Ask the right weight of the trigger   作:鯛の御頭

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ハンドマンってバンドマンと字面が似てる_(:3 」∠)_


5.落下のち戦闘

目を開けたその先は燃え盛るビル群。

黒煙と熱気。

火災エリア上空。

落下先はコンクリの地面。

 

「紐なしバンジーとか無理!!」

 

咄嗟に装填したゴム弾を銃内部で伸縮性のあるゴムの紐に変える。

それを発射し、ビル屋上の手すりに結び付け、両手で銃を支える。

完全にはスピードを殺しきれなかったので、ゴムが落下の重さと体重の重みで伸び切ったその瞬間に、ゴムを弾に戻るよう転化させる。

ちょっと高い位置から地面に降りたので、足に衝撃が走ったが、折れてない。問題はない。

 

「無事か」

「死んだと思った!!」 

 

小声で叫び、声のする方を見れば、ちょっと土汚れた尻尾君がいた。

彼も着地に成功して無事だったらしい。

 

「尻尾君」

「尾白だ」

「ごめん、尾白君」

 

まだ痺れる太ももを拳で叩きながら周囲の状況を確認する。

目視の限り、(ヴィラン)の姿はない。

運がいいのか、転移先を(ヴィラン)のいるところという細かく設定できないのか、とりあえず運が良かったことにしておく。

 

「他の連中は無事か」

「見てない。バラバラに飛ばされたみたいだね」

 

USJは火災、水難、暴風・大雨、山岳、土砂、倒壊の6つのゾーンがある。

私たちが飛ばされた先は火災ゾーンで、私にとっては水難か暴風・大雨よりマシだったが、出入り口までは一番遠い。

 

「誰かが隙を見てここから他の先生を呼びに行くのか」

「いや、それじゃ時間がかかりすぎる」

 

まさか入学して数日で使うことになるとは思わなかった。

しかも学校内で。

首に掛けていたネックレスを引っ張り出す。

ドックタグのような銀のプレートに名前が彫り込まれている。

よくよく見ると二つのパーツがブロックのように噛み合わさったそれをねじり、スライドさせると半分が外れた。

 

「なんだそれ」

「緊急用救急救難信号装置。接続先から学校へ連絡が入るシステムになっている」

 

断面は黄色のランプが小さく光って消えた。

エラーだと青になるため、少なくとも信号は発信されている。

強力なGPSの独自回線を用いており、送信した信号が受信機に接続されず遮断されていれば接続不能エラーが出るというハイスペックな代物だ。

ちなみに使うのは今回が初めてだ。

 

「なんでそんなものを持ってんだ?」

「説明後。とりあえず中央に戻ろう」

 

(ヴィラン)の侵入した数が分からない。

二人というのは如何にも心もとない。

このあたり一帯のビルは火災で絶えず熱せられており、迂闊に触ると火傷する。火の加減と見晴らし、風向きも考えながら、通りを覗き見る。

 

 

比較的大きい通りにはナイフを持ったチンピラが闊歩していた。

あの黒いもやもやが(ヴィラン)を先回りして各エリアに配置していたらしい。

無謀なことをやっている割に最低限、足止め役を配置する頭は回るようだ。

狙いはオールマイトと言ってはいたが、あわよくば生徒を殺してセンセーショナルな事件にする愉快犯かもしれない。

 

「取り敢えず、あっちのビルに音響弾発射して注意を集める。集まってきた(ヴィラン)に見つからないように避けていくよ」

「分かった」

 

ビル影には、風の影響で煙が溜まりやすい場所もある。

このエリア自体、慎重に動かなくてはいけない。

合金をもう一枚、ジャケットのポケットから抜き出すとサイレンサーに転化して取り付け、装填していたゴム弾を音響弾に切り替える。

 

「いくよ」

「ああ」

 

パシュと空気が抜けたような発泡音の後に、入り口とは反対方向、ここから20mほど離れたビルから轟音が響く。

 

「なんだ!!」

「あのビルの中だ!!急げ」

 

チンピラたちは弾を打ち込んだビルに集まっていった。

ハンドガンだと射程がネックだ。

だが、材料を集めている時間はないので、離脱を急ぐ。

 

「よし」

「こっちだ」

 

尾白君が先頭、私が後方を確認しながらその場からできるだけ静かにその場を離れた。

 

 

 

 

音響弾で随分と人が集められたのか、落下した地点から火災エリアの出口まではほぼ1対2か、2対2の(ヴィラン)だったので、どうにか(ヴィラン)をやり過ごせた。

(ヴィラン)を呼ばれると面倒なので、できるだけ(ヴィラン)には遭遇しないように方向で進み、やむを得ない場合は一撃で静かにさせる。

 

ゴム弾は早々に使い切ったので、尾白君に気絶させられた(ヴィラン)の靴を強奪して、布弾とゴム弾に転化させる。

熱い地面を走りまわれないようにする目的もあるが、布とゴムで非殺傷性の弾ができ、手軽に調達できる材料がこれくらいしかなかったからだ。

(ヴィラン)が持っていたナイフを数本集めて予備のリボルバーに転化させて腰のホルスターに吊るしてある。

(ヴィラン)の臭い靴を転化させるのは非常に萎えるが、今は非常時だ。

 

 

中央に向かって走っていると、土砂ゾーンから特徴的な赤白半分の髪の男子が駆け下りてきた。

 

「轟!」

「無事みたいだな」

 

走りながら簡単に私と尾白君を上から下まで見て、視線を中央広場に戻した。

轟君も無傷みたいだ。

 

「なんとかね」

 

煤汚れてはいるが、二人とも致命傷はもらっていない。

 

「そっちも数だけ多いチンピラだった?」

「ああ」

 

ビル一棟凍らせられる轟君なら、平面の土砂ゾーン全体を凍らせるのもお手の者だろう。

土砂なら状態にもよるが、水分量はコンクリより多いはずだ。

 

「あいつらの策を聞き出した」

 

走りながら後方を確認しながら、状況を話し合っていると、どうやら轟君は尋問まで終わらせたらしい。

どの程度の氷結させたのかは言葉だけでは分からないが、体表だけ凍らせられても凍傷とか低体温で無傷ではいられないから、ゲロったんだろう。

 

「チンピラは俺らの足止め。オールマイト殺しは手を顔に貼り付けた細身の男が実行役らしい」

「秘策があるってこと?」

「具体的な方法は不明だ。集めたとはいえ三下相手に肝の作戦バラすわけないよな」

 

要するにチンピラは金で集められたか不満の捌け口をエサに集められたはいいが、良いように使われているということだ。

だが、これでオールマイト殺害の実行役は黒モヤと顔に手を貼り付けたハンドマンのと、脳みそむき出しの奴の可能性が高くなった。

黒モヤにワープで海中数キロに沈められたら流石にオールマイトでも水圧で死ぬ。……かもしれない。

 

ハンドマンと脳みその個性が分からないのは痛いが、オールマイトの超パワーを圧倒するような拘束術か何かを持っているのだろう。

もしくは生徒を人質に一人くらいするのか?

いや、オールマイトは今まで人質救助も多数している。

ただのパワーだけじゃなくて、あの見た目に違わぬ筋肉は瞬発性も兼ね備えている。

伊達でNo.1に長年背負ってきているわけではない。

考えたところで、可能性だけが過ぎていく。

 

 

そうこうして走っている内に中央の噴水が見えてきた。

 

「オールマイト?」

「だな」

 

砂煙がまるで爆弾でも落ちたかのように高く立ち上る。

オールマイトが脳みそ相手にバックドロップを決めたが、お互いその姿で制止している。

 

「ワープ野郎だな」

 

オールマイトの両手足をみると、影がやけに大きい。

ブリッジの体勢のまま身動きしない。

目を凝らすと脳みそ野郎が腰のあたりで体が消えて、頭がオールマイトの背後から脇腹を掴んでいる。

ワープ野郎が一部分だけワープさせてさっきのバックドロップをなかったことにしつつ、背後を取っていた。

 

轟君は一段と走る速度を上げた。

私も銃のセーフティを外す。

弾数は10発

リボルバーを銃弾に転化させれば、弾数は増やせるが、殺傷性が上がる。

実弾許可は今の私には下りていない。

どうすると悩んだのは一瞬。

 

走りながらに続けざまに連射し、ハンドマンを牽制する。

黒モヤは実体があるかさえわからないし、ワープで弾なんていくらでも転移させられる可能性があるので、仲間に狙いをつける。

倒せるとは思っていない。

 

一瞬の痛みに怯めば、相手の注意がこちらに引ける。

音に注意が向いたのか、私が銃を放った瞬間、轟君が地面に氷を走らせた。

 

「オールマイト!!!」

 

緑谷君が大声をあげながら黒モヤに突っ込んでいった。

馬鹿!と叫びかけたところで、黒モヤが爆発と共に横殴りにされた。

緑谷君ではない。

助走を付けた拳は爆豪君のものだった。

そのままの勢いで黒モヤを地面に押し倒している。

大きなバックルのような衣装のような襟のような物体を押さえつけているところを見ると、どうやら黒モヤは不定形に見えて実体を持っているらしい。

さらに切島君がハンドマンに殴り掛かったが、寸前で避けられた。

 

「平和の象徴はてめえら如きに殺れねえよ」

 

その間にも轟君がオールマイトにかからないように脳みそ野郎を凍らせていた。

拘束する力が緩んだのかオールマイトは一瞬でその手から抜け出す。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷。すごいなあ、最近の子どもは…

恥ずかしくなってくるぜ、(ヴィラン)連合…!」

 

なにやらハンドマンがぶつぶつと呟いている。

何発か当たったようだが、威嚇目的の殺傷性のない弾だ。

多少打撲痕が残っている程度で、平然としている。

 

 

私は銃を構えたまま、相手の動きを注視する。

私のGPS通信が届いていれば、そろそろ増援が来ても良い時間だ。

危機的状況に体感時間が長くなっているのか、やけに時間が経つのが遅く感じる。

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」

 

脳みそ野郎は凍っていた体を無理やり起こすと、体が半分崩れた。

よほど身体の深くまで轟君が凍らせていたせいだとは思うが、痛みを感じる素振りすらない。

それどころか欠損したところから筋肉が盛り上がるように再生している。

 

「皆、下がれ!!

なんだ!?ショック収集の個性じゃないのか!?」

 

さきほど戦っていたオールマイトにも動揺が見られる。

 

「別にそれだけとは言っていないだろう。これは“超再生”だな。脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」

 

嬉々としてハンドマンは脳みそ野郎について説明する。

完全に元の身体を取り戻した脳みそ野郎は人並み外れたスピードで爆豪君に突撃した。

吹き荒れる暴風に思わず、片膝をつく。

パンチの余波ですら、瞬間的に大型台風並みの風速が出ている。

 

「かっちゃん!!!よ、避けたの???すごい」

「違えよ、黙れカス」

 

すぐ横を見れば、爆豪君は五体満足。

次に土煙の先を見ると、ガードの構えのオールマイト。

20m近く飛ばされ、地面に足のブレーキ跡が残るほどの衝撃に、血反吐を吐いていた。

 

「……加減をしらんのか」

「仲間を助けるためだ。仕方ないだろう。さっきだってほら、その、あー、地味なやつ。あいつが俺に思いっきり殴り掛かろうとしていたぜ。

他がために振るう暴力は美談になるんだ。そうだろう?ヒーロー」

 

演説ぶったハンドマンは大手を広げる。

オールマイトが間に合わなければ、爆豪君はミンチかザクロになっていた。

背筋が凍るような圧倒的な暴力だ。

暴力の方向性が異なるだけで、これほど恐ろしいことになるとは頭では理解していたはずなのに、むざむざと突きつけられる。

 

「俺はな、オールマイト!怒っているんだ!

同じ暴力がヒーローと(ヴィラン)でカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!!

なにが平和の象徴!

所詮抑圧のための暴力装置だお前は!!

暴力は暴力しか生まないとお前を殺すことで世に知らしめるのさ」

 

「めちゃくちゃだな思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろう、嘘つきめ」

 

オールマイトの指摘に手の向こう側で濁った瞳がにたりと笑った。

 

「ばれるの早…」

 

どうやら本当に愉快犯の類のようだ。

それにしては、持っている力が異常だ。

特に脳無とかいう脳みそ野郎について個性の複数所持に改造された人間といった、なにやら聞き捨てられない単語が聞こえてきた。

しかも改造された(・・・)ということは、改造したのは少なくともハンドマンではない。

黒モヤのワープの個性も違う。

チンピラの中に紛れていた?

生徒も襲わせたのはついでではなく、改造のベース探し?

組織的な線もあり得る中で、まずはこの状況を突破しなければ話は進まない。

 

「3対6だ」

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた」

「とんでもねえ野郎だが、オールマイトのサポートすりゃ……撃退できる!」

 

轟君、緑谷君、切島君が口火を切る。

6というのは、私も頭数にはいっているらしい。

だが、ワープゲートが健在ならば飛び道具系の私は戦力外だ。

ワープで味方の背後に弾を飛ばされたら洒落にならない。

 

「ダメだ!!逃げなさい!!」

 

オールマイトが戦闘に入ろうとする私たちを制止する。

 

「……さっきのは、俺がサポートに入らなければやばかったでしょう」

「それはそれだ、轟少年!!ありがとう!!

しかし大丈夫!プロの本気を見ていなさい」

 

オールマイトは拳を握りしめる。

 

「脳無、黒霧やれ。俺は子どもたちをあしらう」

 

ハンドマンがこちらに突撃してくる。

だが、すぐさま飛び上がるようにして後退する。

ビリビリと肌を刺すような気迫がオールマイトから発せられている。

 

「ショック吸収ってさっき自分で言ったじゃんか」

 

オールマイトと脳みそ野郎の拳が重たい音を立ててぶつかる。

 

「そうだな」

 

オールマイトはいつものように不(ヴィラン)な笑みを浮かべている。

この危機的状況で、笑うのか……。笑えるのか。

「“無効”ではなく“吸収”なら限度があるんじゃないか!?

私対策!?

私の100%を耐えるなら、さらに上からねじ伏せよう!!」

 

一歩も近づくことができないような、超人的な速度と超人的なパワーの応酬。一発一発が必殺の威力を持っている。

オールマイトの口には血が更に滲んでいる。

大砲でも打ち鳴らすような低く重たい音が乱打する。

 

(ヴィラン)よ!!こんな言葉を知っているか!!」

 

一際体重の乗った一撃が脳みそ野郎の腹部に捻じ込まれる。

 

Plus Ultra(更に向こうへ)!!」

 

オールマイトの渾身の一撃を受けた脳みそ野郎はドーム状のガラス天井を突き破り、外へ飛んで行った。

乱闘の先にはまだ土煙が舞っている。

 

「ショック吸収をないことにしちまった。究極の脳筋だぜ。出鱈目なパワーだ。再生も間に合わねえ程どのラッシュってことか……」

 

漫画のような光景に切島君が呆然と呟いた。

轟君もあの爆豪くんですら口を閉ざす光景だ。

これが、プロ。

これがNo.1ヒーロー。

困難のその先を切り開く存在。

 

「やはり衰えた。全盛期ならば5発も撃てば十分だっただろうに…

300発以上も撃ってしまった」

 

にっかりと土煙の向こうでオールマイトの歯が輝いた。

 

「さてと(ヴィラン)。お互い早めに決着を付けたいね」

「チートかよ。衰えた?嘘だろ…

完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を……」

 

ハンドマンはブツブツと呪怨のように呟きながら頭を掻きむしっている。

 

「全然弱ってないじゃないか。あいつ、俺に嘘を教えたのか!?」

「どうした?来ないのか?クリアだとかなんだとか言っていたが、出来るものならしてみろよ」

 

オールマイトの眼光は鋭い。

あれだけの戦いをした後でもまだ一戦構えるつもりだ。

 

「くそう、脳無さえいれば‼!奴なら!!なにも感じずに立ち向かえるのに!!」

「落ち着いてください、死柄木弔。よく見れば、脳無から受けたダメージは確実に表れている」

 

ハンドマンは口元が手で隠れているし、黒モヤはそもそも口がどこにあるかわらかないので、更に聞き取りにくいが、黒モヤの視線がこちらを向いた。

 

「どうやら子どもたちは棒立ちの様子。あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうかが、私と死柄木で連携すれば、まだ十分にチャンスはあるかと……」

 

黒モヤはまだ続けるつもりだ。

 

「うん……そうだよな………そうだよ。

やるっきゃないぜ……目の前にラスボスがいるんだもの」

 

二人は足に力を込め、オールマイトに向かっていった。

 

「緑谷、種子島。主犯格はオールマイトが何とかしてくれる。俺たちは他の連中を助けに…」

 

横にいた緑谷君をみると、戦いを見ながら高速で何かを呟いている。

肩でも揺さぶろうかと思った瞬間、緑谷君が目の前から消えた。

ワープではない。

黒いモヤは見えなかった。

 

「オールマイトから離れろ!!」

 

緑谷君は黒モヤに向かって飛び出していた。

あまりに早く跳躍したせいで、消えたように見えたのか。

自由に動けない空中で殴り掛かるなんて無謀と銃を構える。

黒モヤの実体が分からないし、なによりこのままでは緑谷君に当たる。

黒いモヤの中から血色の悪い手が伸びたと思うと、1発の銃声。

モヤの中の手からは鮮血が飛び散る。

 

「種子島!」

「いや、違う」

 

私は撃っていない。

そもそも実弾は装填していない。

 

「1-A クラス委員長飯田天哉、ただいま戻りました!!」

 

大きな叫び声に振り向くと、USJの入り口にはプロヒーロー兼教員が10名に校長が並んでいる。

さきほどの銃弾はおそらくスナイプ先生であり、今も追撃を掛けている。

更になぜか背中がぼろぼろの13号が二人を吸い寄せるが、それより早く二人は分が悪いと流石に撤退を決めたのか、黒いモヤと共に消えていった。

 

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