それとごめんなさい。結構短めです……。だいぶ期間空いてたのに……。
Ep.00に真紀Z4のイメージ上げて見ました。よければ参考までに。
Ep.22
《千葉県船橋市 セカンドガレージ》
「激ッ速のランエボ、ですか?」
これまで特に工場の名称を表に出さなかった貴章。あの一件から新たに『セカンドガレージ』を名乗ることにしたとたん、やたらと客足が延びるようになった。
しかし、もったいないかな貴章はほとんどの依頼を蹴っ飛ばしている。今でも定期的に入庫しているのは隆介の34Z、真紀のZ4、そして彼のインプレッサ位だ。あえて言うなれば時々顔を覗かせるC3コルベットを乗り回すレイコと前回のFCの一件で知り合ったRX-8乗りの片桐、新田両氏がいいところだ。
いつぞやのプリウスの製作元が貴章だという情報が知らぬ間に広まっているお陰でてんてこまい。自分のクルマを触る時間がないとぼやき節を炸裂させている。
「そう。なんだかここのところよく出てくるみたいなのヨ。なんでも環状辺りはすごく速いんですって。前々からそれなりには見かけた人も多いみたいだけど、最近はほぼ毎晩出てるらしいワ。」
さすが首都高ランナーの胃袋を満たす『食事処《紅》』の経営者レイコ。彼女の情報網は半端じゃない。
「インプ乗りの貴章クンなら、これは放ってはおけないでしょ?」
「……いや別に……。」
貴章の思わぬ呑気な発言に呆気にとられるレイコ。ランエボ乗りはインプ乗りを目の敵にすることはよくあるし、それは逆も然り。ラリーという同じフィールドでしのぎを削ってきた者同士、いい意味でも悪い意味でも反りが合わない事が多いのだが。
「インプレッサ乗ってる僕が言うのもなんですけど、ランサーは速いですよ。水平対抗エンジンが低重心で運動性能がいいなんてよく言いますけど、トルクは細いわ燃費悪いわでランサーの直4の方が明らかにいいです。それに、低重心だって言っても向こうにはAYCなんかの駆動アシストデバイスで帳消し。んでもって唯一とも言える電子制御のDCCDはランエボはACDっていう全自動モデル。」
「だってこんなこと言えばランエボに悪いかもしれないけど、電子制御を駆使するランエボに対して、インプレッサは素で勝負するクルマでしょ? 」
「いやまあ、それはそうなんですけど……。」
貴章がランエボと張り合いたくない理由はただひとつ。速すぎるからだ。
どのクルマにだって長所があれば短所もある。例えば国産最強を謳ったスカイラインGT-Rだってフロントヘビー故のバランスの悪さやタイヤへの負担が異常に大きい。コーナリングマシンの代名詞RX-7だって燃費は悪いしパワー上げればブロー覚悟、それにピーキー。RB26に次ぐ最強エンジンJZ系を持つソアラやスープラだってGT-R程ではないにしろ重い、そしてなぜかトヨタブランドってだけで少々お高い。あの自然吸気エンジンを語る上では欠かせないホンダのV-TECでさえシビックやインテグラなど基本的に前輪駆動で、後輪駆動は当時から高額だったNSXとピーキーさではRX-7と変わらないオープンのS2000位だ。
それに対してランエボはと言うと、セダンボディの横置きFFベース4WDという字面ではなんともモッサイ感じが否めないが、中身は正真正銘のモンスター。かつてのWRCを圧巻した1990年代末期、上位クラスのグループA規定においてドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズタイトルのダブルタイトル、そして下位クラスのグループN規定でのチャンピオンなど、名実共に世界最強のラリーマシンだ。
電子制御のよさ、軽量ボディ、そして大出力にも耐えうる名機、直列4気筒ターボ4G63。カタログモデルではなかったにせよ、メーカーが手を入れたマシンだけに完成度は高い。何もインプレッサがダメだという訳ではないが、「技術一辺倒」を掲げるランエボに抗うのは厳しかった。
「まあ、会ったら会った時ですよ。……会いたくはないですけど。」
貴章はどこか遠いところを見るような目で呟いた。
《同日夜 首都高速 大黒PA》
「やっぱりダメだよな……。」
インプレッサの助手席に置いたパソコンとにらめっこする貴章。ここまで追い込んでエンジンを触るのは久しぶりだった。
「よう、元気そうだな。」
ふと声をかけられたので、そちらの方を見上げる貴章。そこにはガンメタの初期型のホンダ S2000 AP1の横に、細目の中年オヤジがニンマリと笑みを浮かべて立っていた。
「あ、富永サン。お久しぶりです。」
「今日はインプレッサなんだな。」
「むしろこっちが本体ですよ。……うまくはいってないですけどね。」
「……?」
今の状況を事細かに説明する貴章。それはインプレッサの宿命たる弱点を突いていた。
「あのプリウスにしかり真紀のZ4やFC、それにレイコさんのC3やブラックバードと走ってみてつくづく思ったんです。もっとインプにパワーを、って。」
「なんだよそんなことか。お前もクルマで食ってるんだからそれくらいの知識はあるだろ。」
「確かに今のネット環境が整いに整った状況ならものの5分で情報が山ほど手に入りますよね。……けど、それって本当かどうかはわからないじゃないですか。」
「……」
「僕が前に乗っていたGC型インプレッサ、アイツはほとんど人からの情報で仕上げたんです。でもそれっきりだった。それが本当にあのクルマに必要だったのか、そうじゃなかったのかさえわかんなかったんです。足回りにはこだわっても、パワーユニットはおざなりだったんですよ。」
「……」
そして、自身のクルマのステアリングをポンポンと叩いて静かに言葉を紡ぐ。
「だから、僕は
「ほう……」
「すみません。なんかカッコつけちゃって……。」
すると富永は笑みを崩さずにかぶりを振る。
「それがお前の本心ナンだろ?いいじゃないか。……聞こうとしない奴、見ようとしない奴、やろうとしない奴、そりゃわかりっこないよな。……わかろうとしない奴はゴマンといるしわかろうとするヤツだっている、ただそれだけだ。」
「富永サン……。」
「で、今は何に頭抱えてるんだヨ?」
ちゃっかりと助手席に乗り込んで来る富永。流石セッティングのプロ、パソコンの画面を一通り見るだけで現状を理解したようだ。
「……トルクはいいがレブリミット8000回転なのにピークパワーは6400回転で発生、そこからストンと落ちるのか……。これじゃあ高速エリアはキツいだろ。」
「そーなんですよ。ギア比もちょっと合わないというか、伸びないんですよね。」
「せめて7000回転よりは上で欲しいな。まあトルクはしっかり出てるから問題ないがな。」
富永はそこからしばらく貴章の取ったデータを物色する。キーボードを叩くパチパチという音がインプレッサの車内に響く。
「……まあ、これでしばらくデータとってみなよ。わからない事があったらいつでも相談しな。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「あそうだ、話は変わるがお前最近とてつもなく速いランエボの話を知っているか?」
「あ、まあ一応は。」
今朝レイコから聞いたところだ。何でも環状線特化型の激速ランサーがいるという話だ。
「太田サンとこのRGOのFDがC1でチギられたんだとよ。」
「C1でFDよりも速いランエボ……。」
「しかも湾岸でも速いんだと。立ち上りは別にして、GT-Rもカモられるみたいだな。」
「うわぁ……えげつないですね。エボいくつなんですか?」
「Ⅴと一番最後のランエボだよ。アレって幾つなの?」
「ああ、Ⅹですね。ランエボⅩ。……って、2台いるんですか。」
2007年から生産が始まったCZ4A ランサー エボリューションⅩ。初代ランエボから代々受け継がれてきた名機4G63を搭載せず、新規開発の排気量2.0Lの直列4気筒ターボ4B11を搭載。そして6速DCTのツインクラッチSSTを新採用。ランエボシリーズ最初で最後のカタログモデルとなった。WRCに出ることはなかったが、S耐や全日本ラリーなど数々のステージで活躍しているマシンだ。
そしてランエボ史上最強のラリーカーと言っても過言ではない5代目CP9A ランサー エボリューションⅤ。1998年にWRC完全制覇を成し遂げた車両だ。こちらは2.0L直4の名機4G63を搭載。3ナンバーサイズに拡大したボディはそれでも小型な部類だ。鍛え上げられたサスペンションは街乗りには不向きなほど固く、いかにも競技用マシンだと言わんばかり。事実全日本ラリーでは後発のエボⅥよりもエボⅤの方が成績が良かったために、競技グレードのRSにはエボⅤと同じサスペンションセッティングが施された程だ。
「レイコさんから聞いた感じだと1台だと思ったんですけど。」
「最初はそうだったヨ。だけどいつの間にかもう1台増えて2台で編隊組んで走ってるんだと。……インプ乗りとしては気になるか?」
「いやぁ、実はあんまり……。エボはエボ、インプはインプですから。」
「でもラリーじゃあいい勝負してたんだろ?」
「それは否定しませんけど……。でもスバルが目立って速い時にはランサーは改造範囲の狭いグループA規定でマシン作ってましたから。」
貴章にとって、確かにインプレッサとランエボは互いにいいポジショニングをしていると思ってはいる。だが
2000年代に入ると、それまでのモータースポーツの大黒柱グループA規定が衰退し、新規定としてWRカー規定が採用された。当時のシトロエンやプジョー、そしてスバルはそちらに則ってクルマを組み上げた。あの400台限定の名車インプレッサ22B STi はグループAからWRカー規定に変わった頃のラリーカーがモデルだ。
対して三菱はグループA規定のままマシンを製作。しかしその改造範囲の狭さ所以に一時の速さはなりを潜め、しまいにはスバル等の他メーカー公認の下で、特認として本来禁止されているはずの部分まで改造を加えたという過去がある。そんな試行錯誤をもってしてもフランス勢、そしてスバルに抗うことは難しくなり、経営悪化等も絡んで、ワークスとしては第2世代のエボⅥでトップカテゴリーから撤退した。
もしもランサーがWRカー規定で組み上げられたとしたら、インプレッサは敵わないのではないか。貴章はそう思っている。インプレッサの最大の売りである水平対抗エンジンは低重心であることは事実だが、横置き直4とは違いボンネット内部での配置の自由度が少ない。重たいエンジンを車両中央部に寄せにくいのだ。そこがスバルがWRCから撤退した理由『勝てない』ことの原因のひとつとも言われている。
「でも気を付けろよ。ちょっとラフな運転するらしいからな。」
「ラフ……ですか。」
貴章は漠然とそのランサーの走りを想像する。まあとりあえず気にはしておいた方が良さそうだということだろうと割り切って、貴章はインプレッサを動かし始める。再びデータ取りだ。
《首都高速 都心環状線 外回り 芝公園ランプ付近》
「今日はこのくらいで帰ろうか……。」
あれから約2時間、ひたすらC1を走り通してサンプルデータを回収。そこそこの量を拾えたことは収穫だが、とてつもない疲労感が貴章を襲う。
「やべぇ……寝る……。帰る……。」
たとえ今真紀や隆介のいつものメンツはもとより、レイコや片桐、はたまたCRS工藤といった大物と出くわしても即行帰路に就く自信がある。このままC1を走ったとしたら事故だって起こしかねない。
そんな言い訳じみたことを考えていると、バックミラーにひとつの機影が写り込む。決して低いとは言えない位置にあるヘッドライトは煌々とインプレッサの車内を照らす。V8エンジン等のように重厚感溢れるエキゾーストではなく、むしろ軽やかというかどこかインプレッサのエンジンと似た少し高め―――とは言っても片桐のペリフェラル加工ロータリー程ではないが―――のサウンドが深夜の都心に響く。
「今日は走る気じゃないよな……。」
ウインカーを出して進路を譲る。そして後ろに陣取っていたクルマが前に出る。
「ランサー……エボⅩか。……コイツが片割れか?」
漆黒のボディは恐らく純正のファントムブラックパール。しかし後付けなのだろうちょっとしたサイドスカートやリアのバンパー端にはオレンジのラインをアクセントとして纏う。
そして一瞬、貴章のインプにペースを合わせたと思うと凄まじい勢いでかっ飛んでいく。とんでもないトラクション性能だ。バンピーにC1の路面をもろともせず暗闇を切り裂いていく。
先行する一般車の脇をすり抜けるように、はたまた今度は無理やりイン側をベタベタで走ったり。公道の走行ラインはサーキットの常識が通用しないことかあるということを理解はしているようだが、
「ちょっと強引過ぎるだろ……。
よく言えばアグレッシブ、ただ悪く言えば命知らず。貴章はどこか危うげなそのランエボⅩの後ろ姿を見送り、江戸橋JCTから7号小松川線方面へ抜けていく。東の空がほんのり赤くなり始めていた。
ゲームじゃあS2000は後期型AP2のTypeSだったらしいですけど、ここは原作通り初期型でいかせてもらいます。
感想、クルマ談義なんかでも、お気軽にどうぞ~。^^)/