首都高に流る鮮青6連星   作:susu-GT

7 / 32


いきなりスーパーカー相手にプリウス出そうとする無謀さ……

スバルはもうちょい待ってて……


Ep.06 PRIUS(プリウス)

 

 

 

北見「本当にプリウスだな。」

 

島「……ベースの面影も、意外と残っているんですね。」

 

 

 

確かに、それはトヨタのプリウスではあった。しかし、大きく張り出したフェンダーや、ハッチに取り付けられた巨大なスワンネック式リアウイング、本来小さなエアインテークが空いているだけのフロントバンパーには、これまた大きなインテークが口を開いている。リアディフューザーはもちろん、本来見える位置にないマフラーが、ディフューザーの上から顔を出していた。もちろん、青く焼きが入った本気仕様だ。

 

 

 

北見「それにしても、プリウスの狭いボンネットにV8エンジンなんて積めるのか?」

 

島「普通あり得ないですよね。」

 

 

 

ふたりの意見はもっともだった。直列4気筒のエンジンを横置きに搭載しているプリウスのボンネットは、たとえV8エンジンを横置きにしたってのせられるわけがない。

 

実際、プリウスよりもボンネットが長いレクサスの2ドアクーペ、RC では、V6エンジン搭載用のフロントセクションと、大きなV8エンジンを搭載する上位モデルの RCF 用のフロントセクションとが、それぞれ専用開発されている。大きなV8エンジンの干渉を避けるため、 RCF のボンネットは、ベースモデルの RC よりも少し盛り上がった形状になっている。

 

ところが、このプリウスのボンネットには、大きなエアアウトレットが開いているだけで、特に変化はない。この中にV8エンジンを納める余裕など、ないはずだ。

 

 

 

 

貴章「あ、実は、本来リアシートがある部分を全部改造して、そこにV8エンジンを縦置きにしてるんです。」

 

 

 

そう言いながら、貴章が開けたリアハッチの中には、中央にどんと居座る形で、V8エンジンが静かに横たわっていた。貴章曰く、トランスミッションも、6速のシーケンシャルトランスミッションをエンジンに直結させているという。

 

 

 

 

貴章「本来バッテリーが積んであったリアシート一帯を全部ひっぺがして、エンジンとミッションを無理やり積んだんです。めちゃくちゃ強引ですけどね。」

 

島「それでは、まさかこのプリウスは……」

 

 

 

 

貴章「ええ、このプリウスの駆動方式は、MRなんです。」

 

 

 

 

“MR”「ミッドシップエンジン・リアドライブ」。その名の通り、車体中央にエンジンを積んで、リアタイヤを駆動する方式。国産車では、ホンダNSX、トヨタMR2など、ごく一部の車両にしか採用されていない。

 

しかし、海外車、特に欧州車を見てみると、スーパーカーの代名詞とも言えるフェラーリやランボルギーニ、マクラーレンをはじめとする多くの高級スポーツモデルが採用している。中にはミッドシップエンジンの4WD武装という強者もいる。

 

ドイツ車では、アウディもR8がミッドシップエンジンの4WDを採用しているし、島のポルシェからも、ケイマンなどがMRを採用している。

 

そして、モータースポーツの最高峰であるF1やその他のフォーミュラーカー、世界三大レースのひとつ、ル・マン24時間を代表とするWECの最高峰クラスであるLMP1クラスでも採用されるMR方式。つまり、スポーツ走行に最も適していると言われる駆動方式がMRなのだ。

 

その理想的なポジションを、貴章たちはプリウスでやってのけたというのだ。

 

 

 

 

貴章「なので、このプリウスはハイブリッドシステム非搭載の、純粋な内燃機関車両なんです。」

 

北見「ククク……おもしろい。しかし、プリウスは剛性面ではV8の大パワーに耐えられるのか?」

 

隆介「もちろん、スポット打点打ち増しに、強化ブレース、ロールゲージなんかは全部やってあります。だけど、それでもまだ剛性不足は否めないですね。」

 

貴章「このプリウスの剛性担当は隆介なんですよ。……とても苦労してるんですけど。」

 

隆介「プリウスは、燃費を善くするための一環として、大幅な軽量化をしているんです。けど、そのお陰でボディがすごく薄いんです。それも板金できないレベルで。」

 

北見「らしいな。ドアぶつけたら、板金じゃなくてドアごと全交換しないといけないらしいしな。」

 

隆介「なので、一部を除いて、一からボディもFRPとかで作り直してます。ただ、このZVW50型からはシャシーの剛性が先代のZVW30型から大きく向上しているので、まだ助かりましたが。」

 

真紀「あと、これは貴章の発案なんですけど、このプリウスはフォーミュラーカーみたいにまではできないにしろ、エンジンをボディの一部として利用して、少しでもボディ剛性をあげようとしたんですけど、それは今のところ見送ってます。フォーミュラーカーとは車重が違いすぎるので……」

 

島「そうでしたか……あと、ミッドシップとなると、冷却なんかはどうなんでしょう? 僕のポルシェも苦労したところですが……」

 

 

 

それに答えたのは、愛車のZ4同様、プリウスでも空力を担当した真紀だった。

 

 

 

真紀「本来のリアドアのところに、エアインテークがありますよね。縦に2つ並んでる。」

 

 

 

真紀が指差したのは、リアタイヤの少し前側。そこには、ドアから大きく張り出したフェンダーの延長線上に、2つの縦穴がボディに沿うように前方に向かって開いていた。恐らく、走行風を取り入れるための穴だ。

 

 

 

真紀「上の少し大きめの穴が、エンジン冷却用、下の方はブレーキ冷却用のものです。それと、大きなフロントのエアインテークは、元々エンジンが積んであったスペースに置いた大容量ラジエーターの冷却用で、あそこからもそれぞれの冷却に充てています。もちろん、エアコンのクーリングもしてあります。」

 

島「足回りは?」

 

真紀「フロントセクションの改造のついでに、フロントのサスペンションのダンパーも変更してます。リアサスペンションがダブルウィッシュボーンになったのはこのZVW50型からなんで、そこは助かりました。」

 

 

 

ダブルウィッシュボーンは、主にスポーツ志向のクルマのフロントサスペンションに採用されることが多い。もちろんスポーツカーとなれば、リアサスペンションもこの形式をとることがあるが、こんな大衆車のリアサスに採用するのは、ないこともないが決して多い訳ではない。

 

乗り心地の向上など、いくつかのメリットがあるが、スポーツ走行では、その構造故の細かな動きが大きな威力を発揮する。

 

2015年にコンセプトモデルとして登場したレーシングカー、レクサス RCF GT3 は、当初リアサスペンションを別の方式で採用していたが、大幅な改良を加えた正式版の2017モデルからは、ダブルウィッシュボーンを採用。レースの世界ですらそうなのだ。

 

 

北見「そこまで作り込んだのなら、何も心配することなんてないだろ。」

 

貴章「いえ、そうでもないんです。あまり実走していないんで、この空力で良いのか、サスペンションセッティングがこれで良いのか、わからないことだらけなんですよ。」

 

真紀「本当はサーキット用に作ったんです。けど、走らせる機会がなくて。……特に冷却系は心配です。」

 

島「……」

 

 

 

今回の一件で、まさか必要になるとは思わなかったプリウス。いくら実力派の彼らであっても、北見と比べれば、圧倒的に経験値の絶対量が違った。

 

 

 

北見「ククク……おもしろいじゃないか。」

 

島「あの人たちも協力してもらいましょうか。モンスタープリウスの誕生ですよ。」

 

北見「ああ……なあ、貴章。」

 

貴章「はい?……」

 

 

 

それまでの興味津々な子供のような顔から一変、一気に真剣さを増した北見は、静かに、しかしはっきりと貴章、真紀、隆介の3人に語りかけた。

 

 

 

北見「この島は、少し前までは湾岸の1、2を争っていたドライバーだ。島にもドライブさせてやってほしい。俺の知り合いに、ボディワークの天才がいる。他にもジェッティングの鬼……ECUの書き換えのプロ……エアロの職人……いろんなやつがいる。恐らく、みんなこのクルマを見れば興味津々だろうし、快く協力してくれるだろう。…………ただし、お前たちが進めてきたコンセプトから一変することもあり得る。俺がエンジンをチューンしたクルマは、何度も事故を重ねるクルマになったほどだ。…………それでもかまわないのか?」

 

貴章「……」

 

島「今のままでも、そこそこまでは行けるでしょう。少なくとも、あなたたちの3台のクルマはホンモノですから。」

 

北見「…………降りるなら、今だぜ。」

 

貴章「…………俺は……」

 

北見「……」

 

島「……」

 

貴章「俺は構わないですが、ここの二人あってのプリウスです。この二人が反対するなら、俺は降ります。」

 

北見「……と言っているが、どうだ? お二人さん?」

 

 

 

貴章の後ろに立っていた二人は、一度目を合わせるが、再び北見に向き直った時の表情は、すでに答えは出ているとでも言うようなものだった。

 

 

 

真紀「わたしは構いません。このプリウスで、あいつらをギャフンと言わせられるなら。」

 

隆介「それに、俺はこのプリウスの行く末を見てみたい、そう思ってる位ですし。」

 

貴章「真紀……隆介……」

 

真紀「だからさ、やっちゃおうよ、タカ!」

 

隆介「そうっすよ!やれるとこまでやっちゃいましょう! 後は野となれ山となれです!」

 

島「それ、使い方を間違えてる気がしますが……」

 

隆介「うぐっ……」

 

北見「ククク……それじゃ、決まったな。」

 

貴章「そうですね。……では、北見さん、島さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスタープリウスの制作、協力お願いしますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






作中のプリウスのモデル、スーパーGTのGT300クラスに2016年から参戦している、TOYOTA PRIUS aqr GT なんです。イメージされるなら、画像検索なんかではたくさん出てきますよ。ちなみにこちらはハイブリッドシステム搭載車両です。

これがプリウスかよ……と思うほどの爆音で走ってます。それこそ、かつてのF1マシンに似ているような気もしますし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。