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本線に合流すると、隆介はZ34のアクセルをベタ踏みした。4WDでターボエンジンの貴章のインプレッサは、低速域からの立ちあがりはかなり速い部類に入るが、隆介のZ34はそれを上回る加速をする。
彼のZ34に搭載される3.5Lのエンジンは、日産のモータースポーツ部門であるニスモが少し手を入れた状態で、フェアレディZ NISMOの専用エンジンとして搭載されているが、隆介はそのエンジンを3.8Lにボアアップし、今回はスーパーチャージャーを装着したと言う。
このエリアでノンターボのクルマが本気で走ることは、今となっては別に不思議ではない。しかし、それはノーマルの状態でもバランスのとれた、海外メーカーのスーパーカーの話だ。
国産車の場合、やはりメジャーなのはターボ化だ。排ガスの排圧を利用してタービンを回し、それと連結した吸気側のタービンを回すことで、強制的に大量の空気を吸い込ませる。ノーマル状態でターボが付いている場合、タービンの大径化や、ブースト圧上昇により、更なるパワーを得るのが目的だ。
ただし、排ガスを利用するターボチャージャーは、低回転域の低負荷領域では排ガスの絶対量が少なく、タービンがしっかり回り出すまでに多少のタイムラグ、いわゆる“ターボラグ”が生じる。しかし、エンジンの回転数を上げれば上げるほどブーストがかかるというのが、ターボのメリットだ。首都高エリアでは、最高速エリアと言われる湾岸線やみなとみらい線などでその真価を発揮する。
対して、隆介のZ34に搭載されたスーパーチャージャーは、機械的に過給圧を得る。エンジンの動力を伝えるクランクシャフトに接続し、それの回転数に合わせて過給圧が上昇していくのが、ターボチャージャーとの違いだ。ダイレクトなパワー感は、大排気量エンジンに換装したようなフィーリングを与える。
しかし、それは低回転から中回転での話で、高回転域では、むしろハイパワーの妨げになってしまう。構造の違いによって、ターボとは異なり機械面の負担が大きい過給器だと言える。首都高エリアでは、どちらかと言えば加減速の多めの都心環状線なんかが向いているが、そもそも高回転域を多用する首都高でスーパーチャージャーはものすごくマイナーといえる。
「……何がスーパーチャージャーは最高速に不向きだ。めちゃめちゃ速いじゃん。このインプレッサよりもかなりパワー出てるだろ。」
その走りは、本当にスーパーチャージャー搭載車かと疑うほどのものだった。純正の180km/hまでのスピードメーターはとっくに振りきっているが、それでも立ち上りの差はなかなか縮まらない。
4速8500rpm、この手の2.0Lの水平対抗エンジンにしてはかなりの高回転型ユニットに仕上げているが、パワーバンドからは少し外れていて、レブリミッドに設定している9000rpmまで少しずつ速度の乗りが落ち込む。
5速。今度はパワーバンドドンピシャの6700rpm。さっきまで伸び悩んでいたスピードは、再び勢いよく上がり出す。5速7000rpm、7500、8000、8500……9000rpmで一気に270km/hまで持っていく。回りの一般車が止まって見える。
そして、トップギヤの6速。タコメーターの針が一度7000rpmまで落ち込み、そこからまたゆっくり時計回りに動き出す。ファイナルギヤの設定で、6速8500rpmで300km/h出るようにしてある。7500rpmで280km/h……8000rpmで290km/h …………8200rpmで295km/h。次第に隆介のZ34との距離が縮まっていく。
6速8500rpm、300km/h。大台とされる300km/hに達したインプレッサは、心臓のEJ20エンジンの特性上、これから先の回転数では速度は上がらない。限界までまわるエンジンが、甲高いエキゾーストノートを奏でる。
大井まで来たところで、やっと隆介のZ34に追い付いた。これから先の環状線では、このインプレッサの方に分がある。
クルマに取り付けてある無線機が、隆介からの着信で震える。貴章たちは古風ではあるが、それぞれのクルマに取り付けた無線機で通信できるようにしてある。
「(ガー)……ちょっと、貴章さんこんなとこで追い付くなんて速すぎますよ。環状で追いつかれると思ってたのに……」
「お前、ホントにスーパーチャージャー着けたのか? 全然追いつかなかったぞ。」
「(ガー)……着けてますよ!! 300km/h出ませんでしたけど。」
「ほんとかよ? …………」
「…………どうかしましたか? 」
貴章は、隆介への返事を返さなかった。バックミラーに、チカリと光るものが写ったからだ。このエリアでそんなことが起こるのは、ハイビームで走るクルマが接近しているとき、つまり首都高ランナーが追い付いているときだ。
「1台来たな。」
「……その感じだと、真紀さんでも健一郎さんでもなさそうですね。」
「ああ、かなり速いぜ。車種はなんだ? 」
サイドミラーの覗くが、相手のクルマの姿はなかった。代わりといっていなんだが、ハイビームの光で、インプレッサの車内が明るくなった。しっかり真後ろに張り付かれている。
「隆介、環状は少し飛ばすぜ。」
「わかりました。前に行ってください。僕は後ろから追いかけますんで。」
そう無線で伝えると、隆介はウインカーを出して、貴章に進路を譲った。目の前が開けた瞬間、貴章は右足に力を込めた。後ろのマシンも、しっかり付いてきている。
相手の後ろのポジションについた隆介から無線が入る。
「(ゴァァァ〰️)貴章さん、GT-Rです。R35 GT-Rです。(ガァァァ〰️ゴァァァ〰️)……たぶん2008年頃の初期車ですけど、ノーマルのマフラーの形状と違いますし、GTウイングにロールゲージを着けてる辺り、結構本気で走ってる人ですかね。」
さすが、フェアレディZに乗るだけあって、日産車には詳しい隆介だ。彼の言う通りの初期車だったとしたら、このインプレッサと結構近い時期にできたクルマだ。なおさら引く気にはならない。
C1外回りに入るが、このインプレッサの得意中の得意であるこのインフィールドの環状線で、35GT-Rに煽られたことは散々ある貴章だが、このGT-Rはピタリとくっついてくる。1回前に出させてから追い抜いてぶっちぎるスタイルで、いつもは追いかける立場の貴章にとっては今回はちょっと特殊な状況だった。
「付いてくるかよ…………霞ヶ関S字でどれだけ離れるかな…………」
貴章は、勢いよく霞ヶ関S字に突っ込んでいった。強力なダウンフォースを発生するエアロと、太い扁平タイヤのお陰でコーナーの速さには自信がある貴章のインプレッサは、ほぼベストのラインをトレースしていく。
しかし、後ろの35GT-Rもまた、ぴったりと貴章の走ったラインをなぞってくる。そして、S字の立ち上がり、いかんともしがたいエンジンの差が明らかになった。
アウト・イン・アウトのラインで走る貴章よりも、立ち上がりでタイトなラインを描きながらも、あっという間にインプレッサの横に並んだGT-Rは、鮮やかに貴章の前に出た。
「くっそー、あのコーナーでも歯が立たなかったか……。」
すると、前に出た35GT-Rは、速度を落としてウインカーを出した。
「なんだよ、ついてこいってか? 」
そのまま速度を落とし続けるGT-Rに続いて、貴章はインプレッサを走らせた。その先の代官町ランプで降りるつもりなのだろう。貴章はすっかり姿が見えなくなった隆介に無線を入れた。
「隆介、代官町で降りる。あのGT-Rと一緒だ。」
「わかりました。」
貴章の予想通り、35GT-Rは代官町ランプで首都高から降りるようだ。GT-Rの後ろをついていくと、降りた先の路肩にGT-Rは停まった。
中から出てきたのは、30代後半から40代前半の男だった。白いパーカーにジーンズといった、少し若々しい格好だ。
貴章もインプレッサから降りると、GT-Rの男は、貴章のインプレッサのすぐそばまでやって来ていた。
「いや、さすがGT-Rは速いですね。手も足も出ませんでした。」
「いやいや、君もインプレッサでよくあそこまで走るよね。エンジンはどんな感じなの? 」
「吸排気系は全部ワンオフものですね。排気量は2.0Lのままで、シングルターボも、係数1.4のやつを使ってます。どっちかと言うとエンジン本体にすごい手間かけたクルマですね。」
「そっか。外観はあまりいじらずに、中身で勝負する感じだね。」
「ええ、そんなところですね。」
「でも、フロントにはリップスポイラーついてるし、ディフューザーも付いてるから、空力にもこだわってるよね。ブリスターフェンダーも着いてるから、あんなにコーナーが速かったわけだ。」
「ですけど、あなたのGT-Rもそんな感じですよね。目立つエアロって、GTウィングくらいですし。」
貴章は、男の35GT-Rを凝視した。すると、リアウィングにさりげなく貼り付けられた小さなステッカーに目が留まった。そこには、白い字で、CRSの文字が並んでいた。
「CRSって、あのGT-R専門チューニングショップのCRSですか? 」
「あ、そうそう。俺はCRS代表の工藤圭介。久しぶりに35GT-Rで環状線に出てきたら、なんか元気のいいZ34とインプレッサがいたものでさ。ついつい追いかけちゃったよ。よろしくな。」
「どうも、新庄貴章です。」
「それにしても、なぜか最近は水平対抗エンジンのクルマによく会うよな。貴章が2人目だよ。」
「そうですか。あの、1人目って……」
「明彦か。あいつのクルマは、ポルシェ911だよ。964の空冷ターボモデルだ。」
「964……しかも空冷ですか。」
「貴章ほど環状線を走れたら、近いうちに会えるはずだぜ。銀色のポルシェに。」
「銀色の、964ターボ……」
貴章は、クルマは違うとはいえ、同じ水平対抗ユーザーとして、ある種の期待を膨らませていた。