などと、我が事ながら心配になる。
とはいえ鉄は熱いうちに打てと言いますし、正気になったら負けだから更新しました。
何かあっても、あとは未来の自分がどうにかします。人はそれを丸投げとも言う。
ようこそI・アイランドへ
「Welcome aboard Japan Gold Airlines flight 771 to I Island.
Your pilot today is Captain George Whitefog, and my name is Takako Shincyo, your senior cabin attendant on this flight.
We are now ready for departure.
Please make sure that your seat belt is―――……」
流暢な英語での機内アナウンスが流れる。
7月23日。千雨は羽田空港から出る飛行機に搭乗し、窓際の席にて出発の時を待っている。千雨の隣には轟がいる。
これから二人は数時間かけて上空4000メートルを飛ぶ飛行機で東京から東南東へ千数百キロ先、太平洋のど真ん中に浮かぶ人工移動島I・アイランドへ向かうのだ。
超常と呼ばれる現象が起きてから人類の規格が崩れ、世界総人口の約八割が個性と呼ばれる特異体質となった世界。
I・アイランドは、その多様すぎる個性を研究して新しい発明をしている国際的な研究機関であり、同時に研究開発を行っている研究者たちと研究成果、そしてその科学者たちの家族を守るために飛行機でしか出入りできない島である。
ヒーローたちの人体を守るためのスーツや活躍の場を広げるためのサポートアイテムの他にも、人々の生活を支えるための新素材の開発や、個性が身体に合わない人のための補助器具の開発などがされている。
それらの発明品は人々を守るための武器であるため、ヴィランに悪用される危険もあるということだ。だからこそ、今後の社会の安全の要であるこの場所は厳重に守られている。そのセキュリティはなんとタルタロスと呼ばれる極悪犯罪者専用監獄と同等のものだ。
雄英高校ではヴィラン連合の襲撃があったことで長期の外出を控えるようにと言われているが、この島だけはその高い安全性から特例として許可が出ている。サポート科生徒たちから特例にとの要望があったという噂についての真偽はわからないが。
「I・エキスポのプレオープン中に親父が開発を頼んでる人に会うの……本当に良いのか?エキスポあんまり見れねぇぞ?」
「別に構わねぇよ。むしろI・アイランドの個性科学者に会えるなんて機会の方が早々ねぇから。役得だ。
エキスポ自体は翌日の一般公開日でも見られるだろ。人混みが酷そうだけど」
「そうか」
エキスポの展示や体験コーナーもそれはそれで気になるが、それ以上に技術者と会えるのは本当にコネクションが無ければ出来ないことである。
「……意外だった」
「ん?」
「親父が誰かに……長谷川に、優しくしてて。
長谷川にも、大怪我するような酷い特訓させてたり……親父が一方的に理想を押し付けてると思ってた」
朝一番にエンデヴァー事務所に赴き、事務所から空港までのハイヤーをエンデヴァーに手配して貰ったのだが、千雨と炎司が普通に会話をしているのが、轟にとって予想外だった。
轟がエンデヴァーの弟子に千雨がなったことに関して嫌そうにしていたのは、いくら千雨が望んで弟子入りしたとしても、轟が五歳のころのように暴力と呼べるような厳しい特訓をさせられているのではないかという心配が一番あったからだ。常日頃から焦凍に対して支配的なエンデヴァーが、千雨にも無理をさせているのではないかと。
それが杞憂であったことは二人の様子から理解できた。
「お前と私じゃ色々と状況や立場が違うってのもあるだろうがな。流石にお前が想像してたような押し付けがましい特訓があったら、一発顔面殴ってから弟子やめてるっつーの。
指導上必要な厳しさとかはあるけど、指導自体は丁寧だし、心配するようなことはない」
むしろ怪我をしないようにキチンと配慮されているし、千雨の要望を無視することもない。エヴァやラカンのおっさんたちのような無理無茶無謀で怪我上等みたいな超実戦的な戦闘訓練でもない。
エヴァたちの指導はある程度戦えるのが前提だから違って当然である。
千雨がエンデヴァーとの特訓でしているのは、いたって普通の常識的で現実的な特訓だ。今の所は組手による近接戦闘の強化と身体強化のエネルギーの出力調整が中心で、電撃の指導はこれらをきちんと身に付けてからの予定である。
「……あいつ、あの距離感が長谷川には出来るのに、何で俺にはあんなにウゼェんだ……」
構わずに無視したらウゼェし、構ったら構ったでウゼェし。そう続けてため息交じりに愚痴を言う轟。
親子ってのもあるけど、お前も似たような所あるからな?と千雨は心の中でツッコミを入れた。
離陸してから数時間。機内で映画を見たりI・アイランドのパンフレットなどを読んで時間をつぶす。
「お、見えて来た」
千雨の小さな声に、轟が千雨の隣にある窓から外を見ると、円形の人工島が見える。島はぐるりと分厚い防壁がそびえ立ち、一か所にだけ発着場が飛び出している。
直径14キロの円形の島は中央に六角形のブロック、それを取り囲むように三つの八角形ブロックが浮かんでおり、それぞれのブロックは複数の橋で連結されている。
島ではあるが、同時に移動もするため、大きな船と言っても間違いではない。
「アレがI・アイランド……思っていたよりもデカイな」
「約一万人の研究者とその家族が住んで研究してるんだ。それに付随する病院とか学校とかもあるんだから……街が丸ごと一つみてぇなもんだろ。あとは島が移動するための動力部分とかもあるだろうし」
「……長谷川、嬉しそうだな」
「私の能力は、プログラミング構築なんかが必須技能でな。マンタとか私が使う技は私が独自に作ったプログラムなんだよ。だから機械とかハードウェアは勿論のこと、それらを制御するプログラムにも興味ある。
今エキスポ初公開技術とか、日本じゃまだ見ねぇ欧米で主に開発されてる圧縮技術とか。今からでも楽しみだ……!」
「そうか」
千雨は今回の旅行に対する嬉しさを隠さずに目を輝かせている。
元々小型なハイテク機器に目が無い千雨にとって、この世界の科学技術は目を見張るものがある。
麻帆良学園都市は周囲よりも何世代も先の技術を持っていたし、クラスメイトにロボットまでいたものの、この世界は個性という存在によって人類の定義が変わっている。多様性に合わせて生まれていく新技術は千雨の世界ではなかったもの。
この世界独自の新技術とそのプログラム。一人のスーパーハッカーとして、白き翼の参謀として、なによりも個人的な好奇心から、見過ごす訳にはいかないものであった。
「間もなく、当機はI・アイランドに着陸いたします」
機内アナウンスが流れる。
「ヒーローはコスチューム着用だったか?」
「ああ、入国審査前に着替えるようにだと」
通常、機内に持ち込める荷物は限定されるのだが、ヒーローコスチュームに関してはよほど大型だったりしなければ機内への持ち込みが許可されている。人によっては服の下にコスチュームを着ていたり、コスチューム姿で搭乗する人もいる。これはハイジャック対策の一環だ。ヒーローが同乗していると知って犯罪を犯すものはよっぽどの事でもない限り無に等しい。それ以外でも、機内で個性事故が発生しても対処出来ることは利用者の安全を確保する事にも繋がっている。
機内更衣室を借りて着替え、到着の時を待つ。
無事に到着してからは入国検査だ。入国審査官との会話はなく、水平型エスカレーターで移動しながら行われる。
「セキュリティ厳しいな」
「それだけ守らなきゃならねぇ場所なんだろ。
……にしても良い設備だな。ここまでしっかりしてるなら防犯面もかなり安心出来る……」
虹彩や指紋による本人確認だけでなく、全身をスキャンすることで個性による変身ではないかや不審なものを持っていないかも確認される。また、セキュリティ違反した際に即座に見つけられるデータ収集システムも完備されている。
本人確認やパスポートの情報確認だけでなく、招待状の偽造防止策も複数講じられている。島に入る場合でも何重ものチェックを全て抜けなければならない。勿論、島を出る場合も。
「入国審査が完了しました。
現在、I・アイランドでは様々な研究開発の成果を展示した博覧会、I・エキスポのプレオープン中です。招待状をお持ちであれば是非お立ち寄り下さい」
アナウンスを聞きながらゲートを抜け、荷物を受け取る。
キャリーバッグを転がして空港のゲートから外へ出た。
「おお……!」
「……!」
空港を出てすぐのブロックはエキスポ会場となっている。まっすぐと伸びるメインストリートにはいくつもの色も形も多種多様なパビリオンが建てられており、まさしく最新技術によるお祭り。その華々しさは麻帆良の文化祭を思い起こさせた。
プレオープンだが、すでに賑わいを見せている。きっと一般公開されればこの数倍の人が集まることだろう。
一般客やヒーローの他に、白を基調としてパステルカラーの差し色が入った制服のコンパニオンや、警備用ロボットであろう四本の脚のある白い円錐のような形の1メートル程度のロボットが何体も動いている。
「……1、2体欲しいな……」
「何か言ったか?」
「いや何でもない。
この島は厳重な警備によって犯罪と無縁、そして個性の研究もしてるから、個性の使用は自由らしいな。個性を使ったアトラクションもあるんだと」
「そうか。それより、まずはホテルだな。正装とか荷物持ったままじゃ楽しめないだろ」
「それもそうだな。ちくわふ、ホテルの場所まで最短ルートを」
「かしこまりました!」
ちくわふに予約されているホテルまでの最短ルートを案内させる。I・アイランドは島内専用のネットワークがあり、地図も施設の予約も全て専用のネットワークで把握する事が出来るため、電子精霊たちと相性抜群だ。
ホテルがあるのは中央ブロックのようだ。そこまでの移動手段は徒歩か巡回バスがあるようだが、ここは個性の使用が自由である。
「飛んだ方が早いな。スカイ・マンタ。
轟、乗れよ。落ちたりはしねぇから」
スカイ・マンタを一体実体化させる。
一番最初のマンタは手すりをつけていたが、今のマンタは風圧軽減の障壁魔法の他に落下防止の魔法を組み込んで手すりを無しにして、頭鰭につけられた手綱のみだ。
「これに乗るの初めてだな。見てはいたが……不思議な感じだ」
「そういやそうだったか。
キャリーバッグは私のと一緒に横にして並べておいてくれ。ああ、落下防止はしてある。
立ち乗りするけど、不安だったら肩でも掴んでてくれ」
「わかった」
マンタの後ろから千雨が先に乗り、轟が後から乗ってキャリーバッグを横にして置き、千雨の左側に立つ。
千雨が手綱を引けばふわりとマンタが空に浮かび、人々の上空を飛ぶ。
歩いている人が何だと見上げるほか、観覧車のようなアトラクションに乗っている子供連れの家族に手を振られ、手を振り返す。おそらく、何かのアトラクションだと勘違いされているかもしれない。
そのままマンタはエキスポのあるブロックから中央ブロックを飛行して目的のホテル前に到着する。
どうやらかなり高級ホテルのようだ。ひと目で高価と分かる什器家具の置かれたフロントでチェックイン手続きを済ませて、それぞれ用意されていた個室に荷物を置いてからロビーで合流する。
「たしか、会わなきゃならねぇ科学者とは会える時間が決まってるんだったか?」
「ああ。なんでも他の企業の人とかとも会うらしいから、16時に研究室のところに来て欲しいらしい。場所は中央ブロックにある研究所。今は12時か……」
「んじゃあ、どっかでランチしてからエキスポをまわるか」
「そうだな」
千雨は轟と一緒にエキスポ会場のレストランで昼食をとってから、パビリオンで様々なアイテムを見てまわる。
個性があっても生身では向かえない場所での活動をサポートするアイテムや、災害地で活躍する多目的モービルなど、どれもこれも普通では見れないものばかり。
他にもI・アイランドのアカデミー生によるパビリオンもあり、中々楽しめた。
千雨も轟も同年代にプロと言っても過言ではない技術者がこんなにいるのかと圧倒されてしまった。
「轟、これ凄いぞ!物は単純なホッピングだけど、最新鋭圧縮技術使ってる!」
「長谷川が気になってた奴だったか?」
「そう!スゲー……収納時と展開時の差を考えるとかなりの圧縮率だ。しかもこれ、手を離した状態でも自立するんだぞ。もしかして最新バランサーシステム搭載か?デザインや素材による自立じゃねぇもんな……。嗚呼やっぱり解説に書いてある。しかも新素材……!
流石I・アイランド……新素材や最先端技術に学生でも触れられるのは羨ましい……」
普段の大人びて冷めた様子とは異なり、年相応に目を輝かせて隅々まで見ている千雨。
楽しそうにしている千雨に、轟は父親の策略とはいえ一緒に来て良かったなと微笑んだ。
その後もいくつか回って次のパビリオンに向かおうとした時、どこからか爆発音が聞こえた。
「おい、今爆発音しなかったか?」
「あっちからだな。
……あそこにヴィランロボを倒すアトラクションがあるんだと。多分それでだろ」
千雨はエキスポ会場の地図を見て、近くにある岩山のようなパビリオンを指さす。
ランダムに出現する六体のロボットを破壊、もしくは動きを止めるタイムアタックの参加型アトラクションだ。上位入賞者には何らかのプレゼントがあるらしい。
「ロボを倒すのは一般入試の実技を思い出すなぁ……」
「そういや長谷川は一般入試受けてたんだったか?」
「一般受けて合格した上で特別入学枠にされた。体育祭でも同じロボが使われてたけど……そうか、轟は推薦だからやってねぇのか」
推薦入試と一般入試では試験内容が違って当然である。
「参加してみるか」
「そうか、頑張ってこい」
「長谷川もやろう」
「はぁ!?あ、ちょ、待て、離せって!」
千雨の言葉が轟の琴線に触れたのだろうか。
参加する轟を見送ろうと考えていた千雨は轟に手を引かれ、パビリオンの参加受付に向かったのだった。
Q.男女二人がアトラクションとか見て回るとか、こんなんデートでは???デートですよね???轟ルート進みすぎじゃねぇ???
A.いいえ、これは付き添いです。なぜならちう様は轟のことを全く意識してないからです。とんだ悪女です。