月一更新になっているのでどうにかしたい。やはりここは聖杯を使ってループ時空を作るしか解決方法はないので、誰か聖杯下さい。
あと小説版第一巻の話を進めてるけど、次回がほぼ小説通りになりそうで詰んでる。救けて、このままじゃほぼ同じはまずいって理由でキンクリしてしまう。
……いや待て、逆に考えるんだ……キンクリしたっていいよね……?
本日は雨、そして中間テスト2日目でもある。
体育祭や職場体験など行事が続いたが、学校である以上、テストはつきもの。
高校生活で最初の中間テストは現代文、古文、数学Ⅰ、数学A、化学、物理、世界史A、現代社会、英語、OC、情報の11科目を2日間に分けて行われる。
ちなみに情報にはパソコン作業ではなくヒーロー関連の法律、現代社会にはヒーロー美術史がある。ここら辺はヒーロー関係の専門分野として他科とは授業内容が違う。
期末試験には上記に加えて家庭科、保健体育の2科目で計13科目と演習試験。美術と音楽の授業は授業内課題のみである。
「ようやく中間終わった……もうヘトヘトだよぉ」
芦戸は普段の騒がしさはどこへやら。最後のテストである数学Aが終わり昼休みになった途端に大きく息を吐いてぐったりしながら、千雨と八百万の席にやってくる。そんな芦戸につられてなのか、他の女子も集まってくる。
休み時間に女子全員で話をする時は窓側の千雨と八百万の席周辺か、廊下側の芦戸と蛙吹の席周辺のどちらかに集まる事が自然となっていた。
そのまま食堂に7人で移動して昼食を食べながらいつものたわい無い話をする。
「千雨ちゃん、数学の最後の問題どうだったかしら?」
「この間授業で出てきたばかりなのに出してきたから焦った。答えって2だろ?」
「ケロケロ、私も同じ答えよ」
「私もですわ」
「マジで?ウチ間違えたかも……」
「もうやめようよー!お昼なのに終わったテストの話するのは!」
蛙吹、八百万、耳郎とテストの問題内容を話すと、芦戸はテストの苦しさを思い出したくないと言わんばかりにうめく。
「三奈ちゃんはどうだったの?」
「……あははっ!」
「蛙吹、これ聞かない方が良いやつだぞ」
「そうだったみたい」
笑みが完全に諦めによるものだ。このままいけば芦戸が雄英のバカピンクという称号を手にしそうである。
ちなみに芦戸は普通の学校ならテストで平均以上に入れる程度には勉強が出来る。
しかし雄英のヒーロー科はいわゆる総合学科。主要科目は他科と同等に行い、さらにヒーロー科専門科目としてヒーロー関係の法律に、様々な演習も存在している。学校が終わっても、宿題と授業の予習復習、そして演習を踏まえた自主トレだって欠かせない。
やるべき事が多すぎる上に優秀な生徒が多いこともあって、授業についていけなくなり赤点ギリギリ状態になるのだ。
「芦戸さん、期末まで1ヶ月近く時間はありますから、なんとかなりますわ」
「ヤオモモォ……!うんうん!そうだよね!」
八百万の慰めをまるで女神の救けと言わんばかりに芦戸は目を輝かせて元気を取り戻した。
「まぁ芦戸ほどじゃねぇけど、私も歴史がな……」
「え、千雨ちゃんにも苦手科目あるんだ!?意外!」
「世界史はあまり問題ないんだが、現代社会が……平均、せめて6割は取れているはず……」
「うんそれそこまで苦手じゃないよね?」
千雨は地頭が良いこともあり、理系科目も文系科目も普通に出来るタイプである。麻帆良時代はエスカレーター式で勉強を頑張る理由がなかったためやる気が起きず手抜きして下位に甘んじていたが、クラス平均を学年トップに上げられる程度の学力は持っている。
しかし異世界に転移してから、歴史は世界の違いが何処にあるのか分からないため、全て覚え直しと言っても過言ではない。よって苦手科目となっていた。
中でも現代社会が強敵である。なにせ超常以降の歴史は千雨にとって未知の領域。他の生徒が小学校と中学校の9年間で覚えている基礎すら身についていないのだ。
そのため近代史や"個性"犯罪史、ヒーロー史などはそれぞれ参考書を買って読んでいるし、時事問題にもきちんと対応出来るように国内外問わずに大きなニュースは目を通している。
「国語と英語は自信あるから、歴史科目に重点置いて勉強してコレだからな……期末が不安だ」
「自信ある科目あるだけ十分だって」
「千雨ちゃんくらい強ければ自主トレはあまりしなくても問題なさそう」
「最近は勉強メインだけど自主トレは毎日してる。無理せずに」
千雨はここ最近どちらかと言えば毎日の授業の予習復習に力を入れている。
というのも、虚空瞬動は先日披露した足裏シールド方式という名の代替可能の技を作ったため急いで身につける必要は無く、魔法も師がいないため独学で使いたいものを使えるように学んでいる。そのため、予習復習の優先順位が上になるのだ。
帰宅してからの流れとしては、宿題を片付けて夕食を食べながらニュースと見たい番組をチェックし会長へ日課のメール、授業の予習復習。
晴れていれば活力回復魔法を自身に掛けてベランダから周辺のビルの屋上へ移動して虚空瞬動の特訓を含め一時間ほど瞬動術と無音拳と体術の訓練。雨の場合はプログラムの改良か魔法の勉強。その後に入浴。就寝までにネットアイドル関係の情報収集。
合間合間にクラスメイトからの連絡に返事をする。
帰宅してからほぼずっとパソコンにかじりついて栄養食を食べていた中学の時と異なり、かなり健康的な生活だ。
ちなみに現在勉強している魔法は治癒魔法である。今使える治癒魔法では小さく軽い怪我のみで、アーティファクトのコチノヒオウギは3分以内の怪我しか治せない。USJで治癒出来ない自身の不甲斐なさとヒーロー殺しの事件で緑谷たちが怪我をしたことから、攻撃魔法よりも先に治癒魔法を勉強しておこうと思ったのだ。
流石に失った腕や臓器を元通り生やすような上級治癒術師レベルの技術は求めない。だが、アーティファクトが時間切れで使えなくても骨折などの怪我を治す事が出来れば、他人だけでなく自身の生存率も跳ね上がる事も勉強理由のひとつである。
プログラム作成はどういった方向性を作るのかをまだはっきり決めていない。
千雨が作成したプログラムは立体的な機動力を得ることを目的としたスカイタイプ、そこから攪乱用のフェイクタイプと探索用のトイタイプを派生で作り、それらを元に機能の大半を取っ払った観賞用のヴァーチャルタイプが作られている。
ここから更に新しいタイプを作っていく予定だが、どんな機能にするかを決めるのは中々難しいからだ。
今は機能を後付け出来るように基礎データを組んだり、データの軽量化のアップデートをしている。
「長谷川も毎日自主トレしてるんだ」
「ああ、勉強の後に一時間ほどな」
「一時間……思ってたよりしっかり自主トレしとる」
「努力家ね、千雨ちゃん」
「そりゃサボれるならサボりたいさ。ただ、いつ何が起きるか分かんねぇからな。
……本当……生きてる限り、何が起きるか分からねぇから……」
千雨は魔法世界での
ジャングルの秘境に転移させられた時、近くにネギと茶々丸と小太郎が居たから良かった。あの冒険の前は「せっかく自堕落な生活が出来る夏休みなのに特訓とかバカじゃないのか」と思っていたが、常日頃からの特訓は大事であると身にしみた出来事である。
その経験から他人のアーティファクトをハッキングする技術やアーティファクトアプリといったものを使えるようになったのだ。そのお陰で突然の異世界転移をしても平和に学生生活出来ていると思うと、あの冒険で得た教訓は無駄ではないと思っている。
突然真顔で目から光が消えた千雨の様子に一体何があったんだと思いつつ触れてはいけないと察し、話題を変えて話しながら昼食を食べる。
「あ!そう言えばヤオモモから聞いたんだけど長谷川、デートに誘われたんだって?」
「えっ!?それマジ!?」
「デート……?」
何のことだと言わんばかりの反応に肩透かしをくらったような耳郎は逆に真偽を知るために疑問を投げかけた。
「あれ、飯田から遊園地に誘われたの断ったって聞いたけど違うの?」
「あ、それか。違ェよデートじゃねぇ。私の他にも緑谷と轟にも声掛けたっつってた」
「いや飯田に緑谷と轟って、あんたに責任取る発言したメンバーじゃん。
……やっぱ職場体験中に何かあったの?」
「皆して何かあったって聞くけど、マジで別に大したことじゃねぇんだよ、ちょっと通信越しに話した位で。……なんかスゲェ気にしてるのかお礼したいとは言われたけどよ。
デートじゃねぇから安心しろよ麗日」
「なっ何でウチ名指しっ!?」
耳郎と八百万から少しだけ疑いの目を向けられた千雨は話題を逸らすべく、麗日を身代わりに決めた。案の定、真っ赤になった麗日が食いついた。
「普段から飯田と緑谷と一緒にいる仲良し三人組だろ」
「いや確かにそうやけどっ!別に名指しする必要あらへんやんっ!?」
「おやおや~?」
「この反応は~?」
「三奈ちゃんたちにはこの間から言ってるけど、ホンマに違うからね!?」
葉隠の見えない手が真っ赤になった麗日の頬を人差し指でつついているのか、麗日の頬が時折押されている。
職場体験中にあったヒーロー殺しの一件については守秘義務があって答えられない。そのため麗日に犠牲になって貰ったのだが、今度何か詫びでもするから許せと心の中で謝る千雨だった。
放課後になり、千雨と八百万は体操着に着替えて申請した個別訓練場
二人で柔軟をしていると、八百万が申し訳無さげに千雨に声をかける。
「なんだか申し訳ありません、千雨さんの自主トレの時間を削って頂いてるのに……」
「私にとっても新しい発想の元になるし、一人での特訓よりタメになるから気にするなっての。
こうして人の手を借りて普段以上に柔軟も出来るし、無駄じゃねぇよ」
今の八百万は妙な所で自信を持てずに悩んで勝手に色々抱え込む癖のあったネギに似てる。しかもネガティブ思考全開となっているため前向きな言葉を掛けてやる必要があるので、根気よく八百万の否定的な言葉の数々を切り捨てた。
「よし、柔軟終わり!ありがとな八百万」
「いえ」
「それじゃあ訓練を…と、その前にだ。
いいか、私にできるのはせいぜい戦い方のアドバイスだ。戦闘の技術とかに関しちゃマジでド素人だから。本当に。マジで。
……四天王の奴らとかエヴァンジェリンとかだったらもっと的確な指導が出来たんだろうな……」
「ええっと?」
「すまん、こっちの話だ。
私に出来るのは八百万との組み手とか特訓と、使えそうな戦闘方法を考えて編み出し、実践して、改良していく形になる」
そう言って、千雨は訓練場の端にあったキャスター付きの黒板を持ってくる。
「今日は八百万がどんな事が出来るのか、八百万の能力を書き出していくぞ」
「書き出すのですか?」
「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』って言うだろ。自己理解を深めるのはどんな事であれ大切だ。
たとえば、どこまで小さいものを出せるのか。一番早く出せるのは何か。同じ構造で大きさの異なる場合にかかる時間の差はどれほどか。どこまで細かい構造が出来るのか。同時に複数の物はいくつ作れるか。能力のインターバル。自身の許容量。消耗率。
そういった今の八百万自身に出来ることとその限界を改めて把握をする。
"個性"把握テストと似てるが、あれは様々な動作において"個性"を使った場合のクラスメイトたちとの比較及び、"個性"の使い方が間違っていないかの確認みたいなものだったからな。
今回は他との比較や確認じゃなくて検証だ。
もちろん、八百万がすでに把握している事があるならそれも書いてほしい」
この世界、"個性"に対する能力の詳しい検証をあまりしない。中学で数回だけあった""個性"教育"という授業でも特訓をするわけではなく能力の発動が問題なく出来て自分の出来ることが何か認識させるくらいだ。
全員が全員違う能力で詳しく検証するのも一苦労という理由もあるのだろうが、それにしたって妙なところで抑圧的である。
一方で、この方針は一定の規格に統一させることで社会になじませやすくするというメリットがあるのだろう。"個性"を使う職業の中でもヒーローは特に"個性"の詳しい検証をするべきだと千雨は考えている。
"個性"を伸ばすことは基礎体力を一定以上付けた一年の後期や二年からやるものとなっているのかもしれないが、先取りしたって悪いことではない。
実際、個人で"個性"の特訓を行っていることだろう。シンプルな"個性"は現状把握が簡単であるし方向性もほとんど決まっているから特訓内容も困ることはない。
八百万の"個性"は複雑な分、様々な状況に対応して応用出来るのが強みでもある。
電子精霊が時間を測るなか、さっそく"個性"の検証を始めた。
ある程度の検証を終え、千雨は購買で買っておいたチョコレート菓子を八百万に差し出した。"個性"を使っていた八百万の休憩と補給を兼ねた時間だ。ついでに色々と相談する。
「八百万がよく授業で使っているものだと金属製の棒や大砲やロープが多いけど、対人戦闘においては閃光弾や煙幕、まきびし。足止めや攪乱が出来ればその分時間稼ぎも出来るし相手の隙を作れる。その隙を鉄パイプや大砲とかで的確に突いていくように技の組み合わせを考えれば強くなる。
加えて暗視ゴーグルや、発信器、発煙筒、ガスマスク、消火器、各種救急道具……夜や暗所、火災現場や事件後の救護といった様々な状況によって必要になるものも覚えておくと良い。
ま、ここら辺についてはお前もわかってるだろうし、ある程度覚えているだろ?」
「ええ、ですがまだ未熟ですわ……」
八百万は頭が良い。自身の"個性"の強みはキチンと理解出来ているし、そのための努力もしている。
ただ、結果の出ない状態が続いていることで自信を無くしてネガティブになっているため、その努力の成果が発揮されていないと理解した千雨は特訓の方針を決めた。
「限度があるとはいえ、八百万の"個性"は多くの事が出来る。攻撃においては遠近中全て、仲間の補助に移動と索敵、何でも応用出来る汎用性の高さはとても強力な武器だ。
必ず覚えておくべきもの、覚えておいて損は無いもの、必要になったら調べるものって三つの段階に分けたうえで、暗記を増やして、"創造"する速度を早める"個性"の特訓がひとつ。
それから私との実戦訓練では"創造"を活用した戦闘スタイルの確立と、技の流れを決めて形にする。
ひとまず、このふたつの方針でやっていこう」
"個性"の特訓と戦闘の特訓の二方向からのアプローチで八百万に自信を取り戻させる方針にした。
「戦闘スタイルの確立は何もない状態だと思いつかないだろうし、私の今の戦闘スタイルも教える」
「千雨さんの戦闘スタイル?……よろしいんですか?」
「別に構わねぇよ。授業や体育祭で見られてるし知ってるだろうからな。
まず最初に―――私は、素の身体能力が低い」
「えっ」
「"個性"の使えない状態の私は本当に弱い。とてつもなく弱い。ただの女子高校生だ」
一応千雨とてある程度は身体を鍛えて体力をつけているし一切鍛えていない女子よりは多少強いものの、体育会系とは口が裂けても言えない。
「だから戦闘においてはどんな状況だろうとも身体能力の強化が絶対必須。
近距離の相手だったらそのまま殴る。中距離なら無音拳……見えない攻撃を仕掛けてひるんだ隙に殴る。で、遠距離だったら距離を詰めて殴る。
これが基本のパターン」
「基本、ということは応用もあるんですのね」
「この基本スタイルに電撃やマンタ、あといろんな道具が加わる。
受け売りの言葉だが……どんな化け物的な力も、結局相手にヒットしなければゼロと同じことだそうだ。だからなるべく確実に当てるために近接体術は鍛えている。
鍛えてるといっても、ギャングオルカさんに教わったことくらいだけど」
アーティファクトアプリは切り札である。入試実技試験やUSJ事件の時はバンバン使っていたが、他の技を鍛えた今は本当に困った時だけ使う予定である。なお、あくまでも予定であるし、知られている道具は隠しても無意味なので使う。
「だから私にとって一番天敵なのが相澤先生なんだよ。消されている間は何も使えなくさせられるから逃げられないし即負ける。
あ、そうそう。相澤先生は八百万が手本にするべきヒーローの形の一つでもあるな」
「相澤先生が、ですか?」
「相澤先生以外にもいるけど、先生はお前と同じく"個性"で自身の肉体を強化する事も出来ないし、直接攻撃したり拘束したり動きを止められる"個性"じゃない。
だからこそ、咄嗟における判断力の高さと隙の突き方は見習える」
「判断力の高さと、隙の突き方……」
肉体面においては八百万と同じで無能力者である。だからこそ、手本の一つとして丁度良い。
「私が知る限りでの先生の戦闘スタイルだけど。
先生の場合はゴーグルで視線がどこに向いているかを隠し、捕縛布で相手の身動きを封じる他に腕や足を引っ張ることで不安定な体勢にしたり壁や他の敵にぶつけたりも出来る。また、相手の持っているものを奪うことも出来るな。
一度でも"個性"が使えないって思わせるだけで、相対している間に相手は"個性"を使おうとはしないからな。実際は常に発動している訳じゃなく、インターバルがある。それを知られる前に相手の動きを封じて倒す訳だ。
だからインターバルを不意打ちすりゃなんとか勝てるだろうけど……私が相手になるとマジで警戒してくるだろうからなぁ……」
一度不意打ちで幻灯のサーカスを使う事で勝利しているが、同じ手は二度と通用しない。しかも千雨が身体強化したらそれを即座に解除し、全力で捕縛しにくるだろう。
勝利するには長期戦に持ち込み目を酷使させて隙を作る位しかない。まぁ尤も、その隙も意図的に作られそうではあるのだが。
「悪い、話が少しズレたな。
八百万は作った道具で相手の"個性"をその場その場に応じて無効に出来る。ガス攻撃にはガスマスクを用意出来るし、暗い場所なら暗視鏡や懐中電灯なんかも用意出来る。そうやって相手に応じた判断をしていくことでより強くなれる。
騎馬戦でも轟の氷を地面に這わせる鉄棒を出したり、上鳴の電気を食らわないように絶縁体のシートを創造してたり、ハチマキ奪った時に着地用の錘付きのロープ出してただろ?
汎用性が高いからこそ、一人で戦う事も出来るし、トラップをその場で組み上げる事も出来るし、仲間を補佐する事も出来る。
更に戦闘スタイルを複数持っておけば撹乱させやすいし、時間が有ればそれだけで勝ち筋を作りやすい攻撃の要だ」
「攻撃の要……」
「そもそも迎撃出来るってのは強いぞ。敵をわざと誘い込んで良し、逃走時の時間稼ぎに良し。
マントとかで体を隠せばどんな攻撃をするか相手には分からない状態にもなるし、仲間もいれば誰なのかも分からないだろう。
わざと離脱して誘い込んだ先で閃光弾で目つぶしして砲撃とかも割と良いんじゃねぇか?
……ああ、これ私も戦闘スタイルに取り入れてもいいかも知れねぇな……。
いや、砲撃せずともその場で捕縛してしまうのも手か……そこは相手の"個性"に合わせて……」
話をしながらポンポンと色々な案を出しては黒板に書いていく千雨。
「……千雨さんは、いつもそうやって考えながら訓練を?」
「んなまさか」
「ですが、千雨さんは戦闘スタイルが豊富ですし、沢山の案を出してますし……」
「出来る事が何かないか調べながら手当たり次第に手を出してるようなもんだよ。
あと案については机上の空論な部分もあるし、実戦で使うには粗が多いから実際にやってみてどうなるかわかんねぇからな。
……そもそも、私は一年近く前まで戦闘とかからっきしだった」
麻帆良では1月あたりだっただろうか。
あの頃は他人のアーティファクトへの干渉は出来たが、そのデータをもとに具現化する技術はなかった。戦うと言っても、力の王笏で殴るくらいだ。
我が事ながら、当時と比べて強くなったものである。五倍にはなっている。千雨が頷きながらそう考えていた。
一方で、八百万は千雨の強さが長年の努力によるものではないという事に大きな衝撃を受けていた。
「そうなのですか!?てっきり、長年鍛えているのかと……」
「ステゴロに関しちゃ見様見真似で身に付けた我流だよ。ギャングオルカさんに癖がついてるから矯正された。
知り合いに強い奴が沢山いたから、いろいろな戦闘を見る機会に恵まれていた環境だったし、完全に戦う才能がない訳じゃないからだと思う。
逆に一年近く前までは強くなる必要性をそれまで感じていなかったし、長年鍛え続けてきた奴には敵わないよ」
身体強化も、無音拳も、魔力の使い方も、全てコツを調べて何度も練習して身に付けた。それでも、本物には遠く及ばない。彼らにはまだまだ追いつかない。千雨が平々凡々な日常を送っていた時間で鍛えていた彼らには。
懐かしい顔を思い出しながらも小さく笑みを浮かべている千雨。その横顔を八百万は見ていた。
「それと、射撃や砲撃については命中率を上げる訓練をするべきだが、これについては長期課題だな。一朝一夕で身に付くもんじゃねぇし、私よりもスナイプ先生に教わった方がいい。
それじゃあ戦闘スタイルについては色々と試していくとして、今日は近接で長物を使った立ち回りと、行動しながらの"創造"。そのあと、箱の中に別のものを創造する"個性"の特訓をするぞ」
「はい!」
千雨は神珍鉄自在棍を再現し、鉄パイプを持った八百万と向かい合う。
簡単な打ち合いをしつつ、時折突きや払いを交ぜていく。
二人の訓練は、六時のチャイムが鳴るまで続けられた。
個別訓練場
千雨の主要5科目に関するおおよその学力
現代文・古文:いける
数学:いける
英語:超余裕(元担任が英国人で英語教師)
化学・物理:普通より出来る
歴史:ちょっと苦手(近現代史がギリギリ6割、それ以外はケアレスミスはあるもののかなり出来ている)
文系寄りだが理系科目もこなせるタイプ。
地頭がそもそも良いこともあり苦労せずとも普通に出来る。ただしエスカレーター式で大学にいけることもありそれ以上の勉強をしようという考えは持てず、勉強以外の事に時間をかけてしまいがちだった。
がしかし、フェイトという鬼のように厳しいショタが担任教師に代わってしまい、それからはちゃんと勉強してテストも真面目に受けるようになった。
また、雄英の受験勉強で頑張った。ものすごく頑張った。