起きたらチェンジ・ザ・ワールドしてた件   作:change

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――やっぱり強くないですかこのカード?
――竹宮さんエグいですその動き・・・勝てる気がしないっ!
――竹宮さーん?聞いてますかー?

もう、声は聞こえない。


material world
アイツの居ないN・ワールド


竹宮 深(たけみや しん)。それが俺の名前だ。どこにでも居る大学3年生。趣味はSNS。最近は就職予定の会社の先輩と良く話す。

現在、2019年7月26日、14時23分、天気は雨、温度は25度で湿度は60%と体には心地よい。

 

「あーあ、つまんねーな・・・・・・」

 

外の天気を見ながら、重い溜め息をつく。

空模様は荒れる一方。黒い空は、まるで自分の心を映し出しているかのようだ。

雪が消えてからカードゲームに興味が湧かず、とうとうデュエマプレイヤーを引退してしまった。馬鹿みたいに楽しんで、笑って、話し合っていた奴が消えてしまってからだ。

深は暗い気持ちを誤魔化す為に部屋の机に向かい、勉強を進める。

 

「・・・・・・」

 

電気も点いていない暗い部屋で、雨の音とシャーペンが文字を書く音だけが響く。それが酷く彼の心を女々しくさせる。

 

ふと、ペンを止める。

 

「・・・・・・ここら辺にあったかな」

 

深は部屋に置いてある棚から1冊のアルバムを引き抜く。表紙には2018/7と書かれていた。

 

ペラペラと中を捲る。色とりどりの写真が目に入って来る中、1枚の写真を取り出す。

 

そこに写っていたのは自分とデュエマをする雪の姿。次の一手を考え過ぎて、カメラに気付いていなかったのだろう。手札と睨めっこしている姿が納められている。

 

「懐かしいな・・・もう1年も経つのか・・・」

 

雪の消えた日の前日に撮られた写真。Skypeではなく実際に会ってデュエマをしたのはこれが最後だった。

確かあの日は・・・・・・

 

「ガロウズ・ホール殿堂で弱体化した悠久チェンジを改良したのを使ってたんだっけアイツ・・・。俺は確か5cドラゴンだったかな?で、悠久チェンジは自分には駄目だとか言って崩したんだっけ・・・・・・」

 

自分の記憶を確かめるようにその日のアルバムを捲る。

深は懐かしい思い出が鮮やかに蘇るのを感じる。

 

「デュエマかぁ・・・・・・カードゲーム自体もう興味も湧かないから調べものとかしてなかったけど、今どうなってんだろうなぁ・・・」

 

深はふと自分がやっていたカードゲームの現状に興味が湧いたが、すぐに面倒臭く思い、PCを立ち上げようとした手を止める。

 

「止めよう・・・・・・今更調べた所で何にもならないし、どうせ理解出来ないだろ・・・・・・。カードゲームなんてそんなものだろうし」

 

アルバムを横に置き、机に突っ伏して昼寝を始める。もう雪との思い出を振り返らないようにしよう。と自分に言い聞かせ、思考を放棄する。この行動を何ヶ月も続けて来ている為、どうせまたいつか振り返ってしまうのだろうが。

 

そう考えると、自分が如何に後ろ向きなのかが分かってしまう。そんな自分がより嫌に感じ、寝る気分さえ害してしまう。

 

深は昼寝に集中出来ず、仕方なくPCで現在のカードゲームについて調べた。デュエマについて、でないのはせめてもの女々しい自分への反抗だ。

 

「カードゲームも増えたな・・・・・・」

 

自分がカードゲームをしていた頃より確実に増えているカードゲームの数に若干の驚きとこんなことを調べている自分への呆れの表情を浮かべる。

深は様々なカードゲームを話題にするまとめサイトを幾つか調べて行く内に、興味深い話題を目にする。

 

【速報:遊戯王、遂にVRシステムをカードゲームに搭載する。カードゲーム業界に走る衝撃】

 

VR、バーチャル・リアリティ。現物や実物ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザの五感を含む様々な感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術のことだ。もう一つの世界があるかのような技術から、仮想現実とも言われている。

調べると遊戯王がVRを搭載したゲームシステムを開発する計画は前々から、およそ2年前頃からあったらしい。しかし既存のカードにマイクロチップを埋め込み新たに発売することは遊戯王プレイヤーからの反感の声が挙がる可能性がある為、カードを読み込み、立体映像にする機材、技術が必要となった。勿論それには莫大な資金と売れる見込みが無ければ実行出来ない。それらを解決し、とうとう実行段階に至ったのが今年のようだ。まだ制作段階の映像です。と注意書きはされているが。

 

「何々・・・2020年秋頃始動予定の遊戯王VRをプレイするにはCONAMI IDの作成、登録とVRスキャナーが必要となります・・・と。VRスキャナーって何だ?」

 

すぐさま検索すると、画面に少し縁が太い眼鏡が表示される。これがVRスキャナーという物らしい。

 

「成る程な・・・・・・この眼鏡型のを掛けるとカードの絵柄などの情報からモンスターが出現すると・・・・・・。確かにこんなアニメみたいな技術がCONAMIで発明されたのなら他のカードゲーム業界は焦りを感じるか・・・」

 

案の定遊戯王の売上は大きく向上し、今月のカードゲーム業界の中でも一番の売上を見せているらしい。これには他にはない魅力などを武器に売れていたデュエマやバトスピ、ポケモンなども大打撃を食らってしまったようだ。

 

『インフレ凄いけどここら辺りでやってみようかな・・・?』

『前から遊戯王ってARとかに力入れてたと思ってたけどここまで来たのか』

『眼鏡は必ず必要って訳じゃなさそうだな。仕組みが分かればパソコンみたいに自分で作れそう』

『↑でもCONAMIに不正だとか言われそうだよな』

 

ネットを見ればこんな風な発言が他にもチラホラ確認出来る。試作映像が共に添付してあり見てみたが、予想以上に出来が良い。ヌルヌル動くモンスターに綺麗なフィールド魔法などは正に圧巻だった。

 

「・・・・・・そういえば、ファミコンが流行ったのもこういう革新的なのがウケてゲーム業界で無双していたんだっけな・・・・・・。眼鏡も安いみたいだし、これは本格的にカードゲームに革命が起きるのかもな・・・・・・なんて」

 

予想されるのはカードゲームがARやVRで実際に絵に描かれたモンスターが動いたりする、そんな時代。

 

「まるで、子供の描く夢の世界だな・・・・・・」

 

頭の中に広がるTCGのアニメのような世界。当然命を賭けたりはしないし、普通のカードに何百万もかかったりはしないが、それはカードゲームをプレイする子供たち、いや、子供に限らず様々な人が一度は夢見るだろう世界。

 

「良いなぁ・・・そんなことが実現するかもしれない、そんな可能性があるだけでも、技術っていうのは素晴らしく、同時に恐ろしい物なんだな」

 

自分が小さい子供の頃には所詮は夢物語、実現する方法などあるはずがない。と、その年の子にしては多少、夢が無かったが、今では可能性があることを知り、興味を抱いている。TCGが出来てからその手の話は笑い話に終わっていた、それがたったの数十年で夢じゃなくなる。凄いことだとは当然思ったが、実はそんなことよりもとても恐ろしく感じるのだ。

 

簡単に例えるなら、アニメの実写化のようなものだ。

雪が前に言っていたことなのだが、夢やイメージとは脆く強固な建築物だ。イメージには法則や外敵は存在せず、想像力のままに頭の中にモノを創造することが出来る。これは科学や技術、時間や空間の概念、あらゆる障害を無視することの出来る最高の建築所と例えることが出来るだろう。

しかし、それは現実性を帯びた瞬間に夢では無くなってしまうのだ。一度まとわりついた現実性という外敵は更に現実性という問題を積もらせて行き、結果として大きな障害を前に、実際にイメージしていた物から変化した、つまらない物になってしまうのだ。故に、イメージというものは酷く脆いものであると雪は言っていた。このVRTCG問題について当てはめるなら、外敵とはユーザーと金銭、信頼と期待などだろう。ユーザーの信頼と期待に応えようと足掻けば足掻く程に、実際の理想からは離れて行く。ユーザーが求める物を作るのが仕事なのに、求める物が何なのかを追求すればする程、ユーザーの夢は現実性を帯び劣化して行くとは、何とも悲しいものだ。夢はイメージの中でじっとしていてくれ、と俺は思う。

 

そして、この計画は恐らくこのままでは微妙な結果で終わる。ネット上でもそういった心配の声があがっているが、竹宮 深という一個人の意見としても、そう思わざるを得ない。

 

「カードゲームに必要ではないシステムのままじゃきっと一時的ブームで終了だ。そんなの、製作した側からしたらもう少し続いて欲しいと思うだろうなぁ・・・。何か後1手あれば変わるかもしれないけれど・・・・・・」

 

方法なら思いつく中にはあるのだが、それは多くのアドバンテージを手放すことでもあるわけで。例えば、カードゲーム業界やその他の企業全体へのVR技術の提供、もしくは、複数の企業との合併である。

 

「もし企業が合併し、巨大なTCG企業が出来れば、資金や人員、技術力というイメージの障害になり得るだろう問題の殆どが解決される。オマケに他のカードゲームによって自社のカードゲームプレイヤーが減る。ということも工夫次第では少なくなるかもしれない。だがそれは、今回の出来事により発生するであろう利益を、独占出来なくなるということでもある・・・」

 

例えるなら宝くじで当たった大金を他者に分け与え、仲の悪かった人に友達になってくださいと言うようなものだ。

 

『♪~』

 

記事を読みこれから起きうることを思考していると、昔を感じる電子音が深の居る部屋に響く。スマホから流れるPlanetesの8bit音アレンジ版に反応した深はそっと手を伸ばし、机に置いてあったスマホの液晶をタップする。

 

『もしもし、竹宮です』

『あ、竹宮さんですか?夢木です。ちょっと君に今すぐ会社に来て欲しいんだけど時間大丈夫かな?』

 

電話に出ると、少々ストイックな若い女性の声がした。この声に聞き覚えがあるような気がして深は了解しましたと言った後、誰だったかを思い出す。

 

夢木 奈々(ゆめき なな)。俺の行きたい会社で先輩と良く一緒に働いていたと記憶している。先輩の想い人でもある。

 

あまり接点は無かったと思うが、友達の友達は友達理論で納得する。取り敢えずは今すぐとのことだった為、ちゃんとした服装に着替え、会社へと向かう。何故呼ばれたのか、もしかしたら採用したいという要望ではないだろうか。と微かに期待するが、その可能性は低いだろう。

 

「何かあったのかな・・・」

 

社員では無い人物を急に呼ぶだなんて事態に興味が湧く。どんなトラブルが起きたのかワクワクしながら駅に着き、電車に乗り、会社へと少し早足で向かう。

 

「すみません、遅くなりました。竹宮 深です。今回はどのような御用件で・・・・・・?」

「あぁ、竹宮君!助かった。君の力を貸してくれないかな!」

 

俺の力を・・・?どういうことだろうか?

 

「実は今、会社にCONAMIさんが来てて・・・」

「え、CONAMIさんですか?」

 

さっきまで記事を見て心配をしていた会社が何故こんな所に来たのだろうか?

 

「ホラ、ここってDAKARATOMYさんとそれなりに仲良いだろ?だから多分交渉の架け橋になって欲しいってことで来たんだと思う・・・・・・」

「・・・それってもしかして・・・・・・VRについてじゃないですか?」

 

疑問に思っていたことを先輩に聞くと、先輩は、誰かから聞いたの!?と驚いた様子でそれを肯定する。やっぱりそうだったか・・・でも、俺を呼んだ理由には全くならない。

 

「俺関係ないですよね?こんなただの大学生には全く」

「そうでも無いんだよ。実はね、CONAMIさんはDAKARATOMYさんのカードゲームプレイヤーの意見を聞きたいらしいんだ。どうやらDAKARATOMYさんのカードゲームを理解しておくことで交渉を有利に進めたいんだとか・・・・・・一応、竹宮君はカードゲームの大会で優勝したこともあるんだろ?だからすぐ連絡が取れる君を選んだ」

 

成る程、今度こそ納得がいった。アポもない急な来訪ではあったが、DAKARATOMYさんとの交渉をしたいというCONAMIさんを無碍には出来ない。それで求められていたDAKARATOMYさんのカードゲームプレイヤーとして俺が選ばれ、呼ばれた訳だ。

 

「でも先輩、俺もう殆どカードに触れてないですよ。触ってたのなんて1年前ですし」

「そんなこと言ったらうちには触った経験の無い人しか居ないんだよ。頼む!どうかこの通り!」

「私からもお願い出来ないかな?」

 

先輩が目の前で頭を下げる。それだけでも止して欲しいのに、追撃に今日電話で聞いたことのある声の人が頭を下げてくる。夢木さんだ。良く見れば盆を持っている。社長と話しているCONAMIさんの所へお茶でも渡しに行っていたのだろう。

 

「ちょ、先輩顔上げて下さい、夢木さんも。・・・・・・一応、こんなので良ければ、お力添え出来るかは分かりませんが、出来る限りを尽くさせてもらいます」

「ごめんね、急にこんな・・・・・・。無理せずに、質問に答えられなかったら分かりませんと答えて良いからね。そこまで強要なんて出来ないから」

「今度、美味しい物でも私が奢るよ。本当に助かったから」

 

此方の心配をしてくれる先輩と、約束を取り付ける夢木さんの顔は安心したようでまだどこか不安そうでもあったが、今の現状を考えれば無理もないことだ。

まず、CONAMIという大きな会社がこの小さな会社に来た時点で胃がやられる。それに急な来訪だったが為に歓迎の用意も出来ていないのだ。とても安心なんて出来る環境ではない。俺もかなり緊張している。実は遊戯王をしていたこともある自分からしたら、何でこんなカード彫ったんだよ!アホかっ!と不満を口にしていた所と会話をしなくてはならないのである。胃痛どころか生きている感覚がしない。

それでも俺は、自分の任された仕事をこなさなくてはならない。社長が会話している部屋のドアをノックする。

 

「失礼します・・・・・・」

「おお、急に呼んでしまってすまないね、CONAMIホールディングス株式会社を経営しています。大森 明(おおもり あきら)です」

 

プレッシャーか、効き過ぎた冷房のせいなのか、これから自分は魔王と戦わなくてはならない小鹿の気持ちを体験することになるのだろう。俺は目の前に立つ優しそうな顔をしたお爺さんを見て、死ぬ覚悟を決めた。

 

「こんにちは、たきぇ・・・竹宮 深です。宜しくお願いします・・・・・・」




用語解説
CONAMI:この小説の世界で遊戯王を運営している会社の名前。
Planetes:EG○ISTさんの曲の名前。作者のお気に入りの曲の一つ。
DAKARATOMY:この小説の世界でデュエマを運営している会社の名前。

竹宮さん側の物語となりましたmaterial worldはこれからの物語に大きく関わっていくかと思われます。2019年の世界で起こる出来事がどう関わって来るのか、作者自身、上手く書けるか少し心配です。
竹宮さんの話は本編よりガッツリとこの小説の伏線の回収をしてしまう可能性やネタバラシがされてしまう可能性があるので5~10話事に更新していくかと思われます。
色々と無理があるのでは?という場面が多々あるかと思われますが、どうか暖かく見守って頂ければ幸いです。
次回は雪の方に戻って話が進みます。
誤字指摘や感想、いつでもお待ちしております。

次話
https://syosetu.org/novel/167940/7.html
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