ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

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旅行って準備してる時も楽しい。
このご時世じゃ旅行とか行けませんが、行けるようになったら国内外問わずに色んなとこに行きたい。
一番行きたいのは温泉旅館。とにかく畳の上でごろごろしていたいし、海の幸山の幸を堪能したい。なにより、現実のすべてを忘れたい……毎週土曜夕方の楽しみがなくなった今、これからどうすればいいと言うのか……本誌はどれもこれも辛いし。

でも本誌では今推しの常闇くんがマジでヒーローでツクヨミなんで、本誌勢も単行本勢も、みんな応援よろしくな!



夏の準備

試験が終わり夏休みまであと数日、残り少ない一学期だ。梅雨明けした夏の空は太陽が眩しく照りつけてくる。

教科書やノートを引き出しに移し替えてカバンをロッカーに仕舞い席に座ると、前に座っていた八百万が話しかけてきた。

 

「千雨さん!夏休みのご予定なんですが、7月23日から三日ほど空いていらっしゃいますか?」

「23日?あー……悪ぃ、もう予定入ってる」

「そうでしたか……」

「何かあったのか?」

「その……千雨さんもご存知かと思いますが、今年の夏休み初週にI・アイランドのエキスポがありますでしょう?私のお父様が株主の企業からチケットを頂きまして……特訓でお世話になったので、千雨さんにと思ったのですが……」

「なるほど……それは……」

 

落ち込む八百万に対して千雨は内心、こりゃ向こうで遇う可能性あるな、と思って頬をかく。

 

八百万がこうして誘う前日、千雨が炎司から電話で同じ話を受けていたのだ。

 

「I・アイランドのエキスポ……って、あの前から話題になってる?」

「そうだ」

 

期末試験より前からニュースなどで話題になっていた、学術研究移動都市で個性科学の最先端とも呼ばれるI・アイランド。そこで行われるI・エキスポは、まさしくこの世界における最先端技術の博覧会だ。

 

「実は新しいサポートアイテムの開発をしているんだが、その開発を担っている技術者がI・アイランドにいるためエキスポプレオープンの招待券を貰っている。

仕事の都合で俺が行けない代わりに焦凍を挨拶に行かせようと思っていてな。焦凍の付き添いとして、千雨くんにも行ってもらいたい」

「付き添い……え、良いんですか?一応エンデヴァーの名義になるんですよね?私なんかで……」

「構わん。付き添いは俺が信頼出来る人物に任せたいが、ウチのサイドキックを同行させるほどでもないからな。

飛行機のチケットとホテルは手配済みだ」

 

エンデヴァーの代理として轟に挨拶に向かわせる以上、エンデヴァーも信頼出来る付き添いが好ましい。千雨はエンデヴァーの弟子であり轟のクラスメイトである事もあって白羽の矢が立ったのだろう。

 

ちなみにこの二人、名前呼びは互いに了承済みである。

エンデヴァーからオフの時は本名で良いと言われたのだが、名字だと轟と被るため『炎司さん』と名前で呼ぶことになった。流石にエンデヴァー相手におっさん呼びは出来ないし、おじ様やらおじさんなどと呼ぶ気もない。

エンデヴァーもその関係で千雨くんと呼ぶようになった。

 

「それに、君の個性は機械やプログラム関係である上に、電力の供給さえどうにかなれば強力な技も使える。君にとって技術者に会うのは有意義になるだろう」

「!」

「俺の弟子であり優秀なヒーロー候補生だ。君には、焦凍同様に様々な機会を与えたい」

 

これは勿論プロヒーローであり師であるエンデヴァーとしての本心だ。まぁその本心とは別に、そのまま焦凍と付き合って結婚してほしいという願望もあるが。

そんな願望が隠れているとは知らない千雨は、ここまで言われたら頷くしかないと考えて了承した。

 

「分かりました、是非行かせて頂きます」

 

という会話があり、千雨はめでたく林間合宿前の夏休みに予定が立ったのだ。

 

 

千雨と八百万が話しているところに、他の女子たちも集まる。

 

「ヤオモモ、何の話してたの?」

「夏休みのお話ですわ。千雨さんと一緒に旅行をと思ったのですがすでにご予定があるそうで」

「旅行かー」

「そういやこの間のショッピングモールでの事件で、外出制限かかったよね。家族と一緒でも遠出禁止って」

「まぁ仕方がない事といえば仕方がないけどな。雄英の生徒ってだけで狙われる危険がある訳だし」

「あ!じゃあじゃあ!夏休みに、学校のプールで泳がない!?」

 

葉隠が名案と言わんばかりのテンションで提案した。学校のプールで泳ぐという話に千雨は少し呆れた口調で話す。

 

「夏休みに学校のプールって、小学生かよ……」

「ケロケロ。でも学校のプールだったら先生方の外出制限も関係ないわ」

「それに学校ならお金もかからんし!」

「良いんじゃない?」

「でしたら、先生にプールの使用許可を取らなくては」

 

どうやら賛成多数で決定らしい。

危険が無いだけマシと思っておこうと考えつつ、千雨はついていけないテンションにやれやれとため息をついた。

 

「ところで、一緒に旅行ってどこに行く予定だったの?」

「I・アイランドですわ。

実は父がスポンサー企業の株主で、プレオープンの招待状をいただいたんですの」

「ブルジョアや……!」

「えー!プレオープン!?行ってみたい!」

 

一気に騒がしくなった面々。I・アイランドに関しては高いセキュリティによる安全性から敵の襲撃の心配はないとして学校側も許可している。

 

「チケットって何枚あるの?」

「私含めて三名分で、ホテルなども用意されていますわ」

「誰か私の代わりに貰ってくれると助かる」

「よーし、じゃあお昼にチケット争奪じゃんけん大会ね!」

「おー!」

 

楽しい楽しい夏休みの旅行計画に、先日のショッピングモールからの不安などは払拭されたようだ。

女子全員とI・アイランドで行われるエキスポの話をしていると、登校してきた轟が千雨に声をかけてきた。

 

「長谷川、ちょっと良いか」

「ん?ああ」

 

轟に呼ばれて席を外す千雨。二人で人の少ない廊下の端にくると、轟が口を開いた。

 

「親父から聞いたんだが、その……I・アイランドに親父の代理で行く俺の付き添いでって本当か?」

「ああ、昨日電話で誘われた。

サイドキックに行かせる程の事じゃないし、私にとっても有意義だろうって」

「……あのくそ親父め……」

 

深々とため息を吐きながら片手で顔を覆う轟。

 

「轟どうした?……もしかして、誰かすでに付き添いで誘ってたとか?」

「いや、そういう訳じゃねぇ……そういう訳じゃねぇんだが……」

 

轟はそっと昨夜のことを思い出す。

久々に家に帰宅してきた父である轟炎司が嬉々とした様子で声をかけてきたのだ。

 

「焦凍、この間話した夏休みのことだが」

「I・アイランドの事なら、代理だろうと行く気は……」

「付き添いに千雨くんを誘っておいた」

「は?」

 

一瞬、何を言われたのか分からず炎司の顔を見る。

職場体験後に千雨に炎司の連絡先を教えてある。しかしどうして長谷川を付き添いに誘っているんだとか、なんで名前呼びしているんだとか色々と言いたい事が脳裏をよぎるが、問い掛けるよりも先に嬉しそうに話し始めた。

 

「彼女は信頼出来るし、将来有望だからな。サイドキックに行かせる程の事ではないし、焦凍が行かないというなら千雨くんに俺の代理として――」

「行く」

「そうか、なら二人で行ってくるといい」

 

その返事に嬉しそうに悪役染みた笑みを浮かべる炎司。

まんまと炎司の思惑通りになっている事に轟が気付いたのはその後だった。

 

轟は思い出した事で改めて深くため息を吐き、目の前で首を傾げている千雨を見る。

 

「……長谷川。無理して行かなくても良いぞ、親父の代理とか……」

「いやその様子じゃ轟が行きたくねぇんだろ」

「…………」

 

千雨の言葉にそっと目をそらす轟。その反応を見て千雨は図星じゃねぇかと思った。

 

「……俺は、あいつの後を継ぐ気はねぇしあいつの思う通りになるのは嫌なんだが……ハァァ……」

 

以前ほどの嫌悪感はないとはいえ、父親の敷いたレールの上を走る気が一切ない轟からすれば今回のエンデヴァー代理というのは不本意な事に他ならない。

とはいえ既に行くと言っている。色々と複雑な心境のようだ。

 

「後継ぎとかまぁその辺含めて、お前がどう思っていようと世間は色眼鏡で見るもんだ。代理を引き受けなくとも、お前がどれだけ嫌っていようとも、エンデヴァーの名前は絶対に付いてくる。

これまでもそうだったろ」

「……」

 

体育祭でも、轟は『エンデヴァーの息子』である事がよく話題になっていた。あとはイケメンである事もだろうか。

強力な個性持ちで、トッププロの息子で、イケメン。話題性に関しては十二分にある。

むしろ雄英一年生の中で体育祭時点で話題性が高かった生徒は、同じくヒーロー一家の次男である飯田と、財閥令嬢である八百万と、ヘドロ事件と俗に呼ばれる事件で人質になった爆豪くらいだ。

 

エンデヴァーの息子ではなく轟焦凍個人を見てほしいといくら願ったとしても、そう簡単にはいかないだろう。

 

「いっそ、その知名度とかコネとか全部利用してやるって気持ちでいた方が良いんじゃねぇか?」

「それは……まぁ、そうかもしれねぇけどよ……」

「悩め悩め。それに関しちゃヒーローになるにあたって今後ずっとついて回る事だし、テメェ自身できっちり折り合いつけろ。

ま、私は今回の旅行楽しみだけどな」

「……楽しみなのか」

「そりゃそうだろ、最先端の個性科学技術の博覧会だぞ?

プレオープンなら人もそこまで混んでなさそうだし、じっくり見れそうだし、研究者とも知り合えそうだしな。良いこと尽くめって感じだ」

 

珍しく嬉しそうにしている千雨を見て、轟は今回ばかりは親父が誘った事とその策略に乗せられた事を許すかと考えていた。

 

「いやほんと今回の件は弟子になって良かった」

「待て、弟子ってなんだ」

「……聞いてるんじゃねぇのか……?」

「聞いてねぇ」

 

千雨はてっきり弟子の事も聞いているんだろうと勘違いしたが、そっちは聞いていなかったらしい。

轟の眉間の皺が深まる。

 

「……長谷川、一から説明しろ」

 

 

 

「で、何したの?」

 

轟と千雨が二人そろって教室に戻ったのだが、口をへの字に曲げて眉間にシワを寄せてピリピリと不機嫌なのを隠そうとしない轟と、どうしたもんかと言わんばかりに困った表情の千雨。

轟の様子を横目に、耳郎が呆れたような表情で戻ってきた千雨に話しかけてきた。

 

「……何で私にくるんだよ」

「だってアンタでしょ、轟があそこまで不機嫌になる原因。というか、二人で席外してたんだし」

「長谷川が大事なこと話してなかったとかじゃないの?」

「千雨ちゃんって話さんもんね、色々と」

 

千雨が秘密主義ゆえに連絡してなかったオチだと言わんばかりに女子全員が頷いている。まさしくそれである為、千雨にはぐうの音も出なかった。

 

「そんで、何したのさ?」

「……詳しくは言えねぇんだけど、ちょっと話してなかったことがあって……それが轟の気に障ったという感じで……」

「ぼやかしとるけど、要するにいつものやね」

「ですわね」

 

最早いつもの事扱いである。

とはいえ弟子入りの件は気軽に話せないのだ。なにせ相手は轟の父親である以上に、No.2ヒーロー。そこに弟子入り出来るなんて知ったら、絶対に色々と面倒くさいことになるのは目に見えている。

 

「あんた秘密主義だよね、ほんと。個性について話そうとしなかった事もそうだけど」

「こっちにだって色々と事情があるんだよ……」

 

個性については、個性と誤魔化してるのが個性ではなく魔法だとどこでバレるか分からないから話したくないのだ。そうでなくとも、千雨が異世界出身である事や、戸籍など諸々の部分に公安委員会が関わっている事は話せるはずもない。また、職場体験でのヒーロー殺しに関して警察と隠蔽の交渉もしている事も話せない内容だ。

それ以外であれば、授業参観のドッキリ仕掛け人側だとか、期末の実技演習試験で心操の実力テストも一緒に行ったとか、話さないように言われている事が多い。

まぁそうした事情以外でも、千雨は秘密にしまくっているのだが。

 

「ちゃんと話して謝れば轟だって許してくれるでしょ!」

「三奈ちゃんの言う通り、轟くんだって千雨ちゃんが意地悪で話さなかったとは思っていないはずだもの」

「……おう」

 

千雨の小さな返事に、微笑ましそうに蛙吹がケロケロと笑う。

クラスメイトになって三か月だが、感情や考え事をあまり表に出そうとしない轟や千雨がクラスメイトたちに影響されつつも色んな表情をするようになったのが嬉しいのだ。大切な友の変化が。

 

 

 

そんな事がありつつも、あっという間に日は過ぎ。

セミの鳴き声が太陽に向かって叫ぶように響くのを聞きながら、一学期の終業式を終えた。

 

「夏休み、楽しみだなぁ」

「プールに、エキスポに、林間合宿!」

「いっぱい楽しい思い出作りたいね!」

 

夏休みの予定を楽しそうに語りながら宿題の入ったリュックを背負っているクラスメイトたち。真面目な飯田が宿題や予習復習などをキチンとしなければと言い、夏休みなんだから遊ぼうと騒ぐ上鳴と瀬呂と峰田。騒がしい面々にうるせぇと文句を言う爆豪と、それをなだめつつトレーニングの話題を振る切島と、効率的なトレーニングの話題に加わる尾白。

緑谷と轟もどうやら同様にトレーニング関係の話をしていて、常闇も最近は苦手である近接戦闘のトレーニングをしているのか二人に色々と聞いている。

近頃人気なバンドの話で盛り上がっている耳郎と芦戸と葉隠と、それを興味深そうに聞く八百万と蛙吹と麗日。夏休み中に実家に帰るという話をしている砂藤と障子と口田が土産物に何を選ぶかという話をしている横で、青山は一人で鏡を見ている。

 

千雨は少し足を止めて彼らを後ろから見た。当たり前のありふれた日常。退屈な日々を楽しく過ごそうとしている彼らを。

あと半月ほどでこの世界に来て一年になるのか、なんて考えながら。

 

千雨はバカ騒ぎに巻き込まれるのは断固として御免だ。どれだけ周囲が楽しく騒いでいようと、一緒に騒ごうなんて千雨には思えない。静かに自分のペースで楽しみを味わっていたい。

だが不思議と、不快ではないのだ。

コンビニに寄ってアイス買おうなんて騒いでいる面々に名前を呼ばれるのが。彼らのもとに、向かうのが。そのバカバカしくも、懐かしさを感じるありふれた騒がしさが。

 

 

夏が来る。この世界で、二度目の夏が。

 

 




はぁい読者のみんな。毎回毎回頭から最新話を捻り出そうとしてる作者だよ。初期はあんなに簡単に投稿出来てたのにな……不思議……。
今回の投稿が遅れた最大の理由はこちら。
『轟はどうして原作映画でエンデヴァー代理を了承してI・アイランドに行ったのか』
です。

エンデヴァーが自身のコネクションを継がせようと考えて、事務所のサイドキックではなく轟に代理で行かせようとするのはわかる。
しかしこれ夏休みで神野前だぞ?父親まだ許せてないし嫌いなんだよな?クラスメイトと合流するとは思ってなかったんだよな?
姉の冬美さんは家族だけど一般人で社会人だからわざわざ代理頼むとも思えないので、急用で行けなくて代わりにというのはあり得ないので除外。
=お前なんで了承した?
映画の脚本家はそこまで考えてないのかもしれないけど、この謎のご都合展開部分を埋めるところで詰むとか……。なんだこのトラップ……。
という事で、ずっと悩まされてました。いやマジで謎。これ解決しなかったらこの話と予定してた水着回を無しにしてI・アイランド行きの飛行機シーンからにしてたレベル。
同行は嫌だけど代理はOKとか……?
そーゆーの意味分かんないんですけどォ……マヂ無理……ガチャで射幸心満たそ……。(ガチャ狂いの目)

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