並行世界の冬木市に迷い込んだ藤丸立香   作:クガクガ

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三か月ぶり以上の更新です。久々に覗いたらお気に入りの数が300超えてたんで、流石によし書くぞってなったんですけど、まず自分がどこを書いているのか把握をするまで時間がかかりました。

後書きに今後の投稿について書いておきます。


第九節 『頬を伝う涙』

 「帰ってきて早々で悪いんだけど、会議よ」

 

 鍾乳洞から帰還後、衛宮邸に到着すると凜は言った。

 

 帰ってきて、それも敗走して、すぐではあるが何の報告もせずゆっくりとしている場合でもないので仕方がない。居間には、留守番だったサーヴァントたち、新都の方向に行っていた士郎たちもいた。桜はというと苦しみだしてから気を失ったため、現在は自室で眠っている。

 

 「と言っても正直打開策なんて思いつかないんだけどね。まあ、情報共有だけでもしましょう。あいつについての共有はしておいた方がいいだろうから」

 

 敵の存在があまりにも大きく、未知数だった。

 御三家の末裔といえど、ヴァニティなどという正体不明の存在の対処法など凜には思いつくはずもない。

 

 「つっても俺らの方は大した報告できねえぞ。敵のアサシンが死んだくらいだ。リーパーとかいう奴は逃がしたみたいだしな」

 

 クーフーリンは視線をアルトリアオルタへと向ける。

 すると少々複雑そうな顔をした後に、口を開いた。

 

 「…リーパーを逃がしたのは私の落ち度だ」

 

 あの時、リーパーを逃がした。

 止めることはできたかもしれないが、彼女は追わなかった。

 彼の素顔は、よくアルトリアの脳裏に焼き付いていた。

 

 「リーパーっていうのは、特別なクラスって認識でいいの?」

 

 「俺も知らないクラスですけど多分そうだと思います」

 

 英霊というシステムについて立香はすべて把握できているわけではない。知らないクラスがまだあっても何ら不思議ではない。

 

 「リーパーについては二刀流の奴が知ってるみたいだぞ」

 

 一応話し合いの場にはいるベイリンへと視線が集まった。

 双剣の騎士はため息をつくと言葉を発する。

 

 「…言っとくが、お前たちに有益になるような情報はないぞ。あいつとは少し顔を合わせたことがあるだけだ」

 

 多少違いはあるが、実際のところ有益になる情報はほぼないのは事実だ。以前体験して記憶したリーパー近距離での戦闘スタイルなんて言ったところで意味がないのは目に見えている。それを利用し戦って、先ほど負けそうになったのだから。

 

 「まあ、一つ言えるのはあいつとは一対一で戦わない方がいいってことだ。初見だとまず勝てない」

 

 おそらく英雄などではないリーパーは、殺すことに長けている。殺し方…生命の終わらせ方というのを熟知している。

 以前彼と対峙したベイリンはそれを理解していた。

 下手をすれば殺されていたかもしれないのだから。

 

 「…わかったわ。リーパーについてはとりあえず保留しましょう」

 

 知る者がいないのならば諦めるしかないだろう。話を次へと移そうとしたところで式が口を挿む。

 

 「――おい。その前にあの二人はどうしたんだ?」

 

 静かで、真剣な口調で式は誰も触れていなかったことを口にした。

 それを聞いた立香は俯く。

 そんな彼をジャンヌオルタは横目で見ていた。

 

 「私たちを逃がすために残ったわ」

 

 「つまり死んだのか?」

 

 ベイリンがストレートに尋ねる。

 

 「…かもしれない。見てないからまだ確定はしてないわ」

 

 「それは根拠のない希望か?」

 

 「ええ、全くないわ」

 

 「………」

 

 きっぱりと凜は答えた。

 凜は信じることしかできないことはわかっているのだ。さらに言えばおそらく彼らが無事ではないであろうことも。

 

 「あいつらがやられたかもしれないってことは、お前らが行ったところにいた奴は相当強いのか? 黒幕なんだろ?」

 

 クーフーリンの問いにジャンヌオルタが答える。

 

 「黒幕だって断言はできないけど、強いわ。尋常じゃない力を持ったセイバーのサーヴァントを従えてた上に、重力操作の宝具を使ってた」

 

 「宝具? そんじゃそいつもサーヴァントなのか?」

 

 「ヴァニティだとか名乗ってたけど、サーヴァントかどうかは正直わからない。重力操作の宝具って言っても自分のじゃなかったみたいだし」

 

 聞いたこともないエクストラクラスだ。実在するのかどうかも判断のしようがない。

 

 「気になることがあるのですが、そのヴァニティとやらはどこから魔力を調達しているのですか? 少なくとも四体以上は同時にサーヴァントを従えていたことになると思うのですが…」

 

 アサシンは消滅したが、彼が消える前の時点で他にもリーパー、セイバー、そして昨夜現れたヘラクレスがいた。つまりは四体以上のサーヴァントを同時に使役してたことになる。

 

 「――桜よ。ヴァニティは桜から魔力を無理やり吸収してるみたい」

 

 「なるほど…。やはりそうでしたか」

 

 メドゥーサは、深刻な顔で口にされた凜の言葉に納得していた。

 彼女は倒れた桜に触れた段階で、魔力の流れの異様さに気付いていたからだ。

 

 「桜から…? どういうことだよ、遠坂」

 

 士郎が問い詰める。

 

 「あいつは自分を魔力を際限なく吸い上げる存在だって言ってた。それでこの街で一番魔力の保有量の多い桜を選んだって」

 

 「――どうにかならないのか?」

 

 「するわよ。放置はできないもの」

 

 このまま桜を放置すれば取り返しのつかないことになる。

 

 「もしどうにもできなかった場合はどうなるのですか?」

 

 メドゥーサが気になっていたことを尋ねてきた。

 

 「――体から流れ出る魔力に耐えきれなくなって、壊れるでしょうね。体も、命も」

 

 「――――」

 

 桜の苦しみ方が尋常ではないことから、それはメドゥーサも予期していたことだった。あのままではいつか体が持たなくなると。

 

 「しかも桜が耐えきれなかった場合、膨大な魔力が世界に放たれる。マナの量が現代のものではなくなるわ。一般人が生きてられなくなる」

 

 隠していても意味がない。これは情報の共有なのだ。

 凜は正直にすべてを口にした。

 その結果おと擦れたのは沈黙。全員が黙り込んだ。

 その静かな間を経て最初に言葉を発したのはアルトリアオルタだ。

 

 「私たち全員で攻撃を仕掛けても勝機はないのか?」

 

 「――シャドウサーヴァントみたいなやつじゃないリーパーとセイバーは確実にいるとして、そこにヴァニティを入れると敵は最低でも三体になる。で、私たちのサーヴァントの数は十体。まあ数では有利だけど…」

 

 「勝てる気がしない、か?」

 

 「そうね…」

 

 セイバーの強さを目にし、ヴァニティの未知数で不気味な力を目にしたジャンヌオルタには、彼らに勝てるビジョンが浮かばなかった。

 

 「――もう無駄だな…」

 

 ベイリンはそう呟くと寄りかかっていた壁から離れ、居間の外の廊下へと歩き始めた。

 

 「どこ行くんだ?」

 

 「さあな。とりあえず外に出る。何にも情報を得られないならここにいても無駄だからな」

 

 ベイリンは居間から出て行った。

 

 「――ベイリンの言うとおりね。もう特に情報は得られそうにないし、今日は休みましょう」

 

 生産性のない会話をしたところで、ベイリンの言った通り無駄でしかない。凜の判断でこの日の話し合いは終了した。

 

***

 

 「どうするか…」

 

 夜道を歩くベイリンはこれから自分がどう動くべきなのか悩んでいた。

 正直なところ別に立香たちに手を貸す必要はないのだ。なぜなら協力をする理由がないのだから。

 

 「まあ、でも…」

 

 先ほど、リーパーとの別れ際のやり取りを思い出す。

 

 

 

 『これが俺の顔だ。こちらも暇なわけではないからもう行く』

 

 フードを被りなおすと二人にリーパーは背を向けた。

 アルトリアは言葉を発せず、ベイリンもそのまま何も言う気はなかった。

 このまま彼は去っていくのだろう。そう思った時だった。

 

 『――砂川愛梨が言っていた。…ありがとう。私の騎士であるあなたのことを絶対に忘れない、と』

 

 『……お前』

 

 今度こそリーパーは姿を消した。

 

 

 

 「ありがとう…、ありがとう、か。言うなって言ったのにな」

 

 ベイリンは『ありがとう』という言葉があまり好きではなかった。

 できれば二度と聞きたくもなかった。

 なのに、彼の主は…

 

 「はっ、やっぱりバカだ」

 

 彼の頬は綻んでいた。

 

 「――そんじゃ、あいつの騎士として動くとするか」

 

 彼は仕える者。

 故に、動く。主の命令通りに。

 

***

 

 深夜三時。

 もう人間である彼らが寝付いたころ。エミヤオルタは一人縁側に座っていた。

 理由はよくわからない。しかしなぜかそこに座っているのが気持ちよく、彼はこれ以上ないほどに心が落ち着いていた。

 

 「………」

 

 全員寝たと思っていたがどうやらそんなことはないようだった。一人何者かが彼に近づいてきていることに気付く。

 その人物は桜だった。夜中だが月明かりのおかげで彼女の顔はしっかりと見える。

 二人の目が合った。

 

 「えっと…、こんばんは」

 

 桜は彼がいるのは予想外だったので当然驚いている。しかし声を出すほどびっくりしたわけでもなかった。

 

 「お前は…間桐桜か」

 

 手帳を開いて名前を確認した。

 

 「はい。あなたは…アーチャーさんですよね」

 

 「ああ」

 

 凜からどんな人物なのか話は聞いているが、桜は初めてエミヤオルタと顔を合わした。

 

 「アーチャーさんは何を?」

 

 「特に何もしていないが、強いていうのなら日記をつけていた」

 

 エミヤオルタの昨日の記憶は既に薄れ始めていたが、ここで日記に役に立った。日記がなければ名前すらわかってなかったかもしれない。

 

 エミヤオルタの記憶がなくなってしまうことについて、桜は凜から聞いているので一応把握してはいた。

 

 「――――」

 

 沈黙。桜はエミヤオルタを視認してからずっと同じ位置に立っている。彼も同じで縁側から動いていない。ここからどうしたらいいのか桜が考えていると、

 

 「お前は何をしているんだ」

 

 エミヤオルタの方から話を切り出してくれた。

 

 「――その…なかなか寝付けなくて……」

 

 二時ほど前に目が覚めた彼女は、なかなか再び寝付くことができなかったため縁側に来た。二年前衛宮邸を完全な自分の帰るべき家としてからこの縁側に来ることは少なくない。座っていると心が落ち着くのだ。

 

 「気を失っていたようだが、大丈夫なのか?」

 

 「は、はい。一応問題ない…と思います」

 

 起きてから違和感も痛みを感じる箇所もなかった。

 

 「そうか」

 

 「――――」

 

 「――――」

 

 もう話すことがなくなってしまった。

 仕方ないことだ。二年前以降変化はあったが、桜は元々自分から誰かに話しかけるような性格ではないし、エミヤオルタも基本的に無口なのだから。二人の間で絶えず会話が繰り広げられるなんてことはまずありえない。

 

 「あ、あの…」

 

 またしばらく沈黙が続いたところで今度は桜からエミヤオルタに声をかけた。

 

 「なんだ?」

 

 「よかったら私の作ったお味噌汁飲みませんか? 夕食の分が余っているので…」

 

 サーヴァントも食事をすることができるのは知っている。余りものだがよかったら食べないかという桜の気遣いだった。

 

 「――――」

 

 サーヴァントの中には確かに食事を楽しむ者はいるが、エミヤオルタには料理を楽しむための味覚がない。いや、なくなった。

 それを桜は知らない。

 

 「――もらおう」

 

 気持ちを無下にするのは申し訳ないのでいただくことにした.

 

 「よかった! 温めるのでちょっと待っててくださいね」

 

 桜は喜んでいるようだった。味噌汁を温めるため台所に向かう。

 

 悪気はないのはわかっている。知らないのだから仕方がないことだ。だが普段のエミヤオルタならこれを断っていたのに、なぜか今回はそれを受け入れた。

 

 「…あ、こっちまで来てくれたんですね」

 

 しばらくしてエミヤオルタは縁側から立ち上がり居間の方へ向かった。足は迷いなく進んでいき、いつも衛宮士郎が座っている座布団に腰を下ろした。

 

 「どうぞ」

 

 ちょうど味噌汁が温め終わったタイミングだった。桜は味噌汁を入れたお椀が箸と共にエミヤオルタの前に置かれる。

 

 「箸は使えますか?」

 

 「問題ない」

 

 エミヤオルタの姿からして日本人ではないと桜は思っているのでそう質問した。日本出身のサーヴァントでなくとも聖杯によって知識は与えられているので、箸の扱いは問題なかったりするのだが、その辺を桜は把握していない。というより忘れている。

 

 味噌汁は温めたばかりのため白い湯気が上がっている。具はワカメや豆腐など王道なものだ。

 

 まずはお椀を口に近づける。そのままお椀に入っている汁は一口エミヤオルタの口に運ばれる。

 

 「――――」

 

 汁が染み込むように体の中を流れていく。熱い。味噌汁の熱さではなく何か別のものの暖かさだ。曇っていたものが晴れていくようだった。

 

 「アーチャー…さん…?」

 

 涙が一滴、頬を流れ落ちていた。

 

 「お、美味しくありませんでしたか!?」

 

 「いや、違う。そうじゃないんだ…」

 

 エミヤオルタ自身にもなんで涙が流れたのかわからない。

 

 また一口、味噌汁を飲む。

 

 「――美味しい…」

 

 声が漏れる。

 エミヤオルタには変わらず味覚はないので味を感じ取っているわけではないが、その味噌汁を美味しいと思った。

 

 「――よかったです」

 

 口に合わなかったのかもしれないと焦ったが、そうではなかったようなのでひとまず安心した。

 

 「………」

 

 剥がれ落ちていったモノが戻ってきているようなおかしな感覚。不思議ではあるがそれが心地よかった。

 

 エミヤオルタは桜の作った味噌汁をすべて飲み干した。

 

 

 

 

 ――何かがおかしい。




特に進展なし。
まず書き始めて最初に思ったのはベイリンって誰だよってことでした。
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