今回より、囃子ともさんから提供いただいたキャラクターに登場していただきます。一部変更を入れましたが、きっと許してくださるでしょう。(((((((・・;)
この場でお礼申し上げます。ありがとうございました。
ではEp.16、最後までお付き合いください。
《千葉県船橋市 ガレージ》
「それよりも、見つかったんですか?シャフト。」
見習い税理士としての出張から帰ったばかりの隆介がエンジンルームどんがら状態のFCを見ながら聞いてくる。まあ耳が痛くなる質問だ。
「見つかるもなにも、ネット探してもエキセントリックシャフト自体そこまで出回ってないんだよな。」
「でも、ユーノスコスモ探す訳にもいきませんしね。」
「明彦サンのお陰でローターもシールなんかもほとんどパーツは揃ってて、後はシャフトだけってとこなんだけどな。……世の中そんな上手くはいかないか……。」
リカを送った日から2日、本来は昨日の時点でシャフトが見つからなければ自作するという話だったが、一応粘るだけ粘るということで期限を1日伸ばしている。今日中に3ローター用のシャフトが見つからなければ、今度は自作しないと間に合わない可能性がある。
レシプロエンジンにおけるクランクシャフトがロータリーエンジンにおけるエキセントリックシャフト。いくら上等なエンジンを用意しても、どれだけハイスペックなタイヤを用意したとしても、肝心なエンジンからの動力を伝えるシャフトがなければそれは宝の持ち腐れだ。
「いっそ中古のFD探した方がいいんじゃないっすか?」
思い付きのように話す隆介。しかし、このFCがなければそうしていたはずである。いくらFCがあったとしても、基本設計は後発のFDの方が新しいし、経年劣化を考慮すれば購入するべきはどちらかと言うとFCよりもFDのほうだ。
しかし、そうしないなりの理由が貴章の中にはあった。
「真紀はFDに乗ったことないだろ。」
「アッ……そう言えばそうっすね。」
「いくら同じようにコーナリングマシンとして優れているZ4とRX-7でも、やっぱり違うもんだろ。なら、ほとんど知らないことだらけのFDよりも少なくてもどういうクルマなのかわかってるFCの方がいいだろ。……ましてや俺の準備する時間が少ないなら、アイツが乗れる時間はもっと少ない。」
これが1年とか、少なくても後3ヶ月あるなら問答無用でFDを購入して全バラから組み直していた。しかし、時間がないのであれば、ボディ補強が済んでいて足回りから駆動系まである程度組上がっているFCを造り直す方が手間もかからないというのも理由のひとつだ。
そして、あえて3ローターの20Bを
ターボチャージャーは構造上、特にスポーツ用に組まれた物は低回転低負荷領域では排気ガスの圧が不足し、レスポンスよく過給圧を得る事ができない。その時に生じる時間差をターボラグという。普通のクルマではそれほどターボラグ感じることはないが、
レーシングカーならアンチラグと言うことで、アクセルを踏んでいない状態でも燃料をエキゾーストマニホールドに送り込み、強制的にタービンを回し続けることで過給圧を下げない手法がとられる。一部の人が耳にするのが、「ミスファイヤリングシステム」であったりする。かつてのグループA時代のラリーカーの頃から搭載されており、本来は燃料がカットされるアクセルオフ、つまりブレーキング時に無理矢理燃料を送り込む。
ドライビング的な特徴は、コーナリングの途中でもタービンを回しているため、立ち上がりの際ターボラグを気にすることなく加速体勢に移行できる。ターボ車なのに
そしてアンチラグシステムの最大の特徴は、ド派手なバックファイヤと爆音だろう。排気系にあたるエキゾーストマニホールドで小規模な爆発を起こすため、何も知らない人からするとクルマが火を噴くように見えるし、その音はまるで銃撃戦。「パパパパパン」だとか「バラバラバラ……」だとか擬音化するほどの音だ。今のSUPERGTのGT500クラスのクルマのブレーキング時に聞くことができる。
しかしそれはいわゆる「ガソリン垂れ流し」の状態であり、ただでさえ燃費の悪いロータリーエンジンにそれをする気にはなれない。であれば、ターボラグが真紀を困らせる原因になってはいけないというのが理由だ。
「確かに、RX-7にミスファイヤリングシステムはダメっすね。」
「俺たちのなかで一番燃費悪いのは真紀だろ? アイツなら下手したらバトル中にガス欠でストップするぜ。」
「じゃあ、今日中に誰かシャフトを持ってる人が出てくるのを祈るだけですか……。」
すると、デスクのパソコンがピロンと音を鳴らす。メールが届いたときの着信音だ。
「なんだよ、こんな時に……。」
届いたメールを読み始めた貴章は始めはだるそうに、そして次第に食い入るように読み込んでいた。
「あの……貴章サン?」
「隆介、今から時間あるか?」
「え?……あるにはありますけど。」
「なら今すぐ俺のインプレッサを出しといてくれ。すぐ行くぞ。」
「え?……まさか、キタんですか?」
「ああ。行くぜ、木更津に。」
《千葉県木更津市》
湾岸線の起点である千鳥町ランプからたった一時間弱で目的地に着く。海ほたるを経由する東京湾アクアラインのお陰で東京湾のど真ん中を突っ切るため、意外と木更津は近いようにかんじられるのだ。
木更津の駅前商店街を通り抜け、しばらくすると目的地の目の前に着く。メールにもあったように一応中古車ディーラーのようだが、陳列してあるのは一昔前のワゴンRにハイジェットといった軽自動車がほとんど。
「軽ばっかりっすね……。」
「……だな。」
「悪かったナァ、軽ばっかり並んでてヨ!!」
「「うわぁっ、出たぁ!? 」」
そこそこの大きなず太い声を響かせるオヤジが貴章の後ろに立っていた。彼のずんぐりした体型はどこかボディワークの天才高木を彷彿とさせる。しかし、色黒なスキンヘッドのせいで高木以上の威圧感がある。
「お前らか? いきなりシャフト探してるとか言う変な連中はヨ?」
「あ、はい。」
「なんでも3ローター用だと?」
「ええ。」
「あのインプに載っけるつもりか?」
彼は貴章のインプレッサを指差す。貴章はすぐさま首を横に振った。
低重心を売りにする水平対抗エンジンを積むインプレッサにロータリーエンジンを載せることを考える人は少なからずいる。しかし、ロータリーエンジンは軽量ではあるが意外と重心が高いエンジンだ。低重心ありきの設計をされたインプレッサにロータリーエンジンを積めたとしても、そこからデフなどの駆動系パーツが入らない。それこそボディや内装の切断をしないと厳しいとも言われる。
「いえ、FCです。」
「ふーん……。」
ジロジロと貴章を睨み、ズズッと鼻をすすってくるりと向きを変える。そこで待ってろとだけ言い残して小さな店舗の中に姿を消した。
「何なんですかね。感じ悪いっすよ。」
「まあ、出会い頭にいきなり変な奴はないよな。」
すると、奥からいきなり爆音が鳴り響く。おそらくクルマのエンジンなのだろうが、それはレシプロエンジンでは到底出せない音だ。市販されたクルマの中で比較的甲高いエキゾーストノートを持つのは、2010年から限定500台が生産された国産初のV10エンジン搭載車、レクサスLFAがその一つ。その音は「天使の咆哮」とも言われるほどだ。しかし、今聞こえてくるエンジンサウンドはそれとはまた異質なものだった。「バリッバリッバリッバリッ……」と規則正しく聞こえる爆音はレシプロエンジンのそれよりも数オクターブ高いような気がした。
「この音……なんだ?」
姿を現したのは、ワインレッドのRX-8。外観はエアインテークが増設されている以外はほぼ原型を保っているが、纏うオーラは独特なものがあった。
「……」
「何ボサッとしてるんだよ。お前が運転してみろ。……スーツの兄ちゃんは店番しとけ。」
いきなりRX-8のコックピットに座らされる貴章。何がなんだかよくわからなくなってきた貴章だが、ロータリー車なら何度か真紀のFCを運転したことはある。
「俺が一人で仕上げたRX-8だ。コイツを理解できなきゃシャフトは譲らねえ。」
「げぇ……。」
ここまで来たからには、「はいそうですか」と引き下がるつもりもない貴章。強化クラッチを組んでいるのだろう重たいクラッチペダルを踏んでRX-8を動かす。
「……お、重いッ!? 」
クラッチを繋いだ瞬間から違和感を感じる。そして、動き出してからもその違和感は消えるどころかますます濃厚になっていく一方だった。
「なんだよコレ? 全然トルクでねぇ。」
確かにロータリーエンジンは低回転域のトルク不足は否めないが、それとこれとは全くの別次元。とにかくトルクがなく、無理にでも高回転域まで回さないとまともに動かないのだ。
しかし、フロントミドシップに搭載されたロータリーエンジンは官能的なエキゾーストノートを振り撒いている。トルク不足にイラつく一方でこの体にダイレクトに飛び込んでくるようなロータリーサウンドが心地いい。回転数を上げれば上げるほどその音はより響き渡り、ついつい低いギアで走ってしまう。
「あの、このエンジンって一応レネシスなんですよね?」
「一応な。」
「……これ、ローターいくつですか?……ノーマルの13B-MSPじゃあ、ここまでパワー出せませんよね。」
「……」
「あれ、俺なんか変なこと言いました?」
「そこそこわかるみたいだな。」
「ん?」
「4ローターだ。2.6L仕様。エキゾースト系はチタン製直管。吸排気共にペリフェラルポート。」
「ペリですかァ……。あの、これはご自身で?」
「まーな。」
ペリフェラルポート通称ペリ。ロータリーエンジンにおける吸排気のポートの違いで呼び名が変わる。
ペリフェラルポートはよく百科事典なんかで載っているロータリーエンジンの参考図のようにローターハウジングに直接吸気ポートもしくは排気ポートを設ける方式。このRX-8に搭載されているレネシスこと13B-MSPを除く、FCに搭載された13B-TやFDの13B-REWなどの13B系ロータリーエンジンの排気ポートはすべてこのペリフェラルポートを採用している。
ではRX-8の13B-MSPの排気ポートはどうなのかというと、それはサイドポートと呼ばれる。ローターを挟むサイドハウジングに穴を開けてそれを吸気もしくは排気ポートとする。13B系エンジンでは吸気ポートはすべてこのサイドポート。そして13B-MSPは市販用ロータリーエンジンでは初めて排気ポートをサイドポートとしたエンジンでもある。
ロータリーエンジンのチューニングにおいて、憧れでもあるペリフェラルポート化。サイドハウジングに開けられた吸気ポートを埋めてしまい、新たにローターハウジングに直接吸気ポートを増設する。あのル・マン24時間を制するなど当時様々な伝説の生んだマツダ767Bや787Bに搭載されたレース用4ローターエンジン、R26Bは吸排気共にペリフェラルポートを採用していた。
ペリフェラルポート化により基本は
しかし、これを市販車でやると話は別だ。高回転域での性能向上の代償に低回転域での圧倒的なトルク不足が顔を出す。そして鬼のようにガソリンをむさぼる超高燃費エンジンへと化ける。排気音も爆音となり、お世話にも公道を走るようなエンジンにはならない。例え車検に通ったとしてもその爆音ゆえにお巡りさんから目をつけられてしまうかもしれないほどだ。
「ということは、この
「ああ。」
すると、貴章はある疑問を浮かべる。それならばわざわざ吸気ポートと排気ポートを埋めなければいけない13B-MSPよりも、ターボ関連の装備を外して吸気ポートだけを埋めればいい13B-REWなどの方がいいのではないか、とどのつまりが別にRX-8でやらなくてもいいのではないかということだ。
「確かにスタイルとか心情的に決めるなら、RX-8よりもFDだし、FDよりもFCだ。……もちろんRX-7は初代のSA22Cからさわってきたが、ロングホイールベースのRX-8の方が安定する。それにコーナリング性能だって悪くはない。……心情だけで決められないって言うのは、お前さんもそうじゃないのか?」
「えっ!?」
「インプ乗りなら間違いなく初代のGC型に走るだろう。お前さんの第2世代インプのGDBだって、不等長爆エキマフラーの丸目GDBA、最も人気の涙目GDBCの方がいい。なのにあえてイマイチと言われることもある最後の鷹目GDBFをえらんだんだろ。」
「えぇ、まぁ。」
それは確かに事実だった。だけど、それでもいけるところまではいくという気持ちで選んだクルマだ。今では後悔はない……はずだ。
「ロールゲージ増量分込みで1180kg、4ローターで最大650馬力。今はコンピューターいじって600馬力まで落としてはいるがな。ブレーキはディクセル製で前が6ポッド、後ろが4ポッド。クラッチは特注トリプルプレート。ホリンジャー製6速シーケンシャル。……」
このRX-8のチューン内容を羅列してくる。あっさりと言ってのけるが、それをたった一人で仕上げたとなればかなりの時間と金がかかっている。
「お前さんみたいな若造には負けねぇからな。」
「負けるもなにも、そこまでできませんよ。」
「ケッ、ヘタレなこったな。」
「……」
「お前さん、このRX-8をどう見る?」
「……正直、素晴らしいとは思います。でもこのクルマ、4ローター故のフロントヘビーのお陰で足回りのアライメント狂ってますよね。さっきから交差点の右左折だけでなんとなく挙動が違いますし。」
「ほう……」
「それにごくわずかですけど、5000回転辺りで少し息継ぎしますね。気のせいかもしれませんが。」
「ふん……」
「あと、排気が少し干渉してるのかわかりませんけど、2500回転から4000回転辺りまでマフラーからの異音がします。だいたい3500前後が一番頻繁です。しかも……」
「だああッ!! わかった。お前さんが割りとよくわかる奴だってのはよくわかった。」
「でも、これあんまり気にはなりませんけどね。」
「足回りのアライメントはお前さんらが来る前にわざと狂わせておいた。それがわかんねぇとクルマの声が聞こえないってことだからな。」
「クルマの声……ですか。」
「お前さん、どこまでやるつもりだ?」
それが真紀のFCのことであることに気づいた貴章は、今の状況を細かく説明する。RX-8ベースで3ローターエンジンを組むこと、すでにローターなどのパーツは揃っていること、あとはエキセントリックシャフトだけだということ……そして、あと2週間も期間がないということ。
すると、このRX-8のオーナーは少し唸るように考え込んでから、ニタリと笑みを浮かべた。
「お前さん、仕事は?」
「しがないメカニックです。自分のガレージなのでいつでも大丈夫ですけど。」
「じゃあ今週いっぱいは俺の工場に泊まり込みだ。俺も手伝ってやる。」
「ええっ!! 」
「FCを組むのを手伝ってやるって言ってるんだよ。意味がわからねぇか。」
やや高圧的に話してくる。しかし、プライベターとしてはここまでロータリーを熟知した存在はありがたいの一言だ。しかし、元木明彦と制作するということが頭をよぎり、それを伝えると先方には話をつけてあるとか言う。
「アイツに言われてな。ったく、コキ使われんのは散々だってのに。」
「すごい方なんですか?」
「すごいもなにも、そいつはあんまりにも速かったものだから、当時首都高ではこう呼ばれたんだからな。……『
「なんか、すごい二つ名ですね……。」
「まあ、一応SA22Cからロータリーいじってきた意地ってもんはあるからな。手加減はしねぇぜ。」
まさに、かつての隠れた魔のロータリーチューナー
《東京世田谷区 食事処『紅』》
「ゴメンね、明彦クン。急に向こうに行かないといけなくなっちゃって。」
「いえ、レイコさんは気になさらないでください。僕もいろいろ勉強になりそうですし。」
どことなくレトロな雰囲気な定食屋で話すのは空冷ポルシェチューナーの元木明彦と、この店のオーナーで赤いシボレー コルベットC3を走らせる篠田レイコ。どこか不敵なニヤケ顔で、ポソリと呟いた言葉は、明彦に聞こえることはなかった。
「さあ、これで復活ネ。
感想などお待ちしてます。お気軽に一言だけでもいいですよ~。