「なんか…もう慣れたよね」
「大丈夫か、マスター。目が死んでいるぞ」
赤い外套の弓兵、アーチャー・エミヤと同じくアーチャー・巴御前。彼らが、もう疲れた、というような目をしているマスター藤丸立香に対して心配…というより同情をする。
「ああ、うん。ありがとうエミヤ、巴さん。――何でこんなところに来ちゃったのかな…」
辺りを見回す。視界に入るのは緑と茶色。360度この色たちに囲まれている。要するに彼らがいるのは森である。
彼らは今尚燃え続ける冬木に現れた謎の反応の正体を確認するためにレイシフトしたはずなのだが、気がつけば見知らぬ森にいた。
「マシュとダヴィンチちゃんからの応答はなし。いつも通りカルデアとの連絡は取れない…か」
「この頃は災難ばかり続いているな。夢の中で別の世界へ行って戦ったり、あのハロウィンがあったりと」
「はぁ…」
エミヤの言葉を聞いて今年の出来事を振り返った立香はため息をついた。
「にしても立香。今回は大所帯だな。去年の夏思い出すぜ」
木に体を預け座っている全身青タイツの男。ランサー・クーフーリンの言う通り連れているサーヴァントの数は多い。
「なぜかあの時のことをいい思い出みたいな感じで言ってるのかは置いておくとして、兄貴の言う通り多いね。今回は、兄貴、エミヤ、黒エミヤ、アルトリアとジャンヌ…って、なんで二人ともその服なの?」
ここで言っているアルトリアとジャンヌというのはオルタの方だ。オルタではない方はどちらもいないのでオルタと付けて呼んでいない。そんな二人の服装が変わっていることに気付く。
「この服の方が楽で落ち着くからな」
「私もこっちの方が身軽だから着替えただけです」
「そうなんだ。確かに二人ともカルデアにいる時もその格好だったりするよね」
アルトリアとジャンヌは現代風の黒い服に身を包んでいる。それは新宿で出会った彼女たちが来ていた服だ。厳密に言えば別人である彼女たちも、その時の服装は気に入っているらしくカルデアでも同じ格好で歩いていることは珍しくない。
「それで、あとのメンバーは巴さんとクロとエルキドゥと王様。俺入れたら合計十人だね」
人数は多いが去年の夏と違い女性よりも男性の方が多い――どちらかわからないのがいるが――ので立香的には気持ちが楽だった。
「マスター。僕はレイシフト事故に遭遇の初めてなんだけど、どうすればいいのかな?」
「うーん。いつも通りなら何らかの原因があるからそれを探して解決するって感じかな」
「なるほど。なるべくマスターの役に立てるように頑張るよ」
「私も実は初めてなのよね。イリヤがいないから代わりに向こうに戻るまでは魔力供給お願いね、マ――」
「よろしくね、エルキドゥ。頼りにしてるよ」
ランサー・エルキドゥは頼りになる存在だ。彼がいるのは心強い。
アーチャーのクロエ・フォン・アインツベルンの言葉には立香は触れない。というか無視をした。
エルキドゥの横にいる慢心王こと、アーチャー・ギルガメッシュは特に何か言葉を発することなく、何もない方向を眺めている。
アーチャー・エミヤオルタは会話に参加せずに一人離れた場所の木に寄りかかって目を瞑っている。
「――まずここがどこかの確認をしようか」
ずっと同じこの場にいるわけにもいかないのでひとまず現在地を確認する。
「変な時代に飛ばされてなければいいんだけど。――エミヤ、木に登って周りの様子見てきてくれる?」
弓兵は目がいい。エミヤなら木に登り上から周囲の様子を詳しく見ることができるだろうと、偵察を頼んだ。
「エミヤ…?」
「ん? ああ、すまない。話を聞いていなかった。もう一度言ってくれるか?」
「木に登って周りの様子を見てこいだとよ」
「了解した。すぐに見て来よう」
クーフーリンから立香の命令を伝えられるとすぐに周辺に生えている木の中で一番高い高木へと跳躍した。
「エミヤ殿が聞き漏らしなんて珍しいですね」
「うん」
しっかり者で一部ではおかんなんて呼ばれているエミヤが指示を聞いてすらいないなんて今までで一度もなかった。
「――そうね」
クロエは跳躍したエミヤを目で追っていた。
「なあ、立香」
「どうしたの?」
「いやな、森に来た時から思ってたんだけどよ。ここなんかおかしいぜ?」
クーフーリンは森に対して違和感を持っているらしい。
「エルキドゥ、探れる?」
エルキドゥのスキル『完全なる形』なら大地の様子を把握できる。
「うん。おかしいね。ところどころ何か巨大な生物が暴れたんじゃないかっていうぐらい木々が荒らされてる。理性のないバーサーカークラスのサーヴァントが獲物を追って暴れまわったみたいな感じだね」
エルキドゥは森の全てが見えているかのように説明する。
「――止まってるね。すぐそこの開けた場所で破壊が途切れてる」
立香の背後をエルキドゥは指差した
「私が見て来よう」
アルトリアがエルキドゥの示した方向へと、急ぐ様子もなく歩いて行く。
「マスター」
アルトリアと入れ替わるように偵察に行ってもらっていたエミヤが戻ってきたが、様子がどこかおかしい。
「どうだった?」
「私たちがいるのは……」
一度言葉が途切れた。話すのを躊躇ったと言うよりも、何かを思い出して言葉が詰まったようにも見えた。
「――ここは私たちが目的地としていた冬木市だ」
***
「士郎。私とサクラは夕食の食材の買い出しに行ってきます」
「はい、そのついでに補充し忘れてた日用品も買って来ようと思ってるんですけど、何か欲しいものはありますか?」
モデルのような美しい体系で長身の美女。そして髪を腰のあたりまで伸ばした美少女。この二人が居間に入り、そこに座りテレビを眺めている家の主人に声をかける。
「俺は大丈夫。遠坂は?」
傍に座る綺麗な黒髪の少女に目をやる。
「私も大丈夫よ。士郎たちがちゃんとロンドンから戻ってくる前に用意してくれてたみたいだし」
「わかりました。では行ってきますね」
「そうだ、桜。俺はこれから柳洞寺に行くから二人が帰ってくるときにいないかもしれない。そうだ、どうせなら遠坂も行くか?」
「そうね…私も行くわ。久しぶりに柳洞君をからかいたいしね」
「わかった。桜、そういうことだから誰もいないかもしれない。よろしくな」
「了解しました。それでは行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
二人が居間から出て行くのを少年は見届ける。
「やっぱりあの子元気になったわ。よかった。正直心配してたんだから」
「遠坂のおかげだ」
「私は何もしてないわ。あなたやライダーが傍にいてくれたからよ」
桜と呼ばれている少女は変化した。見た目の話ではなく、内面的な話だ。強く、いい方向へと成長できた。
「―――俺たちも行くか。桜たちが帰ってくる前にさっさと用事を済ませよう」
「そういえば士郎、なんで柳同寺に行くのよ」
「ほら、昨日言ったろ? 一成に檀家のお供え物分けてもらったって、あの時急いでたからちゃんとお礼できなかったんだよ。だから今日はちゃんとお礼しようと思って」
なるほどね、と少年が言った理由に少女は納得する。
「ちょっと出かける準備してくるから先に玄関で待ってて」
「了解」
少女も居間から姿を消した。
「よし」
少年は見ていたテレビを消し、立ち上がる。
「最近はいい天気が続いてるな」
寒い冬から季節は変わりもう春も半ばに突入する。櫻が咲き町を鮮やかにしている。外はもう寒く感じることはなくなった。厚着をしなくても十分出歩くことができる。
「行くか」
少年も居間を出て少女を待つために玄関へと歩く。
二年前、聖杯戦争という名の絶望は終わり、少年―――衛宮士郎たちの物語も終わる。 ―――そのはずだった。
立香が連れてきたサーヴァントは変わってません。一人減らす予定だったのですが、結局やめました。
中編はなるべく早く投稿します。