもない曲である。

 

エヴァンジェリンがどうして歌ったのかって?それが『担任からの学校課題』だったからだ。登校地獄の呪いとは、かくも恐ろしいものか。

 

「へぇー……そういえば水族館のショーで使ったのもインディーズ曲だっけ?そのグループなんか長谷川のショーで知名度上がったからなのかメジャーデビュー決まったらしいよ」

「耳郎さん、詳しいのですね」

「長谷川のショーで知ったんだけどドラムの人上手いなーって思って。ウチ今ドラム練習してるから」

「まぁ、すごいですわ」

「耳郎、おすすめの曲とかある?」

 

そのまま普段聴いている音楽の話題をする3人。

蛙吹と麗日は職場体験の話をしていた。

 

「梅雨ちゃんスゴいなー。密航者のヴィラン捕まえるなんて」

「そんなことないわ。船長とシリウスさんのお陰よ。

お茶子ちゃんもガンヘッドから格闘術を学んだんでしょう?」

「うん、毎日ちゃんと自主トレせな!」

「そうやって努力出来るのはお茶子ちゃんの強みね」

 

一方、轟と緑谷は昨日のヒーロー基礎学の話だ。

 

「緑谷の移動の動き、なんか爆豪みてぇだったな」

「そ、そうかな?一応グラントリノの動きを参考にしたんだけど……」

「グラントリノって、あの職場体験先の?」

「うん。お年は召してるけど、現役バリバリでね。保須に行く前はずっと事務所で実践的な訓練してもらってたんだ」

「すげぇな、あの人。

そういえば、長谷川が緑谷の動きはバランスと経験を重ねる必要がある動きだって言ってたな。あと他にも色々……」

「え…は、長谷川さんが?」

「ああ。……長谷川と何かあったのか?」

「う、ううん!?何でもない!

ほ、ほら!今日のこと思い出しちゃって!」

「……そうか」

 

それぞれ最寄り駅で下車していく中で千雨はそっと夕焼け空を見て、今度の日曜日に厄祓いしに行こうと誓った。

 

 

なお、「無理せず規則正しい生活して下さい」というメッセージと共にちうの各衣装写真とハッピーマテリアル動画を入手した蜘衣は「この映像だけで5年は不眠不休で生きられるけど規則正しい生活します」と答えた。

会った時からなんとなく察していたが、とんでもない奴と知り合ってしまったと千雨は今さら後悔した。

 

 

そしてこれは千雨は知らない事だが、千雨に知られないようにクラス内でアイドル写真が共有されていたのはまた別の話である。

 

 


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