Ep.00に、隆介の34Zのイメージイラスト上げました。相変わらずの手がきですがよければどうぞ。
それより、ランキング22位!?
驚きました。純粋に。
これからもどうぞよろしくお願いしますッ!!
《午前10時 千葉県船橋市海神 ガレージ》
「真紀ちゃんは連れて来なくて良かったのかい?」
「ええ、アイツは昼から仕事入ってるらしいので。アイツ、ああ見えても高校の国語科教員なんですよ。教師が首都高走るって、ちょっとどうよって思ったりもしますけどね。……俺はここでチマチマクルマいじって稼いでる位ですから。」
7号小松川線の終点篠崎JCTから先の京葉道路の降り口、原木ランプからクルマで約10分、貴章の仕事場兼自宅のガレージがそこにある。クルマ3台分のスペースはガラリとしており、隅っこにはFRPパーツやらがゴロゴロと転がっている。男子とは散らかす生き物だと昔から真紀が言っていたのを思い出させる。
「普段、インプレッサもこの中にいれちゃうんですけどネ。」
「それにしても、個人でここまで装備が揃ってるなんてなかなか無いよな。……エンジンルームまであるんだ。」
「ええ、でも自分のインプ以外であそこを使うことってあまり無いんですけどね。」
ガレージにインプレッサを停めると、貴章は工藤を手招きしてガレージの脇道から更に裏へ連れていく。さっきのガレージの建物の奥にもまだもうひとつあるようで、若干錆びたシャッターがピシャリと閉められていた。
「元々、なんかの倉庫として使ってたみたいなんですが、訳アリで格安で提供してもらえて。」
ガチャリとシャッターのロックを外してガラガラと上げる。ロール部分には潤滑油が足りてないのか、耳をつんざくような不快な音が響く。
中から顔を出したのは、工藤も先日見た例のクルマだった。
「オオッ、プリウスじゃないか。」
「はい、こっちで保管してるんです。」
と言いつつ、貴章はドアのロックを解除してプリウスに乗り込む。火が入った2UR-GSEは、相変わらず逞しい快音を響かせている。
そのまま表のガレージにプリウスを置いてきた貴章は、さっきまでプリウスが置かれていた場所のもうひとつ奥にある、ビニールシートに覆われたモノに近寄る。
「このシート外すんで、そっち側お願いしてもいいですか?」
工藤は貴章が構えるのと反対側のシートをつかみ、同時にめくり上げる。すると、したからは純白ボディの少し古いクルマが顔を覗かせた。
「FC3S RX-7か。」
「1990年式、最終のスパルタン仕様
「どこでこのクルマを?」
「これは元々真紀のクルマです。けど、アイツがエンジンブローさせてクラッシュさせてから手放したんです。……そこからしばらく首都高に出なくなった真紀を連れ戻そうとした隆介が、真紀に黙ってどっからかこのFCを引っ張り出してきて、直そうとしたんですよ。」
「キレいに直ってるじゃないか。」
「それはボディだけです。」
かぶりをふる貴章。クラッシュ自体は大したモノではなかったため、フレームまで被害が及ぶことはなく、外装パーツの取り替えで済んだが、どうも内側はそうではなかったと言う。
「エンジンブローの原因は、クラッチを滑らせたことによるオーバーレブでした。そこから一瞬だけ超大パワーを加えられたクランクシャフトがポッキリ折れて、ミッションの方にも少し干渉してるんです。さすがにエンジン周りは再起不能なほどズタズタでした。けど、ミッションはなんとか代替えが見つかって、後はエンジンっと思った矢先にエンジンのアフターパーツが入手できなくなって。」
「……それで修復を諦めたと。」
「ちょうどその時、Z4に乗り換えたのもありますけどネ。……金もミッション揃えるので結構使いましたし。そもそも真紀はこの事知らないですから。」
「でも、今回はこのFCを使わないといけない、と。けど大丈夫なのか?Z4はツーペダルミッションだろ。左足でブレーキ踏んでたのをいきなりスリーペダルにしろって言うのもちょっと酷だと思うけど。」
「アイツは左足ブレーキしません。まだ右足でブレーキ踏んでます。FCの時のやり方ですね。」
「でも、わざわざ俺を呼んでやることか? 俺はGT-R屋だぞ。」
「だからこそ、RX-7の意見を聞きたいんです。」
貴章曰く、かつてスカイラインGT-Rの時代から常に比較対象とされてきたRX-7。もっと前の世代では、サバンナRX-3からそうだった。相手から見た印象を聞くことも大事だ。
FC3S サバンナ RX-7は、第2世代RX-7として、1985年に先代SA22Cからのモデルチェンジにより登場し、1991年、オープンカーのカブリオレは1992年まで生産された。すべてがそうではないが、後期型の時期は、ちょうどR32 スカイライン GT-R と時期が被っている。真紀が所有していたと言うこのFCは、本来4人乗りのFCをツーシーター化した限定スパルタン仕様の
エンジンはマツダのロータリーエンジン13B-T。主にこのFC3Sに搭載することを想定したロータリーターボエンジンだ。排気量はたった654cc×2ローターの1308ccで、215馬力を叩き出していた。
しかし、ロータリーエンジン搭載車は2012年のRX-8以来生産されていないし、FC3S純正の13B-Tは1992年、3代目RX-7のFD3Sや、ユーノスコスモ等に搭載された280馬力対応のシーケンシャルツインターボ仕様、13B-REWも2002年に生産を終了している。
「今から新しい13B-Tを入手するにも、FC自体が希少なタマだからな。やっぱりFDのエンジンを探す方がいいんじゃないか?」
「やっぱりそうなりますよね……。」
「だけど、1.3Lで400馬力近く出すのはちょっと怖くないかい?」
「280馬力でいっぱいいっぱいですからね、2ローターは。」
「レシプロエンジンみたいにすぐに排気量アップできたりしないエンジンなんだよな。」
「はい、それこそ3ローターとか4ローターの世界ですよ。20BとかR26Bとか……。」
「……俺よりロータリーに詳しいメカを呼んでみようか?」
「いいんですか?」
「ああ、今日はトミサカのバイトもやってないからな。」
そう言うと工藤はスマホで通話を始めた。
「あ? 今大丈夫かい?」
《埼玉県和光市 とあるガレージ》
ガレージに停められているのは、どちらもポルシェ。1台は仕事として整備している最中のポルシェ993カレラ。最後の空冷ポルシェとして人気のモデルだ。
そしてもう1台は、銀色のポルシェ。964ターボ3.6。こちらも空冷ボクサーのRR方式で、993の先代モデルにあたる。大人気だった930の後継機だ。このガレージの持ち主の愛車だ。
忙しなくひとりで働く青年のスマホがガレージに鳴り響く。
「はい、元木です…工藤サン、どうかされました?……はい、大丈夫ですけど。……ええ、以前乗ってました。…………あ、僕はFDの方でしたけど。……僕でよければ行きますが。…………はい、京葉道路の原木降りたところですか。…………なら湾岸の千鳥町からでも大丈夫ですね。……じゃあ後1時間ほどで行きますね。では。」
彼は、元木明彦。25歳のかけ出しのポルシェ乗り兼ポルシェチューナーで、空冷ポルシェのみを扱う変わったチューナーだ。そして、工藤を再び夜の首都高に駆り立てるきっかけになった張本人だ。
《午前12時 再び貴章ガレージ》
「お、来たな。」
独特のエンジンサウンドを響かせてやって来たのは、銀色の964型ポルシェ911。車内に乗っているのは、貴章とそう変わらない年齢の青年だった。
「すみません、工藤サン。ちょっと三軒茶屋の方まで行ってまして。」
「いいっていいって。貴章、コイツがこの前言ってたポルシェ乗りの元木明彦。」
「初めまして、新庄貴章と言います。」
「どうも、元木デス。」
「早速本題に入りたいんだが、時間も時間だ。メシ行こうメシ。」
「あ、大丈夫ですよ。」
工藤の誘いを制止する明彦。まさか昼飯抜きで作業させる気かと疑う貴章と工藤だったが、彼がポルシェから持ち出したビニール袋が、それを否定していた。
「三軒茶屋の知り合いのところで弁当買ってきたんです。」
…………………………………………
いい感じに室温管理されたガレージの中の居住スペース。貴章はここで寝泊まりしているという。キッチンもトイレもあるし、しまいにはシャワー室まであるという充実っぷり。
「住めるよな。ここで。」
「俺住んでますし。……って、あれ?」
ビニール袋の中の弁当を見た貴章がちょっと意外そうな声を上げる。
「どうかした?」
「これ……。レイコさんとこの。」
《紅》、大きな黒字で書かれた包装紙がプラスチックの弁当箱を包んでいた。紅は、先日一緒に走った初老の女店主で、コルベットC3スティングレイを300km/hで走らせる篠田レイコがひとりで切り盛りする定食屋だ。
「あ、レイコさんを知ってるんだね。」
「知ってるもなにも、よく行きますよ、ここ。」
「しょうが焼きがウマいんだよね。」
「そうそう、あそこのを食べちゃうと、他のしょうが焼きがなんかショボく見えちゃうんですよね。」
「今日は工藤サンから連絡をもらった後、レイコさんの所に電話して弁当用意してもらったんだよ。ただ、しょうが焼きじゃなくて今日は唐揚げだけど。」
全く話についていけない工藤。しかし、その弁当から漂っている匂いは実に食欲をそそる。真理子と離婚してから手料理という手料理を食べていない工藤。貴章と明彦の言うような本当に家庭的な定食屋を知らない。
「この前、僕のプリウスの前にいた赤いコルベットのドライバーさんが経営してるんです。」
「へぇー。」
「今度リカちゃんと真理子サンを連れて行ってきたらどうです?」
「うーん、リカはともかく真理子が来るかな……。アイツ仕事命だからな。」
「アタシが何だって!? 」
「のわあッ!! 」
「ま、真理子サン……。」
「……?」
新たに現れた女性、思いっきり椅子から転げ落ちる工藤、苦笑いを浮かべる明彦、全く訳がわからなくなっている貴章。すると新参者の女性は工藤の耳をつねりながら文句をいい始める。
「圭介みたいなGT-Rバカに言われたくはないわよ。第一CRSの運営すらままならなかったのに。」
「イデデデ……それとこれとは別だろ。というか、何でお前がここにいるんだよ。」
「明彦クンのポルシェを見かけて、デミ夫で追いかけてきた。」
「まあまあ、真理子サン……。ここ彼のガレージですから……。」
明彦が指差す先には
「ごめんなさいネ、私、圭介の元嫁の真理子というの。」
「あ、新庄です。……新庄貴章。」
「……ふーん。」
「え、ええと……。」
「絵になりそうネ。」
「は、はい?」
「ねぇ、貴章クン、クルマ何?」
「え、スバルのインプレッサですけど。」
「ねぇ、雑誌興味ない? あなた絵になるわ。ファッション誌にいたからその辺りはよくわかるの。」
「はいぃ!? 」
「おい真理子、ほどほどにしとけ。」
…………………………………………
工藤と明彦ののヘルプのおかげでなんとか真理子のマシンガントークならぬマシンガン勧誘を乗りきり、昼食を済ませた。明彦は3人分しか購入していなかったので、やむなく貴章が近くのコンビニで軽食を買ってくることになったのだが。
「で、明彦、本題なんだけど、RX-7のエンジンって、どこまでイケるモノなんだ?」
「FDの場合ですけど、やっぱりノーマルの280馬力でいっぱいいっぱいです。そこからパワーをあげていくと、いろんなところを一気に変えなくちゃいけなくなりますね。」
「それがFCだとなおさらだと。」
「ええ、恐らく。」
「実はな、今回造るのはFCなんだけど、エンジンをどうしたものか悩んでるんだそうだ。そうだろ、貴章。」
「はい、僕も明彦サンと同じ考えなんです。……だけど手っ取り早くパワーを得るには13B-Tのままチューニングするのがいいとは思いますけど、その13B-T自体がなかなか手に入らない。でもFCのボディじゃあFDのチューンド13B-REWのパワーを受け付け切れないと思うんです。ましてやターボなんていうドーピングみたいなことはちょっと厳しいかなと。」
「この
「ええ、たとえ水平対抗エンジンを載せたとしても、何もメリットはないです。むしろコストが膨大になるだけですよ。いろいろパーツを作り直さないといけないですし。」
「じゃあ、残る選択肢はどう考えてもFDのエンジンを移植するってことくらいかな。」
「……」
意気消沈する貴章。すると、明彦は貴章が思いもしなかった選択肢を提示してきた。
「20B換装はどうかな?」
「20Bって、ユーノスコスモに搭載されてた?」
RX-7に搭載されたロータリーエンジンは、2ローターの13B。それをもうひとつローターを増やし、排気量を654cc×3ローターの1962cc、つまり2.0Lのエンジンとしたのが20Bだ。
ユーノスコスモに搭載された20B-REWは、FD3Sで投入したシーケンシャルツインターボを先駆けて導入。世界初のシーケンシャルツインターボ装着のロータリーエンジンだ。
「でも、ユーノスコスモ自体はFC以上の稀少車ですよ。」
「だから、作ればいいんじゃないかな。20Bを。」
大胆なことを言ってのける明彦。しかし、実際に20Bを作ることは可能だ。
ロータリーエンジンは一般のレシプロエンジンと違い、その簡単な構造故に、十分な知識と工具などがあれば一般人でもエンジンを組み直せる。エキセントリックシャフト、レシプロエンジンにおけるクランクシャフトに相当するパーツを作りさえすれば、13Bのパーツの流用で事足りるのだ。
「確かに、20Bの自然吸気ならFCでも余裕がありそうですね。……でも、エキセントリックシャフトってそんなにすぐにできるものなんですか?いくらローターハウジングは集められたとしても、肝心のそれがないと意味ないですよね。」
「とにかく、明日までは誰か持っていないか探してみよう。工藤サンにもお願いしていいですか?」
「あ、ああ。」
「なければ、急ピッチだけど自作しよう。今日明日は調べ上げとローターハウジング等のパーツ確保に専念しよう。」
「えっ……明彦サンも協力してくれるんですか。」
「え、まあね。ちょっとポルシェも行き詰まっちゃったし。……それに、いろんなことを知りたいから。」
「そうですか。」
すると、これまで沈黙してきた真理子が首を突っ込んでくる。微笑んでくる辺りは、間違いなく雑誌の勧誘だ。
「じゃあ、リカにも手伝わせようかしら? あの娘今明彦クンとRX-7の企画やってるでしょ。」
「え、ええ、人数は多い方がありがたいですけど。」
「リカには片っ端から調べものさせておけばいいよ。K0のオークションを見つけ出したのもリカだし。」
そこで、ふと貴章は疑問を浮かべる。『RX-7の企画やってる』。
「あの、まさかこの一件を雑誌に?」
恐る恐る尋ねた貴章。編集長 工藤真理子はそんな貴章の背中をバシバシ叩きながら豪快に笑う。……半ば男みたいに。
「当たり前じゃないッ。こんなオイシイ企画易々と逃しはしないわよ。」
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モチベーション維持に欠かせないんですよね '`,、('∀`) '`,、