書けるところまで書けたから普段より早いけど上げ( ・ω・)ノー☆
入学初日の試練を乗り越え、翌日。
午前中は必修科目である普通の授業。
英語や現代文、数学なども雄英ではプロヒーローの教師陣が教えている。
1限の英語はプレゼント・マイクが担当。有名なプロヒーローであるため教室登場時はちょっと盛り上がったが、内容はとてつもなく普通の授業なのでそこは盛り下がった。
昼食は大食堂で、こちらもプロヒーローであるランチラッシュが作る料理が食べられる。安価で美味しくメニューも豊富だ。
そして昼休みを終え、午後の授業は『ヒーロー基礎学』。5限から7限まで、約3時間の授業だ。
今年から、No.1ヒーローであるあのオールマイトが教師となったのだ。誰もが憧れるトップヒーローである彼の授業などファンからすれば垂涎ものだろう。
「わーたーしーが!
普通にドアから来た!」
オールマイトは昼休みが明けると教室にやって来た。そのコスチュームは通称シルバーエイジと呼ばれる頃のものらしい。トップヒーローでありその画風の違いにクラスが沸き立つ。
千雨はそんなクラスを眺めながら、ついて行けないノリだと思っていた。
「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
オールマイトがBATTLEと書かれたプレートを見せる。
そしてオールマイトが話しながら手元にあるリモコンを操作すると壁が動き、棚が飛び出してきた。
「入学前に送ってもらった『"個性"届』と『要望』に沿ってあつらえた……コスチューム!!!」
「おおお!!!」
コスチュームの入ったグレーのアタッシュケースにはライトグリーンで出席番号が書かれている。
ひとつの棚に5つのケースが納められている。しかしクラスは21人。一人多いのだがどうなっているのかと思っていると……五つ目の棚に1つだけ21と書かれたケースが納められていた。
「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」
「はーい!!!」
女子更衣室で着替え始める。
それぞれケースに納められた説明書を読み、コスチュームに着替えていく。
千雨はコスチュームを見て今すぐ過去に戻りたいと思っていた。具体的には、3月の書類送付前に。
「千雨ちゃんのコスチューム、すごい……!」
「そういうの好きなの?」
「ウチもデザイン任せたらパツパツになってもうたけど、長谷川さん……」
千雨が書いた要望は以下の通り。
・顔を隠すため、フレームレスでワンレンズ型防弾サングラス。
・服の色は黒メインで耐火防弾性のもの。
・黒い厚いタイツで同上性能。
・スマホや充電器、救急セットなどをしまえるウエストポーチ。
・グローブは滑り止めつき。
・靴はヒール低めで歩きやすいもの。
・無線機
・露出少なめ。
"個性"を補助する機能は必要ないため、本当に必要そうなものとして書いた。いざとなれば仮契約カードで着替えられるからだ。
ちなみにサングラスは顔を隠すためのアイマスクをするのが恥ずかしかったことと、丸眼鏡が割れる危険性からである。素顔をさらすよりマシ。
ともあれ、以上の要望が黒一色のゴスロリ系コスチュームへと昇華されていた。
膝上の黒いスカートをホットパンツ型の黒いパニエで膨らませている。
黒いコルセットはシンプルで背中側に長いリボンの飾り。
ノースリーブのロリータブラウス。首もとにはさらに黒いフリルタイもあり、フリフリだ。
黒タイツに膝下の黒いシンプルなヒールの低いブーツ。肘上まであるロンググローブの右手首には普段身に付けている魔法発動体であるシルバーのバングル。
グレーのサングラスは要望通り防弾ガラスを使ったワンレンズ型のサングラス。
スカートとコルセットの間には動きを邪魔しない程度の黒いウエストポーチが左右に2つずつ。中には小型の電子機器類の他に、応急手当などの道具類が入っている。
そして、何より目立つのが。
「黒猫さんやね!」
「ええ、とても可愛らしいですわ」
「好きでこれをつけている訳じゃない……!」
―――猫耳を模したヘッドギア型無線である。
ヘットギアを含め、同じデザイナーがワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツのコスチュームデザインも担当しているため全身フリル多用のコスチューム。
デザインテーマは黒猫魔法少女。150%デザイナーの趣味でつくられている。
デザインとして好きか嫌いかで言えば好きなデザインであるが、ネットアイドルの"ちう"としてではなく"長谷川千雨"として着るのはまた別。
その葛藤が恥ずかしさをより加速させていた。
「ヘッドギアだけでも変えたい……恥ずかしい……!」
「可愛いからいいじゃん」
「八百万のコス……攻めすぎじゃない?」
「そうでしょうか?要望していたより布面積増えてますのよ」
「それを言ったら透ちゃんのコスチュームも」
「透明人間だからね!」
A組女子過激コスチュームのツートップは八百万と葉隠に決まったところで、コスチュームを褒めあいながら指定されたグラウンド・βに女子全員で向かう。
グラウンド・βは入試の時の市街地演習場と同じで、たくさんのビルが並んでいる。出入口のところには着替え終えた男子も集まっている。
「……それは黒猫か?」
「常闇、これはデザイナーの趣味であって私じゃない。というか常闇もコスチューム真っ黒だな……」
「すっげ……特別枠の子ゴスロリじゃん」
「ヒーロー科最高」
常闇にコスチュームの要望をきちんと出していなかったことを伝える。そして全員が揃ったところで、オールマイトから本日の戦闘訓練の詳しい話が始まった。
2人1組でヒーロー役とヴィラン役にわれての屋内戦闘訓練。制限時間は15分間。
ヒーローは制限時間までに核兵器を回収するかヴィラン役の2人に確保テープを巻き付けて捕まえること。
ヴィラン役はアジトのビル内に隠した核兵器を制限時間まで守るか、ヒーロー役の2人に確保テープを巻き付けて捕まえること。
チームと対戦相手はくじ引きで決める。
「クラスに21人居ますが、どうするんですか?」
「3対2が一箇所出来る!その分、連携などチームワークの評価が厳しくなるぞ!」
それぞれAからJのくじを引いていく。千雨はJチーム、切島と瀬呂と3人チームだ。
実戦とはいえ第一戦からビルが半壊された。千雨は15歳の高校生がコスチューム着ただけでビルを壊せる時点で、この世界の"個性"は危険すぎると感じた。
ビルを移しての第二戦では、5階建てのビル一棟を丸々凍らされた。千雨は15歳の高校生がコスチューム着ただけでビルを凍らせる時点で、この世界の"個性"は危険すぎるし高校生強すぎ怖い大人だとどうなるんだよ強くならないと、と思い始めていた。
そして第三戦。
「Gチームがヒーロー!!Jチームがヴィランだ!!」
「切島、瀬呂、長谷川の3人がヴィランチームか」
「ヒーロー側の上鳴と耳郎が数的に不利だな」
ヴィランチームは先に入って5分間のセッティング。ヒーローチームが潜入してスタートになる。
ビル内の見取り図を見ながら核兵器のある4階まで移動する。
「俺は切島鋭児郎!"個性"は硬化で、ガチガチに固くなれる、よろしくな!」
「俺は瀬呂範太、"個性"はテープ。肘からテープが出せるぜ」
「長谷川千雨です。
……切島さんは近接向き、瀬呂さんは中距離かつトラップ向きの"個性"ですか」
「長谷川のは超パワーだよな?体力テストじゃすげぇ記録出してたし」
「そんな感じです」
サラリと嘘をつく。
「そうなると長谷川と俺で攻めていくか?」
「ああ、接近戦で確保テープ巻くのが良いと思う」
「2人とも、1つ作戦を思いつきました。
まず確認しますが―――……」
千雨が2人に"個性"について詳しく確認してから作戦を話す。
「良いんじゃね?」
「今回はヴィラン役だしな」
「では急いでセッティングしましょう。時間がありません。
瀬呂さんは切島さんが核を移動させたらテープをこの部屋に張り巡らせて下さい。
私は3階の窓の鍵を開けて2階で待機します。それから―――……」
テキパキと指示を出してセッティングをすすめていく。
ヴィランチームが入ってから5分。ヒーローチームの耳郎と上鳴が潜入し、屋内対人戦闘訓練の第三戦が始まった。
潜入した耳郎は壁に"個性"の"イヤホンジャック"を使い、ビル内の足音で内部にいる人間の位置を確認。上鳴も微量の電気で索敵をする。
2階に1人、3階に1人、5階に1人だ。
「いた!長谷川!」
「ようやく来たか」
ビル二階。
コの字型になっている廊下に遮蔽物は特になく、南西側の階段から上ってきたヒーローチームは東側の広い廊下中央に待ち構えていた千雨と向き合う。
ビルの見取り図によると、上り階段は千雨の向こう側を曲がった先にある。
直線上に相対する千雨とヒーローチーム。
「よし、私の"個性"で……!」
「遅い」
上鳴の前に出た耳郎が耳たぶのプラグを、ブーツと一体になっている指向性スピーカーに挿す。その一瞬で耳郎の後ろに瞬動術で移動して音波攻撃を回避し、二人の後ろの壁を蹴って再び距離を取る。
千雨の蹴った壁には直径30センチほどの穴があき、周囲の壁に罅が走る。
「その穴はデモンストレーションです。次は当てます。
怪我の覚悟をしてください」
「コンクリの壁を一撃って……!」
「緑谷並の超パワーに超スピードって……マジかよ……!」
瓦礫と砂埃が広がり、外の空気が穴から流れてくる。
モニター室では千雨の蹴りの威力にどよめきがわいた。
「長谷川のやつ、スピードもパワーもスゴすぎ……」
「コスチュームとのギャップがすげぇ」
「緑谷くんの"個性"に似ているが、彼と違って反動はないようだな」
「緑谷さんの上位互換というところでしょうか?」
オールマイトは"個性"把握テストでも千雨が見せたワン・フォー・オールと同じ超パワーをノーリスクで使いこなして戦闘している様子を見て、緑谷が保健室に運ばれてしまったことを悔やんだ。
千雨の戦闘は、"力"の調節が出来るステージの更に先のステージにいる。"同系統"だからこそ、参考にすべき点が多い。
また、オールマイトは千雨の"個性"を知らされていない。渡されたクラス名簿においても"個性"については空欄で、相澤から本人から聞いてくださいと言われてしまったのだ。
この戦闘訓練で千雨の"個性"が判明するだろうかという未知への好奇心を抱きつつ、モニターを見る。
画面の向こう側、千雨と会敵した上鳴と耳郎ペアが動き出した。
「長谷川1人を相手に何時までもかかってられない……あとの二人と核を優先しよう」
「ならここは任せろ、耳郎は先に行け!
接近戦なら俺が有利だ」
「わかった!」
千雨が廊下の中央部分から端へ移動したため階段へ走っていく耳郎。
「……予定通り、切島さんは3階で耳郎さんの相手を。上鳴さんの相手は私がやります。瀬呂さんはもう少し待機していて下さい」
「おう!」
「わかったぜ!」
千雨はすれ違った耳郎を追いかけずに無線で指示を出して、上鳴と向かい合う。
「追いかけねぇの?」
「上の2人におまかせします。仲間の心配よりもご自身を心配したらいかがですか?」
「そりゃこっちのセリフ!
ヤベェ超パワーだけど、俺に当たれば痺れるぜ!?」
上鳴の身体から電光が発される。ネギの『疾風迅雷』や『雷天大壮』のようにも見えるもののジリジリと近付いてくる様子からして、どうやら移動速度などは変わらない。電気を纏っているだけだろう。
かつての担任である高畑はまほら武道会にて、拳を振り抜く拳圧だけで木製のステージを壊した。
あの速さや大砲じみた攻撃力には遠く及ばない。しかし、威力は下がるが同じように手足を勢いよく振りぬいて風圧を起こすことは出来る。
近付いてくる上鳴に向かって離れた位置から蹴りを繰り出す。起こした風圧はまっすぐと上鳴へ向かっていく。その後ろには、先ほどあけた穴。
「なっ風圧!?うわぁっ!?」
強力な突風は空気の流れに沿って穴からビルの外へと抜けていく。その風圧にのまれた上鳴は後ろに吹き飛ばされた。
「すげぇっ!一蹴りで風起こした!」
「さっきの穴は風の通り道をつくるためか」
「相手に蹴りの威力を見せて接近戦を警戒させつつ、自身に有利な状況に持っていく!
長谷川少女はただ強いだけじゃない!きちんと技術も身に付け、"個性"が不利な相手への対策もきちんと立てている!」
吹き飛ばされて倒れた上鳴。起き上がろうとしたものの千雨に確保テープを巻かれて確保された。
モニタールームのざわめきが聞こえていない千雨はそのまま上鳴の小型無線機を奪った。
「借りますね」
「あっ!」
「耳郎、長谷川確保した!すぐに行く!」
無線機にむかって上鳴の声を真似して話し、返事を聞く前に切る。それを上鳴に投げ返して、自分の無線機で切島と瀬呂に上鳴確保を伝える。
「上鳴さんを確保しました、作戦通りです。切島さんは4階まで誘導、瀬呂さんは指示通り3階に移動してください」
「了解!」
「長谷川お疲れさん!後は俺らがやる!」
一方、1人先に3階へと上った耳郎は、切島の接近戦に対応するので手一杯だった。イヤホンジャックでの音波攻撃を使おうにも怒涛のラッシュで使う隙も暇もない。
しかし無線で連絡があったのか、突如接近戦を止めて上階へ移動する切島。
"上鳴からの無線"を聞きながら切島を追う耳郎。切島との戦闘前に確認した限りでは、最後の1人である瀬呂は"5階にいる"。おそらく核兵器も5階だろう。
4階は部屋全体が瀬呂のテープが張り巡らされており、周囲はほとんど見えない状態。切島との戦闘をしながらでは"窓の外"を確認することなど到底出来ない。
切島が3階から4階へと逃げ、それを追ったのを確認して、千雨は3階の窓に近付いて"瀬呂と合流"した。
3階の窓の外から唐突に現れた瀬呂にモニタールームでは驚きの声が上がった。
「瀬呂どっから出てきた!?」
「さっきまで5階に居たのに!」
「窓の外を使って5階から3階に移動したみたいだね」
「なるほど、先に3階の窓を開けておいたのか!」
千雨は瀬呂と共に4階に駆け上がる。
4階で接近戦をしている耳郎にむかって呼び掛けた。
「耳郎!」
「上なっ!?」
「残念俺たちでしたっ!」
「瀬呂!?いつの間に!?っていうか長谷川なんで!?」
「確保ォ!」
後ろからやって来た瀬呂と千雨に気を取られた隙に切島が確保テープを耳郎に巻き付ける。
ヒーローチームが2人とも確保されたことで、モニタールームにいるオールマイトがヴィランチームの勝利を告げた。