並行世界の冬木市に迷い込んだ藤丸立香   作:クガクガ

3 / 21
第一節 『別の軸』 中編

 「冬木市か…。ならレイシフトは成功したの…?」

 

 実際に行ってはないが、冬木市に森は確かにある。確認済みだ。エミヤが言うのならば冬木市であるのは間違いないのだろう。

 

 「成功したと言っていいのかわからない。ここは私たちが目指していた冬木市ではないからな」

 

 「どうなってた?」

 

 「いたって平和な街だよ。目視できる限りではな」

 

 「――別の冬木…」

 

 冬木市には来た。が、彼らが目指していた冬木市ではない。全く別の冬木市へと彼らは訪れてしまった。

 

 「立香。戻ったぞ」

 

 「早かったね」

 

 「すぐそこだったからな」

 

 思いのほか早くアルトリアは戻ってきた。

 

 「エルキドゥの言っていた通り開けた場所はあった。そしてそこには地割れが起きたような窪み、それと戦闘跡があった」

 

 「戦闘跡?」

 

 「ああ。戦闘跡だ。ただしあの場所に限って言えばそれほど大きいものではなかった。一瞬で決着がついたんだろう」

 

 「その戦闘跡っていつ頃のかわかる?」

 

 「…詳しいところまではわからないが、最近のものではないだろうな。少なくとも一年以上は経っていると思われる」

 

 戦闘が最近行われたものならば最大級の警戒をしなければいけなかったが、一年以上経っているのならばそれほど警戒心を高める必要もない。

 

 「て、そんなわけないよな…」

 

 冬木市は聖杯戦争が行われる降霊都市。油断なんてしていい場所ではない。

 

 「エミヤ、今何時ごろかわかる?」

 

 「太陽の位置から察するに三時過ぎだろう」

 

 「――よし。なら情報収集からしていこう」

 

 ほとんどのサーヴァントは承諾したような様子を見せる。

自分たちの知らない土地での情報収集は基本だ。立香も伊達に数々の特異点の修正してきているわけではないのでそれぐらいはわかっている。

 

 「そんなわけで全員で固まるよりもチームで分けた方が効率いいだろうからそうしたいんだけど…」

 

 数人で別れた方が効率がいい。当たり前のことだ。立香もそうしたいと思っていたのだが、問題が一つある。

 

 「みんなの見た目をどうにかしないといけないと思うんだよね」

 

 端的な話、日本人ではない彼らは目立ってしまう。全員今の状態で歩いたらコスプレという言い訳が通るか怪しい、完全に不審者集団だ。

 

 「冬木市には外国人が多いから容姿に関してはそれほど問題ないだろう。服装さえ変えればおそらくどうにかなる」

 

 「服装か。師匠がいれば楽だったんだろうけど」

 

 師匠ことスカサハは去年の夏に女性サーヴァントの服装を霊基ごと変えていた。彼女がいれば服装を変えることなど容易かっただろう。

 

 「服ならば私が用意しよう」

 

 スカサハを連れてくればよかったなどと思っているとエミヤがそんなことを言ってくれた。

 

 「ああ…! 投影!」

 

 「おめえの能力便利だよな、本当」

 

 エミヤの能力、投影魔術。魔力によって物体を複製する魔術。彼の投影は普通の投影のそれとは違い、消えることなく残り続ける。戦闘時は剣などの武器を投影するが、それ以外のものの投影ができないわけではない。エミヤなら服の投影もできるだろう。

 

 「全員一列に並んでくれ、順番に服を渡していく。立香も戦闘服では不味いだろう。並んでくれ」

 

 エミヤに言われた通り彼の前に、エルキドゥ、巴御前、クーフーリン、そして立香の順番で並ぶ。

 

 「私は自分で投影できるからいいわ」

 

 クロエもエミヤと同じく投影ができるため、自分で服を投影すると言って茂みへと入って行った。

 

 「それでは渡していこう」

 

 順番に服が渡されていく、立香も自分のものを受け取った。

 

 「流行の服というのが私にはよくわからないので、とりあえず違和感のないような服を選んでみた」

 

 立香の渡された服はジーパンにTシャツ、そして薄手のパーカーといったよくある服だった。

 

 「おい、アーチャー。なんで俺の服はこんなに派手なんだよ」

 

 クーフーリンがエミヤに渡されたのはアロハシャツだった。

 

 「まあ…なんだ…。なんとなく君といったらそれだと私の中の何かが訴えかけてきたんだ。どうせ似合うだろうから着ておけ」

 

 「俺も何でか知らねえがこの服に親近感があんだよな…」

 

 クーフーリンはまじまじとアロハシャツを眺めている。

 

 「クロは自分で投影するって言ってたから、あとは…」

 

 クロエは自分で投影をする。アルトリアとジャンヌはもともと現代の服を着ているので問題なし。残る人物はエミヤオルタとギルガメッシュのみなのだが、

 

 「王様がいない――!!」

 

 ギルガメッシュの姿が消えてしまっていた。

 

 「今日は珍しく静かだなって思ってたら…」

 

 「ギルならマスターたちが服を貰ってる間にどっか行っちゃったよ?」

 

 「その時に言ってね!?」

 

 一番早く服をもらったエルキドゥが着替えを終えて茂みから出てきた。いつもと違い、その長い髪は束ねられている。顔は相変わらずの美形だ。

 

「この時代ならギルに本気を出させるような相手はいないだろうから問題ないって思ってたんだけど」

 

 「うん。確かに強いからこの時代どころか他の時代でも本気にさせる相手はそういないだろうし問題ないかもね、あの人は」

 

 ギルガメッシュのことは大して心配していない。いちいちあの王の行動を心配していたらきりがないと立香は知っているからだ。だから今立香が心配しているのは一般人の方。

 

 「ていうか、もしかしてあの人あの状態のまま行ったの? 捕まるよ?」

 

 立香はギルガメッシュが黄金の鎧を脱いでいることを思い出す。つまり半裸だ。現代人が見たら変質者以外の何者でもない。

 

 「ここは町郊外の森だ。今から行けば人目に着く前に追いつく可能性はあるな」

 

 「――エルキドゥ行ってきてくれる?王様みつけたら気配を辿って俺のところまで連れてきて」

 

 「うん。わかったよ」

 

 快く了承してくれた。ギルガメッシュやイシュタルと同じでウルク出身の英霊だが、二人と違って言うことをしっかりと聞いてやってくれるのは助かっている。たまに空気を読めないが。

 エルキドゥはすたすたと歩いて行った。迷いがないことからギルガメッシュのいる場所は分かっているのだろう。

 

 「エルキドゥなら大丈夫だとは思うけど、念のためエミヤオルタも行ってくれる?」

 

 「命令か? なら行こう」

 

 瞑っていた目を開け、寄りかかっていた木から離れエルキドゥのあとを追って歩き出した。

 

 「服は?」

 

 「霊体化するから問題ない」

 

 淡々とそう言ってエミヤオルタは姿を消した。

 

 「王様は二人に任せておけば大丈夫かな」

 

 「―――今更なのだが立香。今回のメンバーはどういう意図があってこうなったんだ?」

 

 今回の人選がよくわからんかったらしく、エミヤが立香に尋ねる。

 

 「え? ほとんどなんとなくだよ。王様とエルキドゥは仲がいいし強いから。アルトリアオルタとジャンヌオルタもよく一緒にいるから仲がいいんだろうと思って、兄貴とエミヤは一緒にいさせると面白いから」

 

 「おい、なんだその理由は」

 

 クーフーリンの声を無視して説明を続ける。

 

 「巴さんはゲームのしすぎだから外に一緒に連れて行ってあげてってメイヴちゃんが」

 

 「あ? あいつが言ったのか?」

 

 メイヴの名前を聞いてクーフーリンが不思議そうな顔をしていた。

 

 「うん。なんか巴さんとメイヴちゃん仲いいみたいだしね」

 

 「ええ、まあ仲がいいというかなんというか」

 

 巴御前は困ったように答える。立香は巴御前とメイヴが良好な関係ということしか知らないので、少し気になった。

 

 「で、クロはイリヤに邪魔だから連れてってくださいって言われたから連れてきた」

 

 元々立香はクロエを連れていく気はなかったが、クロエがうるさいからどうにかしてくださいとのイリヤからの頼みで連れていくことにした。

 

 「では、やつは?」

 

 エミヤが指している人物は、連れてきた理由をまだ明かしていない彼のオルタサーヴァントであるエミヤオルタのことだ。

 

 「エミヤオルタは…ほら、前に記憶が消えちゃうって言ってたからどうにかしてあげたいって思ってたんだけど、結局解決法が思いつかないからとりあえず連れてきた」

 

 彼は記憶が消えてしまう。カルデアに召喚されてから日が経つたびに何もかも崩れ落ちていく彼の記憶はとうとう一日しか持たなくなっていた。それを知った立香は本人には余計なお世話と言われることが分かっていても解決法を探していた。何人かのサーヴァントにどうにかできないかを聞いてみたりしたが全員にどうにもできない、お手上げだと言われ、結局何もいい解決法が見つからないまま今回はエミヤオルタを連れてきた。

 

 「そんなものかな」

 

 立香はいつもパーティの編成を大して考えていない。みんな頼りになる仲間なので、正直誰が一緒に来てもいいのだ。是非とも一緒に行きたいと申し出があった時はもちろん快く了承する。なお溶岩水泳部は除く。

 

 「話はこの辺にして着替えようか」

 

 自分たちのやるべきことをやる為にはまず着替えなければならない。各々着替えるために茂みへと入って行った。

 

 

***

 

 

 「兄貴すごい似合ってるね」

 

 「おうよ。俺も着心地がいいぜ」

 

 クーフーリンは下は黒いズボン、上はアロハシャツ。これがもとからこうだったのではないかと思うぐらい似合っている。

 

 「確か新宿のアルトリアが軽薄ゆえにアロハシャツが似合う槍兵がいるなんて言ってたっけ…もしかして兄貴のことかな?」

 

 「なかなか現代の服は違和感がありますね」

 

 巴御前はいつものインナーの上にオフショルダーのセーターを着ている。ちなみに角は収納済み。

 

 「巴さんも似合ってて可愛いよ」

 

 「そうですか? ふふ、ありがとうございます」

 

 「ねえマスター私はどう?」

 

 「クロは…うん。歳相応の服だね。よかった」

 

 「どういう意味よ」

 

 破廉恥なものを着てくるのではないかと立香は内心びくびく、ウキウキしていたが普通の小学生の女の子らしい格好だ。少しスカートが短い気がするがそこはスルーする。

 

 「――――」

 

 二つの視線を感じた。

 振り向くとアルトリアとジャンヌが立香のほうを何か言ってほしげな目でじっと見ている。

 

 「えーっと…アルトリアとジャンヌもすごい似合ってるね…」

 

 「当たり前だな」

 

 「当然です」

 

 食い気味に言葉が返ってきた。何かしら言われるのを待っていたのだろう。二人とも嬉しそうにしているのを隠しているつもりだろうが隠せていない。

 

 「ではそろそろいいだろう。情報収集だ」

 

 「それには賛成なんだけど。エミヤ、自分の服は?」

 

 「私はこのままでいい。あいつと同じように霊体化しておくから心配ない」

 

 基本エミヤは霊体化しない。というよりはカルデアのサーヴァントは霊体化する者がほとんどいない。理由としては一般人がいないので霊体化する理由がないからだ。

 

 「オルタはわからなくもないけど、なんでエミヤの方も霊体化するの?」

 

 エミヤオルタは一人でいることを好む。そんな彼はカルデアの中でも霊体化する珍しいサーヴァントの一人だ。しかしエミヤはエミヤオルタとは違い霊体化はしない。食堂で食事を作っている為か、よく厨房にいる姿を見かける。そのエミヤが霊体化すると言い出すなんて珍しくもあり、不思議でもあった。

 

 「特に深い意味はない。なんとなくだ」

 

 エミヤを召喚してからもう一年以上経っている。立香はエミヤがごまかそうとしているのに気づかないわけがなかった。

 

 「――――」

 

 だがそれについて聞く気はない。聞いてはいけない気がしたからだ。

 

 「話を戻そうか。情報収集はチーム分けして効率よくしたいんだけど」

 

 「二手に分かれよう。私とクーフーリン、そしてクロエのチーム。マスターと巴御前そしてそこの二人のチームだ」

 

 誰もエミヤの提案に口をはさむことはしなかった。それぞれがエミヤの意見をどう思ってるかは別の話になってくるのだが。

 

 「森はここをまっすぐ歩けば抜けられる。街へは道なりに進んでいけば着くだろう。巴御前、君がいれば大丈夫だろうが気を付けてくれ。それとマスター、この森から出る途中で何か違和感を感じるかもしれないがそれは無視してくれて構わない。使われなくなった結界だからな」

 

 「こんな森に結界があるの?」

 

 「こんな森だからこそあるんだ。だが今はただあるだけの探知結界だ。意味はない」

 

 「――――」

 

 「では立香、我々のチームは先に行かせてもらう。合流する時はこちらからそちらに向かう。それとこれを渡しておこう。カルデアにあった物だ。君が使っても問題ないだろう。それで何か食べ物でも買うといい」

 

 エミヤは立香に小さな袋を投げた。立香は受け取った袋が思ったより重かったので少し驚いた。

 

 「二人とも行くぞ」

 

 「あいよ」

 

クーフーリンはエミヤのあとを追う。クロエは何か言いたげな様子を見せるが、立香に「また後でね」と言ってクーフーリンと同じく、弓兵の進む方へと歩いて行った。

 

「――ねえ、巴さん。エミヤのことどう見えた?」

 

エミヤたちが見えなくなったところで、彼にもらった袋を見ながら巴に質問する。

 

「どう、ですか。そうですね…余裕がなく焦っているような様子、でしょうか」

 

 巴御前が言ったことは立香が感じたものと同じだった。

 

 「エミヤが焦ってるか…か。そういえばエミヤ前に冬木に来た時も何か様子がおかしかった気がする」

 

 「エミヤ殿はこの場所と何か縁があるのかもしれませんね」

 

 「――そうだね。冬木市は聖杯戦争の行われる土地だからあり得るか…」

 

 少し考えた結果。エミヤなら大丈夫だろうという結論に至った。彼ほどしっかりした英霊はそうはいない。立香も彼を相当信頼している。それだから出た結論だ。

 

 「マスターちゃん、私たちも行くんでしょう?」

 

 「うん行こうか」

 

 ジャンヌの確認をとるような声を聞いて、まずは自分の目的を達成しようと決めた。

 

 「アルトリア…?」

 

 エミヤに言われた通りまっすぐ歩いて森を抜けようと歩き始めたところで足を止める。アルトリアだけが何か考えている様子で動くことなく立っていたからだ。

 

 「ちょっとアンタ聞いてんの?」

 

 ジャンヌがアルトリアオルタの方を軽く叩く。

 

 「…なんだ、突撃女」

 

 「なんだ、じゃないわよ冷血女。マスターが行くって言ってんの。突っ立ってないではくしなさいよ」

 

 「そうか、すまない。聞いていなかった」

 

 「いいよ。この場所安全みたいだから余裕あるし」

 

 一言も発さなかったギルガメッシュ、何かを考える様子を見せるエミヤとアルトリアオルタ。この三人が今日はおかしいと思いながら立香は森を抜けるために足を動かし始める。

 

 

***

 

 

 「おい、アーチャー」

 

 「なんだ? ランサー」

 

 二人の間での会話の時はクーフーリンではなくランサーとエミヤは呼ぶ。クーフーリンの方はどんな時でもアーチャーとしか呼ばない。真名で彼のことを呼んだことは一度もない。

 

 「なんだ? じゃねえよ。お前どこに向かってんだよ。明らかに町の方じゃないだろ」

 

 彼らがいるのは整備されている道ではなく森の中。自分の前を歩くエミヤが目的地が決まっているかのように歩くので質問した。

 

 「柳同寺と呼ばれる寺だ」

 

 「寺だあ? なんでまたそんなところに行くんだよ」

 

 「やはり君は明確にあの時のことを覚えているわけではないんだな」

 

覚えてるわけがない。それは知っている。ただの確認だった。

 

 「俺じゃねえ、俺のことなんか覚えてるわけねえだろ。薄っすらとだよ薄っすらと。それより俺の質問に答えろ」

 

 「単純にここから近いからだ。どうせ目的地が定まっていないんだ。どこに行っても同じだ」

 

 「ねえ、弓兵さん」

 

 「君も弓兵だろう。まあいい。それでなんだね、クロエ」

 

 「私たちをメンバーに選んだのには何か意味があるの?」

 

 「マスターと同じで深い意味はないさ。ただ君やクーフーリンはこの街にいるのならば日が出ているうちは私と一緒に行動した方がいい、ただそれだけだ」

 

 「どういう意味?」

 

 「さあな」

 

 クロエが不満そうな表情を浮かべるがエミヤは答える気がない。なぜなら彼にもよくわかっていないから。唯一町の様子からわかったのはこの冬木が西暦1994以降だということ。それ以外は不明。どういう軸かわかっていない以上迂闊な行動はできない。特に彼の場合はそうだった。

 

 「ここだな」

 

 森を歩くと長い石造りの階段が見えた。

 

 「なんでちゃんとした道から来なかったんだ? わざわざ結界を無理やり突き抜けてきたけどよ」

 

 素朴な疑問をエミヤにぶつける。

柳同寺にはただ一か所を除き結界が張ってある。自然霊を拒むものだ。もちろんそれはサーヴァントにも例外なく機能するのだが、能力が低下することを気にしなければ無理やり通り抜けることはできる。別に戦闘をしに来たわけではないので、今回は気にせず結界を通り抜けてきた。

 

 「それは……。待て、隠れろ…!」

 

話の途中でエミヤが二人に姿を隠すように言う。珍しく焦った様子のエミヤを見て言われた通りに二人は姿を隠す。エミヤとクーフーリンは霊体化。クロエは魔力を抑え木で身を隠す。

すると目の前の石段から少年と少女が下りてきていた。

 

「魔術師か?」

 

二人が下りていったのを見てクーフーリンが実体化する。同じくエミヤが実体化したが返事がない。

 

 「凛と…お兄ちゃん…」

 

 クロエが小さな声で呟く。

 

 「やはり…」

 

 「おい。あの二人はなんなんだ? どっちも魔力を感じたから魔術師なんだろうがよ」

 

 石段を下った二人から魔力を感じていた。片方の魔力量がなかなかあったので魔術師だということは確実だとクーフーリンは思っている。

 

 「ねえ、なんで凛とお兄ちゃんがいるの?」

 

 「そうか、お兄ちゃんか…。君の世界では衛宮士郎は兄なんだな。それにしても君たちが凛と関わってるとなるとやはり平和な世界でというわけではないのか…」

 

 軽く笑いながら話すエミヤ。なぜ彼が嬉しそうにしているのかクロエにはわからなかった。

 

 「今それはいい。それよりなんでお兄ちゃんは魔術師になっているの?」

 

 「魔力を感じたか? あれを果たして魔術師と呼んでいいのかわからんが。奴は一応幼い頃から衛宮切嗣に魔術を習っていたからな」

 

 「パパに?」

 

 「――そうか。君たちが衛宮士郎の妹ということは、根本から違っているのか…」

 

 「一人で納得しないでよ」

 

 「ああ、すまない。とりあえず衛宮士郎が魔術を使える理由は今言った通りだ」

 

 クロエの世界にいる衛宮士郎は魔法を使用できない。そのためこの世界にいる衛宮士郎が魔術を使用できることに驚いた。

 

 「どうするアーチャー、マスターに報告しに行くか?」

 

 「いちいち戻るのは手間だ。このまま調べよう。次は今が何年なのか明確な日付を知りたい。調べてきてもらえるかランサー、私とクロエはなるべく姿を出さない方がいいかもしれない」

 

 「それは俺も同じな気がするけどな……ま、仕方ねえ。ちょっくら行ってくる。寺には人がいんだろ?」

 

 「いるはずだ。適当に片言の日本語でもしゃべって色々教えてもらって来い」

 

 「へいへい」

 

 クーフーリンは周りに誰もいないことを確認し、茂みから出るとそのまま石段を上っていった。

 

 「どういう世界かわからないのよね、あなたも」

 

 「衛宮士郎と遠坂凜がいるという情報だけでは判断ができないな」

 

 「そう…」

 

 今はただ情報集める。それしかできることはない。今の会話以降二人は茂みで一言も言葉を交わすことなくクーフーリンの帰りを待った。

 

 

***

 

 

 四時前、桜とライダーは買い物袋を一つずつ持ち衛宮の屋敷へと帰宅していた。

 

 「あ、お塩買うの忘れちゃった」

 

 足を止めた。桜が買い忘れをしていたことに気付いたからだ。

 

 「なら私が戻って買ってきます。桜は先に帰っていてください」

 

 「私も行く。忘れたのは私だしね」

 

 「では桜は歩いて商店街の方に来てください。私は先に走って向かうので後で合流しましょう」

 

 それは桜が行く意味がほとんどない。ライダーの足なら桜が商店街に着く前に買い物を済ませることができる。この提案は桜の自分も行くという要望になるべく応えられるようにとの彼女の気遣いだ。

 

 「ごめんね、ライダー」

 

 「いえ、私の騎乗スキルはA+です。お気になさらず」

 

 乗り物など乗っていない。今のライダーの冗談。桜はそれを聞いて笑った。その桜を見たライダーも笑みを浮かべる。

 

 「では、行ってきます」

 

 ライダーが走り出した。さすがサーヴァントと言うべきだろうか、速い。とてつもなく速い。そして無駄のない動きだ。

 

 以前のライダーなら桜を一人にして行動するなんてしなかった。でも今は状況が違う。聖杯戦争が終結して二年、桜やその周りの人間を襲う存在はいない。実に平和に過ごしている。ライダーもそれは実感しているため桜に危険はないとの判断をして、一人で行動することが多くなった。例を挙げると商店街でのバイト、自室での読書などだ。

 

 「私も」

 

 屋敷までもう近いためライダーが自分になるべく歩かなくてもいいように気を使ってくれたのだとわかっているが、買い忘れは自分のミス。行かないわけにはいかない。

 普段よりも歩くスピードを速める。

 

 「……?」

 

 数分歩いたところで違和感を感じた。胸騒ぎ、嫌な予感がした。心拍数が上がる。心臓が動く音が聞こえる。

 

 曲がり角。そこを曲がれば商店街まではもう少し。だと言うのに桜の中の何かが、引き返せと叫んでいる。そこから離れろと訴えかけている。

 

 「――終わったんだ…」

 

 聖杯戦争は既に終わっている。冬木市は平和だ。危険なんてあるはずがない。気のせいだ。そう言い聞かせて謎の不安を押し殺して彼女は角を曲がる。

 

 「――――!」

 

 自分の心を落ち着かせるのに必死で、人がいるかもしれないなどと考えていなかった。そのため自分と同じく角を曲がろうとしていた人物とぶつかり尻餅をついた。

 

 「ごめんなさい。よく前を見ていなくて」

 

 桜は謝罪しながら顔を上げる。どうやらぶつかった人物は倒れることなく地に足をつけているようだった。

 

 「大丈夫で…す……か…?」

 

 声はどんどん小さくなっていった。もはや『か』に関しては聞こえてすらいなかっただろう。

 

「な、なんで…」

 

 桜とぶつかった相手。その人物の顔をみて背筋が凍る。二年前に自分のことを一度殺し、逆に彼女が殺し返した相手。あの時取り込んだはずの存在。それが目の前にいる。

 

 「――――」

 

 黒いライダースーツを着た金髪の男。男は何も言わずに自分のことを怯えながら見上げる少女を、その赤い瞳で見る。

 その目は何か危険なものを見る目。敵対する者を見るものだった。

 

 「娘、貴様――」

 

 「やっと見つけた。ギル、マスターが困ってたよ?」

 

 男の知り合いであろう人物が彼の後方から現れた。とても整った顔をしているが、女性か男性かの判断がつかない。

 

 「ほら、はやく戻るよ」

 

 「離せ、エルキドゥ。自分で歩ける」

 

 「そう? なら寄り道しないで歩いてね」

 

金髪の男は桜に何か言う前に、あとから現れた人物につかまれ去って行ってしまった。

 

 「なんで…あの人がいるの…」

 

 あの夜のことは覚えている。なぜならあの男によって体をグチャグチャにされているのだから。

 桜はその場から立ち上がる。

 

 「聖杯戦争はもう終わったのに…なんで…」

 

 大聖杯破壊され、もう新たにこの地で聖杯戦争が起きることはない。

だというのに男はいた。オーラでわかる。人間を超越した存在。あれは紛れもないサーヴァントだ。

それにもう片方の人物がマスターという単語を口にしていた。つまりこの町にあの男を使役するマスターがいる可能性が高いということ。

 

「また、なの…」

 

平和など訪れないのか、それが自分の犯してきた罪への罰なのかもしれない。桜はそう考えた。

 

――――念の    もりだったが、思いの 無駄  間を使ってし  た。だが奴らは来たの   結果オーライって  か。  いいだ う。時は ちた。表に て俺 役目を  すとしよう。まあ、役目という  の    ない 。成り行きだ。さあ、始めよう。

 

 「誰…?」

 

 桜の初めて聞く声が途切れ途切れ聞こえた。男性の声だったが、先ほどの男のものではない。その声は耳でささやかれたかのように近くで発せられた声だった。そう、まるでサーヴァントとする念話のように。

 

 「サクラ?」

 

 「わ!? …て、ライダー」

 

 今度は聞きなれた女性の声だ。

 

 「はい。戻ってきました」

 

十分も経っていないが、ライダーの買い物袋が一つ増えている。もう買い物は終わったということだ。

 

 「どうかしたんですか?」

 

 なにやらおかしな様子の主人にライダーは心配そうな声で尋ねる。

 桜はライダーに妙な心配をさせないために思考を切り替えた。

 

 「大丈夫。早く帰ろう。ライダー」

 

 まだあれがサーヴァントだと確定していない。もしかしたら自分の思い違いかもしれない。と言い聞かせる。

 桜だってわかっている。あれはあの時いた男と同じ存在だったと。だがそう思わずにはいられなかった。

 またあの時と同じことが起きるなんて、また自分がたくさんの人を殺めた争いがおこるなんて彼女には耐えられない。

 

 「――わかりました。行きましょう」

 

 今日は彼だけでなく桜も様子がおかしいのかと不思議に思いながらライダーは少女と並んで歩き始める。

 

 

***

 

 

「貴様どこに向かっている」

 

「マスターのところだよ。サーヴァントの反応がしたから一応遠回りしてるけどね。そんなことよりギル、さっきの女の子は?」

 

 「知らん」

 

 「知らないのにあんなに睨みつけてたの?」

 

 「知らないからこそ睨みつけていたのだ。あの娘とはこの軸でなにかしらあったのだろうよ」

 

 少女を見たギルガメッシュは違和感を感じた。どこかで会ったことがあるような感覚。そして寒気。それらを感じ取った。

 

 「お前にはあれがどう見えた?」

 

 「君とは違って縁は特に感じなかったけど、そうだな…。あの子の魔力は常人のものじゃなかった。だから気になってね、実はギルを探してたんじゃなくて、彼女の魔力を辿ってあそこに来たんだ。あれだけの魔力を持った人間は僕らの時代にもいなかった。君の方はどう見えたのかな?」

 

 「――――」

 

 「詳しくは分からないんだね」

 

 「なんだ、やはり貴様も気づいているのか?」

 

 「僕にはこの街がおかしいってことぐらいしかわからないよ」

 

 「我と大して変わらんな。貴様と違って我が感じている違和感は、目が使えないことぐらいだが」

 

 ギルガメッシュの持つ『千里眼』。それが冬木にレイシフトしてから使うことができなくなっていた。

 

 「元からあまり使っていたものではなかったが、元から使えていたものが使えなくなるとやはり違和感があるな」

 

 「――僕たちがここに来た原因はあの子かもね。まあ、その辺はマスターの仕事だからいいか」

 

 自分の仕事はマスターの兵器として戦うこと。エルキドゥはそこを割り切っている。協力はするものの、問題の解決は立香に任せるつもりでいる。

 

 「で、ギル。その服どうしたのさ」

 

 「ん? いやなに、この時代の町を何も羽織らずに歩くのは我でも不味いとわかる。して適当に服を着ようと思ったところで、我が蔵に合あったこの服に、よくわからん奇妙な愛着が湧いてきたのでそのまま着たまでのことよ」

 

 黒のライダースーツ。ジャージに見えなくもないが黒のライダースーツである。これを一目見た時にギルガメッシュは運命を感じたのだ。

 

 「ふーん。ま、とりあえずマスターのところに戻ろう。彼は……放置でもいいか。どうせマスターが拾いに行くだろうし」

 

 二人は立香のいる場所へと向かった。

 




次回から最後辺りから前作との違いが明確にわかるようになると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。