ちょっとセリフの前の人物名を一回省いてみます。
分かりにくいようでしたら編集してつけたしますし、こっちの方がよければこれまでの10話ちょっとの分も形を合わせます。
ぜひご意見ください。
《首都高速 辰巳JCT 9号深川線→湾岸線西向》
……………………
「もう少しで湾岸線か…………って、工藤サンも来ちゃった……。 」
よくよく考えれば、なんとも豪華な布陣だ。
前から、島のポルシェ911、レイコのC3コルベットスティングレイ、(貴章のプリウスはともかく)真紀のZ4、レイナの32R、そして工藤のCRS R34 GT-R(K0)。少し型が古い感は否めないが、ここまで出揃うとそれはそれで壮観だ。ポルシェの代表格である911シリーズ、アメリカのハイパーカーのひとつコルベット、ポルシェとバチバチなBMWによるオープンスポーツ、そして日本のスポーツカーを代表する日産GT-R。…………あと一応、
対する相手は、イタリア製のザ・スーパーカー、ランボルギーニ。ノーマルではおそらく手も足も出ない。それこそ新型のR35GT-Rだとか、991型ポルシェ911GT3RSだとか持ってこないと厳しいかもしれない。
しかし、貴章たちのクルマはどれも極限までスピードを追い求めた、言わば市販車の領域を越えたクルマたちだ。そう易々と負けるつもりは鼻っからない。
「けど、工藤サンのGT-Rが入ってくれれば、湾岸線も少し楽になるかも……。」
貴章はセンターコンソールに取り付けた無線機をいじって、周波数を真紀Z4のそれに合わせる。すぐ近くに……真後ろにいるため、割りとはっきりとつながる。
「真紀、工藤サンに前を引っ張ってもらうように合図してくれないか?」
『でも、今日は工藤サン、34Rだよ。』
「たぶん、このGT-RはCRSのデモカーじゃないかな。結構前に雑誌で見たことあってさ。」
『じゃあ大丈夫そうだね。この前は振り切られちゃったから今日はちゃんとペースあわせてくれる
「なんで
『突き放された恨みはおっきいわヨ。』
「(怖ーっ!)」
『ねぇタカ、今『何この女怖っ』とか思ったでしょ。』
「なんで俺の心中悟られてんの!? 」
『……もうちょっと上手い誤魔化し方ないの? なんか露骨過ぎて呆れる。』
「……いいから、伝言頼むぜ。」
半ばやけくそになって無線をぶっちぎる。……やっぱり真紀は敵に回したくない。それは走り屋的にも、人間的にも。
………………………………
前を走っていた白いZ4が少しペースを落としてレイナの32Rを先に行かせて、工藤の34Rの真横に並ぶ。
「あれ、あのBMWが下がって来たヨ。」
「なんだ? トラブルか? この前見たときはこの辺の高速エリアは得意そうだったけどな。」
するとZ4の運転席側の窓が開けられ、中のドライバーの姿がよくわかるようになった。
「うそ、あのBMWの人って女の人だったの!? 」
「ああ、あれだけのZ4を操るだけのうまさなんだヨ。しかもあのクルマを彼女ひとりで仕上げたらしい。」
「ねえお父さん、何かジェスチャーしてるよ。」
BMWのドライバーは、工藤の方に少し顔を向けながら前を指差している。チョンチョンと前を差している。
「ああ、なるほど。」
「えっ、お父さんあれだけでわかったの?」
「ああ、たぶん分かった。」
「……それくらいお母さんのことも分かってあげればよかったのに。……それがわからないからお父さんなんだけど。」
「何ぼそぼそ言ってるんだ。踏むぞ。」
娘のリカの言っていることを聞き取れないまま工藤はアクセルを開ける。600馬力までチューニングした
「リカ、このプリウスのドライバーに何でもいいから了解ってジェスチャーしろ。」
「ええっ、ジェスチャーって何するの?」
………………………………
「何やってんだ、あれ…………。」
それが貴章の正直な思いだった。助手席に座っている女の子がなにやら伝えようとしているのか、身振り手振り送ってきている。だが、その意味が全くわからない。
「いや、両手ブンブン振られても…………。どう返せばいいんだろ…………。」
すると、運転席にいる工藤が焦れったそうな表情で女の子と口論(?)を始めているように見えた。…………とりあえず、工藤が34Rを貴章の真横まで並べたということは、真紀の伝言がうまく伝わっているのだろう。ステアリングを握っていた右手を放してサムズアップする。
それをそのままの意味で捉えてくれたのか、工藤は親指を突き上げて返事をしてくる。そのまま直6の図太いエキゾーストノートを響かせて貴章の前、島ポルシェとレイココルベットの後ろに割って入る。
そして、ついにこの日2回目で最後の湾岸線本線に合流する。ここ辰巳JCTから大黒PAまでひたすら最高速勝負だ。
「湾岸線、全車合流ーッ!! 」
そして、佐々木とオリジナルで制作したステアリングホイールの左手の親指が届くところにある赤いボタンに指を掛けた。
そのボタンの上に貼られたシールには、“DRS”の3文字が並んでいた。
《同時刻 大黒PA》
「でも山本、あのプリウスのエアロだと最高速は伸びにくいだろ。いくらホイールベースが長くて直進安定性がいいといったって、そこまでスピードをのせられるか…………。」
「ガッちゃんが作ってきたんだから仕方ないだろ。」
大御所チューナー二人の会話をよそに、当の佐々木はあまり深刻に考えている素振りはなかった。むしろニタニタ笑みを浮かべてさえいる。
それに気づいたリカコが佐々木に問いかける。
「佐々木サン、あのプリウスに何かしたんですか?」
「ン? まあな。大層な物は付けてないけどな。」
その会話に、PA待機の隆介とエイジも加わる。
「でも、太田サンたちの言う通りいくらエンジンのパワーがあったって、むやみやたらに強力な空力は最高速には邪魔ですよね。」
「せやな。俺も前にこっち来とった時はあんましエアロはいじらへんかったしな。」
隆介とエイジの言うことは最もだった。最高速のカギは、より強力なエンジン、それに合わせたギアレシオ選択、そしてドラッグレス(空気抵抗の少ない)エアロだ。
貴章のインプレッサを例にとると、あのクルマは直線の最高速よりもコーナーに特化したマシン。それはベースとなる時点でそうなのだが、それをより一層はっきりさせたかたちだ。コーナーを走っている時、出来るだけタイヤをグリップさせて速く曲がるためには、よりハイグリップなタイヤに履き替えるのが一般的だ。たが、それでも足りない時は、空気の力でクルマを下に押さえつけることでタイヤが路面にしっかり接地するようにすることがある。
F1マシンにもついているリアウイング。これは飛行機のハネを上下逆さまに取り付けたものと思って差し支えない。飛行機は空気の力で上に浮かび上がる揚力を生み出すが、クルマの場合はその逆、つまり下に押さえつける。この力がいわゆる「ダウンフォース」というもので、これが大きい程空気抵抗が大きくなるため、コーナリング速度は上がるが最高速が落ちるという仕組みだ。
今回のプリウスも、巨大なリアウイングを装着している。それだけではなく、フロントスプリッターなどのクルマの底の整流パーツもつけられている。元は空気抵抗の大きさを示すCd値が0.25という極めて優秀な数値を誇るプリウスに巨大なエアロをつけているのだ。思いの外最高速が伸び悩んでも不思議ではない。
(厳密には、Cd値に前面投影面積を掛けたCdA値の方が正しいんだけど。Cd値は1が最大値。値が小さい方が空気抵抗が少ないクルマということになる。ちなみに、後期型R35GT-R(2017年型)のCd値は0.26。レクサスのLFAは0.31。)
「確かに、あのエアロじゃあランボについていくのは結構しんどいだろ。」
「じゃあ、最高速勝負はどうしようもないんですか?」
不安げな表情を浮かべる隆介やリカコの様子に、佐々木は得意気な顔を見せる。
そして、彼がいい放った言葉はそのドラッグの問題を解決する手段をすでにプリウスに投入しているということだった。
「DRSをつけてある。」
「「「DRSゥ!? 」」」
DRS、英語表記である“
「真紀ちゃんには内緒で勝手に付けた。太田と山本、北見にもいってない。」
「あの、貴章さんには…………」
「アイツには言っておいた。……ってか言わなきゃ付けた意味ねぇだろ。DRS付けるためにわざわざスワンネック式を作ったんだ。ステアリングのボタンでウイングの板についてるロックが外れて前側が持ち上がって、板がほぼ水平になるようにしてある。……ただ、俺も初めてだったから、使うのは1回だけとは言ってある。」
《首都高速 湾岸線西向 有明JCT付近》
貴章「オオッ、やっぱり島サンも工藤サンも速い!」
危うくまた置いていかれそうになる。ある種暴力的な加速を見せるブラックバードとCRS工藤。レイコは島の真後ろ、貴章と真紀、レイナは工藤の真後ろをぴったりと追従する。
しかし、エアロによる空気抵抗は大きいようで、スリップストリームを使ってもじわじわと離され始める。後ろのレイナ32Rも近づいている。
貴章「……それじゃ佐々木サン、使います。」
貴章は左手の親指が掛かっていたDRSのボタンを長押しする。すると、いきなりリアのトラクションが若干弱くなったが、離され始めていた工藤GT-Rとの距離がみるみる縮まっていく。明らかに速度がのりやすくなった。
貴章「すげぇ。こんなに効いてたのか、リアウイング。」
それでも島のポルシェには置いていかれるものの、工藤のR34GT-Rにはしっかりついていけるようになった。大黒PAまでの湾岸線区画は、ひたすらレスダウンフォース仕様で勝負を仕掛ける。
まず、レイコが押さえていたウラカンを工藤があっさりとパスする。それに続いて貴章プリウス、レイナR32GT-R、真紀Z4の白い3台が数珠つなぎになってウラカンの脇をすり抜いていく。
そして、島から離されているアヴェンタドール。島とレイコはとっくにパスしたのか、もう姿は見えなくなっていた。
まず最初に接近した工藤GT-Rの行く手を阻むかのようにラインを被せてくる。ガラ空きになったサイドを貴章の後ろから飛び出したレイナと真紀が易々と走り去る。プリウス同様にダウンフォースの大きい真紀が、先行するノーマル形状のレイナGT-Rの走行ラインをトレースしていく。
それを確認してから、工藤もフル加速に入る。アヴェンタドールも負けじと加速する。さすがは700馬力オーバーのミッドシップ4WD、トラクションはもしかしたらGT-Rを凌駕しているかもしれない。
だが相手はGT-Rのスペシャリスト、CRSの工藤圭介と彼が手掛けたコンプリートマシンであるKシリーズの
貴章「俺も行きますよ、工藤サンッ!! 」
貴章はGT-Rのスリップストリームから飛び出した。
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「お父さん、プリウスがランボルギーニの横に並ぶよ!! 」
「何か工作してたのか? ここに来てから急にストレートスピード上がってるよな。」
バックミラーからいきなり姿を消したプリウスは、二車線を一気にまたいでランボルギーニの真横に並ぶ。これで、プリウス、アヴェンタドール、R34GT-Rの3台が横一直線に並んだスリーワイド状態。
「けど、珍しく前は
「ええっ、ちょっとお父さん大丈夫なの!? 」
リカの質問にはアクセル全開で答える。前走車両なしという奇跡的なシチュエーション。力強く速度を上げるGT-R。同じくアクセル全開であろうアヴェンタドールにも全くひけをとらない。
「やっぱり、GT-Rはこうでなくちゃな。」
速いのがGT-R。そしてそれこそがGT-Rの存在意義。工藤は人生の半分以上をGT-Rに費やしたプロフェッショナル。人一倍最速GT-Rということにこだわる1人でもある。いくら新型のスーパーカーが相手でも負けないクルマ、それがGT-Rだと言わんばかりにアヴェンタドールと張り合う。
そして、バックミラーに見えないところ、貴章のプリウスも工藤と同じように走っているようだ。
「すごい! プリウスもついてきてる!」
助手席のリカの言葉がそれを証明していた。GT-Rやアヴェンタドールとも違うシフトタイミングもそうだ。3台のシフトタイミングがバラバラなお陰で、トンネル内にシフト音が幾度と鳴り響く。
6速のまま海底トンネルから出る。実に285km/h。このK0で初めての300km/hトライだ。
…………………………………………
「290km/h。そろそろプリウスも限界ちかいぞ。」
往路での湾岸線とは違い、あっさり280km/hの壁を乗り越えはしたが、これからが問題だ。あれだけ強がっておいて最高速で負けては話にならない…………というか、シャレにならない。
しかし、踏める限りは踏み続ける。貴章はそれがこのモンスタープリウスを急ピッチで造ってくれた彼らへの示すべき態度だと思っていた。
「しんどいかもだけど、あと少しだけ耐えろよ、プリウス。」
―――わかってるヨ。オメーこそ怯むんじゃねぇぞ。―――
不意にそんな声が聞こえた気がした。幻聴かもしれないし、ずっと後ろの
しかし、貴章はその瞬間、プリウスの意思を聞き取った気がしたのだ。それが声になっていたのかどうかはわからないが、直感的に飛び込んでくるものがあったのだ。
「しゃあ、行けェッ!! 」
あえてトップギアの8速で走ってきたプリウスを、一度7速にシフトダウン。ターボエンジンと違い、
7速7400回転、メーター読み287km/h。そこから再加速して8000回転。シフトアップしてトップの8速。回転数が落ちて7600回転。
8速7700回転…………7800回転…………7900回転。メーターはもうすぐで300km/hを差すところまで来ている。
そして、トップギアでレブリミット頭打ち。8速8000回転。メーター読み300km/h。それでもまだ横の2台は加速していく。
「くそったれ! こんなところで負けてたまるかよ!! 」
―――その刹那…………
ギャァァァァ…………
激しいスキール音が貴章の耳に飛び込んできた。往路のようにスピンした訳ではない。
ふと横を見ると、そこには工藤の操る白いR34GT-R。アヴェンタドールがいなくなっている。
「…………?」
バックミラーを覗くと、かなり後ろの方に特徴的な直線的デザインのヘッドライトが見える。間違いなくランボルギーニ アヴェンタドールのものだ。
ブレーキを踏んで減速しているのか、その姿はみるみる小さくなっていく。
「終わった…………のか?」
真横を並走するGT-Rの助手席側のウインドウが開き、中から工藤が拳を貴章の方に向かってつきだしてくる。もちろん届く距離ではないが、同じように貴章も応えた。
「ありがとな。」
ステアリングを擦ってつい声をかけてしまう。さっき聞こえたような声は、今回は何も返ってくることはなかった。
《首都高速 湾岸線 大黒PA》
「あっ、来ましたよ。」
隆介の一声で貴章待ちのオヤジ連中が静まり返る。島たちからおおよその話は聞いているが、主役が帰ってくるとなぜか静かになってしまう。
プリウスは一部破損しているものの、無事に帰ってきた。
中の貴章は疲弊しているようだったが、降りたとたん、停車したプリウスをポンポンとたたく。まるで戦で疲弊した相棒を讃えるように、慰労するように。
………………………………
「それじゃあ、このプリウスはしばらく乗るつもりはないんだな。」
「はい、元からなんとか車検通した状況なので。……それに、ここ1週間、大阪から帰ってからインプレッサに乗れてませんから。けど、週一でエンジンはかけますけどね。」
「それがいいだろうな。こいつには首都高は狭すぎる。」
結局、プリウスはしばらく休車にする方針で一致し、今後も何かあれば手助けしてもらえるように話がまとまった。工藤の方も、今度CRSに顔を出すことになった。
これが、首都高ランナー、新庄貴章の噂が広まっていくきっかけになることは、この場にいた誰1人も想像していなかった。
月光に照らされたお台場駐車場。そこに1台の青いクルマが止まっていた。小ぶりなGTウイングがアクセントになっている。
決して小柄とは言えない観音開きのドアを採用する珍しいクルマだ。
「…………」
そばに腰かけていた1人の青年が、飲み干した缶コーヒーを片手にスクっと立ち上がる。
クルマに乗り込み、エンジンを始動させる。それは今では絶版となってしまった名機だ。
「行こうか、エイト。」
緩やかな発進で、彼はお台場駐車場をあとにした。
ンー…………なんか終わり方中途半端?