首都高に流る鮮青6連星   作:susu-GT

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こんばんはー。

暖冬とは言いますけど、寒いものは寒い。

皆さん風邪ひかないようにしてくださいね。


Ep.24 Declaration (宣戦布告)

 

 

《首都高速 都心環状線 内回り 芝公園ランプ付近》

 

 

「離れない……なんで?」

 

 

率直な疑問が浮かんだ。これまでここ都心環状線(C1)でオーバーテイクしたクルマは軒並み失速してついてくるのをやめた。なのに後ろから聞こえてくるボクサーサウンドは消えるどころか大きくなりさえしている気がする。

 

 

「なんでなの!? ……何なの、コイツ!?」

 

 

ほとんどベストな状態で走れている。事実さっきの千代田トンネル入口のオーバーテイクはこれまでとは比べ物にならない位鮮やかに決まった。まさに会心の一撃。乗れていない訳がないのだ。

 

電子制御は人によって好き嫌いがハッキリと別れるが、事実としてはよほどのことがない限り、電子制御の恩恵は非常に大きい。なんだかんだ言ったって人間が運転中に制御できることなんてたかが知れている。それをアシストするツールのひとつとして捉えれば、ある程度の電子制御の介入はプラスと言える。それが今のようにデジタルモンスターランエボⅩ、それと比べると相対的にアナログマシンとも言えるインプレッサ、この2車なら余計にその差はハッキリと見えるはず。

 

 

 

「……いいよ。湾岸に出たら一気に突き放してやる。」

 

 

 

ブースト圧1.2kgfでタレなし。油温、水温共に適正範囲。失速感なしと、コンディションはほぼパーフェクト。このまま湾岸線に出ても特にオーバーヒートなんかの問題は起こりにくいと判断。首都高エリアの中ではどちらかと言うとランエボやインプレッサなどの小排気量ターボ車が苦手な部類の超高速エリア、気の遠くなりそうな長いストレートが待つ湾岸線に向かうべく、浜崎橋JCTを直進、その先の芝浦JCTから11号台場線に入る。

 

11号台場線、レインボーブリッジを経由して環状線、羽田線と湾岸線をつなぐ。平日の深夜とは言え、決して交通量は少ない訳ではない。大型トラックがひしめく中、黒いランエボⅩはヘッドライトをハイビームにして走っていた。

 

 

 

「ああもう、邪魔だよッ!!」

 

 

 

フラストレーションが溜まるに連れてパッシングの回数がさらに増える。

 

レインボーブリッジに入る手前で左車線にいたトラックが右側車線に移る。それを待っていたかのようにエボⅩはフルスロットルをくれる。エボのフロントバンパーとトラックのリアバンパーが擦れそうな程接近し、一応はクリアする。

 

レインボーブリッジを渡ってすぐの台場ICの左コーナー。右側車線にトラック数台。左車線はクリア状態。迷わずランエボは左コーナーに突っ込んでいく。対して後続のインプレッサは少し車間距離を開けて追走している。この先は長い高速の右コーナーだ。

 

 

「何なの、ついてくると思えば中途半端に距離を開けて……。」

 

 

バックミラーに写る青い機影を睨み付けるランエボのドライバー。集中力を切らし始めていたその時、トラックの目の前から不意に左車線に出てきた1台の乗用車の存在に気付くのが遅れる。

 

 

「……!! 」

 

 

左足でフルブレーキング。4輪がけたたましいスキール音を上げる。リアを流してラインを変更。カウンターを当てつつなんとか乗用車を回避。しかし、4輪のグリップをまるっきり失っているランエボは横を向いたまま滑り続ける。

 

そして、次第に路面をつかみ始めたフロントタイヤを駆動させるべくスロットルを踏み込む右足に力を入れ始めたその時だった。

 

目の前を横切る青い影。いや、それは影なんかではなく、実体のあるクルマ。体勢を立て直したランエボの前に見えたのは他でもない、さっきC1で拝み続けていた後ろ姿だった。

 

 

 

「危ないでしょ……。普通そんなとこで来る!?」

 

 

 

しかし、こうして1度抜いた相手に再び抜き返されるというのはランエボのドライバーには首都高では初めての経験だった。そのショックの大きさはこの上ない。ある種の放心状態に陥っていると、目の前を走るインプレッサがスピードを落としてハザードを点滅させる。「ついてこい」のニュアンスだ。

 

 

「何さ……ついてこいっていうの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《首都高速 湾岸線 西向き 大井PA》

 

 

決して広いとは言えない大井PA。しかし3ナンバーとはいえ意外と小さいクルマ2台を停めるだけのスペースなら十分にある。これが連休や繁忙期、学校の長期休暇期間ならまず入る前に湾岸線の渋滞にはまって動けなくなるパターンだ。

 

減速してハザードを出したとたんまた抜かれるのではないかと不安に思っていた節もあった貴章だが、そこは大丈夫だったようで、今隣に漆黒のエボⅩが並んで停まっている。

 

端から見れば厳密には違うもののほぼ同時期に作られたランエボⅩとGDB-F型インプレッサ、この2台が並べば仲のいい走り屋仲間だと思うか火花バッチバチのライバルと見るかの2択だろう。ただ今回ばかりはそのどちらでもない。

 

隣のランエボがエンジンを停めたのを確認した貴章はインプレッサから降りる。別に脅そうとかそういう訳じゃない。ただちょっと無神経な走りをするこのランエボのドライバーがどんなヤツなのか気になった、というのが正直なところだ。

 

それを見たのか、ランエボからドライバーが降りてくる。その容姿に貴章はただ驚くばかりだった。

 

眉の上と肩のラインでスパッと一直線にカットされた髪は今時珍しい青味がかかる程の黒。同じように墨色の眉はキリッと太く、その下のやや勝ち気そうな瞳と相まってどこか少年のような男の子めいた(・・・・・・)雰囲気を纏っている。髪型は別にしてどこか真紀を彷彿とさせる印象だ。

 

 

 

「お、女ァ!?」

 

「……女がランエボなんか乗ってちゃいけないの?」

 

「あ、いや、そうじゃなくて……何て言うか……。」

 

 

 

あまりの衝撃にしどろもどろになる貴章。あんなアグレッシブなドライブをするほどだ。それが女だと思いもよらなかった。どこか悔しさをにじませるランエボのドライバーは少々ムッとした表情で言葉を続けた。

 

 

 

「よく言われるわよ。こんなクルマ乗らないでミニとか乗りなよって。」

 

「いやだから俺はそんなこと言うつもりねぇし。」

 

 

 

貴章にとって女性湾岸ランナーは決して縁遠い存在ではない。事実男気溢れるハイチューンドZ4を駆る真紀や大ベテランC3コルベット乗りの篠田レイコがいる。あれからあまり顔を合わせていないが、「Rのヴィーナス」こと32Rの秋川レイナやCRSの看板娘とでも言おうか免許取りたてながらもFD3S型RX-7を操る工藤リカ。彼女たちも含めると少なくとも4人いる。だから今さらまだ女性ランナーがいると言われても別になんとも思わない。

 

だが、その中でも特にイケイケな走り方をする真紀にも劣らぬアグレッシブさを見せられたら女性ドライバーだとは普通思わない。しかも乗っているのがそれなりにノーマルの雰囲気を色濃く残しているとは言え元から少々ハデなランエボときた。なおさらそうだろう。

 

 

「それにしても……」

 

 

さっきまでのムッとした雰囲気はある程度解きつつも、どこか納得いかないようなトーンで話し始める。

 

 

 

「アンタはよくついてきたわよね。」

 

「へ?……アア、C1でか。」

 

「これまでFDでもついてこなかったのに、まさかインプレッサに追いかけ回されるとは思わなかったわよ。」

 

「……まあウデはスゴいよ。荒れまくった環状線をアレだけ跳ばしてくもんだし、そこそこパワーのあるランエボをあそこまで器用に振り回してるところを見れば並みの実力じゃないってことはわかるよ。けどちょっと危ないぜ。」

 

「……?」

 

 

 

なんのことやらという表情。走りに関してはほぼ一級品だが、それが首都高での走りになるとまた話は別なのだから。

 

 

 

「お前が俺を抜いた千代田トンネル入り口の左コーナー。なんであそこを勝負ポイントにしたんだ?」

 

「なんでって……その前からイン側を開けたりしてたから、隙見てズパーンと……」

 

「それが首都高では命取りなんだよ。」

 

 

 

まだ続きそうだったエボⅩのドライバーの言葉を遮った貴章。これはどんなにクルマのセッティングがキマっていようがいまいが関係ない事だからだ。

 

 

 

「内回りの千代田トンネル入り口は下りの左ブラインドコーナー。ミラーも付いてない。一般車でさえあそこは減速するし、あの先で流れが悪くなってることだって普通にある。今回はたまたま誰もいなかったが、あのままサイドバイサイドで突っ込んで行ったらいつか一般車にカマ掘って事故る。」

 

「……」

 

「それに、アンタの走り方はサーキットとかクローズされた特設コースなら間違いなく速い。けど首都高(ココ)は公道だ。一番速いラインが一番安全かと言われればそうじゃない。しかも異常なのは俺たちの方だ。煽るなんてもっての他だろ。」

 

「……」

 

 

 

今回は環状線(C1)だけで話は済んだが、これが湾岸線にまで延びていればよりはっきりする。一般車を縫うように200km/h級の三車線スラロームを繰り返す。サーキットなどでタイムを測れば意外といい数値は出せない。サーキットなどのクローズドコースでの正解は公道の正解とは限らないのだから。

 

 

 

「……でも、アンタもそうでしょ。あんな危ない抜き方してさ。」

 

 

 

それはたぶんさっきのレイブリ線でのオーバーテイクのことだろう。そう判断した貴章はそれまでのランエボの無謀な運転をそっくりそのままやり返しただけだと言い切る。

 

 

 

「何もFDなんかは追いかけられなかったんじゃない。危険だから退いただけ(・・・・・)なんだよ。俺と一緒に走ってた白のZ4もな。俺だって普段ならあんな抜き方はしないし、ついていこうなんて思わない。」

 

「……」

 

「でも……アンタのエボⅩ、かなりイイ仕上がりだよな。」

 

「なにそれ……機嫌取ろうっていうの?それとも皮肉?」

 

 

 

アレだけ走り方に小言を言われたあとにいきなり愛車を誉められて少々複雑な表情を浮かべる。それが本心なのか、それとも照れ隠しなのかどうかはわからないが、その質問に貴章は苦笑いを交えて答える他なかった。

 

 

 

「本心だよ。あいにく、俺は皮肉なんてポンポン言えるほど器用じゃないんだ。」

 

「ふーん。」

 

「あのまま湾岸線に入ってちゃあ、ちょっと分が悪かったと思ってる。C1でもバンプに乗り上げてもピッチングの収まりは良さそうだったし。」

 

「色々手を入れてるからネ。お父さんにも教えてもらいながらだけど。」

 

「お父さん!?……じゃあ、さっきのエボⅤって……。」

 

 

 

それを首肯するように首を縦に振る。彼女曰く、根っからの三菱車好きで、今のエボⅤの前にはスタリオン、それも最上位グレードともいえるブリスターフェンダー仕様の2600GSR-VRに乗っていた過去をもち、今ではあの三菱の名車ながらも後発のランサーにイメージリーダーの座を明け渡したという悲運のマシン、スタリオンの後継機にあたるZ15型GTOとさっき真紀のZ4と共に置いてけぼりにしてしまったランエボⅤの2台持ちなんだとか。

 

 

 

「首都高走るなら、GTOの方が良かったんじゃないのか?親父さんがエボⅤ乗ってるならなおさらさ。」

 

「だって、アレ(GTO)はお父さんのクルマなんだから。アタシはアタシのクルマで走るわよ。……GTOにしとけば良かったって思ったことは何度もあるけど……。」

 

 

 

自分の愛車で走りたい、それは多くの走り屋に共通する意見だ。

 

 

 

「でも、アタシはランエボを選んで良かったと思う。走りやすいから。……でも走り方がマズかったなら、そこはまた走り込むわ。」

 

「別にそこまで走り込まなくても……。誰かの走りを真似するのでもいい。けど、そこからどうするかだろ。俺が見た感じ、走りの土台はできてる。後は首都高(ココ)独特のリズムというか、波長みたいなものを掴んでいけばいい。」

 

「ご親切にどうも。……けど、これだけは言わせてもらうわ。」

 

 

 

さっきまでの悔しさを含んだ表情は消え、代わりに鋭い目線を投げ掛けてくる。そこには憎しみなんてものは存在しないが、ある種の決意らしきものが見てとれた。

 

 

 

「別にアンタのクルマにケチつけるつもりはないわ。だけど、ランエボ乗りとしてはそのエンブレム(6連星)にだけは負けたくない。」

 

「で、だからなんだよ。」

 

「……次会った時は、アタシのランエボが前を走り続ける。環状線だって、湾岸線だって。」

 

 

 

それはまさに『次会ったら()とす』という宣戦布告。貴章はこうやって面と向かってキッパリ言われたことはない。しかし、不快には思わなかった。

 

返事をしようと口を開きかけたその時、エボⅩのドライバーが目を丸くしているのに気づいた貴章。何かあったかと不思議に思ったのもつかの間、何かが覆い被さってくる。けっこうズシリとした重み。同時に何かに被われたのか視野が真っ暗になった。

 

そして、ちょうど貴章の真後ろ―――というより耳の真横―――から、あまりにも聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

 

「タカめーっけ!! 確保ォッ!!」

 

「ちょっ……ナッ……オワワワッ!! 」

 

 

 

視界を奪われた上にいきなり寄りかかられたような状況。危うくバランスを崩しかけたところでなんとか足を踏ん張る。

 

中腰に似た状態でなんとかバランスをとると、目を覆っていた何かが離れていく。回復した視界の両脇に飛び込んできたのは、白く少し細い指。できる限り後ろを振り返ってみると、青いインプレッサの手前に停められた純白の機体。ロングノーズ・ショートデッキの優雅なスタイルのそれは、今朝貴章がメンテナンスしていたクルマそのもの。そしてさっき声が聞こえた方をチラリと見上げると、よく知った奴の満面の笑みがそこにあった。

 

 

 

「凄い勢いでカッ飛んでいくんだもん。見失っちゃった。」

 

「……だからってココまでする事ないだろ、真紀。」

 

 

 

何が『確保ォッ』だよと毒づきながら上に乗っかっている人物を降ろそうとするがこれまたなかなか離れない。さっきまで一緒に走っていたZ4のドライバー真紀。ハンドルを握ると人が変わったようにアグレッシブさを見せるが、時々こうやって突拍子もないことを仕掛けてくることもある。というか、そもそも貴章を「タカ」呼びするのは真紀しかいない。

 

 

 

「だって、こうでもしなきゃタカ、バトルしそうだったんだもん。タービン付け替えたばっかりなんでしょ?」

 

「俺はそこまでガキじゃないって。次会ったらケリつけるって話をしてただけだから。」

 

 

 

ふとエボⅩの女ドライバーの方をチラ見すると、呆気にとられているのか、文字通り目が点になっている。

 

 

 

「……え、えと、仲イイんだね。」

 

「いや、別に変な関係じゃないからな。ただの連れだよ。」

 

「……それにしてはずいぶんと距離感近いのね。」

 

 

 

そんな呟きをヨソに、やれ離れろだのやれ早く帰ろうだの賑やかに騒いでいる。本当に単なる連れかと疑いたくなるが、本人がそう言っているのだからソコは気にしないように努めようと決めたエボⅩのドライバー。ややドスを効かせたような声音でピシャリと言い放った。

 

 

 

「そーゆー事だから、次会うときは覚悟しといてよ。アンタのインプレッサの前をアタシのランエボが走るから。」

 

「……望むところだ。こっちもいつでも迎撃できるように準備しとくよ。」

 

「……吉川沙織(さおり)。アンタは?」

 

「新庄貴章。」

 

 

 

まるで戦国武将が斬り合いをする前のようなピリピリと張り詰めた空気が漂う。貴章の名前だけ聞くと、貴章と真紀の横をすり抜けて、インプレッサのひとつ向こうに停められた漆黒のエボⅩに乗り込む。途端、エンジンスタート。若干気まずい重たい空気が、軽やかなエキゾーストノートでかき消されていく。

 

ハザードを三度点滅させてから大井PAを後にするエボⅩ。その後ろ姿を見送りながら、貴章は吉川に通じはしないがそのランエボのテールを鋭い目つきで追いつつ、心の中で念じた。

 

 

 

『悪いけど、俺だって負けるつもりは更々ないぜ。やるからにはとことんまで追い込むからな。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





三菱 スタリオン 2600GSR-VRは国内では結構多かったみたいですね。

そういえばスタリオンって国内じゃあほとんど見ないなと思って調べてみたら、全生産台数11万台のうち国内市場にはその10%強の1万3000台程しかないらしいです。
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