Ask the right weight of the trigger 作:鯛の御頭
個性把握テストが終わった後、やはりガイダンスなどはなく、先生からは資料を見ておくようにと言われただけだった。
各カリキュラムの説明に、校内の見取り図、校則等々が記載されたそれは鈍器として人が殺せそうな厚さの冊子だった。
各部活動や先生の紹介まで乗っていればそうなっても仕方がない。
翌日午前中は、普通に英語や国語といった一般教科。
これもプロヒーローが教鞭をとる。
雄英に勤めているヒーローは教員免許を持っているらしいが、教員をしながらプロヒーローとして活動するのは時間が足りるのだろうか。
ヒーロー科以外の教科の受け持ちがあるかどうかは知らないが、プロヒーローにヒーロー活動以外の所で教鞭をとらせるのは合理的ではないとか意見があがりそうなものだ。
そして午後からはヒーロー科の専門科目、ヒーロー基礎学だ。
「わーたーしーがー!!普通にドアから来たーー!!」
ヒーロースーツ姿のオールマイトが宣言通り教室のドアから暑苦しく入ってきた。
生のオールマイトだ。
初めてみるが、本当にデカい。
体重は公式発表だと274kg。
身長もあるが、筋肉の重さだとみてわかる隆々とした体つき。
その超パワーもさることながら、圧倒的な支持率、事件解決数で長年名実ともに不動のNo.1ヒーローだ。
ただ立っているだけでも圧倒される気迫がある。
噂ではパンチ一発で竜巻をかき消したなんて話もある。
「ヒーロー基礎学!!ヒーローの素地を作るために様々な訓練を行う科目だ」
ヒーロー科では単位数も最も多い。
勿論、ヒーロー基礎学では個性使用時における法律や制度も学ぶが、基本的に実践的な訓練が重視されている。
今回は初っ端から戦闘訓練らしい。
さて、雄英高校ヒーロー科では被服控除というものが受けられる。
簡単に言えば、個性と身体能力に合ったコスチュームを学校専属のサポート会社が用意してくれると言う便利なサービスだ。
無論、要望もあれば聞いてもらえる。
「種子島ちゃん、カッコいいわね」
「ありがとう」
更衣室で着替え終わって、鏡で全身を確認していると、後ろからひょっこりと鏡に割り込んできた
防刃、防弾仕様のインナーとグローブ。ショートブーツは踏み抜き防止の鉄板の入った安全靴。それと、あんまりミリタリーぽくならないようにという要望で出したら、乗馬服が出てきた。
いや、確かに素材は良さそうだし、ベストもジャケットも収納多いから助かるので、ほぼ要望まんま通ったのが凄い。
ストライプ柄の黒のジャケットは金のボタンが付いており、ジャケットの裾は後ろだけ膝丈の燕尾服っぽい仕上がりになっている。ベストは灰色で正面から見ると、少しだけジャケットから見えるのがおしゃれな感じだ。シャツのフリルは趣味じゃないけど、全体的に見れば、バランスは取れている。
白いズボンが脚にそってピッチリパツパツなのは、乗馬服の見た目に合わせるなら仕方ないだろう。シャカシャカ歩くたびに鳴るようなものなら変更を申し出ていたところだ。
かっちりとした見た目に反して、結構軽い素材でできているし、柔軟性も高い。
普段の訓練用にも欲しいが、多分値段は可愛くない。
「ほんとだ、デキる女って感じだね!」
「
「あんまり細かく要望出さなかったら、こうなっちゃって。パツパツなの恥ずかしい」
着替え終わったのか、麗日さんも会話に加わった。
彼女の服は、確かにスタイル出る服装だ。
足は大きめのニーハイブーツで分からないが、太ももから胸元までは体にフィットするデザインなので、見る人が見たらスリーサイズとか丸わかりだ。
開発者は男だな、きっと。
「皆さん、準備はよろしいですか」
「はーい」
八百万さんの確認に、麗日さんが元気よく返事をした。
それにしても、八百万さんの衣装はなんだ。思わず二度見した。
「八百万さん、それ要望出した感じ?」
「私の個性だと服で覆う部分が多いと、大きなものは作りにくいのですから。本当はもう少し布の面積が少ないと良かったのですが」
「ビキニアーマーとか?」
確かに個性が創造で、肌からポコポコ生み出すなら、露出が多い方が良いんだろうけど、防御力が気になる。
胸部が立派な装甲になるのか???
たぶんサポート会社も悩んだ結果なんだろうけど、競泳水着の方がまだ露出度控えめだよ。
足丸出しじゃん。
一応、太めのベルトでお尻とか隠れているけど、カメコにローアングルで狙われる衣装だね。
たぶん、ヒーローの衣服に関する露出規定ギリギリじゃないか?
ミッドナイトが登場してからようやく法の整備がされたっていうけど、これセーフなの?
女子同士、コスチュームの感想を言い合いながらグラウンド・βに移動すると、男子もほぼ集まっていた。
衣装にも個性出るね。
爆豪くんの不良感とか上鳴とかチャラさ溢れ出ている。
「始めようか、有精卵ども!!戦闘訓練のお時間だ!!」
「先生、ここは入試の時の演習場ですが、また市外演習訓練を行うのでしょうか」
フルフェイスから声が聞こえたと思ったら、飯田君だった。
仮面戦隊ものか、もしくはロボっぽいコスチュームでかっこいい。
強度もありそうだから、速さを使って蹴りとかパンチとかもできる作りなのだろう。
「いや、もう二歩進んで屋内での対人戦闘訓練だ!!」
オールマイト曰く、
「監禁、軟禁、裏取引。このヒーロー飽和社会では真に小賢しい敵は屋内に潜む。これから君たちには『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦闘を行ってもらう」
「基礎訓練もなしに?」
蛙水ちゃんが、疑問を呈すとその基礎をしるための実践らしい。
ただし、今回は入試のようにぶっ壊せばよいというものではない。
状況設定としては、敵がアジトに核兵器を持っていて、ヒーローはそれを処理する。
ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器に触れること。
敵は制限時間を逃げ切るか、核兵器を守り切れば良いらしい。
最初5分は敵側に核兵器と会場のセッティング時間が設けられている。
ヒーロー側にも見取り図と作戦を練る時間らしい。
くじ引いたペアは烏頭の常闇君だった。
敵:爆豪、飯田ペアVSヒーロー:麗日、緑谷ペアが一組目だった。
参加者以外は同じビルの地下にあるモニタールームで観戦できる。
感想を一言で言えば、爆豪もヤバイが、緑谷もヤバイ。
パンチ一発でビル4階ぶち抜くとか、力の使い方さえ身に着ければ圧倒的な破壊力だった。
途中、私怨の喧嘩みたいな感じだったけど、結局勝利を優先した緑谷君の勝ちに爆豪君はショックを受けていた。
演習として言えば、結果的にヒーローチームが勝ったが、飯田君が一番敵として相応しい行動をとっており、麗日ちゃんは中盤の気のゆるみと、核兵器としての取り扱いがなっていなかった点がマイナス。爆豪君と緑谷君は屋内での大規模破壊行為は厳禁ということだ。
以上、総評八百万百ちゃん。
オールマイトも文句なしの実践評価だった。八百万ちゃんって推薦入学らしい。そりゃ頭も良いはずだ。
そして二組目。敵:尾白、葉隠ペアVSヒーロー:轟、障子ペアも見ごたえあった。
てか、一瞬で終ったけど。
障子君が索敵して、轟君がビル丸ごと凍らせて敵の動きを封じ、核兵器に触れて終わり。
しかも轟君はなんと氷と炎のダブル使いらしい。
チートか。
面制圧は私の苦手とする相手だ。
それより、障子君の個性は魅力的だ。
個性で複製腕を作り、その先に目だったり、耳だったり、体のパーツを作れるらしい。
しかも本来の耳の性能よりいいのか、ビル内部を歩き回る足音も聞こえるらしい。
腕力もすごいのは個性把握スポーツテストのときに見たが、視力もきっと良いのだろう。
今後組むことになったら、観測手としてぜひその個性を遺憾なく発揮してもらいたい。
ちなみに、葉隠ちゃんは透明人間。尾白君は尻尾を使った体術を得意としているらしい。
そして私は三組目は私と常闇君。振り分けはヒーロー組だった。
対戦相手は砂藤、口田ペア。
砂藤君は砂糖を食べるとムキムキになり、パワーが増大する。
食べすぎると一時的にアホになるって言っていた気がする。
口田君は無口だが、確かボール投げの時に烏にボールを運んでもらっていたので、動物を操る個性とみて良いだろう。
見取り図を見ながら、指定されたビルとは少し離れた位置で待機していた。対象のビルからは死角になっており、おそらくまだこちらの動きは察知されていない。
ハトとかネズミも近くにいないから、口田君が監視しているっていう線も薄い。
「とりあえず、個性の紹介しようか。常闇君はその影だよね」
「
『ヨロシクナ』
常闇君の背後からにゅっと出てきた黒い影が喋った。
腹話術なのか、それとも別人格なのか不明だが、目が付いているとなると常闇君とは独立して視覚的なサポートもできると考えていいのだろうか。
「よろしく。ちなみに分裂とかできる?それとも本体から離れられない?あと目は独立?」
「俺からは離れられず、分裂はできないが、
「なるほど。光が強いと影が濃くなるというより、光にかき消されると考えた方が良いね。暗いところだと強いと」
「闇を纏う方が性に合っている」
なんか一々言葉がカッコいいというか、厨二臭い。
まあ、本人の黒歴史になるだけだから放っておく。
たぶん、コスチュームの黒いマントは遮光カーテン的なものだろう。
「ちなみに、相手の影には作用できる?」
「いや、操れるのは黒影だけだ」
「OK。それを踏まえて常闇君、瞬殺できる方法思いついたんだけど、乗る?」
相手が近距離戦闘タイプと音使いだからできる技だ。
口田君、自身の力が分からないが、スポーツテストは私より成績は下だったから、身体能力的には普通だろう。
ギャングオルカみたいに超音波とかプレゼントマイクみたいに大声出せるなら話は変わってくるが、彼がしゃべっているところを個性把握テスト以来見ていないので、あくまで可能性の範囲内にとどめる。
「瞬殺か。随分と自信があるんだな」
「個性というより、コスチュームの備品頼りだけどね」
サポート会社様様だ。
追加要望に合わせてお礼の手紙も書いておこう。
「まずは話を聞かせてもらおうか」
ニヒルに笑う常闇君に私は作戦プランを伝えた。
敵側が根城とするビルの二か所の入り口のどちらにも、口田が個性を使って呼んだネズミが警戒に当たっている。
その他にもビルの各所にネズミの見張り番がいるので、どのルートを通ってきても、ヒーローの行動を把握できるようにしてある。
「よし、これでどこからでも迎え撃てるな」
気合十分と言った佐藤に、口田はコクコクと首を縦に振る。
核兵器(ハリボテ)は5階に設置した。
単純に1階から上がってくるまでの時間稼ぎが目的だ。
そしてこの部屋の入り口は下からネズミが通れるくらいの隙間しかないように辺りから物を移動させ、二つある入り口の扉の片方は椅子やロッカーで塞いである。
事実上、侵入経路が一つであれば、対策はしやすい。
昨日見た個性テストから推測すると種子島の銃、これの攻撃力は高いことは見てわかる。だからこそ狭い室内での乱戦に持ち込めば迂闊に発砲はできないと考えていた。
双方5分の準備時間を終えるタイマーが鳴る。
「よっしゃ、気合入れていくぜ!」
砂藤が拳を握りしめた。
瞬間、背後ガラスが粉々に割れる。
窓側を振り返ると同時に、室内に閃光と爆音が奔った。
目を開けていられない光に加え、まるでこの部屋の核爆弾(仮)が爆発したかのような轟音に二人とも堪らず目と耳を塞ぐ。
目を閉じていても瞼を透けるような強い光と、平衡感覚を失うような強烈な音に、思わず身を守るように膝を付く。
一瞬で過ぎた光に恐る恐る目を開けると、そこには闇が広がっていた。
「捕獲完了だ」
砂藤と口田が暗闇の視界から解放され状況を確認すると、腕にはすでに捕獲を示すテープが巻かれ、常闇が核兵器(仮)に触れていた。
「えー、総評に移りますが、今回はヒーローの見事な作戦勝ちだったね」
モニタールームに戻ると、満面の笑みのオールマイトに出迎えられた。
オールマイトが笑顔以外浮かべているところをみたことないけど。
あれって表情筋固定されているんだろうか。
「向かいのビルから種子島少女が打ち込んだのは音響閃光弾。まず場を混乱させる。次に常闇少年がビルからビルへ飛び移り、屋上から5階の部屋に侵入。
準備の段階で目的のビルから少し離れたビルとビルの隙間に
「敵チームは地上以外の侵入経路も想定すると良かったな」
「ういっす」
『コクコク』
砂藤君と口田君はまだフラフラするのか、常闇君の両肩に手を置いて平衡感覚を保っている。
「あー、種子島少女。ちなみに奇襲が失敗した場合は想定していたかい???」
「常闇君と合流し、二人で突入して核爆弾を回収する予定でした。合流のポイントも打ち合わせ済みです」
「Excellent!!実に用意周到だ」
オールマイトにサムズアップされた。
どうやら高評価っぽい。
常闇君はフッと分かりにくく笑っていた。褒められてうれしいらしい。
「種子島少女は装備品がよく研究されている。すなわち、自分の個性をどういった状況で使うか想定し、必要なものを把握できているという事だな」
「ありがとうございます」
個性の訓練に関しては、随分と時間もお金もかかっていると自覚している。必要な物、あったら便利な物、装備品については、個性を訓練している先の先輩方に随分と相談した結果でもある。
それで半端な結果を出したらケツを蹴り上げられる。
というより、他の人たちをみると、どうやら個性の特訓って普通はそれほどしないものだろうか。
雄英の合格者だったら、もっとこの年齢で個性の限界の把握と個性の使用訓練を積んだ精鋭が集まっていると思ったが、爆豪君といい、緑谷君といい、麗日さんといい個性に振り回されている気がする。
取り敢えず、今週の報告書に書ける内容ができたので今回の演習は良かった。