首都高に流る鮮青6連星   作:susu-GT

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いつもの如くですが……

大ッ変お待たせしてます。申し訳ないです。


Ep.29 Encount(邂逅)

《千葉県木更津市 片桐モータース》

 

 

「そもそも、お前は勘違いしてるかもしれねぇが、一つだけ付け加えとくぜ。……アイツのあのインプレッサは言ってしまえば2代目だ。でだ、俺は見たことはねぇんだが、篠田の話から何となくなんだが、1台だけ目星つけてんだ。」

 

 

「……つまりは、初代かい?」

 

 

「ああ。確証はこれっぽっちもねぇし、違うかもしれんがな。だが、そう考えるのが1番しっくり来るんだヨ。……そうするとよ、チューニングという行為そのものに、新庄の野郎は見た目よりも遥かに精通してやがる。それならこのFCの出来も納得いく。……もし、ソレが当たってりゃ、アイツはかなりキレるぜ。」

 

 

知らぬ間に「小僧」呼びが抜ける片桐。そして、物陰からそれを又聞きする人物が1人。その人物の前にはシアンブルーのRX-8が息を潜めていた。

 

 

「……そりゃそうでしょう。片桐サンが非対称にしてバランス崩したとかいうあの時のRX-8、アレの違和感に気づく位なんですから。」

 

 

あのRX-8、それは初めて貴章と片桐がコンタクトをとった時に片桐が貴章を試すかのように押し込んだクルマ。敢えてダンパーやスプリング諸々を左右非対称にセットしたのだが、それは言われてみれば、というヤツで指摘されなければさして気にならない程度のものだった。ましてエンジンの息継ぎにまで及ぶなど、この人物、新田悠介からすれば貴章のセンサーは別次元のものだった。

 

 

「風が……出てきたな。……冷たい。」

 

 

普段空に見える月が見えず、代わりと言ってはなんだが首都東京の街明かりに照らされるどんよりした雲。そこから吹き降ろす風が、いつもにも増して冷たく感じる悠介だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《首都高速 羽田線下り》

 

 

「ヤバいな……。」

 

 

ステアリングを握るたかあがボソリと呟く。若干先行するランサーから離れてはいるものの、今となっては交通量の多い首都高速で、ましてや湾岸線から逃げてくる車両の多い羽田·横羽線で180km/h近くで巡航出来ているだけ充分だと言ってもおかしくない。

 

3速7500回転、シフトアップして4速。新たな心臓、Cosworth製EJ25エンジンは変わらず元気な雄叫びをあげている。かつて「ガラスのミッション」と呼ばれたインプレッサのミッションも、特に違和感なく働いているように感じる真紀。しかし、実際にステアリングを握る貴章には、違和感どころかハッキリとインプレッサの悲鳴を受け取っていた。

 

 

 

(サスペンション)、やっちゃったかな。」

 

「足回りって、タカの得意なトコじゃなかったの?」

 

「いやまぁ苦手って訳じゃないけどさ。ただ今回は軽量化どころか重量化してるんだよ。まず俺の左に乗っかってるすんげぇ重たいウェイト。」

 

「……殺すわよ。」

 

「真に受けんなって。てか誰もお前って言ってねぇし。……まぁ冗談はともかく。」

 

 

貴章曰く、換装したEJ25エンジン、スプリッターウイング、そして冷却用の大型ラジエーター等、今回の変更でそこそこの重量化になっている上、スプリッターウイングの恩恵でもあるダウンフォースの増大がここに来てサスペンションへの過剰負荷となって現れだしたと。ステアリングから伝わる細かなバイブレーションがその予兆と睨んでいるとのことだ。

 

 

「まだ足かストラットタワーかはわかんねぇけど、多分どっちかだろ。跳ねる横羽線じゃあちょっとヤバい。」

 

 

そして、水平対向エンジン自体は低重心であったとしても、エンジンのクランクシャフトからミッション、リアのデフに至るまでが一直線上に並ぶスバルが売りとするシンメトリカルAWDのデメリットとしてフロントベビーが余計に悪さをする。エンジンとトランスミッションを前方に置くこと、そして水平対向エンジンを横置きではなく縦置きしていること、それがフロントミドシップにエンジンを積めず、フロントオーバーハング上にエンジンがはみ出してしまう構造になっているが故に、ランサーと比べてもどうしてもクルマの重心が前よりになる。

 

ノーズは軽い方がよりクイックに動く。確かに軽すぎるとフロントのリフトが懸念されることもあるが、第一そこまでの軽量化はしていない。

 

また、今回の換装によって、1度ストラットタワーバーを外している。つまり、以前と比べてサスペンションの付け根、ストラットタワー周辺の強度は落ちている。そんな中でもタイヤからの入力量は変わらない。となると、足回りから悲鳴が上がるのはもはや必須と言ってもまぁ構わない程度になってしまう。

 

焦りという焦りが滲み出す貴章。しかし、それはこのインプレッサに限った話ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マズいよ、エンジンが……おかしい。」

 

 

後付けで設置した油温計も水温計、そして廃気温センサーも高めではあるものの、さして異常かと言われればそんな値ではないのにも関わらずそう呟く沙織。だがそれは単に、彼女の気のせいという訳でもなかった。

 

エンジンも内燃機関である以上、同じ条件下で使用していても若干の性能差は出る。それが大衆向けならば極僅かなもので済むのだろうが、彼女のランサーに然り、貴章のインプレッサに然り、スイートスポットが狭いセッティングにするとそれはより一層差が生じる。彼女のランサーは、今そのスイートスポットから少しずつ離れ始めていた。

 

 

 

「熱ダレ?……オーバーヒートではなさそうだけど、ちょっとズレてる。」

 

 

 

1人で走る分には問題なく、思惑通りに動いてくれたランサーとの波長が僅かに、ほんの極僅かに狂い始める。

 

恐らく、大黒PAまで回ってからの湾岸線でなければ持たない。石川町経由の本牧湾岸線入りは更に絶望的。となれば

 

 

「残る選択肢は……横羽線最後まで行かないで生麦分岐から大黒入り、湾岸線東向きで…………しかないわよね。このまま横羽線はあたしが持たない。」

 

 

バックミラーに映るインプレッサも、何か手負い状態なのかどうか分からないが、沙織のランサーを抜くには至らない。それに、これ以上歯車が狂うとなると、湾岸線トライは1度のみ。それもいつ何時終わりを迎えるかわかったものじゃない。

 

4速6000回転、メーター読み時速200km。いくら高回転の伸びが良くなった4B11エンジンでも所詮は量産型の2.0L4気筒エンジン。200km/hより先の加速感は次第に鈍っていく。

 

 

 

「ランサーでもこんななんだし、それは向こう(インプレッサ)だって同じ…………あれ?、インプレッサがいない?」

 

 

 

そう思ったのも束の間、隣から甲高いエキゾーストノートと、チューンドターボ車特有のブローオフ音が木霊する。すると、サイドミラーに映り込む鷹目のヘッドライト。明らかに沙織のランサーよりもシフトタイミングが早い。そしてもう一度ブローオフ。沙織ランサーがもうすぐ4速レブリミット。となると、向こうは5速。

 

 

「ごめんだけど、前は譲れないヨ。ちょっと色んな意味で。」

 

 

すぐ目の前には一般車。ノーズがまだ先に出ているランサーに進歩を譲る貴章インプレッサ。昭和島JCTの湾岸線からの合流を過ぎて海底トンネル。起伏の多いK1横羽線。ただパワーがあればいいと言うコースでもなく、またただ曲がれればいいという訳でもない。

 

いつか誰かが言っていたか、「ごまかしが効かない」と。もちろんそれは貴章や沙織だけに限った話ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの更に後方から追い上げる白い機影。彼らの仲間内ではこの手の色のクルマの筆頭は真紀のBMW Z4。ただし、その本人真紀は今貴章インプレッサのナビシートに収まっている。

 

 

 

「今どき、この時間帯にこーやって走るヤツもいるんだ。少し様子見といこうか。」

 

 

いつか誰かが巷でこう言った、「ヤツは落ちた」と。はたまた別の場所ではこう言われた、「終わった」と。だが、こうも言われていた。「落ちた人があんな目をするわけがない」「時代に逆行するチューナー」と。

 

あれから既に数年。彼のマシンは一般的には現役ではない。むしろ2世代前の、かつての技術者の努力の結晶。しかし、逆行しようがなんであろうが、このクルマ、このエンジンに惚れ込んで既に人生の半分近くを共にした感覚さえある。

 

 

 

「……大黒から湾岸入り、かな。……さあて、久しぶりの湾岸。ヤツも来るだろ。今夜じゃあナイ、それは分かってるんだけど、こんなにも血が久しぶりに騒いでるんだ。……」

 

 

 

丸目4灯のリアランプ、やや小ぶりな可変式鳥居型スポイラー。かつて湾岸線で800馬力を叩き出し、今でこそ600馬力ない位ではあるが、90年代中盤の傑作が未だ現役。スカイラインGT-R、ましてやRB26DETT搭載の第2世代GT-R、もっと言えばBCNR33、33Rと言えば、彼の名を知らぬ者は少なかろう。

 

 

GT-R専門チューニングショップ『FLAT Racing』代表、そして今となってはCRS工藤と並ぶ首都高のGT-RユーザーでスカイラインGT-Rのデビュー当時を知る数少ない現役ランナー。

 

彼の名は、黒木隆之。

 

 

 

「それにしても、後ろのインプレッサは結構面白そうだな。」

 

 

 

一瞬ランサーの横に並びかけるも、それからはランサーとの間に一般車を数台挟んで距離を置くインプレッサ。だが恐らく先行するランサーのバックミラーから見えなくなる距離感ではない。

 

そして何よりも、基本160km/h前後までが本来のカバーできる範囲のインプレッサが、横羽線でここまでのペースで走れていることに新鮮味を感じる黒木。

 

 

 

「イイ……つかず離れずの距離感。たとえ自分に何があっても相手に迷惑をかけないポジション。なかなかできることじゃあない。……面白くなりそうだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後ろ、来てるの何だ?……トラック挟んでるから見にくいやろうけど。」

 

「分かんない。けどかなり速いよ。」

 

 

 

横羽線に入ってから後ろをつけてくるひとつのヘッドライト。その独特な音をこの2人はよく知っていた。軽やかな4発エンジンの音でもなく、高音でかつよく響くV10のような多気筒エンジンでもなく。ソレはかつてレースを掌握した時と同じ音をしていた。

 

 

「この音……」

 

「あのクルマしかないよね、舞台が舞台なだけに。」

 

 

かつて首都高最速、サーキット最速の名をとったクルマ、今でもその名は違う車種となっても引き継がれており、世界中のあらゆるサーキットで並み居る強豪をたたっ切る、日本のスポーツモデルの代名詞。その先祖。

 

 

「「…………スカイラインGT‐R!!」」

 

 

技術者魂の塊、当時最強と謳われたポルシェやマクラーレンといった海外勢を打ちのめすが為に、純粋なる勝利の為に開発されたクルマ。そしていつしか不敗神話となり、優勝請負人と言わんばかりの強さを発揮したそのクルマ。

 

日産 スカイライン GT-R。

 

 

 

「煽るでもなく、抜きにも来ない……コレはちょっともつれるかな…………痛ッ、」

 

「どうしたの、タカ?」

 

 

珍しく悲痛な表情を浮かべる貴章。しかし、それは彼自身の話ではなかった。

 

 

「…………たぶん、もたない……たぶん。」

 

「は!?……載せ替えたばっかりなのにもう壊しちゃいそうなの!?」

 

 

ナビシートで動揺する真紀を他所目に、貴章は無口を貫く。見据えるは彼のインプレッサではなく、数台前にいるランサーエボリューション。

 

 

「過給圧はこのインプレッサと同じくらいなんだけどサ、問題は俺、TO4Zタービンて組んだことすらなかったのヨ。だからエンジンマッピングもベストかと言えばそうじゃない。引渡しの時にそれは言い伝えてたんだけど……。」

 

「じゃあ大丈夫なんじゃないの?……てか壊れるって向こうのランエボ?」

 

「エンジンは大丈夫だと思う。けど、あのランサーだから、というかあのランサーじゃないと起こらないし起こせない問題があってさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《千葉県木更津市 片桐モータース》

 

 

「そもそも、お前にもうひとつ言っておくとしたら、タービンTO4Zなんだってな。4B11でどんくらい出せてんだよ?」

 

「ブースト1.7で450馬力。排気量2.0Lのままでよくここまで仕上げてると思うネ。」

 

 

 

どこか自慢げに話す雄三氏。だが、それに異を唱える人物こそが片桐。それは以前貴章自身が組んだあるクルマに乗った時に聞いた話に起因していた。

 

 

「まー、エンジンは問題ねぇだろうヨ。けどよ、お前肝心なとこ見落としちゃいねぇか……。」

 

「……?」

 

 

怪訝な顔で話を促す雄三氏。別に貴章推しという訳では無いはずの片桐が、珍しく彼を後押しするかのように、そして雄三を諭すかのように、静かに語り出す。

 

 

「あの嬢ちゃんのランサーが5速MT車なら問題ねぇわな。けどよ、そーじゃねぇんだろ?……そこだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《1か月前 片桐モータース》

 

 

「生意気に外車なんか振り回しやがってよ」という一言を機に、片桐自身初めての――レイコのC3コルベットを除いて――外車、そして正真正銘の初めてのドイツ車、それが貴章の手によってチューンされた真紀のBMWだった。

 

 

「いや確かにそんなこと言いはしたけどよ、別に嫌味でもなんでもえねぇっての。ただまあなんだ、BMWなのになんでソレなんだよ、って思っただけでよ。」

 

「ソレってだいぶ言葉足らずなんじゃないッすかね……。」

 

 

片桐の言いたいのはただ一つ。BMWなのになぜMシリーズではない、E89 Z4だということ。エンジンはE92 M3のV8自然吸気S65B40なのにも関わらずだ。

 

 

「敢えて重たい……Z4だっけか?、なんて使わなくってもM3とかあるだろ。」

 

「そうですね、ターボならのサイズ感ならM2っていう選択肢もありましたし。何も型落ちのZ4にする必要はなかったですよ。」

 

「じゃあなんでヨ?」

 

「さぁ、こればっかりは僕にもさっぱり。ただ真紀がZ4がいいって言うならそれでいいんじゃないのとは思いますけど。」

 

 

 

そして片桐が産まれて初めて乗る2ペダルMT車のZ4。DCTの途切れない独特な加速感は3ペダルMTでは体感出来ないモノ。

 

 

 

「それにしても、電子制御なんだろ?よくミッションそのまんま使えたな。」

 

 

 

エンジン出力が上がることで、1部のマシンだとオイルの巡回が悪化し、いずれかのシフトに入らなくなることもあるという。

 

 

「まー、そりゃ競技用M4のミッションに変えてますし……ノーマルでも大丈夫なんでしょうけど、一応保険かけといた方がいいでしょ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇●〇●〇●〇●

 

 

「……てなことがあってよ、お嬢ちゃんのランサーがノーマルDCTってんなら、ちとマズいと思うがな。」

 

「まさか、ミッションが壊れるって言うのかい?」

 

「壊れるとまでは正直わかんねぇ。一応インプレッサよか新しいんだしヨ。ただシフトが入らなくなることはありうるだろーな。」

 

 

 

 

 

 

 

《首都高速 湾岸線東向き 大黒JCT》

 

 

日本の公道最速エリア、その筆頭と言えばここ首都高速湾岸線という人は多かろう。今でこそその数は激減したものの、サーキットではなく敢えてココを走るという酔狂な人もいる。

 

そして今宵、2台のラリーマシンと1台のハイチューンドGT-Rの饗宴。先行するラリーカーはいずれも手負い。しかしながら、それを思わせない好調っぷりを見せている。

 

 

「ホントはみなとみらいまでぐるっと回りたかったけど……悪く思わないでッ!!……湾岸線本線、合流ッ!!」

 

 

回転の落ちを気にして5速から4速に1度シフトダウン。名機4G63の後を継ぐべく産まれた4B11エンジン。その実力は伊達ではない。そしてそれに着けられたゴツいカタツムリ(大径タービン)TO4Zが大量の圧縮空気を直4エンジンにぶち込む。それを余すことなく路面に伝えるは歴代ランサーエボリューションで磨きあげられた技術の結晶のAYC、ADC、そしてABS(アンチロック・ブレーキ・システム)を含む統括電子制御、S-AWC。

 

長きに渡ってラリー、サーキットで見る者を魅了し続けたランサーの集大成。ノンハイブリッドの純粋な内燃機関のみの羊の皮を被った狼、否、猛獣。その本性が牙を剥く。

 

4速8000回転、時速210km、右側パドルを引いてシフトアップ。回転数が落ちて5速6700回転。一瞬の加速の途切れのDCTのシフト時の独特なフィーリングと共に暗闇を切り裂くは漆黒のランサー。

 

対する追走車。こちらも長らくラリー界を賑やかした日本勢の一角。その後継機はフィールドをサーキットに変えてもなお、名だたる欧州メーカーが威信をかけて作り、世界に出した勝つための戦闘機(グループGT3)さえも凌駕するタイムを刻む程の実力派。

 

4速8500回転レブリミット、時速220km。シフトノブを4速の隣り、本来の6速の位置にある4.5速に放り込む。確かな加速の途切れと共に再びブーストが立ち上がる。その心臓部に収まるのは今では世界でも2つのメーカーでしか作られていない、そして惜しまれつつ30年近くという長い間、基本骨子を変えずに、嘘偽りなく平成の世を駆け抜け、ソレの終わりと共に自らの使命を全うした名機EJ20の派生型、EJ25をさらにF1で数々の名シーンを生み出したマシン達の心臓部を手掛けてきた老舗コスワースが整備したコンプリートエンジン。

 

大型スプリッターウイングによるドラッグの増大を気にせずにランサーを追跡する。

 

そしてその後方、第2世代GT-Rの中で酷評されながらも愛されるBCNR33スカイラインGT-R。それは名門チューナー、FLATレーシング代表黒木隆之によって組まれた首都高SPL。この首都高を、誰よりも速く駆け抜けるがために、誰よりも強くある為に組まれた傑作。

 

 

「……!? 何?」

 

「…………真紀、後ろ。スカイラインの後ろからなんか来てないか?」

 

「…………こんなだだっ広い首都高エリアで……単なる偶然じゃなくまるで惹かれるように、出逢うべくして出逢う。…………昔から変わらずそういうヤツだろ、お前は。」

 

 

 

黒木33Rの更に後方、3台よりも遥かに速い速度で追い上げるひとつの機影。誰が言ったか。

 

調教された狂犬ではない。野生のように強く……激しく……。

 

その機影が、各々のバックミラーに映る。

 

闇に溶け込む――ブラックバードとは違う意味で――濃青。

 

ロングノーズのその機体。

 

そして、周りとは一線を画すその存在感。

 

 

 

「……後ろに張り付くとか、どんだけ俺たち立ててくれんだよ。……もってくれヨ、インプ。最後の大足掻きといこうや。」

 

 

それに応えるとまでは行かないまでも、ランサー追走の姿勢を崩さない貴章インプレッサ。そしてそれを迎え撃つ沙織ランサー。

 

 

それぞれ5速8000回転、4.5速8500回転のレブリミット。もうひとつ上のトップギアへ。正真正銘の最高速の世界へ。

 

 

 

「6速」「5速」

 

「「シフトォッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那、加速を再開した青い機体と、異常なまでの金切り音を上げてダッシュし損ねた黒い機体。そして、その直後、左前側から出されたマフラーからもくもくと吐き出される煙。四輪ロックするタイヤ。後続のマシンは咄嗟の判断でアクセルを緩めて衝突を避ける。

 

 

「……!!」

 

「……ダメ……だったかナ。」

 

 

ニュートラルに入れたのだろうか、惰性で転がるランサー。

 

そして、その横を、掠めていく2台のクルマ、

 

 

 

「今夜はここまで、カナ。……キミらとはまたここで逢いそうな気がする。」

 

 

颯爽と走り去る黒木33R、そして2台のドライバーと約1名にとっては初めて見たそのモンスターが走り去る。

 

誰が言ったか、「そのクルマはまるで身を攀じるように走る」という。最早「畏怖」という言葉が相応しいその威風堂々とした風格。彼らは直感で、ソレを理解した。

 

 

「なぁ真紀、ブラックバードといいあの33Rといい、凄いのがいるよな。…………ホントにいたんだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………『悪魔のZ』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《首都高速湾岸線 東扇島IC出口》

 

 

 

「遅せぇぞ隆介。」

 

「いやいや急にキャリア持ってこいとか言われても無理ありますって。貴章サン、キャリアいい加減買ったらどうですか?」

 

「……おめーが払ってくれんなら買ってやろ。」

 

「いやだから真紀サンの件はホントにすみませんでしたッ……」

 

 

先にガス欠で戦線離脱していた隆介にアポとってキャリアカーを持ってこさせた貴章。それに載るのはインプレッサではなく、漆黒のランサー。

 

 

「……その、なんだ。悪かった。」

 

「…………」

 

 

結局はオーバーレブによるエンジンブロー。だが、それはドライバーの沙織の故意的なものでもミスでもなく、DCTに起因するものだった。

 

ランサーエボリューションⅩのDCTは高性能であるものの、400馬力を越すチューンドマシンとなれば、オイルの循環が悪化し、偶数段のギアに入りにくくなるという特性があった。今回、それが6速で起こった形だ。シフトアップ出来ずにベタ踏みしていたアクセルがエンジンを本来回らない所まで回してしまった。レブリミッターを切っていたのも災いしたのだろう。

 

 

「アナタが悪いわけじゃないじゃない。……それよりも、アタシは最後のアレが衝撃すぎたわよ。……何なのアレ?」

 

「噂でも聞いた事あるだろ。かつてブラックバードと共に首都高を駆けたもうひとつの存在。日産の初期型フェアレディ、S30Z。『悪魔のZ』って。」

 

 

 

萎れた沙織は、動かなくなったランサーでもなく、貴章インプレッサをちぎれなかった悔しさでもなく、純粋にあのZに向いていた。

 

 

 

「……このランサー、どうする?もう降りるってんならそれなりにはして返すけど。そこは……」

 

「は?……何言ってんの?」

 

 

今度は素っ頓狂な声を上げて貴章の言葉を遮る。その眼には、初めて会った時の勝ち気なモノを秘めていた。

 

 

「降りれるとでも思う?あんなの見といて。確かにアタシのランサーじゃあついていけないのかもしれない。でもアナタは追うんでしょ?……なら、アタシも追う。それで最後にアンタを突き放して独走するまでは降りられないわよ。……覚悟しといて。」

 

「…………」

 

 

まさかの再びの宣戦布告。しかし、今度ばかりは違う。何もZ共同戦線という訳でもない。だが、貴章や真紀、隆介達とようやく同じ舞台に上がってきた彼女。

 

 

「……ケッ、やれるもんならやってみなっての。」

 

 

どうも悪態でしか返せない貴章。しかし、彼らの間では険悪な雰囲気は存在していなかった。

 

彼らの、……否、彼女の首都高物語は、今、進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





EJ20終わりましたねぇ。半ば無理矢理感拭えないですけど、こちらも終わりです。

さてさて、次なるターゲットはどなたでしょうなぁwww
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