ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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「安達武さん、執筆難産を拗らせましたか?ちょっとスランプになりかかってますね。……ああ、本誌の先行き不透明さで……。
分かりました、今日のところは新しい千雨SSと推し作家の新作SSを出しておきます。これで冬休みの間は様子を見てくださいね」
って言ってくれる医者を探してます。

え?そんなことを言う医者はいない……?
そしてもう年末で12月31日……?
嘘だっ!!



期末試験

日曜に八百万の家にて行われた勉強会から数日。あっという間に七月初旬の期末試験の日がやってきた。

 

一年生は木曜日と金曜日の二日間かけて筆記試験が行われる。ヒーロー科の演習は他科が休日となる土曜日に各学年各クラスごと時間をずらして行われる。千雨たち1年A組の演習試験は普段の三時限目の時間からだ。

 

筆記試験は勉強会のおかげか、千雨は中々良い点数が取れているんじゃないかという気がする。問題によどみなく答えられたので、赤点は絶対にないだろう。

上鳴と芦戸も手ごたえがあったのか、八百万に嬉しそうに感謝していた。

 

筆記試験を終えた千雨は八百万に誘われて一緒に下校していた。

 

「明日はついに期末演習だな」

「はい。……しかし、本当に言わなくて良かったんですの?」

「ん?ああ……試験前に言ったら多分、筆記試験でこけてただろうし、今から焦らせて寝れなくさせちまうのも悪いだろ。

それに、本当に対人戦闘が演習になるって決まっている訳じゃないぞ?あくまでも私の予想だ」

「そうですが……」

「あいつらも雄英に入学してUSJ事件やら体育祭やら職場体験こなしてるんだ、心配ないだろ」

 

千雨とて考えなく伝えないようにしているのではない。そしてクラスメイトの力量と教師陣も乗り越えられない壁は用意しないと信じているのも理由である。

 

「悩もうが悩まなかろうが、明日が試験。今日まで頑張ってきたんだ。八百万の頑張りは、私が一番知ってる」

「千雨さん……」

「だからその……なんだ。

…………お前なら、大丈夫だと思う」

 

信じているだの、大丈夫だの、そういうセリフを面と向かって人に言うのは恥ずかしいのか、千雨は赤くなった顔を隠すかのようにそらす。

そんな千雨に八百万はクスリと小さく笑う。実力者で頼りがいがあって尊敬できるのに、どこか不器用で可愛い友人に。

 

「ありがとうございますわ、千雨さん」

「いや、別に……感謝されることじゃねぇし……」

「明日の演習試験、頑張りますわ!」

 

キリリとした表情で決意を告げた八百万に千雨は「おう」とだけ返した。

 

 

 

全員コスチュームに着替えて集合場所である校内バス乗り場に集まる。

千雨たちの前には担任である相澤だけではなく、13号やプレゼント・マイク、スナイプ、セメントスなどなど、総勢8人の教師がいた。

 

「それじゃあ演習試験を始めていく。

この試験でも、もちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともねぇヘマはするなよ」

「先生多いな……?」

「5……6……8人?」

 

葉隠が数えている横で、千雨はイヤな予感が確信に変わっていくのを強く実感する。

これは千雨が15年の短い人生で得た経験則だが、イヤな予感がした時は大抵ロクなことが起きないのである。

 

「諸君なら事前に情報仕入れて、何するか薄々わかってるとは思うが……」

「入試みてぇなロボ無双だろ!!」

「花火!カレー!肝試しー!!」

 

相澤の言葉に芦戸と上鳴が実技試験前とは思えないほどのハイテンションで騒いでいる。

赤点になるのではないかと心配していた筆記試験の出来が良かったのだ。あとは実技をクリアすれば楽しい楽しい夏休み、ということからこのテンションである。

 

「残念!!諸事情あって、今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

相澤の首もとに巻かれた捕縛布からひょこっと出てきた根津の言葉に、笑顔で騒いでいた芦戸と上鳴の動きが固まった。

 

「校長先生!」

「変更って……」

「それはね……これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!

というわけで……諸君にはこれから、二人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

「先……生方と……!?」

 

教師との対人演習試験。

根津から告げられた予想外の演習試験の内容に緊張が走る。

その中で唯一、千雨は苦虫を噛み潰したような顔で予感が的中してしまった事にうめき声がこぼれた。

 

「やっぱり対人戦闘かよ……!」

「『やっぱり』って……長谷川、知ってたの!?」

 

静まり返っていただけあって、千雨の声が響きクラスメイトたちと教師陣の視線が千雨に集まった。

話さざるをえない空気に千雨はカリカリとヘッドギアに守られていないこめかみ近くを掻く。

 

「……サポート科から、体育祭で出したロボの修理を今年はしてないって聞いたんだ。そこで教師が試験に向けて何を手配しているのかと思って色々聞いたら、なんかサポート科でコンペ開催してたし。サポート科の期末実技課題のコンペリストから、教師との演習かなって。

まぁ他の学年が対人戦闘を行う可能性もあったから、3割程度の可能性だったが……」

 

その言葉に教師陣は感心した。

誰でも手に入れられる情報とはいえ、それらをつなぎ合わせて分析と予測をしていた。おそらく対人戦闘の対策も立ててきていることだろう。やはり、他の生徒とは違う。

 

「教えてくれても良いのに!」

「確定情報じゃねぇし確率も低いことをホイホイ教えられる訳ねぇだろ。無駄に不安を煽ってどうする。

つか、何でも事前に教えてもらえると思うな」

「冷たい!」

「私は元々優しくねぇよ。それにこれで一つ勉強になっただろ?過去の情報を鵜呑みにせず、現状と照らし合わせるってこと。

情報は水物だからな」

「長谷川の意見が正論だ。

演習試験について詳しく説明する」

 

相澤がそう言って試験内容について話し始めた。

 

「ペアの組み合わせと対戦する教師は、既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて、独断で組ませてもらった。

では、早速組み合わせを発表する。

まず、轟と八百万がチームで俺とだ。そして、緑谷と爆豪がチーム。で、相手は……」

「私が、する!」

 

教師陣の奥からやってきたオールマイトが緑谷と爆豪の相手のようだ。

そのまま相澤によって順に組み合わせを発表されていく。

 

最後に、千雨の名前だけが呼ばれずに残った。

 

「相澤先生、長谷川が余ったけど……」

「全員二対一だから長谷川の演習も二対一だ」

「……まさか……教師が2人、とかですか?」

 

千雨が恐る恐るといった雰囲気で訊ねる。教師二人と戦うなどアーティファクトが無ければ不利すぎる期末演習だ。しかし千雨のそれは杞憂に終わった。

 

「長谷川が組むのは他クラスの生徒で、演習相手は俺。長谷川以外の十組はそれぞれ用意してあるステージで一斉スタート、長谷川の試験はその後だ。

試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない、速やかに乗れ」

「……相澤先生か……」

 

天敵の相澤が相手。そのことに嫌そうな顔をする千雨に、上鳴がツッコミを入れた。

 

「いやそこは他クラスの生徒と組むって所に突っ込めって」

「教師二人と戦うよか勝率があるから別に……それに誰と組むのかは知らんが、頼れる相手を願うっきゃねぇよ……」

「長谷川、お前の組む他クラスの生徒は先にステージにいる。十組の演習試験が終わるまで三十分、その間に話し合いとかしとけ」

「はい」

 

相澤の言葉に返事をして、それぞれが学内バスに教師と共に乗っていく。

千雨も乗ろうとした時、八百万に声をかけられた。

 

「千雨さん!」

「八百万……その、昨日も言ったが大丈夫だ、頑張れ」

「……はい。千雨さんも、頑張ってください」

 

まだどこか不安そうな顔の八百万に千雨は大丈夫だろうかと不安を感じつつ、今は自分のことに集中せねばと意識を切り替える。

 

千雨一人を乗せた学内バスはしばらくして市街地演習場のバス停についた。バスを降りた先に、体操服姿の一人の見知った生徒。

 

「…………お前が演習試験のペア?」

「ああ」

「あー……なるほど。お前にとっても試験って奴か。

 

心操」

 

千雨の期末演習試験のペアは、一年C組普通科にして今年度体育祭一年生ステージにて本選トーナメントまで来た生徒――心操人使だった。

 

 

 

千雨が心操と向き合う数週間前。

今年度の一年ヒーロー科期末演習に関する会議は淡々と進んでいた。

 

「――最後に長谷川ですが……。

長谷川千雨、特別枠入学者。"個性"は"電子操作"。電子精霊という電気を帯びたモンスターを操り、電子機器の操作とプログラムの実体化が出来る"個性"。

モンスターのエネルギーを身に纏う身体強化、目に見えない攻撃、瞬間移動、電撃など……多彩な技を持ち、遠近攻防どれも優れ、戦闘力、機動力、情報収集力、判断力、どれもが飛び抜けている万能型。

"個性"の制御と技の精度は一年生の中でもトップクラスで、既にプロに通用するレベル」

 

相澤の評価に、他の教師陣が口火を切る。

 

「今年の一年生は全体的にレベルが高いけど、その中でもずば抜けて応用力が高い生徒だ」

「セメントスの言う通りね。入学した時点で既に必殺技を持っている生徒はよく見るけど、ここまで多彩な子は滅多にいないわよ」

「技ノ開発ニオイテ、デメリットヲ考エテ開発シテイル」

「エクトプラズムは一度特訓場所に遭遇したんだったな。ラボにもよく来るよ。装備に関しても実戦を想定して改良を重ねている」

「それだけ彼女がより成長しようとあらゆる努力をしているということさ」

「しかも個人での能力のみならず、チーム戦になると参謀役をつとめて指揮官としても有能。その場合の戦闘力は数倍になり、それぞれの欠点を埋めるチームの潤滑油としても機能する。

……色んな意味で、他とは違う生徒です」

「一人でも多彩で有能。二人以上になるとプラスになるのではなく、数倍にするタイプか。一年生でこのレベルとは……」

 

教師陣の間でも長谷川千雨に対する評価は高い。

優等生とされても問題ないどころか、既に一線級の実力もあると評しても問題ないほどだ。

 

「トッププロの多くは一人で全てをこなす。今よりもっと知識を身に付けて経験を積めば、トップランクにすぐ入る逸材さ」

「本人は救助専門の後方支援希望と言っていますが……」

「現時点で戦闘力が高いからこそ、救助関係の勉強をしたいという事かもしれない」

「なるほど……」

「現時点で特に大きな課題がなく、おそらく一人でも試験を合格出来るでしょう。ただし、持久力と近接戦闘が今一つ。

今回、彼女にはヒーロー科編入希望の心操と二対一の演習をさせます。今回の演習で現時点での心操の評価をするのに加えて、ほとんど鍛えていない上に接点のない心操と組ませ、心操をどれだけサポートすることが出来るか。

加えて俺が"個性"を消して近接戦闘を仕掛けて長谷川のペースを崩します」

「異議なし!」

 

 

 

そうしてこの組み合わせが決められたのだが、当の二人は知らない。

 

「とりあえずまずは自己紹介だな。

一年A組の長谷川千雨、"個性"については……体育祭で知ってるか」

「……わざわざ自己紹介する必要あるか?」

「体育祭で見てたとはいえ、顔合わせて話すのは初めてだから一応。

お前にとってもこの試験、受ける意味があるんだろ?」

「…………編入にあたって、現時点での実力を知りたいと言われた」

 

それは一週間前、心操が担任に呼ばれて話されたことだ。

体育祭で本選まで残った事と有用な"個性"である事から、もし本人に編入の意思があるのであれば現時点での実力を測るためにも期末演習を受けないかと言われたのだ。

雄英ヒーロー科への編入という、心操にとって諦められないヒーローという夢への道。一にも二にもなく、心操は期末演習を受けると告げた。

だからこそ、この演習は心操にとって絶対に結果を出さなければならないのだ。

 

「なるほど。

三十分でお互いの"個性"で出来る策を考える訳だが……この期末演習の課題はなんだと思う?」

「課題?……戦闘力じゃないのか?」

「お互い課題があるからこの組合せになってる。意味なく組み合わせを作るほど期末演習はぬるくねぇよ。

だいこ、対戦の一覧をディスプレイで」

「はい、ちうたま」

 

電子精霊のだいこが各組合せと相手の教師の載った一覧表を仮想ディスプレイにして映し出す。

心操は体育祭での戦闘しか見たことがなかったため、一瞬ビクリと身体を揺らした。

 

「他の奴らの組み合わせと"個性"を見りゃわかるが……瀬呂と峰田は拘束系"個性"。口田と耳郎は音に関する"個性"。砂藤と切島は消耗戦が不得手……上鳴と芦戸に関しては対頭脳戦が不得手だろうな。

それぞれ課題ありきで組み合わせにされてるってわけだ」

「……じゃあ俺と長谷川の場合は、連携やコミュニケーションか?」

 

初対面でこうして話すのも初めての相手だ。

三十分の間で連携出来るようにするのは難しい。

 

「話が早くて助かるが、それだけじゃない。

心操、お前は体育祭でもそうだったが強力な"個性"だが解除されたり対策たてられると通じなくなる。さらにフィジカルの脆弱さも弱点だな」

「…………」

 

ハッキリと同学年のヒーロー科女子に言われ、内心傷付く心操。事実だからこそ、耳が痛い。

そんな心操をよそに、千雨は話を続ける。

 

「で、私は基本何でも出来る器用貧乏型だが近接と不意打ちに弱い。私を押さえられたら期末試験は詰む。

捕縛布で縛り上げられたら脱出に時間を使うだろうし、その間にお前を狙うのがセオリーってところかな。相澤先生の"個性"相手じゃお前の"個性"も使えないだろうし」

「相澤先生の"個性"……?」

 

心操が首を傾げたことで、千雨はおや、と気が付いた。

 

「演習相手の相澤先生が何の"個性"か知らないのか」

「……あの見た目で、ヒーローだとしか」

「相澤先生は抹消ヒーロー、イレイザーヘッド。アングラ系でメディアに出ないから知らない奴が大半なのも仕方がないが、先生の"個性"は"抹消"。見た相手の"個性"を消す。消せるのは発動型と射出型。

お前と同じように強力な"個性"だが、直接的な戦闘能力はないから"個性"の力だけで制圧する事が出来ない。生まれもったものだけでヒーローになった人じゃない……努力して今の評価を得た人だ」

「!」

「……心操。お前、体育祭のトーナメントで緑谷に言ってたよな。

『恵まれた人間には、わかんない』『誂え向きの"個性"に生まれて、望む場所へ行ける奴らには』……って。

私も恵まれた人間じゃねぇからその気持ちはわかる」

 

心操は驚いた。あれだけの強さを持っていて、恵まれていないと言った千雨に。

なにか裏があるのではないかと、訝し気にしながら千雨の言葉を待った。

 

「恵まれていないから、限界を知っている。結果が見えている。挑戦する前に諦めちまう。所詮自分は主役になれない脇役だって思って卑屈になる。誰だってそうだ。

でも、お前は違った。お前は勝とうと立ち向かった。周りがなんと言おうと夢を諦めなかった」

 

千雨からしてみれば、心操は眩しい存在だ。

昔の千雨は口先だけの傍観者で、外から好き勝手言う人間で、生まれつき才能を持った人間を羨んでいた。

でも彼は、たとえそうだとしても諦めずに挑戦した。

千雨は自分から踏み出すことがずっと出来なかった。ネギに背中を押してもらって、初めて踏み出せるようになった。

だからこそ、一歩を踏み出せる心操ならヒーローになれると思っていた。ネギのように、勇気ある人間だと思っていた。

 

「……あんだけ強くて、恵まれてないなんて嘘だろ」

「嘘なんかじゃねぇよ。

私は本当に強い奴を沢山見てきた。その真似を必死にしてるだけで、私は生まれつき強い人間じゃねぇ。

体育祭で見せたマンタやクジラ、目に見えない攻撃。この二つは体育祭前の二週間で形にした技だ。超パワーと超スピードは、中学の時に砂まみれになりながら数か月かけて身に付けた。それ以前、中学三年になるまでは戦闘なんてほぼ不可能などこにでもいる女子だったよ」

「は!?」

 

千雨の言葉に心操は驚きを隠せなかった。

心操はずっと、ヒーロー科に入るような奴の中でも上位の奴らは、他人の努力なんか生まれつきの才能で追い越していく人間だと思っていた。昔からその才能の輝きでもってヒーローを期待されていた奴らだと。

そうじゃないのだと本人に言われても、そんなのは信じられない話だ。

期末という成績に関わることだから、俺に共感するように言ってるんじゃないか。

なによりも中学三年まで、およそ一年前まで戦闘がほぼ不可能?あの強さで、そんな事があるはずがない。

心操は到底信じられないからこそ、嘘だと思った。

 

「いや、嘘だろ」

「信じてねぇか?でもまぁ恵まれた人間であろうとなかろうと、努力せずして強い奴は一握り。常に上を目指す努力をし続ける必要があるってことは事実だ」

「……嘘じゃないにしても、お前はそれを身に付けるのにそんな短い時間で出来た。それは、恵まれてるってことだろ」

 

心操の答えに、千雨は眉をひそめる。

この男子、だいぶひねくれて育ったようだ。千雨の血のにじむような努力を知らずにそう言えるのに腹が立った千雨は軽く煽るように言う。

 

「……ほぉ?んじゃあお前は何か努力したか?諦めなかった以外の努力を。ヒーローになりたいと憧れて、何を実践した?勉強だけか?」

「っ!」

「いいか心操。私は恵まれてないなりに努力した。必要な力は何かを考え、それはどうすれば実現出来るのか試行錯誤した。その積み重ねの上に今私はヒーロー科にいる。

習得の時間は関係ねぇ。努力をしたのかしてないのか。……夢を叶える人間との差ってのは、それだと私は思う」

「…………」

「私は、口先だけの自分が嫌だった。薄っぺらい自分が嫌だった。無力な自分が大嫌いだった。置いてかれちまうのが嫌だった。だから私は、変わろうとした。

……お前も体育祭でトーナメントに上がろうと足掻いたから、今こうして編入のチャンスを掴みかけてる。諦めなかったからだ。その諦められない思いがまだあるなら、努力して足掻けよ。

ヒーローになるんだろ」

 

顔をふせた心操の肩が、小さく震える。

今まで心操がヒーローという夢を持っている事を受け入れてくれたのは、今のクラスメイトだけだ。それも、体育祭で結果を出してから応援してくれるようになった。

小学校でも中学校でも"洗脳"という"個性"でだけでヴィラン向きだなどと言われ、ヒーローになりたいという夢を話せる人はいなかった。それでもずっと諦められないままでいた。

そんな心操に、ヒーローになる夢を笑うことも、"個性"をヴィラン向きだと言うことも、話すことに構えることもなく。まっすぐと、言葉を向けてきた。

まっすぐと、ヒーローになるために必要なことを告げてきた。

 

「…………お前は、俺がヒーローになれると思うか?こんな……ヴィラン向きの"個性"の俺でも」

「なれるだろ。中三の時に猫二匹の力だとバグキャラのおっさんに言われた私が言う、努力すりゃ叶う夢だ」

「……なんで猫なんだよ……」

「それは私も知らん」

 

クツクツと笑い出した心操。

千雨は心操が思っていた人間と、大きく違っていた。

体育祭の時はやる気なさげな態度で、軽々と人の上を行く人間。体育祭で本気になってあんな言葉を告げたのはエンデヴァーの息子の轟みたいな、クラスメイトで選ばれた人間のみだと思っていた。

自分に協力させるための口先だけの慰めと嘘の言葉だと思っていた。ヒーローになれないと言ってくると思っていた。

 

「ヴィラン向きな"個性"ってんなら私もそうだし、使い方次第だろ……つーか、なんでこんなこと言わなきゃなんねぇんだよ。……ああもうこっ恥ずかしい……」

 

眉間にしわを寄せて顔を赤くして不服そうに言う千雨。

その様子が、本当に本心で言っていたのだと伝わってくる。

 

「……お前、思ってたよりまともだな」

「喧嘩売ってるだろそれ……」

 

そうこうしていると、突然スピーカーからリカバリーガールの声が聞こえた。

 

「報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!」

 

「八百万、クリアしたのか……。っと、そうじゃねぇ。残り時間まだあるとしても作戦練らねぇと……。

心操、お前の"個性"について、詳しく聞かせてくれ。

相澤先生完封して完全勝利するぞ」

「……ああ」

 

にやりと笑う千雨と心操。

その目はどちらも不敵に勝利を必ず得ると輝いていた。

 




勉強会は小説版と全く同じなので飛ばしました。何度か書き直してはボツるのを繰り返してた結果、年末になりました。許して。

映画第2段は見たんですけど、いい最終回でしたね!最高のヒーローたちの映画でした!
しかしどう考えても第2弾にちう様入れられる隙間がほとんどなくて思案中。今後の展開にもよるが、ねじ込めるかどうかは作者にも不明。
そもそもパワーインフレ上等なちう様(魔改造)をここに突っ込んでPlus Ultraなんてさせたら敵どころか島が消し飛ぶ。さぁどうしよう。

あと原作の展開や情報から加筆と修正してました!拙さに悶絶しながら最初の方から読み直し、ネギまを1ミリも知らない方々へなるべくわかりやすく(わかるとは言ってない)千雨とかネギま側について簡単に書きました。(書いてあるとは言ってない)
本当に今更ですけど、原作のどちらかまたは両方知らない方にもわかりやすく、そしてなにより作者が読み返してもダメージを食らわない楽しい文章目指します。

次回には久々にバトル回、そして期末の後にまた日常挟んでから映画第1段編になります。

2019年はありがとうございました!2020年もよろしくお願いいたします!!!

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