Ask the right weight of the trigger 作:鯛の御頭
試験からほどなくして結果通知が届いた。
筆記は自己採点でまあまあな記録で、例年の合格者と比べても悪い結果ではなかったので心配はしていなかったが、実技は不安が残った。
何点取ったという受験生たちの声を聞く限り、私も悪い点数ではなかったようだが、他の会場の動向がわからない。
それなりに緊張しつつ、雄英から送られた封筒を開けると通知は紙一枚で終わりかと思ったら、無駄に凝った立体映像装置が入っていた。
結果から言えば、合格。
しかも実技は1位だったらしい。
敵ギミックの破壊ポイントだけではなく、どうやら審査制の
ちょいちょい敵ロボっトに襲われていた受験生を助けたのと、最後の0Pお邪魔ギミックに対し、救助者を気遣いながら協力して倒したことが評価されたようだ。
そして中学は先生から同級生、はたまた後輩まで大騒ぎだった。
過去には士傑高校のヒーロー科に入学した生徒もいたようだが、雄英高校ヒーロー科の合格者は私が初めてらしい。
しかも今年からあのオールマイトが教員として赴任するらしく、それほど親しくない人からもサインをもらってきてくれないかと言われるほどだった。勿論断ったけど。
そんでもって、4月になると早速入学式。
雄英高校はヒーロー科2クラス、普通科3クラス、サポート科3クラス、経営科3クラスに分かれている。
来るのは受験以来だが、やはり国立。
金が掛かっている。
余裕を持って見積もっても5m×4mはありそうな巨大な教室のドアを開けると、既に何人かクラスメイトが登校していた。
「おっ!やっぱ受かってたのか」
よっ、と言わんばかりに手を挙げたのはどこかで見た顔だった。
「ビリビリ君」
「上鳴電気だ!」
そんな名前だった気がするが、うえ~いと言って救護室に運ばれていった印象が強すぎる。
どうやら個性の使い過ぎでアホになったのは治ったらしい。
「そうだった。ごめん、ごめん。種子島アンナだ。よろしく」
「よろしく」
適当に挨拶して荷物を教室に置いて、少々校内を探索することにした。
ボッチだが、まあクラスメイトとはそのうち仲良くなれるだろうとトイレの位置とか、購買の位置とかすぐに使えそうな施設を確認する。
校内の見取り図はオリエンテーションとかでその内、配られるだろう。
そうでなければ校内の至る所に見取り図や教室、施設の案内板は置かれているはずがない。
確実に毎年迷子になる生徒が出ているのだろう。
始業の5分前に教室に戻ると、なにやら騒がしい男子の声がしていた。
「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や机の制作者に申し訳ないとは思わないのか!?」
いかにも生真面目そうな眼鏡の男子が、机に足を乗せたこれまた見るからにガラの悪そうな男子に注意をしていた。
不良少年(仮)は初日だというのにネクタイを締めずにシャツのボタンも外している。ああいうのがカッコいいと思っているお年頃か。
「まあまあ、そう頭ごなしに注意するものじゃないと思うよ」
私の席に行くまでに邪魔だったので、ちょっと話しかけてみることにした。
「しかし」
「よく見てごらんよ、彼のスラックスを」
不良少年の横柄なのは、まあ目を瞑ろう。
粋がっているのは雄英に受かるくらい割と恵まれた個性とそれなりに勉強的な意味で頭が良いからなのだろう。
もしくは、高校デビューとやらをして悪ぶっているのかもしれない。
「随分と低い位置で履いているだろう。つまり彼は平均より足が短く、椅子に座ると足が床に付かないことを恥じてああやって机の上に足を乗せているんだよ」
「そうだったのか。失礼した。しかし、きちんと体のサイズにあった制服を着用すべきだ」
「ナメてんのか、てめーら!!」
素なのか、私の指摘に乗ったのか、眼鏡君は再度真面目に返すものだから不良少年は三白眼を更に吊り上げて机の上に乗せていた足を下ろし、立ち上がった。
腰の位置は、うん、普通だ。
短足ボーイではなかったのか。
「おや、普通の長さだったね。じゃあ足上げてたのはむくみ防止?」
「テメー、絶対潰す」
身長差の関係で上からガンを付けられるが、正直そんなに怖くない。
普段、もっと屈強なお兄さんたちと訓練をしているせいか、精々どっかのチンピラ程度の威圧感だ。
こういったタイプはまず態度と口で脅しつつ、決定的な暴力までは手を出さない。やるのは金魚のフン宜しく付いてくる三下の手下だろう。
「種子島アンナだ、不良少年」
「あ゛?端役の名前なんか知るか」
かく言う私も彼の名前は知らないので、自己紹介は名簿を見ればまあいいか。
「お友達ごっこがしたいなら
教室にそれまでと違った低い男性の声がした。
入口へ目を向けると、芋虫のように登山用の寝袋にすっぽりと入ったまま立ち上がった男性がいた。
「ここはヒーロー科だぞ」
ぼさぼさの長髪に無精ひげ、魚が死んだような気怠そうな目をしている。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
雄英のヒーロー科の担任は全てプロヒーローというのが売りだ。
ということは、この人もヒーローなのだろうが、顔は見たことがない。
メディア露出の多いヒーローはそっち方面で忙しいから学生の指導というのはしないのかもしれないが、プレゼントマイクや13号、ミッドナイトなど名前の知れたヒーローも教鞭をとっているというから、単に知名度の差かもしれない。
しかも今年はオールマイトが赴任するとあって、もしかしたらと思っていたが、現実はそう甘くないらしい。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
予想外の担任に生徒側も怪訝な表情が多い。
「早速だが、体操服着てグラウンド出ろ」
担任に言われるまま更衣室に移動し、青地に白のラインの入った体操服に着替えると、広大なグラウンドに集合することになった。
「えー、これから個性把握テストを行う」
入学式は?ガイダンスはないのかと、ボブカットの女子が聞くが、雄英は自由が売り、担任もまた然りとのことだ。
個性の把握なんてヒーロー科にとっては初歩と言えば、初歩。
担任側も生徒の学校及び本人からの申告で事前情報はあるものの、実際の人柄と個性についてはその目で見てないと判断できない。
中学までは個性禁止の体力テストが行われていた。
異形系もいる中で、平均を取り続けることにあまり意味はないと思うが、一度やり始めたものを止めるのには苦労するというそうだから、続いているのだろう。
相澤先生は文科省の怠慢と言っていたが、どこの学校も雄英のように広大ではなく、なおかつ個性使用が原則禁じられている中で旧態依然の方法が取られているのは分からなくはない。
基本、日常生活において個性の使用は禁止に等しいが、ちなみに私有地ではその限りではない。
「まずは個性の最大限を知る」
先生はテストとして腰パン不良少年にメカチックなボールを渡す。
どうやら不良少年の名前は爆豪というらしい。
これからするテストでは野球ボールサイズの球を砲丸投げの円から出なければ、どういった方法でも構わないので投げて記録を付けるらしい。つまり個性の使用は可である。
「死ね!!!」
なんともよく分からない掛け声とともに爆発に乗った球は相当のスピードで飛んで行った。
どうやら不良少年は爆発系の個性らしい。
気化しやすい爆発系の物質を生成して摩擦熱で引火させているのかなにかだろう。
なるほど、粋がるだけの破壊力のありそうな個性だ。
相澤先生が持つ計測器をみんなに見せると、そこには705.2mの文字が浮かんでいた。
ボールの落下地点までわざわざメジャーで謀らなくても、記録が出る優れものらしい。
「このテストはヒーローの素地を形成する合理的手段だ」
確かに合理的だ。
異形型もそうでない人も、体力テストは記録によって点数化されている。
つまり能力を使わない一般的な数値と個性を使った場合でその差が見えてくる。
「へえ、面白そうだな」
「そう?」
ビリビリ君他、クラスメイトの多数がワクワクといった様子だが、私は何度か試したことのあるテストなのでそれほど珍しいものではない。
「面白そうか」
相澤先生の声が一段低くなった。
「三年間、ヒーローになるための時間をそんな腹積もりでいるのか。よし、トータル成績最下位は見込みなしとして除籍処分にしよう」
「「「はあああああ???!!!」」」
不満と驚きの声が上がる。
この程度の事案でヒーロー科、退学とは、そんな横暴がまかり通るのか、それとも発破をかける虚言か。
除籍とは言われたが、退学とはいわれていないので、在学はできるがヒーロー科受講が前提の仮免試験を受ける資格はなくなる。
「生徒の如何せんは先生の自由。ようこそ、ヒーロー科へ」
クラスメイトからは理不尽だという声が上がるが、理不尽を跳ねのけてこそヒーロー。
3年間、先生は生徒に試練を与え続けるらしい。
「先生、ちなみに普通の体力テストは男女で記録による点数は違いますけど、その辺は考慮されますか」
「一般的なテストはそうだが、これは個性の把握テストだ。無論、男女平等に記録順に点を振る」
「分かりました」
念のため聞いてみたが、その辺も容赦ない。
体力に自信はあるが正直言って私の場合、個性とこのテストの相性は良くない。
クラスメイトの個性次第では、除籍とはいかなくてもかなり下になる可能性が高い。
種目は50m走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げ、上体起こし、長座体前屈、持久走の全8種目で行われる。
50m走では、真面目眼鏡くんが3秒台でトップ。足にエンジンが搭載されているようで見たまんま足が速い。持久力がいかほどか分からないが、あの速さが体術に使えれば近接は強いだろう。
他にもカエルみたいな女子や角砂糖を食べてムキムキになって走る男子、足の裏から液体を出して摩擦力を下げて滑るように走るピンク色の女子など、ただ走るだけでも実に個性的だ。
私は個性の使いどころがないので、普通に走った。
タイムは普通の体力テストなら10点が取れるくらいの速さだが、個性を使っている人に比べるとやはり平凡だ。
その後もテストは行われたが、今のところ私は個性を使っていないので、目立った記録はない。
当然、順位もそれ相応だ。
「種子島、やばくね?」
「上鳴、人こと言える?」
「いやー、こういうテストって異形系とか身体強化系は強いよな」
上鳴は目が泳いでいた。
彼も人にヤバイといいながら、自分の記録もそんなに良くないはずだ。
確かにこういった体力テストは使い方次第だが、身体強化系や異形系に分がある。
「ちなみに今のところ一位は体からポコポコ色々作ってるポニテの子みたいだけど」
体操服の上から見ても立派な胸部をお持ちの女子は、握力測定の機械を巨大ペンチで挟んでいる。
相澤先生がストップをかけていないところをみると、あれも個性か何かで作り出したのだろう。
色々と物を作り出せる個性のようだが、私と違って特に種類や材料に制限はないようだ。
50m走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び4種目終えて、最下位ではないが、今のところ私は下位5番目以内といったところだろう。
一応ぱっとした記録はないが、それなりに鍛えてきた効果があったのか、各種目最下位は今のところ取っていない。
5種目目、ボール投げではほんわかした女子が∞という記録を出したり、もじゃもじゃ頭の地味な顔立ちの男子が自分の指一本をバキバキする超パワーで700m以上の記録を出していた。
ちなみに漏れ聞いた話、もじゃもじゃの彼は入試で自分の腕と足を粉砕するパワーで0Pを殴り倒したらしい。
それだけの力なら握力とか50m走とかもっと良い記録でも良さそうなのだが、コントロールができていないのか体にダメージが出ている。
異形型のように生まれつき備わっているものを除き、個性は4歳ごろまでに発生するのが通説だ。
まるで最近まで全く訓練をしていなかったような使い方だ。
事実、不良少年があいつは無個性だーとか、騒いでいたので隠していたか、数少ないが突然変異というやつなのかもしれない。
「これまじで種子島ヤバイ系?」
「いや、心配ない」
ちょいちょいチャラ男よろしく絡んでくる上鳴を軽くあしらいつつ、今計測終わったポニテ女子に近づく。
「八百万さん、それってまだ使う?」
測定の順番は特に決まっていないが、ボール投げの計測をまだ終えていないのは私だけだ。
ちなみにポコポコ創作少女の名前は
「いえ、そういえば処分の方法はどうしたらよいのでしょうか」
ちなみに彼女は比較的小型な大砲を使って測定用のボールを発射させていた。
ボールの重量と強度の影響で飛距離は450mほどであり、現代において1kmの有効射程を誇る大砲の飛距離には届いていなかった。
ちなみに大きなものを作るときにはそれなりに肌の面積が必要なのか、体操服のチャックを開けて、インナーをまくり上げ、おなかから作り出していた。
男子がガン見してたけど、本人はそれほど羞恥心がないらしい。
うん、確かによい感じのヘソだった。
「先生、コレ使ってもよろしいですか」
「それをそのまま使うわけじゃないなら構わない」
「というわけで、八百万さん、ソレ貰っても良い?」
「ええ、構いませんわ」
八百万さんが残していた大砲を50口径の対物ライフルに、測定用のボールを12.7mmの実弾に転化させる。
大砲は鉄をベースにした合金のようで、ただライフルにするだけでは余るので、固定の二脚部分を大きめにしてある。
「銃!!??」
「えっ、本物じゃないよね」
残念ながら本物だ。
作っておいてなんだが、弾は計測用のボールを転化させてしまったが、記録はきちんと計測されるんだろうか。
「先生、計測できるかこのまま投げて良いですか」
「良いが、時間がないから1回にカウントするぞ」
計測は2回行われるので、1回をテストに消費することになるが、仕方ない。
測定用の機械を埋め込んであるボールはそれなりに重さもある。
さらに、弾頭部分のみ測定用のボールであり、薬莢は大砲から流用している。
大きく振りかぶって投げるが、円形ではないため、ただ放り投げただけでは飛距離は20mに満たない記録だった。
だが、変形させても正常に作動したようで、相澤先生の持つ端末の方にも記録はきちんと表示されていた。
「ちなみにこの時間、他に実習しているクラスはありますか?」
「ないな」
実弾とみて分かる形状だが、相澤先生はそれについて言ってこないので、とりあえず使用は問題ないだろう。
ポケットに入れていた単眼望遠鏡をスコープの位置に設置し、スコープに【転化】させる。
投擲用の円から銃を支持する二脚が出ないように位置を調整し、腹ばいの姿勢でスコープを覗き込む。
有視界内に人影はないが、仕様として2㎞までは有効射程であるため、途中で運動場を仕切っている壁にぶつかることになる。
さらに言えば高低差が足りないので、ベースとした銃のモデルより二脚を長く調整し直して仰角に構える。
「おい、みんな耳塞げ!!」
上鳴君が皆に注意をしてくれる。
自分で言う手間が省けた。
ありがとうと心の中でお礼をしつつ、安全レバーを引き、軽く息を吸う。
スコープを覗き込み、照準を再度確認し、自分の中でのタイミングを計る。
狙撃銃を使うときの、この自分の周りだけが静かになる感覚は嫌いではない。
引鉄に掛けていた指を引く。
直後に衝撃と轟音。
薬莢が地面に高い音を立てて落ちる。
そして引き金を引いてから3秒後には相澤先生の持つ端末がピピッと軽快な音を鳴らした。
記録は1874m。落下地点での距離を考えるとベースの銃の有効射程すら届かなかったが、弾が正規品でないことを考えればまずまずの記録だろう。
この種目、クラスの2番目の記録になる。
銃の安全装置を元に戻し、落ちた薬莢を拾い上げる。
実弾が校内に落ちているとまずいので、弾の回収にもいかなければならない。
「驚きましたわ」
「八百万さんの大砲も火薬と弾の重量を工夫すれば、1㎞まで飛距離は伸びたと思うよ。ただ態々砲弾にして飛ばすより、ドローンとかで遠方に運んだ方が距離出たんじゃない?まあ、私は材料に困らなかったけど」
「あっ!」
八百万さんはその手があったかと!いう驚きと、思いつかなかったとに悔しさを滲ませていた。
その後も計測は続き、結果発表。
さくっと10種目合計の順位だけ相澤先生が持つ機械から空中に投影された。
無駄なハイテク具合に感心しつつ、私の結果は14位。
ボール投げの記録が良かったことと、きちんとそれなりの身体を作ってきた結果だろう。
だが、はやり機動力は今後も課題となりそうだ。
「ちなみに最下位除籍はウソな」
相澤先生は、しれっとそう言った。
「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽」
「「「はあーーーーーー!!??」」」
「あんなの少し考えればウソと分かりますわ」
多数がショックを受けている生徒多数の中、八百万さんや赤白二色染めの男子は特に驚いていなそうだった。
生徒に発破をかける目的とは言え、除籍をこう軽々と持ち出されるのは如何なものか。
思ったより自由すぎるぞ、雄英。
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「いやー、これは驚きだ」
好調の根津は、目の前の壁を見上げて大きく頷いた。
目の前には通称:雄英バリアー
学生証などIDのない外部の者をはじくセンサーであると同時に、強固な壁となっている。
銀行の地下金庫にも採用されているような超合金の鋼鉄の扉の一部には、大きな穴が開いていた。
「センサーが感知したのは、最大距離ではなくて着弾位置だったようだね」
「そのようですね」
銃弾を拾いに行った種子島が申し訳なさそうに相澤に告げたのはこの壁の件だ。
防弾仕様であるはずだが、既に銃弾は壁にめり込んでいた。
防弾仕様と言っても対物ミサイルほどの性能はなく、9㎜の小銃を防ぐ程度らしい。
「どうします?」
「腐食しても困るから、このまま埋めるよ。強度は問題ないはずさ」
根津も彼女の力は、事前に資料を渡されていた。
担当官と言われる者と面談も行い、その危険性も重々理解してたつもりだった。
しかしこの壁をみると、その認識を改めざるを得ない。
「なかなか、難しそうだけれど有能な子が入ったね!」
根津は愉快そうにその壁を叩いた。
オリ主について
名前:種子島アンナ
個性:『
銃と銃弾を作り出す個性。大砲も可。
物体が200g以上なら、銃か弾に、それ以下なら無条件で弾が作られる。
銃や弾に【転化】させたものを元の形状に戻すには細かい条件がある。
銃や弾の性質は元の材料にほぼ依存するが、二つの素材を混ぜることも可能。
例えば木の棒と鉄の棒があれば、グリップは木材、その他の部分は鉄、余った材料は弾にすることもできる。ただし、混ぜた場合は分離できない。
その他については、作中で追々説明します。