首都高に流る鮮青6連星   作:susu-GT

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Ep.11 Battle(バトル) vol.2

《首都高速湾岸線東向 空港中央ランプ付近》

 

 

貴章「水温OK、油圧OK……いける……抜ける。」

 

 

確かな手応えを感じていた。パワーではまだ劣るとは言っても、ピタリとフェラーリの背後をついていける。4WD特有の安定感はないが、大きなボディ故のどっしりと構えた感覚は少し危なっかしいインプレッサよりもはるかに大きな安心感を与えてくれる。

 

スリップストリームから飛び出して、じわじわとフェラーリに迫る。650馬力を叩き出すエンジンが号砲をあげ、6速から7速にシフトアップ。オートマチックトランスミッションとは思えない変速スピードでほとんど息継ぎなしでぐんぐん加速していく。

 

 

貴章「よし、フェラーリ捕捉ッ!」

 

 

あとは一般車をかわしながら突き放していくだけ……そのはずだった。

 

不意に、フェラーリのヘッドライトがゆらりと揺れてプリウスの右リアサイドに向かってくる。その直後……

 

 

 

 

ガシャァァン……

 

 

 

プリウスの右リアのブリスターフェンダーのパーツが飛び散り、少しタイヤがむき出し状態になる。それだけでは済まず、これまで直進していたプリウスのリアタイヤがグリップをなくし、それこそコマのように滑り出した。

 

 

貴章「チィッ……」

 

 

カウンターを当てるが、元から270km/h近くで走っていたのだ。このままではいくらロールゲージでガチガチに補強したボディとはいえ、無事で済むとは到底思えない。そこで貴章が選んだ行動は……

 

 

ステアリングを離し、ブレーキを解放して、クラッチを切ることだった。タイヤに無理な入力をして余計にグリップダウンさせるよりも、駆動力と制動力をカットして、クルマの動きに任せる。すると、半回転したところでリアタイヤがじわじわとグリップを取り戻し始める。貴章はフロントタイヤの操舵角を固定し、ギアを5速まで叩き落とす。少しずつクラッチを繋ぎ、4分の3回転したところでクラッチミート、アクセルオン。それまで横方向のグリップで占めていたリアタイヤに少しずつ前方向のグリップを与えることで、クルマのスピンを止めにかかる。

 

 

 

貴章「……クリアーッ!」

 

 

 

なんとか体勢を立て直した貴章。ミラーではさっきのフェラーリが後続のマクラーレンに追突されているのが確認できた。その光景を見た瞬間、スピンから立ち直ることに必死だった貴章の本能が燃えたぎり始めた。

 

 

貴章「……ぶつけ……やがった……。意外とそういう奴らか。」

 

 

これまで路面のギャップに合わせて若干アクセルコントロールをしてきた貴章だったが、今はもうベタ踏みしている。破損した右リアサイドのエアロの影響なのか若干ステアリングに違和感を感じるが、貴章にはもうどうでもよくなっていた。

 

 

貴章「ぜってぇ許さねぇ……何がなんでも()とす。」

 

真紀「(ガァァァァ……)タカ!! ねぇタカ、大丈夫!? 」

 

 

ヒートアップしていた貴章をクールダウンさせるかのようなタイミングで、真紀から無線が飛んでくる。貴章のインプレッサ同様、プリウスにも通信用の無線機を積んでおいたのだ。もちろん、これを持っている真紀と隆介にも連絡がとれる。

 

 

 

貴章「ああ、大丈夫だよ。右リアのエアロを少し壊しちゃったけどな。」

 

真紀「(ガァァァァパァンゴァァァァ……)良かったー。……ホントに良かった……。タカが死んじったかもって思ったもん。」

 

貴章「おいおい、真紀は俺の母親かよ?…… ってか勝手に人を死人扱いするなって。……まあいいけどさ。それよか真紀、追うぞ。」

 

真紀「(アアアア……)やっぱり、そう言うと思った。……島さんがアヴェンタドール、レイコさんがウラカンを押さえてくれているはず。アタシはレイナさんの 32R と一緒にいるわ。たぶん、有明JCTから台場線経由のC1内回りじゃないかしら?で、箱崎から9号深川線、辰巳JCTで湾岸線入りだと思う。レイナさんが走り出す前に島さんに確認しておいたんだって。」

 

貴章「了解。意地でも追い付く。」

 

 

 

クルマというものには人格を与えるには賛否両論あるが、この時ばかりは貴章の強い思いをしかと感じ取ったのか、プリウスがこれまでより一層鋭い加速をしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《首都高速1号羽田線→都心環状線 浜崎橋JCT 》

 

 

貴章「やっぱり走りにくいな。」

 

 

 

エアロ破損による空力アライメントが狂っているのだろう、ステアリングを真っ直ぐに固定して走れなくなっている。特に右コーナーの進入では明らかに左リアのトラクションが抜ける感触があった。

 

しかし、この暴れ具合がまた面白かった。普段4WDのインプレッサに乗る貴章は、2WD、ことMRをドライブする経験はほとんどないに等しかった。実際、貴章の仲間うちでも隆介の34Zと真紀のZ4はFRレイアウトを採用している。カウンターを当てればすぐさまその方向にすっ飛んでいく4WDと違い、ヘタをすればコマのように回りだすMRは、湾岸ならまだしも、複合コーナーだらけでアップダウン豊かな路面ギャップの激しい C1 ではほぼ常にカウンターを当てながら走っている状況だ。

 

 

貴章「けどっ……これ楽しいじゃん!! 」

 

 

いつしか、あのランボルギーニを追いかけることよりもC1をここまで過激に攻め立てることに快感を覚えていた。

 

世界一危険な高速とも言われる首都高速。特に都心環状線C1はその言葉を如実に体現していた。もしも、C1を完全クローズドにしてしまって、それこそサーキットと同じ環境さえ整えてやればそこまでは危険なことはない。両脇のコンクリートウォールが圧迫感を出してはいるが、意外と狭くはないのだ。ただし貴章たちが走るのはあくまで公道。走行ラインの制限はサーキットの比ではない。そこをうまく対処するのが首都高ランナーでもある。

 

そして貴章には、隆介や真紀にはない独特なドライビングスタイルを持ち合わせていた。

 

目の前には2台の一般車。真横に並んではおらず、うまく間をスラロームさせればすり抜けられる配置だ。

 

ブレーキを踏むことなく270km/hクラスで突っ込んでいく貴章プリウス。すると排気音が止まっていないにも関わらずブレーキランプが点灯する。それもパッパッと点いたり消えたりを繰り返している。そしてクンとフロントをダイブさせて一気に車体を横にスライドさせる。きれいに一般車をパスしていった。

 

 

 

 

左足ブレーキ。貴章はアクセルを踏んだまま若干フロントに荷重を移動させる時にしばしば用いる。主にコーナリング中にフロントタイヤの食い付きを良くしたい時に使うテクニックで、スリーペダルミッション時代のサーキットレースはともかく、ラリーなどでは重宝する。

 

普段乗っているインプレッサでは、いくら足回りのセッティングを煮詰めても4WD特有のアンダーステアは消せなかった。しかもターボ車、そしてピーキーな(ドライバーの操作に対してシビアな反応をする)特性であるシングルターボときたら、一度アクセルを放してしまうとタービンの回転が一気に落ち込み素早く加速体勢に持っていけないというしろものだ。そこで左足ブレーキの出番だ。

 

左足ブレーキは文字通り左足でブレーキを踏む。現在のレーシングカーは軒並みツーペダルミッションなので左足ブレーキは別に特殊なものではない。しかし、彼らが乗っているような少し前の世代のスポーツタイプのクルマはほとんどスリーペダル。左足はクラッチ操作に専念することが多い。本来右足でブレーキを踏むために、アクセルペダルから足を放してブーストが落ち込むのを防ぐ意味でも、アクセルを踏んだまま左足でブレーキペダルを踏むことで、本格的な減速はできないにしろ、ブースト圧を落とすことなくフロントタイヤに荷重をかけられるのだ。

 

ならば、真紀のZ4もツーペダルミッションだから左足ブレーキができるのではないかと思ってもおかしくはない。事実、BMW E89 Z4は、7速DCTを搭載し、シフトチェンジはステアリングの裏側に設置されたパドルで操作する。しかし、彼女は左足ブレーキをほとんどと言っていいほど使わない。それは彼女のZ4の前の愛車がスリーペダルだったからだ。そのときのクセがまだ根強くのこっているのだ。……彼女の話はまた今度……。

 

C1というテクニカルコースは、貴章のドライビングスタイルに少し向いているコースでもある。

 

 

汐留S字も左足ブレーキできれいに旋回。5速7000回転メーター読み250km/hでクリアしていく。トンネル入り口のバンプに乗り上げるも、強力なダウンフォースのおかげでとっちらかることはない。

 

そして、トンネルに入った瞬間、貴章のインプレッサと同じ水平対抗エンジンの独特なサウンドがトンネル内に響いていた。すぐに消えてしまったが、あそこまで爆音で走るボクサーエンジンは、今のところ1人しかいない。

 

 

 

貴章「……いる。ブラックバードがこの先にいる!! 」

 

 

 

 

 

 

《首都高速 6号向島線→9号深川線 箱崎JCT》

 

 

 

島「来ましたね。」

 

 

バックミラーに、彼の機体を確認するとこれまで若干余裕をかましていたアクセルを踏んでいる右足にグッと力を入れる。

 

少し低い位置にある3眼の四角いLEDヘッドライト、明らかに多段ギアを持つであろう頻繁なシフトチェンジ音が、彼の復活を示していた。

 

 

島「なんとか湾岸に戻る前に追い付いたか。」

 

 

島は真後ろについてくるランボルギーニ アヴェンタドールとレイコのC3コルベットが抑えているウラカンをひとにらみ。決して上手いドライバーではないが、クルマの出来が良すぎる。ちょっとやそっとでは離れてくれそうにはない。希望としては、もう1台高速マシンが欲しいところだ。

 

 

島「僕だけで新庄サンたちを引っ張って行けるかどうか……」

 

 

 

スリップストリームを使おうにも、やや台数が多すぎる。

 

すると、島は前を走る、いかにも(・・・・)というクルマを見つけた。大きなリアウイングがついてはいるが、ノーマルの雰囲気を色濃く残しているし、その独特な丸い4灯ブレーキランプが代名詞だ。

 

 

 

………………………………

 

 

貴章「なんとか追い付いた。」

 

 

島ポルシェ、レイコCコルベットには追い付いたものの、ここまで要したことを考えれば湾岸線に戻った瞬間どうなるかはある意味目に見えている。

 

 

貴章「やべー、またおいていかれる……。」

 

 

すると、島たちが走る前の方に、懐かしいクルマが走っていた。赤い4灯ブレーキランプが煌々と光っている。

 

 

貴章「34Rか。」

 

 

流しているとはいえ、250km/hクルーズをしている貴章たちの方がペースが早く、あっという間に34Rに追い付く。白いボディはピカピカに磨きあげられている。

 

 

貴章「……!! えっ!? マジで!? 」

 

 

これはクルマに対する言葉ではない。34Rに乗っている人に向けられたものだった。

 

ちょうど真紀も見たのだろう、同じようなテンションで無線が飛んでくる。

 

 

 

真紀「ねぇ、あの34Rに乗ってたのって……」

 

貴章「やっぱり……そうだよな……。」

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

リカ「うっそー、あれプリウスなの?」

 

工藤「なんだか、嘘みたいだな……。」

 

 

 

言葉をなくすとはこの事だ。あのプリウスだけを見れば、そんな奴もいる、位で軽く流せるはずが、あのプリウスに乗っていたドライバーに見覚えがあった。そして、プリウスの後ろからやって来た白のZ4がその記憶が間違っていないことを証明していた。

 

 

工藤「貴章、いつの間にあんなプリウス(クルマ)仕上げたんだ? インプレッサだったよな。」

 

リカ「先週お父さんが振り切って見失っちゃった人?」

 

工藤「ああ。たぶんそうだろう。プリウスは初めて見るけど、ドライバーは見覚えがあるし、その人の仲間にあのZ4がいたよ。」

 

リカ「あのZ4、なんか雰囲気あるし。……お母さんのRX-7(セブン)みたい。」

 

工藤「この先の湾岸線で踏むつもりかな。ちょっとついていってみるか。」

 

リカ「やったー、首都高のジェットコースター!」

 

工藤「なんなんだよ、ソレ……。」

 

リカ「お父さんも、試したいことがあったんでしょ?」

 

工藤「ああ。いい試乗になりそうだ。K0のな。」

 

 

 

工藤と彼の娘、工藤リカが乗っていたのは、先週貴章とあったときのR35GT-Rではなかった。R35の先代に当たり、最後の直6GT-Rと言われる5代目GT-Rだ。

 

 

そのクルマは、

 

 

日産 BNR34 スカイライン GT-R。

 

 

そして、GT-Rのスペシャリスト工藤が2年間手塩にかけて仕上げた先行試作車(プロトタイプ)、R34GT-R CRSK0(ケーゼロ)だった。

 

 

 

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