並行世界の冬木市に迷い込んだ藤丸立香   作:クガクガ

1 / 21
序盤は前作とほぼ同じですが、変化しているところもあります。
『彼らの第五次聖杯戦争は終わらない』を読んでくれていた方もぜひ楽しんでください。


プロローグ 『観測者』

 「さらばだ藤丸立香。マシュ・キリエライト。お前たちの探索は、ここで結末を迎える!」

 

 人間ではない。人類を滅ぼす獣が玉座にて告げる。

 

 「いいえ、お任せください」

 

 少女は自らの主人に向かってそう言い、護る為に前へと進んだ。

 

 「ではお見せしよう。貴様等の旅の終わり。この星をやり直す、人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を!第三宝具、展開。 誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの。

 ――さぁ、芥のように燃え尽きよ!

 『誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』!」

 

 魔神王、ゲーティア。彼はその圧倒的な力を行使する。迎え撃つは盾を持つ少女。

 誰が見ても理解できる。あの光には敵わないのだと。

 しかし少女は盾を構える。

 少女の強い意志がそこにはあった。

 

 「……でも、ちょっと悔しいです。わたしは、守られてばかりだったから――最後に一度ぐらいは、先輩のお役に、立ちたかった」

 

 最後に見せたのは笑顔。かつてフランスの地でとある音楽家に言われた『別れの時は笑顔が一番だと』。だから最後の最後まで彼女は自らの主に笑顔を向けていた。

 少年の視界は光に包まれる。

 

 「――――終わりだ。予想通りの結末だったな」

 

 彼女が負けた理由。それは『マシュ・キリエライトはただの女の子だった』。それだけだ。

 

 「――――――マシュ……!!」

 残っていたのは盾。持ち主のいなくなった盾のみがその場に残されている。

 

 「守られてばっかりだったのは俺じゃないか………」

 

 「第三宝具、再装填。諸共に死ぬがいい。ああ、最後に殴りかかるくらいは許そう。貴様の気持ちは理解できる。マシュ・キリエライト弔いだ。その貧弱な人の拳で、我が体に触れて死ね」

 

 言われるまでもない。少年はそのつもりだった。

 

「上等だ――――!」

 

 知っている。無駄だってことは、勝てないってことは。でも抑えられなかった。自らの怒りを抑制できなかった。

 ここで誰かが止めてくれたのなら、踏みとどまれたのかもしれない。

 だがそんな都合のいいことはない。

 少年の拳は魔神王に触れる。全力の一撃。

 

 「――――!」

 

 「無力、実に無力だ。貴様という命はここで潰える。今度こそさらばだ、藤丸立香。人類最後のマスターよ」

 

 人の力で敵うわけもなく、傷一つつけられない。

 少年の命はそこで途絶えた。

 

 足りなかったのだ。数々の英霊と縁を結んだ彼にはあと一人、たったあと一人足りなかった。

 

 

 

 ――――ノイズが走る。

 

 

***

 

 

 「―――なに?」

 

 夜空の色に染まった、広い真球の部屋。その中央に浮かぶ異様な木製の椅子。そこに座る男が一人。 男の前には本が浮いている。手をかざすと本のページはひとりでにめくれ始めた。

 

 とあるページで動きは止まった。

 

 「これは…」

 

 想定外。まずこうなることを男は予想していなかった。

 

 「なぜ変化が起きた? この軸の聖杯戦争は終わり確定したはずだ。それに…他の軸からだと?」

 

 男は考える。

 

 「どうしたものか。この世界には一度干渉しているが、今回のこれは…儂が干渉することもできんな。こちら側にも影響を与えるとはなかなか…」

  

 どうしようもない。男は世界との接触すら許されていない。ただ観測するだけ、部外者でいるしかない。ここで無理やり世界に乱入すれば二つの軸が滅ぶ。男はそれを理解していた。

 

 「それにしても…」

 

 男―――カレイドスコープ、真の名を魔道元師キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。彼はその目で世界の行く末を見守ることにした。

 

 

***

 

 

 理想郷。かの王が死後にたどり着いたとされる夢の場所。

 

 「よりにもよって彼がいるそこか…」

 

 そこにそびえ立つ塔。周辺には美しい花々が咲き誇っている。

 

 「なんで引っ張られたのかはわからないけど、これも運命ってやつなのかな」

 

 魔術師は塔に幽閉されている。そのため誰にも自分の声は聞こえないと知っているが、無意識に独り言をつぶやく。もう癖なのでそれはどうしようもないことだった。

 

 「―――おかしい…。阻害されている?あれはそんなことまで可能なのか。流石は――」

 

 彼はその世界に行くことはできない。見ることはできても辿り着けない。

 

 「これは獣とは違う。成れの果て。あの王の目もあそこじゃ役に立たないな。まあ、元からか。―――さて、どうしたものか。最悪あそこにいる全員が……それは困るな。立香君に死んでもらってはあの世界も私も困る」

 

 魔術師は天井を見上げる。

 

 「…あの少年とあった時、君はどうするのかな。別の道を選んだアルトリア。ボクはそれを見届けるよ」

 

 楽園の端。花の魔術師はその世界の結末を見届ける。

 

 

***

 

 

 暗い(くらい)昏い(くらい)溟い(くらい)闇い(くらい)黯い(くらい)

 なんだここは、どこなんだ。

 知らない。こんなところは知らない。

 何故光がない。一面が闇に包まれている。

 

 いやだ。うるさい。黙れ。耳元で騒ぐな。干渉してくるな。邪魔だ。

 

 なんでこんなところにいるんだ。いや、待て。そもそも―――、

 

 「俺は誰だ?」

 

 頭痛がした。鈍器で殴られたかのような強い衝撃。それで思い出した。

 

 ―――ああ、そうか。そうだった。俺はあそこから…。

 

 「情報量が多すぎるせいか、記憶が飛んでたのか。大分時間がかかったようだな。どれ程時が経ったのか確認しなければ」

 

 

 彼らは先のことを考えていなかった。向こう側に行きつくことしか考えず、向こうには何がいるのかのことは頭にすらなかった。

 故に彼は門を抜けてきた。

 

 英雄でも人間でもない。

 そして獣ですらない。

 それが彼、何もない場所にいた虚無なる者。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。