並行世界の冬木市に迷い込んだ藤丸立香   作:クガクガ

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すいません。キンハーやってたり、パソコンがまたおかしくなったりして遅れました。この節は、リーパーとアサシンがメインです。


第七節 『魔人』 前編

 「どうやらただの人間ではないようだな」

 

 双剣を手にする士郎を見やるアサシン。

 

 「私はどちらの腕も使うことができないからな。これは骨が折れそうだ」

 

 言葉とは裏腹にアサシンの口調からは余裕が感じられる。

 

 「――アサシン…」

 

 一対一になって改めて確認できた。この髑髏の面をつけた暗殺者は第五次聖杯戦争で間桐臓硯のサーヴァントだったアサシンと同じ見た目だ。多少左右の肩幅がアンバランスなどの差異はあるがほぼ同じだ。

 

 (ひとまず…やるしかない)

 

 戦闘なんていつぶりだろうか。だがそんなことも考えている余裕は士郎にない。相手は左腕を失ってはいるがサーヴァントだ。常人が勝てる相手ではない。

 そんなことはわかりきっているのだ。だからと言ってここで死ぬわけにはいかない。

 

 「死ね」

 

 踏み込み、突進してくるアサシン。そして繰り出される蹴り。

 死に至ることはないだろうが、これをまともに食らうのは不味い。

 意識を集中させる。

 死を前に、士郎は冷静だった。

 

 ――ついて来れるか?

 

 脳内で再生される声。

 思い出した。あの男を、あの背中を。

 

 (――ああ…)

 

 一度入り込んできたものだ。忘れてはいない。

 完全な再現は現状不可能だ。だが限りなく近づける。

 

 「――!」

 

 姿勢を低くして蹴りを回避する。

 それだけではない。士郎はそのまま攻撃に転じた。双剣を切り上げる。

 

 「なかなかやるではないか」

 

 アサシンは自分の体を後方へ倒す。

 それによって刃がアサシンの胴体に届くことはなかった。黒衣の一部を切り裂いただけだ。

 

 「だが足りない」

 

 間もなく次の蹴りが士郎を襲う。

 今回は距離が近いために回避は間に合わない。

 

 「く――ッ!」

 

 なんとか腕で防御したが蹴りの威力は強く、そのまま士郎の体は数メートル吹き飛んだ。倒れることなく立っていられたのは奇跡だ。

 

 「終わりではないぞ?」

 

 命を奪うということに関してプロフェッショナルであるアサシンがこの状況で畳みかけないわけがない。

 士郎もそれを理解している。だから躱すことではなく攻撃することに意識を向けた。対面するアサシンのもとへと彼は走り出す。

 

 「面白い」

 

 軽く跳躍し振るわれた二本の刃を走り高跳びをするかのようにアサシンは避ける。

 背後を取られた。

 右足を突き出してブレーキをかけ、走りながら繰り出した攻撃の勢いを殺し、体を回転させた士郎は間髪入れず自分の背後を切り裂く。が、アサシンはいない。攻撃の気配を感じ取ったのか距離を少しとっていた。

 このまま持久戦に持ち込むのは得策とは言えない。なら速攻で片を付けるまでだ。彼は再びアサシンへ向かって走り出した。

 

 「死にもの狂いといったところか」

 

 何度斬撃を繰り出してもことごとく躱される。

 

 (まだだ…)

 

 手数をさらに増やす、何度も何度も双剣を振るう。

 

 (もっと速く…!)

 

 体内が熱くなる。全身を熱が駆け回っている。

 

 (最速を…!)

 

 速度を上げる。上へ、さらに上へと自らを高める。自分の出せる最速を食らわせるのだ。

 

 (届かせる!!)

 

 この手に握る刃を確実に切り付ける。

 全身全霊をかけて――

 

 「――無駄だ」

 

 蹴りではなく、今まで使われてこなかった布を巻かれたアサシンの右腕が士郎の腹部を強打した。

 

 「が――ッ!」

 

 クリーンヒットだったために威力が先程の蹴りの比ではない。胃液を吐き出しながら士郎は数メートル転がる。

 

 「無茶で、無理で、無意味だ。それなりに動けるようだが貴様の攻撃が届くことはない」

 

 士郎を見下しながら、アサシンは右手を封じる布を外す。

 

 「貴様の心臓、貰い受ける」

 

 黒衣の隙間から姿を見せる赤黒い腕は異様と呼べるほどに長い。

 この状況が、不味いことは当然士郎も理解しているが、痛みのせいでまだ自由に体を動かすことができない。

 

 「宝具――」

 

 赤黒かった腕が不気味に発光する。

 

 魔神、シャイタン。その片腕が彼の宝具。それを使用した技の名を――

 

 「――妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 呪われた腕が士郎へと向けられる。

 

 (早く動かないと…!)

 

 間違いなく死ぬ。あの手に掴まれれば命はない。

 だが、士郎目がけて向かってくる腕は速い。理解できていても間に合わない。

 

 触れる。魔神の腕が少年を間もなく呪い殺す。

 

 「…させねえよ」

 

 寸前。赤い槍が腕を弾き飛ばした。

 

 「お前…」

 

 「よぉ、坊主。怪我ねえか?」

 

 士郎の前には槍兵が立っていた。

 

 

***

 

 

 場所は変わりいくつもの墓の並ぶ墓地。

 

 「――チッ」

 

 自然と漏れる舌打ち。

 アルトリアオルタは苦戦を強いられていた。

 パワーは明らかに上回っているというのに押し切ることができない。このリーパーというサーヴァントは巧い。強者との戦い方というのを熟知している。

 

 聖剣を振るう。だがやはりリーパーを捉えることはできない。代わりに彼の握っていた黒鍵が弾け飛ぶ。

 

 「――これで何本目だ?」

 

 何度へし折っても黒鍵は彼の手に握られたままだ。常に片手に三本、両手を合わせて六本の黒鍵を彼は持っている。

 

 「――――」

 

 「お喋りは嫌いか?」

 

 情報が引き出せるかもしれないとコミュニケーションを試みるも、リーパーが声を出すことはない。口を閉ざし、正面にアルトリアを見据えたままだ。

 

 「まあ、私も好きな方ではないがな」

 

 視界からアルトリアが消える。彼女はリーパーの懐へと潜り込んでいた。

 聖剣を振り上げる。

 並のサーヴァントなら死ぬ危険性すらあるこの攻撃。リーパーは最低限の動きでかわして見せた。そして彼はそのまま攻撃に転じる。左手に握る黒鍵でアルトリアを切り付ける。

 

 「…ッ!」

 

 完全な回避は間に合わず、彼女の右肩のあたりには三本の切り傷が刻まれた。

 すぐに彼女はその場から飛び退く。

 

 「…貴様は何なんだ。リーパーなんてクラス聞いたことがない」

 

 「――死神。ただの生命を奪うだけの存在だ」

 

 ようやく発せられた声はやはり低く冷たい。

 死神と言われても納得できてしまう程に彼は死をまとっている。しかしその姿は――

 

 「――!」

 

 意識を戦闘からリーパー自身へと向けていた間、その刹那に投擲が行われていた。そのタイミングを狙っての攻撃、もはや人のなせる技ではない。

 戦いだけではない。人の殺し方をこのサーヴァントはわかっている。

 

 当然アルトリアは対処をする。剣を引き上げ、顔面に飛んでくる黒鍵を防御しようとした。しかし彼女は焦っていたために失念していた。つい先ほど聖剣を握る右手に繋がる肩が斬られたことを。

 

 「しま――」

 

 腕が上がらず、防御できない。

 

 額に投擲剣が到達する――ことはなかった。

 どこからか投げられた剣が黒鍵を粉砕したのだ。

 

 「無事ですか、アーサー王」

 

 場違いな軽い調子の声はアルトリアへ向けられたものだった。

 

 「…ベイリン」

 

 「どうも」

 

 双剣の騎士、ベイリンの姿がそこにはあった。

 

 「――――」

 

 死を纏う男はフードの下で目を細めていた。

 

 

***

 

 

 「貴様は…」

 

 「悪いけどよ、この坊主を死なせるわけにはいかないんだわ」

 

 クーフーリンの服装はアロハシャツからいつもの戦闘服へと変わっていた。

 彼は赤い槍の刃先をアサシンへと向ける。

 

 「――お前は殺すけどな」

 

 「………」

 

 応答はない。無言でアサシンは先程弾かれた自分の右手を眺める。

 

 (呪腕…)

 

 カルデアにも同じ筆を宝具とするサーヴァントはいる。つまりクーフーリンは彼の宝具が初見ではない。だというのに違和感がある。あの腕は危険だという危険信号を彼の内側の何かが叫んでいる。

 

 「ハッ、もしかしたらここの俺はお前なんかにやられたのか?」

 

 明確にそんなものが記憶として残っているわけではない。けれどそんな可能性が頭の中をよぎった。

 

 「三騎士……分が悪いな」

 

 ただでさえアサシンクラスが三騎士と正面から戦闘を行えば不利だというのに、今の彼は腕を負傷している。勝てる可能性は皆無に等しい。

 故に、彼は距離を取るために後方へと跳躍した。

 

 「だろうな。でも…逃がさねえよ」

 

 「――――」

 

 ほんの一瞬。アサシンの想定よりも早くクーフーリンは距離を詰めた。

 矛先はすでに髑髏の仮面へと突き進んでいる。

 しかし――

 

 「――!」

 

 寸前のところで槍は止まった。もちろんクーフーリンの意思で止まったわけではない。止められたのだ。

 

 (シャドウサーヴァント…!? いや、違う…!!)

 

 地面から突き出た数本のぼやけた腕がクーフーリンの足を掴んでいた。

 人でも、宝具でもない。シャドウサーヴァントでもない。しかし、それは紛れもなく人間よりも上位の存在の腕。

 

 「てめぇ!!」

 

 「――やはり用心というのは怠るべきではないな。――ランサー、貴様の心臓を貰い受ける」

 

 念のための策が功を奏した。

 赤黒い腕が、発光する、

 

 「苦悶を溢せ――妄想心音(ザバーニーヤ)…!」

 

 「チッ!」

 

 動かないのは足だけだ。手はまだ動かせる。

 槍を薙ぎ払うように振り、呪腕を退ける。ギリギリではあったが、何とか防御ができた。

 このまま足を掴む手を切り落とし、再度攻撃を仕掛ける。

 そのつもりだった。

 

 「…ふむ。仕方あるまい」

 

 弾かれたというのにアサシンは余裕だ。動じた様子を見せない。

 

 「――苦渋を散らせ――」

 

 再び冷たい声で放たれる言葉。異様な空気が場を包む。

 

 もしもの話だ。

 もし、彼が魔神の力を手に入れるために差し出したのが、右腕だけではなかった場合、他のモノまで代償として差し出していた場合、彼が得たのは呪われた右腕だけだっただのろうか。

 

 ――答えは否である。

 

 「――妄想心音・邪(ザバーニーヤ)

 

 彼の黒衣、不自然に盛り上がっていた部分が破かれる。いや、その肩から生えている三本目が黒衣を突き破り姿を見せた。

 

 「もう一本…!?」

 

 アサシンの右半身が呪腕のハサンと比べ、おかしい形をしていることには気づいていた。当然違和感を感じていたが、まさか右肩から左腕が生えているなんて誰が想像できるだろうか。

 

 三本目の腕は右腕よりも素早く動く。

 触れられれば、呪殺。その効果は変わらない。

 

 (やべぇ…!)

 

 もう一度防御しなければ死ぬ。

 振るった槍を引き戻そうとした瞬間、槍を掴んでいた腕の動きが止まった。

 

 「!?」

 

 顔も何もない人の影が、地面から這い出てきた黒い異形が、何者でもない存在が、クーフーリンの腕を掴んでいた。

 

 「くそがっ!!」

 

 防御不可。

 死は眼前にある。

 腕に触れられ、クーフーリンは――

 

 「――助けに来たっていうのに自分が死にそうになってるだなんて笑えないな」

 

 死亡しなかった。

 触れる前に、彼の槍で切断することのできなかった呪いの腕は、一本のナイフによって容易く切り落とされた。いや、その腕は『殺された』のだ。

 

 「ギイィィィィ…ッ!!」

 

 ようやく悲鳴と呼べる声をアサシンが上げた。

 切断面からは大量の血が噴き出ているのだ。その奇声じみた叫び声にも納得がいく。

 

 「逃がすか」

 

 後退するアサシン。好機だ。突如現れた少女は追撃を加えようとする。が、アサシンの素早さ、距離、そして彼女自身の間合いから考えて斬撃は届かない。けれどナイフを届かせる方法はある。

 

 少女は手に持つナイフを跳躍しているアサシンへ投げつけた。放り投げたといったほうが正確かもしれない。

 普段の彼なら空中だろうと身をひねり、投擲ぐらいは躱せていただろう。しかしそうはならなかった。暗殺者としてこれまで使用してきた腕を失ったことで彼は冷静ではなくなってしまっていた。

 少女のナイフは寸分の狂いなく、正確に暗殺者の額に命中し、死の線を切り裂いた。

 

 ――――直死

 

 その一撃でアサシンは絶命した。

 少女――両儀式がアサシンを殺したのだ。




アサシンさんに関しての説明は本編で詳しく書くことなさそうなので、気が向いたら後書き、もしくは番外編で登場した時にでも書きます。
あとリーパーくんの投擲方法は、どこぞのカレー好き代行者と同じです。

後編は明日か明後日です(多分)。
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