ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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お気に入り5000人達成、ありがとうございます。しかも今日で一周年。めでたいから今夜は高い牛肉とケーキ食って、仕上げにチーズ片手にシャンパンかワインをキメたい所存。

あと天気の子見ました。途中から謎の既視感に襲われ、それがエウレカだと気付いた時には映画館で叫びたくなりました。
エウレカはサッカー回あるから名作。異論は認める。


お餅とトラブル日和

日曜日。今日は午後から八百万の家での特訓の日である。

 

―――正確には、その予定だった。

 

千雨は現在、八百万と蛙吹とともに一人暮らしをしている麗日のマンションに来ていた。

 

麗日の住んでいるマンションの部屋は一人暮らしにピッタリな1K(ワンケー)タイプだ。玄関から入ってすぐの細く長い廊下兼キッチンスペースはきちんと片付けられているものの、冷蔵庫に貼られたメモ書きやごみの出し方の表などから生活感が垣間見える。

そのまま奥の部屋に向かうと、すっきりとした部屋があった。ベッドの他に、二畳ほどのい草のラグマットと小さなちゃぶ台と座椅子、勉強机、本棚、タンス、テレビ、扇風機などといった一通りの家具があり、壁には地球の写真が載った大型の年間カレンダーが貼られている。

タンスの上は家族の写真や可愛らしく女の子らしい小物が飾られていて、シンプルながらもどこか懐かしさのある居心地の良い部屋だ。

室内には先ほどから電子レンジの回る音がうっすらと響いている。

 

「素敵なお部屋ね、お茶子ちゃん」

「生活感丸出しでお恥ずかしい限りで……。

ウチに来客って考えてなかったからコップがバラバラで、なんかホンマごめん。お餅出来るまで麦茶でも飲んで休んでて!」

「ありがとうお茶子さん」

「気にしなくて大丈夫よ、お茶子ちゃん」

「一人暮らしだと食器沢山用意しても使わねぇもんだからな」

 

ちゃぶ台に置かれたマグカップ1つとプラスチック製のコップ2つには氷の入った冷たい麦茶が注がれている。手近にあったマグカップを手にして口にすれば冷たい氷が唇に触れ、梅雨晴れの蒸し暑さをやわらげる。

八百万は初めて見る1Kの部屋と出された麦茶に落ち着かない様子だ。

 

千雨たちは、麗日イチオシのお餅の食べ方である【チョコお餅】をご馳走になりにきていた。

 

千雨は八百万の特訓に来たと言うのにも関わらず、なぜ麗日の部屋でチョコお餅を食べることになっているのかと言えば、偶然とトラブルによるものだ。

 

 

 

この日千雨は約束していた通り、八百万との特訓をするべく八百万の家の最寄り駅にきていた。

最初、八百万からは千雨の家まで車で迎えにいくと言われたのだが、流石にそこまでしてもらうのは申し訳なかったため断った。

加えて八百万が午前中は授業の予習復習の時間にしたいということで、午後からの約束をしていた。

 

この世界、実は千雨のいた元の世界(2004年の麻帆良)と異なり、新幹線や電車やバスなど交通網などがとても充実している。

公共交通機関が発達しているのはロボットの発明などといった科学技術の発展の他に、"個性"によって人間の規格が多様化しそれにより住む場所が限定される人々がいる事や、背丈や体質の都合で車をそもそも運転することが出来ない人々がいる事も起因しているのだろう。そういった"個性"バリアフリーとして急速に発達して充実したのだ。

さらに、運賃は元の世界と比べて3分の1程度と安いのも特徴である。国民の生活に直結しているとして国から交通業界に補助金が出ているからだ。異世界ってすごい。

また、運転士業界の給料は普通の会社員より高いのも特徴である。これはハイジャックなどといったヴィランによる犯罪に巻き込まれる確率が高いからだ。異世界ってこわい。

 

ちなみに、八百万たちが愛知から県をまたいで毎日通学出来るのはこの発達した交通網と運賃が安いおかげだ。

 

閑話休題。

 

午後一番に駅についた千雨。迎えに来た八百万が家へと案内する途中、偶然にも蛙吹と麗日と駅近くで会ったのだ。

スーパーに買い物にきていた麗日と、レターセットを買いにきていた蛙吹。そこで麗日の一人一袋限定で安く買えるお餅の大袋の購入を千雨たち三人が協力することになった。

普段の千雨なら協力しないことなのだが、八百万が麗日の買い物の手伝いを希望した事に加えて、先日誤魔化すためとは言え芦戸たちからの追及に対して麗日を身代わりにしたことへの申し訳なさがあったからだ。

 

そうして麗日の案内のもとで向かったスーパーで、千雨たちは窃盗の現行犯を見つけてしまったのである。

スーパーでの出来事を思い出した千雨は、思わずため息をついた。

 

「ケロ?どうしたの、千雨ちゃん?」

「今日は妙なトラブルに巻き込まれたなぁと思って……」

「確かにそうね。そういう趣味の人かと思っちゃったもの」

「私も驚きましたわ。ですが、店を出て一瞬で確保されたのは流石でしたわ」

「クラス最速だもんね、千雨ちゃん」

 

窃盗犯は20代前半の若い男で、その男が盗んだものが女性用下着。男がそういう趣味がある訳でも窃盗癖があるわけでもなく、なんとも情けなく憐れむような理由であったのだ。

大学生で四年間片思いをしていた女子(名前はみゆきさんというらしい)をデートに誘ったそうだ。憧れの人とデートをするという事で三日前から眠れず、今日は緊張で朝からお腹が痛かったらしく、せめて待ち合わせ前にトイレに行こうとしたが見つからず。ほんの少しだけ、漏らしてしまったらしい。

焦った男はその時になって財布を家に忘れた事に気付き、下着欲しさに盗んだのだ。ちなみに女性用下着を盗むつもりはなかったらしい。

 

この男の理由を聞いた千雨は「デートの相手に電話して待っててもらって一度家に帰りパンツ履き替えて財布持ってくればよかっただろうが」という正論のツッコミを入れた。

 

「にしても、どうして千雨さんは確保してすぐにお店に突き出さなかったんですの?」

「ん?ああ……あんなに号泣しながら謝ってるのを見たら、一度落ち着かせないとダメだと思ってな。流石にお店の人もビビるだろ、号泣する成人男性を突き出されても」

「確かにそうやね……でもまさか連絡した彼女さんが迎えに来て一緒に謝りに行ったのは驚いたよ」

「私、どうしても納得できませんわ。

その……もらした挙句、窃盗するような男の人に幻滅しないどころか、放っておけないだなんて……」

「毅然とした男の方が頼りになるってのはあるが……手がかかる子ほどかわいいって奴だろ。

特に心配になって手を貸したくなるような相手には、情が湧くもんだし」

 

千雨はネギの顔を思い出した。何か困った事があれば千雨さん相談に乗って下さいと頼ってくる様子は、どんな内容であろうとも断れずに手助けしていたのが懐かしい。重要そうな事から取るに足らない日常の相談まで、いろいろあった。

ネギの次に轟と緑谷、飯田の顔が浮かんだ。何だかんだ言いつつ、この三人は放っておけない危うさがあり、しかも緑谷は危険を顧みずに飛び出す部分があって目が離せない。クラスで一番仲のいい常闇は三人のように心配になるという事はない。ただ、何気ない反応を可愛いと思うことや、一緒にいて心地良いと感じることが多い。

そうして次に他の男子たちや女子たちの顔が浮かび、先週の土曜日に八百万に特訓をしてほしいと頼まれた事を思い出す。

今のクラスメイトたちはまだまだ未熟ゆえに、何かしら手がかかる。その手がかかる所が嫌いになれないと思うのは千雨の秘密である。

 

思い浮かべた面々に、千雨は小さく笑みをこぼした。その小さな笑顔に、八百万たちは千雨の面倒見の良さを垣間見た。

 

「ケロ、そういえば参観会に千雨ちゃんの家は誰が来るのかしら?」

「忙しいから来れねぇんだよ。まぁそうじゃなくても来てほしくないんだが」

 

適当な方便を言う千雨だが、そんな言葉に八百万が表情を曇らせた。

 

「来てほしくないだなんて、そんな……」

「あー……行事に参加する人じゃねぇから。つか、三人ともそんな悲しそうな顔するなって」

「ですが……」

「そんな悲観する事じゃねぇんだよ。

それにほら、あれだ。保護者に来てほしくないのは轟もそうなんじゃねぇか?」

「轟ちゃんも?」

「保護者ってことは、エンデヴァーさんが来るかもしれねぇだろ。父親なんだから」

 

まだ過去の出来事を許せていない轟にとって絶対に来て欲しくない相手だろうと考えていた千雨の言葉に、麗日たちがそうだったと言わんばかりの表情になった。

ビルボードチャートでNo.2の燃焼ヒーロー、エンデヴァー。長身で筋骨隆々なのはオールマイトも同じなのだが……如何せん、オールマイトのいつも笑顔でユーモアに溢れて明るく優しいという印象とは真逆のヒーローである。

 

「……それは……うん。ウチ、ちょっと来てほしくないかも……」

「気持ちはわかるわ、お茶子ちゃん」

「で、ですが、来て頂けたら演習の際に何か参考になる事もあるかもしれませんわ!現役トッププロなんですし!

……たしかに、少々怖い方ですが」

 

千雨も以前は実力派ヒーローの中でも硬派で真面目だが、その一方で無愛想でプライド高く激情家という印象だった。だが、理不尽な怒りをみせる人ではないし、共感を覚えている事に加えて尊敬出来る人物であるため認識を改めていたが、どうやら三人からは不評のようだ。

エンデヴァーのファン層が20代以上の男性が中心である時点で分かっていたことだが、ここまで怖がられているのによくNo.2を維持出来るものだと密かに感心してしまう千雨だった。

 

「何はともあれそれぞれの家の事情ってのがあるんだ。だから私の事は気にしないでくれ」

「わかったわ」

「ところで……そんなに怖いか?エンデヴァーさん」

「千雨ちゃんは怖くないのね」

「まぁ千雨ちゃんはギャングオルカのとこに行く程やし……。

あ!レンジでチン出来たからもうちょい待ってて!」

 

電子レンジの軽快な音でキッチンスペースに向かう麗日。チョコのトッピングも麗日がしてくれる。

本当は手伝いたいのだが一人暮らし用のキッチンスペースは狭いので、三人はその場で待機である。

 

「楽しみですわ、チョコお餅」

「……二人にも聞きたいんだが……もしかして、ギャングオルカさんも怖い?」

「私はそこまでじゃないけど……妹が泣いちゃったことがあるわ」

「あまり一般受けはされていないかと」

「……そうかぁ……」

 

千雨は自身の怖いという感覚が周囲とずれていることに衝撃を受けつつ、それでも怖くないものは怖くないからどうにもならないかと思い考えるのをやめた。

 

それと同時に麗日がチョコお餅を持ってきた。

電子レンジで柔らかくした餅に一緒に電子レンジで溶かしたチョコを練り込み、大福のようにさらにチョコを包んである。

肝心の味については、チョコのとろける甘さと、お餅のやわらかさが絶妙にマッチしている。

千雨たちは初めて味わうチョコお餅の美味しさに驚き、麗日に感想を言う。

 

「とっても美味しいわ、お茶子ちゃん。和洋折衷スイーツね」

「うん、美味い。ココアパウダーとかがついてても良いと思う。手が汚れちまうけど」

「おおー!そしたら更にチョコや!」

「お餅が手軽にこんな美味しいデザートになるなんて、すごいですわお茶子さん!」

「えへへ。お餅の可能性は無限大やからね!」

 

麗日も千雨たちが喜んでくれたのが嬉しいようだ。

 

「ところで麗日の一人暮らしって、なんで愛知なんだ?

ウチのクラスで一人暮らししてる奴で麗日以外全員静岡だろ」

 

A組の中で一人暮らししているのは、砂藤、障子、口田、麗日、千雨の5人だ。そのうち麗日だけ愛知住まいである。

 

「それ!ウチも学校近くの方が良いって言ったんだよ!

せやけど父ちゃんが、女の子やし何かあったらすぐに自宅に帰れる距離にした方がええからって!

確かに愛知やったら実家の三重に帰れん距離じゃないから」

「あー、そういう事か」

「それにこの部屋もともと家賃安いし、雄英から一人暮らしの生徒への家賃補助制度もあるし、学割で定期買ったら雄英近くに住むより安上がりなんよ。通えなくはないし」

「お茶子ちゃんのお父さんはお茶子ちゃんの事が心配なのね」

「未成年の女子の一人暮らしですから、当然ですわ」

「通学時間考えると、雄英ん近くやったらな~って思う時もあるよ。

まぁ学校近くは家賃高いから住めへんけど」

「雄英近くは他より高いもんなぁ」

 

そのまま話題があちらへこちらへと移動する他愛もないおしゃべりをしながら、チョコお餅を食べる四人だった。

 

 

チョコお餅とおしゃべりを堪能した四人はそれぞれ用事もあることだしということでそろそろ解散することにした。

蛙吹と八百万の家は逆方向のため、麗日のマンション出入口前で解散だ。

 

「それではまた明日」

「うん!また明日、学校で!」

「またね、お茶子ちゃん、千雨ちゃん、八百万ちゃん」

 

麗日が手を大きく振って千雨たちを見送った。

 

 

 

千雨は八百万とともに八百万の家へと向かう。まだ午後二時半だ、あと三時間は特訓できるだろう。

しばらく歩いて移動すると、立派な塀がどこまでも続く通りに出た。この時点で千雨はこの後の展開を察した。

そうしてその塀が終わった場所にある立派な門を前にして、八百万が口を開いた。

 

「此方ですわ!……千雨さん、どうかしましたか?」

「いや、想像していた通りだなと思って」

 

大きく豪奢な門と塀の長さから導き出される敷地面積に、いいんちょの実家とエヴァンジェリンの別荘である程度は慣れていた千雨はやっぱりなぁという何とも言えないアルカイックスマイルを浮かべていた。

八百万がいるからなのか何もせずに門が自動的に開いていく。すると、門のすぐそばに黒服を着た老紳士と呼べる男性が立っていた。

 

「ただいま戻りましたわ、じいや」

「おかえりなさいませ、百お嬢様。

長谷川様でございますね、よくおいで下さいました。私、八百万家の執事の内村と申します」

「初めまして内村さん、今日はお邪魔致します」

 

執事の内村に対し、普通に軽く会釈をしながら挨拶する千雨。

 

じいや……もとい、執事の存在について千雨は慣れている。

なにせいいんちょこと雪広あやかというお嬢様が何かしようと手を叩くと、唐突に現れるメイドを引き連れた老人を知っているからだ。

手を叩くだけで、お菓子や紅茶を持ってきたり、出し物を決める話し合いの場でクラス全員分のメイド服を手配したり、他にも色々とお嬢様のお願いを瞬時に叶える。ランプの魔人もビックリな速度でお願いを叶えるメイド集団の取り纏めをしている人物、それこそが執事。

 

ちなみに世界のどこかには、とんでもない相続権を持ったお嬢様に仕える一億円以上の借金を抱えたなんでも出来る天然ジゴロな高校生執事もいるらしい。

 

「千雨さん、さっそく我が家をご案内致しますわ!」

 

八百万に連れられて森のような前庭を通り過ぎ、ヨーロッパにいるのではと錯覚するほどに立派な西洋建築の屋敷に入る。

入ってすぐの玄関ホールは天井が高く、シャンデリアが輝いている。また、室内は磨かれた大理石の床に、花と植物の描かれた壁紙。絵画や高価そうな壺などが飾られている。成金すぎず、かといって質素すぎない絶妙に豪華な内装だ。

 

千雨はお金持ちの屋敷というのは世界が違っても大体同じだな、と考えていた。

緊張するどころか共通点の発見をするほどの余裕を持っているのは、妙なところで上流階級に慣れているからだろう。

 

「そういや八百万の家族は?」

「今日は父も母も外出しておりますの」

「そうか。挨拶しときたかったんだけど……」

「本日はどうしても外せない用事だそうで、母も千雨さんに挨拶したかったと残念がってましたわ」

「外せない用事なら仕方ない」

 

八百万の話によると、屋敷には様々な施設があるようだ。大きな講堂に図書館、本格的な設備のある厨房、広い食堂、衣装部屋、いくつもの客室……とはいえ、エヴァの別荘で慣れている千雨にはあまり驚くことではない。これほどの大きさの屋敷なら当然の設備だろう。それよりもどちらかと言えば掃除が大変だろうなという感想を抱いていた。

 

八百万に案内されて向かった場所は、広々としたトレーニングルームだ。

室内は物がなくすっきりしていて、壁にぶつかっても大丈夫なように壁面に学校の訓練場でも使われているウォールクッションが貼られている。

 

「……トレーニングルームあるんだな、八百万の家」

「雄英を目指すにあたって両親が用意してくれましたの。各種トレーニング器具は隣の部屋にありますわ。

それでは今日もよろしくお願い致します!」

 

目を輝かせてやる気に満ちた八百万。

さっそく動きやすい服装に着替えて柔軟をしてから長物の立ち回りと"個性"を使った技で考えていたものを実践して手合わせをする。

 

「"個性"を使った技としては、中遠距離攻撃の後に接近して攻撃のコンボはすごく良い。身体から直接煙幕弾を射出するのも良い発想だ。

ただ、鎖で腕を封じて接近する場合は鎖を利用される場合があるから、鎖を途中で身体から切り離すか地面にくっつけちまうのも手だな。

瞬間接着剤みたいなものか、脂質に余裕があるなら重りとか、あとは工業地帯みたいな金属のある場所なら強力な磁石とか、あとは近くの柱に繋ぐのも有り。

あまり相手と離れていなければ、接着剤系の物質を弾にして発射するのもありだぞ」

「なるほど……では、速乾性の高い接着剤も覚えておきますわ」

「覚えるなら溶解するための薬剤も覚えておけよ。仲間や自分にかからないとは言えないし」

「そうですわね」

 

簡単な手合わせの反省と改善案を出し、今度は"個性"の特訓を始める。創造速度の上昇として、千雨が指定したものを次々に創造していく特訓だ。八百万が無意識でも作れるマトリョーシカから始まり、ロープや鉄パイプ、砲弾、マント、磁石などなど。しかも全て数や長さや重さを千雨が指定した通りに創造しなくてはならないのは中々大変である。

八百万の場合、創造し続けるのは計算問題を解きながらランニングし続けているのと同じである。しかも八百万の創造するペースより早く千雨が次のものを指定するので、続ければ続けるほど難易度が上がる特訓だ。

 

八百万の顔に疲労の色が見えたところで休憩にすると同時に音もなくメイドが冷やした紅茶とチョコレートの載ったワゴンを押してトレーニングルームに入り、どこからか持ってきた机と椅子で休憩スペースを即座に用意する。

お茶菓子のお礼を言いながら、メイドとはどの世界でも気配を消して主人の意を汲むんだな、と千雨は感心した。

 

「前よりも創造速度が早くなったし、近接の動きも全体的によくなった」

「そ、そうでしょうか?自分ではまだあまり実感がわかないのですが……」

「創造速度のタイム測ってるからな。実感が無い程度かもしれないが、この数日の訓練でも時間が縮んでる。続けていくことでより複雑なものや複数のものを作ることだって瞬時にできるようになる。

着実に成長して強くなってるよ、八百万は。

今日のトラブルの時も、私が確保するのと同時にロープ創造してたし」

「千雨さんの指導のおかげですわ」

「私の指導なんざ、ちょっとしたアドバイス程度だよ。八百万自身の努力があってこそ成長してるんだ」

「私自身の、努力……」

「お前が努力したから技も増えたし、創造の速度も上がったんだ。だからもっと自信持てよ」

「……ありがとうございます、千雨さん」

 

千雨の言葉と自身の成長に少しは自信を取り戻せたようだ。

休憩を終えてから、再び組手と技を試しては改善点を探し、"個性"の特訓を繰り返す。

 

 

夕方になり、今日の特訓を終えた二人。八百万が駅まで車を出してくれると言うので、その好意に甘える。

黒塗りの高級車を運転するのは執事の内村さんだ。後部座席で千雨は駅まで見送ると言った八百万と話をしていた。

 

「千雨さん、今日は本当にありがとうございました」

「色々と予定外の出来事があったけどな」

「ふふ……私、今日お茶子さんと梅雨ちゃんに会えてよかったですわ。

スーパーを見て回れましたし、お茶子さんと梅雨ちゃんと仲良くなれましたし、チョコとお餅の組み合わせが美味しいことも知れましたもの!」

 

明るく楽しそうに話す八百万。どうやら今日の出来事は良い思い出になったようだ。

 

明日の参観会でより自信をつけてくれれば言うこと無しだなと考えながら、千雨は家の最寄り駅まで電車に揺られた。

 

 




ここで作者から、とてもとても大切なお願いです。

拙作を読んでお気に入りしている人が5000人以上いる事から、千雨ファンが現在も存在している事と、千雨需要が現在も発生している事の確認ができます。この中の100人に1人が千雨主人公の作品を書いたら50作品は出来る計算になるので、短編で良いから書いて下さい。すでに書いている方も、是非書いてください。
全員とか10人に1人とか言いません。100人に1人で結構です。新作や続編の投稿を千雨沼の底から待っています。

作 者 は い つ ま で も 待 っ て い ま す 。

以上、供給のお願いでした。

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