ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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前回の感想の量とお気に入りが爆発的に増えたのを見て、麻帆良のネットアイドルはスゴイ。作者はいろんな意味で思った。(寺生まれ並感)



命短し

緑谷から見た千雨の最初の印象は、謎だらけだけど凄いクラスメイトの女子という印象だった。

"個性"の扱いに長けているだけでなく、思慮深い性格と飛び抜けた戦闘センスと指揮能力から、クラスメイト全員に一目置かれている。

 

USJでは、最後に救けられて怒られた。

体育祭では、共に戦い励まされた。

職場体験では、頼られて守られた。

夕方の仮眠室では、鬼気迫るような、苦しんでいるような顔をしていた。

 

そして放課後の備品室でのアイドル。

 

まるで違う人物かのように凄まじい勢いで印象が変わった。

より正確には、昨日までと今日が別人である。

 

「……駄目だ、わかんない。

長谷川さんが何考えてるのか全っ然わかんない……!」

 

緑谷が千雨の思考回路を捉えられないのも無理はない。普段及び仮眠室での千雨と、備品室での千雨は全て違う側面だからだ。

 

仮眠室での千雨は『白き翼の一員でネギ先生の相談役』としての側面。

仲間の為に自身の願いの為に必死で戦い冒険していくネギを支える者として、千雨の過去と経験によって築かれたヒーローに関する持論を語ったのだ。普段の千雨はこちらの側面寄りと言える。

 

備品室での千雨は『ネットアイドルちう』としての側面だ。麻帆良で理不尽(非常識)に対するストレス発散として千雨が作り上げたキャラであり、千雨が理想とする誰からも愛され守られるアイドルを明るく、楽しく、可愛らしく振舞い演じている。水族館ショーの千雨はこちら寄りだ。

 

そして既にオールマイトとのやり取りについて悩んでいない。何故ならば千雨自身にとってオールマイトに言ったことは譲れない一線だと分かりきっているからだ。しかも「どうせいつかは衝突していた」として既に昨日の夜の時点で区切りをつけている。

 

しかし『千雨とちうの違い』を知る由もない緑谷からすれば、二重人格もかくやと言わんばかりの豹変っぷりにしか見えず、イコールで繋げられない。ノートにも備品室での事を一応書いてみたが、このページだけ異質である。

緑谷は千雨についてのデータもクラスメイト同様にまとめているが、イマイチまとめきれていない。先日見せた空中移動技の仕組みも謎のまま。一応仕組みを抜きにデータをまとめているが、他のクラスメイトより"個性"で出来る事の幅が広いのがよくわかる。

 

机に突っ伏しながら、緑谷はスマホに映った画像を見る。そこに映っているのはアイドルさながらの笑顔を浮かべた千雨の写真だ。

実は帰宅してから上鳴が『不特定多数が見れるSNSに載せるなって長谷川に言われたからそういうのには載せないけど、かなり可愛く撮れてね!?』と送ってきたのだ。

 

ちなみに峰田の撮った写真は下校する時にした棒読み謝罪の後、千雨の手でデータ消去されていた。曰く、最低な写真(ローアングル狙い)だったらしい。ついでに千雨はスマホに入っていた他の最低な写真データを大量削除したらしい。

峰田は「人の心がない!!!悪魔!!!」と叫びながら凄まじい形相で血の涙を流していた。

緑谷は峰田くんらしいけどヒーローを目指しているのだからそれは駄目だろうと思った。

 

ひとまず千雨のデータを書いているノートを仕舞い、特訓用ノートを取り出す。新しいページに轟から聞いたフルカウルでの移動について千雨が言っていたという内容をまとめ、そこから今後どういった動きやトレーニングをするか考えていたが、しばらくしてから緑谷は寝落ちした。

 

部屋の明かりを消さずに机で寝たため、母の緑谷引子が息子の部屋に入りベッドで寝るようにと揺り起こす。寝ぼけながらもベッドに向かった息子を見て、引子は部屋の電気を消して扉をしめた。

 

「出久……ヒーローだけじゃなくて、アイドルに興味出てきたのかしら?

……もう高校生だし、そういうものに興味出ても当然よね……」

 

ベッドで再び寝た緑谷は、母親が自身のスマホ画面に出ていた画像を見て誤解したことを知らなかった。

 

 

 

 

翌日。

千雨は今日も今日とて常闇と登校だ。電車に揺られながら、千雨は珍しくあくびをした。

 

「長谷川、眠いのか?」

「あー……夜、あまり休まらなくてな……」

 

昨日の出来事(アイドルモードのちう)の後、見た誰かが写真をSNSに投稿したらまずいため『不特定多数の人間が見れるSNSに投稿するな』と強く釘を刺したのだ。もちろん蜘衣にも。

しかしそれでも不安でいっぱいだった千雨は力の王笏を使用して各種掲示板やSNSなど有名所からマイナーなネットの隅まで、広大な海(電脳世界)全ての監視をしていた。

電脳空間へ精神を移している間の身体は睡眠状態にあるが、その精神はずっと張りつめられた状態で徹夜したようなもののため、思わずあくびが出てしまったという訳だ。

 

「……その」

「ん?」

「……昨日、芦戸から送られてきたのだが」

 

そっと見せられたスマホには、着飾った千雨もとい『ちう』の写真。電車内でなければ叫んでいたことだろう。

 

千雨は確かに昨日見た全員に『不特定多数の人間が見れるSNSに投稿するな』と言った。

しかし『千雨も知っているクラスメイトに送るな』とは言っていない。

せめて『この場の人間以外に知らせるな』と言っておくか、もしくは全員のスマホにハッキングして画像を削除しておけば……。認識の違いのせいで拡散されるとは思っても見なかった。

 

千雨が写真について話そうとするより先に常闇が呟いた。

 

着飾っている姿(この写真)は妖精みたいで綺麗だが……俺は普段の方が良い」

 

スマホに向けられていた常闇と視線が交わる。

 

「普段の長谷川だからこうして仲良くなれたと思っている。それに……普段の方が、ずっと自然と笑っているからな」

「ッ!」

 

常闇の言葉に、千雨は瞬時に顔を赤くして目を見開く。

『ちう』よりも『長谷川千雨』が良いとここまで直球で言われた事はない上に、そんな事を言われて普段通りでいられる筈がない。

顔を見られないように背けるが、ふるふると震える。

 

「長谷川?」

「……常闇が……イケメン紳士すぎて眩し尊い……」

 

今日も常闇がイケメン紳士すぎてつらい。

それはそれとして芦戸許さん。……許すけど許さん。あとクラスメイト全員に釘刺そう。

 

火と煙が出るんじゃないかと言わんばかりに真っ赤になった顔を両手で隠す千雨は心の中でそう誓った。

 

ちなみに電車で乗り合わせた人の大半が、常闇のイケメンっぷりに真っ赤になっている千雨に対して、相変わらず青春してるなぁと温かい眼差しで見守っている。

2人の朝の登校風景が拡散されないのは友人の距離である事に加えて、今後も見守りたいからという理由もあったりするのだが、当人たちは知らない。

 

 

 

「もう許して下さいっ!」

「駄目だ許さん」

「角触るのやめてよー!」

 

登校して教室に入るなり即座に芦戸に近付き角を掴む千雨。画像拡散に対する報復だ。

芦戸の角だが、どうやら軟骨と皮で形成されているらしい。さわり心地は耳の耳輪付近に似ている。皮が薄くてコリコリしていてよく動く。

角と肌の色が異なるのは角部分に酸の分泌腺がないからなのか、それとも両親のどちらかからの遺伝なのか。そこは不思議である。

角にも感覚もあるらしく芦戸は嫌がっているが気になっていたのもあり、ちょっとだけ楽しい。

 

「あの場に居なかった常闇とか葉隠とか見てないクラスの奴らに送りやがって……!」

「もうしないっ!もうしないからっ!」

「本来なら私が受けた以上の辱しめをしているのを理解しとけっ!」

 

角いじりで報復を済ませているのは、朝の常闇の言葉があるからである。知らず知らずの内にクラスメイト1人を助けていた常闇だった。

そして千雨の言葉を聞いたクラスメイトたちの視線が上鳴に向かう。上鳴は言わないでくれと言わんばかりに手を合わせていた。

しかし、そんな上鳴を見過ごす筈がない人物が1人。

 

「長谷川、上鳴もクラスの連中に送ってたぜ」

「……上鳴……?」

「峰田の裏切り者ォ!!」

「オイラの画像(お宝)が削除されたのに、お前だけ逃げられると思うなっ!」

 

峰田の個人的な恨み節による道連れであった。

千雨は芦戸の角から手をはなし、瞬動術で移動して上鳴にアイアンクローをかける。

 

「上鳴……言う事はあるか?」

「申し訳ありませんでしたっ!!!」

「食事の約束は無し。今日の学食はお前の奢り。

 

―――それからスマホ出せ。お前確かなんかスマホゲーム熱中してたよな?そのデータで済ませてやる」

「そ、それだけはっ!ゲームデータ削除だけはっ!」

「テメェに与える慈悲はない。ちくわふ、やれ」

「わかりましたー」

「あああああああっ!!!」

 

ゲームデータを削除された上鳴は始業チャイムが鳴るまで落ち込んでいた。

削除したと言っても、データ引き継ぎ用のIDとパスワードをちくわふに頼んで千雨が控えているので何かあれば復元しようという優しさがあるのだが、上鳴は知らない。

 

ちなみにこの制裁を見たクラスメイトは全員、絶対に拡散しないようにしようと心に誓った。

 

 

 

今日の昼は常闇の他に障子と上鳴も一緒である。

千雨は学食で一番高いウルトラッシュセット(税込3500円)を上鳴に奢らせたのだが、所持金が足りないという上鳴。哀れんだ常闇が貸そうとする前に近くにいた障子が貸したのだ。

類は友を呼ぶと言うように、紳士(常闇)紳士(障子)を呼ぶということだろう。上鳴は障子の優しさに泣いていた。

そうして奢らせた時、ついでに一緒に食べようと言われたのだ。食堂の席がほとんど埋まっていたのに加えて、ついでに上鳴には説教するかと考えた千雨はOKした。

千雨の真向かいに説教対象の上鳴が座って、千雨の左隣に常闇。常闇の真向かいに障子が座った。

 

「長谷川、なんでそんなに俺に厳しいの……?芦戸には角いじりで済ませてたじゃん……?」

 

意味がわからないと言わんばかりの表情をした上鳴に、千雨はため息をついた。

 

「……上鳴、お前ってやっぱ何も考えずに行動してるんだな。体育祭のチアの時も、飯田の時もだが、昨日食事の約束した時も脅しだったしよ」

「脅しって言い方ひどくね!?」

「いや人の写真勝手に拡散するって脅した奴が何言ってんだ。個人情報だぞ。

それに体育祭で名前と顔知られてるんだ、そういうのは慎重に取り扱えって習ってねぇのかテメェは?」

「だってかわいかったから」

 

…………マジか。こいつ、マジか。

 

千雨は絶句した。

あの時千雨は個人情報が既にある程度知られているというのにあの写真を拡散すると言われた為、完全に脅しと捉えていた。

個人情報の流出など千雨からすれば考えられない行為だからだ。そもそも本名と顔が全国区で知られているというのも腹立たしいというのに。体育祭については甲子園と同じような扱いなのだろうが、個人情報の保護に関する法律はないのかと言いたくなる。

 

しかし、上鳴の言葉には裏が一切ない。アイドルさながら歌って踊っていた『ちう』が『かわいかった』という理由で写真を拡散しようとしたのだ。

道端で見かけた猫を撮るように。ちょっと美味しいお店を知らせるように。『良いものを見つけたから皆に教えたい』という、普通の感覚で。

 

「あの時、本物のアイドルみてーにキラキラしてたし、長谷川スゲー良い顔してたし。

なんつーの?本当に楽しいってのが伝わってきたから……」

 

脅すためではなかった。

その事実と、上鳴の素直な言葉が朝ほどではないにしろ突き刺さった千雨は顔を伏せる。

 

「長谷川?もしかして、まだ怒ってる…?」

「……だから、テメェはもっと頭使って発言し…ようにも無理か。お前、バカだし。頭ショートしてすぐにウェーイってなるし」

「なんで突然disるの!?え、何で!?」

「自分で考えろ。……ばぁか」

 

水を飲んで顔に集中した熱を下げようとする千雨を前に、自身の発言内容を思い返してもdisられる理由が分からないと騒ぐ上鳴。千雨は説教する気も失せた。

素直な発言故に良くも悪くも心に刺さることを言う。顔もそこまで悪くないのに上鳴がモテないのは、軟派な性格と考え無しのバカだからだろうなと千雨は騒ぐ上鳴を見ながら思った。

 

「もう食べきれないんだが常闇、障子、食べるか?」

「良いのか?」

「うん、お腹いっぱいだから」

 

千雨のランチプレートには半分近くのおかずが手付かずで残っている。千雨が普段頼むものは最初から量が少なめにしてもらって頼んでいるのだが、学食で一番高いだけあって量も多かったのだ。

 

「ではありがたく貰おう」

「すまないな」

「え、俺は?」

「……2人が選んだ後にな」

 

3人とも食べ盛りの男子高校生らしく、それぞれ昼食にプラスされたおかずも完食。ちなみに、上鳴が心底嬉しそうにおかずを食べている時にこっそりとゲームのデータを戻してあげた千雨だった。

 

 

 

 

「えー……既に言っていた通り、来週に中間テストがある。入学して最初のテストだ。範囲は狭いから全員合格点は取るように、以上だ。

委員長挨拶」

「起立、礼!さようなら!」

 

帰りのSHRが終わり、相澤が教室を出た途端にワイワイと騒がしくなる生徒たち。授業の内容の確認や今度の中間テストについてや雑談など、それぞれ思い思いに話している。

騒がしい教室内で麗日はいつもの如く緑谷へ声を掛けようと、リュックを背負って窓側に向かう。

 

「デクく…」

「あの、長谷川さん!その……」

 

緑谷は麗日の声に反応するより前に、3つ後ろの席に座っている千雨に声を掛けた。

 

「この間のヒーロー基礎学での移動課題についてだろ、わかってる」

「あ、うん、それも聞きたいけどそうじゃなくて、えっと」

「常闇、悪ぃまた明日な。ほら緑谷行くぞ」

「え、ちょ、長谷川さんっ!?

あ、麗日さん!また明日!」

「あ……」

 

鞄片手に教室を出て行く千雨を慌ててリュックを背負い追いかける緑谷が、すれ違いざまに声を掛けて教室を出て行った。

麗日の右手が行き場を失いながらゆっくりと下がっていく。そんな麗日の様子に、芦戸が声を掛けた。

 

「……行っちゃったねぇ緑谷と長谷川」

「……うん……」

「麗日、元気がないようだけど、もしかして……緑谷の事気になってる?」

「へぅ!?」

 

麗日は芦戸の言葉を聞き一瞬で顔を真っ赤にした。

その反応を芦戸と葉隠(恋バナ好き)が見逃すはずもなく、芦戸が麗日の赤い頬をつつく。

 

「いーっつも飯田も合わせて仲良し3人組だもん。もしかしたらーって思ってたけど?」

「ラブ臭がするねー?」

「い、いや、ウチそんなんじゃないし!本当に!三奈ちゃんも透ちゃんもからかわんといてって!」

「麗日、私たちは花の女子高校生なんだよ!?青春真っ只中だよ!?命短し恋せよ乙女だよ!!?

今!恋しないで!いつするの!!?」

「そうだよ!お茶子ちゃんは恋じゃないって言うかもしれないけど、周りから見たら恋かもしれないんだよ!?」

 

真っ赤になって否定する麗日に、芦戸が拳をふるって力説する。

芦戸は麗日の恋心を聞き出すという乙女の使命に燃えていた。そしてそれは伝播するように葉隠も熱くなる。

 

「2人とも話聞いて!?」

「聞くよ!じっくり聞くって!」

「うんうん!じゃあレッツゴー!」

「ゴー!ゴー!」

「ちょっ違うってばー!」

 

使命に燃える芦戸と葉隠に連行されるようにして、麗日は下校していった。

 

 

 

そんな騒がしい教室とは裏腹に、緑谷を無視するように先を急ぎ足で歩いて行く千雨はそのまま下駄箱で靴を履き替えて校舎からはなれ人のいない場所へ移動して立ち止まる。

 

「お前らは周囲に人が近付いてこないか警戒しろ。誰かいたら知らせろ」

「わかりましたー」

 

返事をしてから電子精霊たちは方々に散ったのを確認してから千雨はようやく緑谷の方へ振り向いた。

 

「あの……」

「教室でのありゃブラフだ。……一昨日の放課後に私がオールマイトに言った事についてだろ」

「う、うん。

……長谷川さんが、どうしてあんな事を言ったのか知りたくて……」

 

いずれオールマイトの後を継ぐ緑谷にとって、あの時の千雨は無視し忘れる事など出来ない。あんなにも苦しげな顔をした人を、放ってなどおけない。

しかしそんな緑谷の考えなど知ったことかと言わんばかりに千雨は大きくため息をついた。

 

「どうしてと言われても……正直、お前に話すことはないんだが」

「でもあの時の長谷川さんすごく苦しそうだったし、見過ごせないよ!……オールマイトが言ってたんだ。余計なお世話はヒーローの本質なんだって。…だから…」

「アレは私の価値観とオールマイトの価値観が対立したからああなったのであって、解決出来る出来ないとかいう問題じゃない」

「でも……僕は、オールマイトの弟子だし……長谷川さんがオールマイトと対立して欲しくないというか……は、長谷川さんが苦しんでいるなら、少しでも力になりたい……救けたいんだ。

だから、ええと…その…」

 

尻すぼみになるように話す緑谷。緑谷はこれまでオールマイトにも千雨にも何度も助けられてきた。その2人の対立は緑谷からすれば心苦しいのだろう。

しかし、千雨の考えは変わらない。いや、緑谷の言葉を聞いてなおさら話す必要性を感じなくなっていた。

 

「私はこの価値観を変えるつもりはないし、オールマイトの弟子だろうが何だろうが"何も知らない"奴に話すことはない」

「何も知らないって……」

「私の言葉を聞いて『私が苦しんでいるから救けたい』って発想をする時点で、お前が聞いていないか、気付いていない証拠だ。

それとも目をそらしているだけか……目をそらさせているんだとすりゃ、やっぱ気に入らねぇ」

「…長谷川さん…?」

「……まぁ私が話すのは筋違いだろうから、助言だけしてやる。

いいか緑谷、残された時間は少ない。よく考えて行動しろ。私なんかに時間を無駄に使うな」

「それってどういう……?」

 

自分が知らない事、千雨が気付いている事、仮眠室での出来事、与えられた助言。緑谷はどれも重要なものだという事はわかるのに、どうすれば繋がるのかが分からない。まるでバラバラのパズルのピースを与えられているかのようだ。

しかし、千雨はそんな緑谷の心を無視してカバンからプリントの挟まれたクリアファイルを取り出して緑谷に渡す。

 

「この間の基礎学で私が感じた改善点と課題についてまとめてあるから読んどけ。じゃあな」

「え、ちょ…待って!長谷川さ……」

 

千雨は一方的に告げて緑谷の声を無視して瞬動術で一瞬にして姿を消す。緑谷はクリアファイル片手に千雨が立っていた場所を見ることしか出来なかった。

 

 

 

緑谷と別れた千雨はクラスメイトに見つかりたくないと考え、姿を消せる村上のアーティファクト・孤独な黒子を使いながらマンタで飛行して家へと帰っていく。

 

緑谷はまだ気付いていないのだろう。いや、考えないようにしているのかもしれない。オールマイトから何も言われていないのかもしれない。

しかし千雨は理解していた。

 

 

―――オールマイトに残された()が短いことを。

 

 

人の身で世界のために無茶し続けている代償は、限られている。自我を失うか、死ぬまで身体に後遺症が残るか……命を失うか。

あの身体と短い活動時間から残りの命が少ない事がわかる。

 

今も無茶する事をやめずに命を削り続けているオールマイトを緑谷は笑顔で慕う。何も知らず、憧れに瞳を輝かせて。悲しい未来など知らないというかのように、今の幸福(日常)を満喫している。

 

 

「やっぱり、私はあんたが嫌いだ。

……慕ってくれる人間を置いて勝手にいこうとする奴なんて、大嫌いだ」

 

 

その呟きは、誰にも届くことなく夕闇に消えていった。

 

 

 

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