学生が書いた駄文だと思って生暖かい目で見ていただければ幸いです。
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題:地平線
「地平線?」
「そう、地平線。」
「地平線って、あの『君を乗せて』の歌の…。」
「そう、『〽あの地平線~』」
「地平線って、ドラえもんの原作漫画で、のび太君が漢字テストで「チダイラセン」って読んで、『チダイラセンは何処を走っている電車なのか?』ってママに聞いてた地平線?」
「…いや、そこまでは知らないけど。」
何の話をしているかって?見ての通り地平線の話。
あたしは檜原しま子。某市立中学に通う中学3年生。今はそろそろ高校受験に取り掛かりたいシーズン、夏である。(ああ、頭が痛い。)
そして今あたしの前にあるベッドに横たわっているのが、水谷照也。あたしの彼氏である(すごく頭いい+すごく性格いい+etc… 要するにベストな彼氏なのだ!(注:あくまであたし基準)
某有名私立高校に通う高校2年生。(あたしより2つ年上だが、あまり気にしない)ちなみに、あたしが目指すは彼の行っている高校である!(無論、偏差値が足りないとかという担任のお言葉は当然無視!)
で、今あたし達二人は何の話をしているのか?先ほども言ったが地平線の話。
で、ここは今どこなのか?病室である。
病室で、どうして地平線の話をしなければならないのか?その事情を話すには少しだけ時間を遡る必要がある。
夏というのは本来、夏休みや、海水浴、ハイキング、キャンプ、といった楽しい楽しいものに満ち溢れたもののはずなのだ。
しかし、中学3年生となってしまったあたしの夏は、夏期講習、補習、紫外線、といったお世辞でも楽しいとは言えないもので満ち溢れている。
…何なのだろうか、この違いは。
というわけで、あたしは夏休みに入った、といっても浮かぬ表情をしていた。
それに加えて、今やあたしのカウンセラー状態となっている、彼氏の水谷照也―通称テル君は入院である。何でも彼は生まれつき体が弱いとか、何か横文字だらけの名前の病気にかかっているとか何とかで、長期休みに入るとすぐ入院なのだ。(ああ、寂しい寂しい。)
しかし、カウンセラー様と会わないでこの辛い夏を乗り切るほどの精神力をあたしは持ち合わせていない。なので、こうしてちょくちょくお見舞いに来ているのである。
そして、水谷カウンセラーに愚痴をこぼす。同級生の何たらさんが、あーだ。とかこの前の定期試験は散々だった、とか担任が分からず屋で、こーだ。などなどである。
まあ、この年頃なのだから悩みも多いのだろうが、やはり受験生最大の悩みは成績のことである。困ったことにこれがなかなかうまくいかないのだ。
なので水谷カウンセラーには、塾の宿題で分からなかったところなどを聞くようにもしている。
まあ、今日もそんな感じだった。やはり主に成績の話をあーだこーだしていると、彼の方から話を振ってきたのだ。こんな感じに。
「いやあ、どうもうまくいかないのよね。」
とあたし。
「どうして?苦手な数学も平均点程度は取れるようになったんじゃなくて?」
とテル君。
「いや、精神面の方。そろそろ受験勉強に取り掛からなきゃいけない、ていうのに何故かやる気が出ないのよねえ。」
と頬杖をつくあたし。
「ひぃはやる気がある方だと思うけどな…。」
言い忘れてたが、テル君はあたしのことを「ひぃ」と呼ぶ。どことなく可愛い雰囲気があるので、あたしは好きだ。
「いや、そうじゃなくて、こう何ていうの、その、どーんと『やるぞー‼』ってのがなくてね…。」
と溜息をつくあたし。うまく言えなかったけど、要するに多量の勉強をしたくなるほどのモチベーションが湧かない、ということを言いたかったのかもしれない。
「どうしてだろうね?」
と首を傾げるテル君。
「何かね、スタート地点が分からないような感じなのよね。やる気はあるのに、いつスタートをすればいいのか、どこにスタート地点があるのかわからなくて、やる気を持て余しているって感じ…かな?っていうか、そういうのは教師が教えてくれるべきじゃにいのかねぇ…」
と自分でもわけの分からんことを言ってこの場にいない教師にやつ当たりするあたし。ちょっと申し訳ない。
テル君はベッドの上で半身を起こしたまま、夕焼けで赤く染まっている空を窓から見ていたが、不意にこう言ったのだ。
「ひぃは美術部だったよね?」
「え、うん。そうだけど、それが?」
自慢じゃあないが、小学生の頃あたしの絵は市の展覧会まで行った。とにかく絵を描くのは好きだったので、中学に入ると自然と美術部に入っていた。
「だったらさ…」
とテル君はここで一旦きってから、言った。
「地平線の絵を描いてくれないかい?」
とここで冒頭の場面に戻る、というわけだ。
…
「地平線って…線を一本だけ引いて終わり!じゃダメなの?」
「いや、そのね…。地平線を沢山描いて欲しいんだ。うん、言ってみれば地平線の塊を描いて欲しいんだ。」
「塊ぃ?」
そんなもの描いたら紙が真っ黒になってしまうのでは?
「いや、大丈夫。ひぃがちゃんと地平線の塊を描けば、絶対に絵は真っ黒にはならないはずだよ。」
これはなぞなぞだろうか?これこそ、自慢じゃあないがあたしはこういったトンチもののクイズは苦手だ。(答えを聞いたら感動するけど、そんなもん自分一人でおもいつくもんかい、って開き直ってしまうのだ。)
「そこを何とか頼むよ。」
普段からお世話になっている水谷カウンセラー様の頼みだ。聞き入れるべきではあるのだが…。
「でも、どうやって描けばいいのよぉ~。」
そう思ってしまうあたしであった。
…
「で、何故私のところに相談に来るんだ?」
と伯母さんはあたしに背中を向けたまま言う。
「いやあ、だってここはプロの意見を聞こうかと…。」
「絵を描くのはプロかもしれないが、なぞなぞは推理作家にでも任せろ。」
相変わらずの素っ気ないお言葉。
紹介しよう。今キャンバスに向かって絵を描きながら、あたしと話しているのは伯母(あたしの父の妹だ。)の檜原祥子さんだ。
本業はイラストレーター。コンピューターなども駆使して様々なイラストを描いているが、よく趣味で油絵も描いている。
あたしが絵を描くのを好きになったのも、この伯母の影響を受けたためだ。
我が家から徒歩三分の所にあるアパートに住んでいる。いつまでも絵ばかり描いてゴロゴロしている義妹を心配してか、母はよくあたしに伯母さん家に差し入れを持っていかせる。
性格は至って無愛想だが、不親切なわけではないのでよくあたしの愚痴も(絵を描きながらだが)聞いてくれる。
「そんなこと言わずに伯母さんも少し考えてみてよ~。」
とあたしはごねる。
「…。」
伯母さんは絵が一段落ついたのか絵筆を持ったまま、あたしの方を振り向いた。
「なあ、しま子。どうやって描けばいいか分からないお前の気持ちも分からなくはない。」
伯母さんは呟くように言った。
「だったら…」
協力してくれ、というあたしの台詞を手で遮って伯母さんは言った。
「だけど、水谷君が絵を描いてくれと言った相手はしま子だ。つまり絵を描くのはしま子だ。だから、何を描くのかもしま子が決めるべき。違うか?」
伯母さんは厳しい視線をあたしに向ける。…む。確かに伯母さんの言うことは正論すぎて反論の余地がない。
悪あがきして、何とか反論を思いつこうと、あたしはぐうぐう唸る。そして悔し紛れに言う。
「それは絵を描くのは得意だけど、難しいことを考えるのが大嫌いな伯母さんの言い訳―」
「違う。」
コンマ2秒でこの返答。どうやら図星のようだ。
「まったく、兄さんに似て本当にお前は屁理屈をこねるなあ。」
と溜息をつきながら、伯母さんはキャンバスに向き直る。余計なお世話というやつだ。
「まあ、一言アドバイスしておこう。」
「え?ほんと?」
と目を輝かせながらあたしは身を乗り出す。
「いいか、あくまで絵のプロとしての意見だぞ。私は一介のイラストレーターであって、近所のなぞなぞ好きの太ったお兄さんじゃないんだからな。」
あたしは気にしない、気にしない、続けて!と手を振る。
「いいか、まず地平線の塊だが…。もちろん、線を並べればいいというわけではないだろう。なぜか分かるか?」
あたしは笑顔で首を振る。分からないから困ってんじゃん。
あたしの顔を見て、伯母さんはため息をつきつつ、筆を動かすのを止めずに続ける。
「地平線はただの線じゃあない。だから地平線の持つ意味を考えるんだ。」
…地平線の持つ意味…?
「次に、何故水谷君がそんなことを言い出したのか?それを考えろ。」
「いや、考えろって言ったて―」
「文脈があまりもおかしいと思わないのか?しま子の成績の話を聞いて、どうして地平線の話になる?」
…それは―あたしも不思議に思った。
「つまり、大雑把に考えると、しま子が地平線の塊の絵を描くことで成績が上がる―ってことになるが―」
「え?マジ?ラッキー!うれしい!だったらすぐ描くね。」
伯母さんは絵筆を持ったままの手で、あたしの耳を引っ張る。
「だーかーら、人の話を聞け。全く。大雑把って言ったろうが?そんな絵を描いただけで成績が上がるなんて夢みたいな話が本当にあるはずがないだろ。でも地平線の塊が何なのか、しま子が分かれば、まあ何だ、しま子の何かが変わるんじゃないか?」
…何かって何?それに、
「そりゃあ、お前自身が見つけなきゃならんだろうな。」
伯母さんがあたしの心を見透かしたかのように言う。
「そして第二に。たとえばの話だがな、静物画を描けって言われたらどうする?題材はなんでもいい。」
「え?静物画?それならまずモデルを…」
あたしは言葉を止める。伯母さんはそれを見て満足そうに頷く。
「そうだろう。まずはモデルを用意してそれを眺めて描くわけだ。お前は水谷君から「地平線の塊」を描けというお題を出された。ちと強引だが、地平線も「静物」。なら、まずそのモデルを用意するのが道理じゃないか?」
「んーーーー?」
伯母さん…そんな簡単そうに言うけど、地平線なんてそこの角のコンビニで売ってるようなものじゃないんだよ?それに…
「結局、地平線の塊って何なのさ?」
すると伯母さんは、意味ありげに微笑んだ。お、これは答えを知っているということか?
「あたしに分かるとでも思ったか?んじゃあ雑談はこのへんにするか。しま子もそろそろ勉強しろ、受験生。」
前言撤回。やっぱり伯母さんは難しいことは大嫌いでした。
伯母さんの家を出たあたしは家への帰路につく。もう夕方。ビルの隙間から夕陽がオレンジ色の光であちらこちらを照らしていた。
ビルの隙間…あたしはふと立ち止まる。そういえば「地平線」そのものをこの目で見たことなかったな、と。
あたりを見渡す。そこまで都会ではないこの町でも、ビルにさえぎられて地平線なんて見ることは出来ない。あたしたちは地平線に沈む太陽じゃなくて、ビルの隙間に消えていく太陽しか知らない。
「ちょっと伯母さん。モデルなんかやっぱり用意できないじゃない。」
思わずぼそりと呟く。
あたしは顎に手を当てて考える。このまま分かんないまま家に帰るのは何だか少し癪だ。ちょっと考えよう。
あたしはテル君との会話を思い出す。どのあたりの話から地平線の話になったんだっけ?伯母さんも言ってたし、それは割と大事なことだと思う。
…担任の教師の愚痴を言ったあたり?いや違う違う。
…そうだ、私が「やる気が出ない」って言ったとき。「スタートラインがどこだか分からないような…」って…
…スタートライン?
何かが頭を掠めた。あたしはビルの隙間の夕陽を見る。ちょっと待って、何だか分かりそう。
あたしは脳みそをフル回転させる。そして今度は夕陽とは逆方向を振り返って見る。やはり家屋やらビルやらが建っていて地平線なんて見えない…でも見えないだけで、地平線は確かにそこにある…?
…今、夕陽が沈もうとしている先にも地平線はある。そしてその逆方向にも当然地平線は存在している。見えてないだけで、確かに存在はしている。
…ひょっとして、今あたしが立っているこの場所だって、他の場所から見れば「地平線」なのかもしれない。
…ってことは…?え、どこでも、どんな場所でも、そこは地平線になりうる…?
……そうか、分かった。
何を描けば良いか分かったあたしは家へと駆けだした。
…
~数日後~
「あの…ひぃ?わざわざ病院で勉強しなくとも良いんじゃない?」
「ちょっと待ってて、テル君。この問題が解けそうで解けないの。」
あたしはテル君の病室で数学の問題集を広げて悪戦苦闘していた。テル君に聞くのが早いけど、そればっかじゃこれからやっていけない。
「くあー!解けない!」
15分経っても何にも分かんなかったあたしはベッドに隣接した机に突っ伏す。そして渋々起き上がると問題集の答えを開いて解き方を確認する。
数学の問題1問分からなくて時間をつぶすのは勿体ないから、最初から解く時間を決めておいて、時間内に解けなかったら答えを見てよい。こうすれば時間短縮になるし、早く解く練習にもなる。…担任教師もたまには良いこと言うじゃない。
「それにしても、ちゃんとやる気が出るようになったじゃない。良かったね。」
「当然!」
あたしはテル君のベッドの脇に飾られた絵をビシッと指さす。あたしが描いた「地平線の塊」の絵だ。
どこの場所でもほかの場所から見れば地平線に見える。そう、どんな場所でも。
あたしたちはよく、出発点のことを「スタートライン」と言い表す。
テル君は地平線を「スタートライン」になぞらえてあのお題を出したのだろう。
どんな場所だって地平線になりうるように、決められたスタートラインなんてない。
何かを新しく始めるとき、あたしはよく戸惑う。何から手を付ければよいのか、今からで間に合うのか、
でも。どこからだってスタートしていいんだ。スタートラインは無数にある。そう、人の数だけ。他人に決められたスタートラインから走る必要なんてない。
いつだってスタートライン。なら、いつでもスタートダッシュが切れる。そういうことなのかな、とあたしは勝手に思った。
「この調子なら二学期の実力試験も良い結果出せるんじゃない?」
「あ、やっぱそう思う?あたしも今回は好成績狙ってるのよねー最近調子よいから!」
「って油断してると、スルッとケアレスミスしたりするんだよな…ひぃは。」
「あーー失礼な!」
あたしはテル君を小突いて笑う。
そして、ベッドの脇には、あたしが描いた"青い地球”の絵が窓から差し込む夕陽に照らされていた。
~完~
読んで下さっただけでもありがたいです<m(__)m>
良ければ感想お願いします…