並行世界の冬木市に迷い込んだ藤丸立香   作:クガクガ

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今回は新たなサーヴァントが登場します。


第二節 『再開の夜』 前編

 「王様、もう一人でどっか行くのやめてくださいね」

 

 「フン、我の行く場所は我が決めるそれだけのことよ」

 

 俺様ルールはいつも通りなので、特に何も言うことなく、立香は続けて気になることを質問する。

 

 「あとその服どうしたんですか?」

 

 「我の蔵にあったものを引っ張り出してきたのだ。フハハハ、似合うであろう?」

 

黒のライダースーツをギルガメッシュはとても気に入ってるようだった。実際に会っていなくもないと立香は思ってしまう。

 

「良かろう、許す。存分にこの我の姿を眺めるがいい!」

 

 「アッハイ」

 

 日が沈み始めたころ、場所は商店街。エミヤチームとは合流し、その後エルキドゥとギルガメッシュの二人とも合流できていた。

 

 「エミヤオルタがいない」

 

 一人足りない。エルキドゥと共にギルガメッシュを連れてくるように頼んだ男がいなかった。

 

 「エルキドゥ知らない?一緒に王様を連れて戻るように頼んでたんだけど」

 

 「ごめん、わからないな。彼とは会ってないから」

 

 「会ってない……? ――エルキドゥ、ここから探せる?」

 

 会っていないのはおかしい。彼にはエルキドゥのすぐ後を追わせた。それにエミヤのオルタサーヴァントではあるが、根は変わらないのか仕事はまじめにこなす。彼が仕事を放ってどこかに行くなんて考えられない。

 

 「問題ないよ」

 

 目に見える危険がないことはわかっているが、まだここが安全だと決まったわけではない。まずはエルキドゥにエミヤの居場所を探ってもらう。

 

 「…こっちかな」

 

 エルキドゥがエミヤオルタがいるであろう方向を指示した。

 

 「俺は行ってくるけどみんなはどうする?」

 

 大人数での行動はどうしても目立ってしまうのでよくないと思い、全員に問いかける。

 

 「僕はマスターを案内するから行くよ」

 

 「我も行ってやろう」

 

 「王様も来てくれるんですか?」

 

 「暇故な、ただの気まぐれよ」

 

 「私もご一緒させていただきます」

 

 「私も同行しましょう」

 

 立香と行動を共にするのは、エルキドゥ、ギルガメッシュ、巴御前、ジャンヌの四人になった。

 

 「マスター、我々はもう少しこの町を探索している」

 

 霊体化しているエミヤの声が聞こえる。エミヤチームは引き続き探索を続けることになった。

 

 「私は今回は一人で町を歩かせてもらおう。行きたい場所があるからな」

 

 「一人で大丈夫?」

 

 「なに、心配するな。ただ町を歩くだけだ」

 

 アルトリアは一人で行動することになった。こういう場合は立香と行動することが多いのだが、今回はそうではなかった。

 

 「エミヤオルタと合流したら新都の方を調べてみるよ。適当な時間…九時頃かな。そのくらいに合流しよう」

 

 深山町の先にある公園を合流地点として、再び解散した。

 

 

***

 

 

 「おい」

 

 「何の用だ?」

 

 アルトリアオルタは背後にいるアロハシャツの男と隣にいる少女の方を見る。

 

 「アーチャーの野郎がお前もメンバーに加えて行動するっていうからよ」

 

 面倒くさそうにクーフーリンは答える。

 

 「アーチャー」

 

 エミヤは霊体化しているので姿は見えていない。ただサーヴァントであるアルトリアは彼がどのあたりにいるかぐらいはわかるので、そちらを向く。

 

 「この町で君を一人歩かせるのはよくないからな。私たちと行動してもらおう。正直先程もそうするべきだった」

 

 「何故しなかったんだ?」

 

 「――――」

 

 エミヤは自分からアルトリアに話しかけることはない。ランサーに話しかけさせたのもそうだ。彼はアルトリアとの会話を避けている。

 彼女もそれは感じ取っている。今のはわかっていながらの質問だった。

 

 「別に悪気があるわけではないんだ。ただなんというか、君……いや君たちと話すのは色々複雑でね」

 

 「――まあいい。貴様の提案通り共に行動しよう。行く当てもなかったからちょうどいい」

 

 「行く当てがないって、お前行きたいところがあるってさっき言ってたじゃねえか」

 

 「あのように理由を言わないと立香が単独行動をさせてくれないだろう」

 

 「ああ、なるほど。あいつ心配性だからな」

 

 アルトリアの返答にクーフーリンは納得する。

 

 「で、どこ行くの?」

 

 クロエは全員にこれからどこに行くのか尋ねる。行く当てがないのは彼らも同じだ。

 

 「さっき行ったのとは逆方向に行くのが無難か?」

 

 「そうね。そうしましょう」

 

 「私はお前たちについて行く」

 

 「アーチャーはいいのか?」

 

 残るはエミヤのみ。

 

 「――――」

 

 「おい、アーチャーいいのかって聞いてんだよ」

 

 「構わない。そのかわりあちら側に行くのなら全員私が隠れろと言ったら隠れるんだ。いいな?」

 

 「あ? なんでだよ」

 

 「…あの二人がいるのは向こう側だからだ」

 

 彼らが行こうとしている方向には屋敷がある。とある誓いを交わした場所。衛宮邸が。

 

 

***

 

 

 「そういえば今日ライダーから相談があるんだっけ。ま、それは夕食の後かな」

 

 昨日日本に戻ってきたばかりの凜は、荷物の整理をすべて済ませずに衛宮邸に行ったので今はその片付けをしている。

 

 「にしてもなんかこっちより向こうの方が落ち着くわね」

 

 凜は衛宮邸に泊まる機会は多い。もはや住んでいると言っても過言ではない。今では自分の屋敷より衛宮邸の方がいて気持ち的に楽だなと思うようになっている。魔術師的には遠坂邸の方が霊脈の都合上良かったりするのだが。

 

 「やることやってさっさと戻りますか」

 

 作業を続ける。

 ある程度時間が経ったところで、不意に凜は目を窓の外に向けた。

 作業で疲れたのかもしれない、なんとなく外を見たくなった。

 

 「――外国人? あんな黒いんだからそりゃそうか」

 

 外には白髪でグレーのシャツを着た外国人の男が立っていた。その見た目から一瞬、あの男は殺し屋なのではないかなどと凜は思ってしまった。

 

 「そんなわけないだろうけど……、うちを見てる?」

 

 男は遠坂邸をただ眺めている。

 

 「あ…」

 

 目が合った。感情を感じさせない表情、男は金色の瞳で凜を見る。

 しかしそれもほんの数秒。男は声をかけられたのか後ろを振り向いた。

 

 「あっちは日本人ね」

 

 何を言っているのかは聞こえない。凜のいる場所は屋敷の二階なのだから当然だ。そこからでは日本人の少年が男に声をかけたことしかわからない。

 少年の方へと男は歩き出した。

 

 「――――」

 

 顔は見えない。見えるのは男の背中、とても大きく広い男の背中。

 見覚えはあるが、思い出せない。

 

 「なんだったんだろう」

 

 なぜ家の前にいたのだろうか。

 見たことがあるようで、見たことがない男。彼の姿はもう見えなくなった。

 

 「――――早く終わらせよう」

 

 深く考えることはない。凜は中断していた作業を再開する。

 

 

***

 

 

 「合流できてよかったよ。霊体化してるかと思ってた。そのスーツ似合ってるね」

 

 エミヤオルタは無事見つけ出せた。森で別れる時に霊体化すると言っていたのでもう少し時間がかかると思っていたが、実体化していたので思いのほか早く見つけることができた。

 

 「あそこで何してたの?」

 

 「――屋敷を見ていた」

 

 「あの大きいところか。何で?」

 

 「さあな、俺にもわからない」

 

 「そっか…」

 

 「それより悪いな、マスター」

 

 「ん? ああ、王様のこと? 別にいいよ。ちゃんと服着てたし、誰にも危害加えてないみたいだったから。それにここはエミヤオルタが来たいから来たんでしょ? だったらいいよ」

 

 ギルガメッシュを探さなかったことはさほど気にしていない。無事でいるならそれでいい。怒ってなどいない。むしろエミヤオルタに行きたい場所があるのなら行かせてやりたいぐらいだった。

 

 「来たいからか…」

 

 大きな屋敷が思い出される。彼は意識してあそこにたどり着いたわけではない。立香に言われた通り最初はギルガメッシュを連れ戻すために町を歩いていた。しかし途中無意識のうちに道を外れ気がついたら屋敷の前にいた。

 

 「ス馬鹿は拾えたから、次は橋を渡るってことでいいの?」

 

 「そうだね。こっちはエミヤ達に任せて俺たちは向こう側に行こう」

 

 ジャンヌがス馬鹿と呼んでいるのはエミヤオルタのことである。立香が彼女になんの略か聞いたところ、スカした馬鹿の略らしい。何が原因でその名前になったのかは不明。

 立香たちは橋がある川の方へと歩く。

 

 「――――――」

 

 深い意味はない。エミヤオルタは振り返り、屋敷の方を見る。

 自分に記憶など残っていない。それは誰よりも理解している。だというのにあの屋敷には過去に行ったことがあるような気がした。それがどうしても気になった。

 

 「エミヤオルタ?」

 

 「――――なんでもない」

 

 立香たちの後を追う。

 

 「じゃあ行こうか。もう暗くなってきたし」

 

 日没だ。日が沈み、夜の時間が訪れる。

 

 

***

 

 

 「はあ…。どこだここ」

 

 街灯の光はあるが辺りは暗い、間違いなく夜。

 多くの家が並び立っている。住宅街だ。

 

 「成功したのか…?」

 

 両儀式は冬木に無事レイシフトすることができた。

 彼女は成功するなんて思ってもいなかったので驚いているが、来てしまったものからには役目を果たす。

 

 「探すか。どこいるか知らないけど」

 

 冬木には来たことがないので、当然地理も把握していない。なのでとりあえずぶらつくことにした。

 

 「誰もいないよな…」

 

 しばらく歩いてみたが一般人とは出会わなかった。窓から光が漏れている家もあるので人がいないなんてことはないだろう。となると夜だから誰もいないと考えるのが普通だ。

 

 「…それなら始めてもいいか」

 

 式は足を止め、振り向いた。

 

 「お前、誰だ?」

 

 彼女が話しかけた方向には何もいない。一般人にはそう見える。

 

 「なんだ、お前やっぱりサーヴァントなのか」

 

 「ほんとに誰だ、お前」

 

 背後になにかいるのは感知していた。おそらく人間ではないことも。

 そして式の感じた通りいたのは人間ではなく霊体化したサーヴァントだった。サーヴァントは男、鎧を纏った騎士。鎧を纏っているといってもランスロットやガウェインのように全身を鎧で固めているわけではない。彼らのような円卓の騎士と比べるといささか軽装に見える。

 初めて目にする英霊だ。少なくともカルデアにはいない。

 

 「その前に聞きたいんだが、お前どっち側だ?」

 

 「は?」

 

 「敵かそうじゃないかどっちだって聞いたんだ」

 

 「お前がそもそも何者なのかわからないからそれすらわからないよ」

 

 「そうか…。なら――」

 

 彼が何者かわからない以上は敵か味方なのかという判断もできない。男はなかなか強そうなので式的には後者であってほしいと思っている。

 

 「――お前、その目…」

 

 男は式の瞳を見るなり目を細めた。不快気な様子をあらわにしている。

 

 「俺の目がどうかしたのか?」

 

 「……いや、ただ気に入らないだけだ――!!」

 

 「――――!」

 

 突如式の眼前に現れたのは剣と呼ばれる物。それを左手に握ってるのは五メートルほど離れた場所に立っていたはずの男の右手。

 

 「避けるのか」

 

 式は剣を額を掠るかどうかの間一髪で回避した。

 彼女の持つ第六感がなければ、確実に頭部を両断されていただろう。

 

 「危ないだろ…」

 

 式は男との距離を離すために後方へと跳躍した。

 

 「やっぱりナイフは常に握ってるべきだな」

 

 攻撃された時点でナイフを握っていれば即座に反撃ができたと自分の行動を反省をしながら、彼女は愛用のナイフを取り出して構える。

 

 「見た目のわりに強いのか?」

 

 「失礼な奴だ――」

 

 再び迫る男。

 今度は警戒を強めていたので、男の動きをしっかりと目で捉えられている。が、男は速い。見えているだけで彼の速度に対して反応が間に合うかどうか微妙な所だ。

 まず一度目の攻撃は辛うじて間に合い防御することができた。だが間髪入れずにされた追撃、あまりの速度にナイフが追いつかない。

 

 「クソ――ッ!」

 

 最初の攻撃時の間合い詰めもそうだが、動きが速すぎて式では追いつくことができない。直死の魔眼で見た男の剣の死の線を切ろうと考えていたがそんな余裕はない。

 斬られると確信して諦めた時、剣は動きを止めた。否、止められた。場違いなアロハシャツを着た槍兵によって。

 

 「よお、無事か?」

 

 

***

 

 

 「なんでこういう時に藤ねえはいないのか……。悪いな、桜。わざわざ付き合わせて」

 

 「いいですよ先輩。教会に行くぐらい何ともないです」

 

 「そう言ってくれると助かる。それにしてもディーロの爺さんなんで俺を呼んだんだろう」

 

 夕食を食べ終わった士郎は新都にある教会のディーロ神父に呼ばれたので、そちらへ向かっていた。

 本当は士郎のみで行くつもりだったのだが、ライダーと凜は遠坂邸で用事があるらしく、士郎が出て行ってしまうと桜一人を家に残す形になってしまうので、二人は一緒に協会に行くことになった。

 

 「内容に関してなにも言ってなかったんですか?」

 

 「詳しいことは何も言われなかったな。でも割と真剣な話みたいだった」

 

 士郎は神父から電話で教会に来てほしいとしか言われていない。

 

 「真剣な話ですか…」

 

 今日会った金髪の男を思い出す。もしかしてまた聖杯戦争がらみの話なのではないかと桜は想像してしまった。

 

 「桜?」

 

 怯えているような様子の桜に声をかける。

 

 「あ! いえ、なんでもないです」

 

 「そうか…、ならいいけど」

 

 桜は金髪の男に関して誰にも言っていない。言うのが怖い。それに彼女は、男があの時の男とは別人である可能性を捨てきれていない。

 だからその可能性しがみついている。

 

 しばらく歩き、坂までたどり着いた。教会は丘の上にある。坂を登ればもうすぐだ。

 躊躇うことはない。もう戦いは終わり平和なのだから。二人は進む。

 

――何が起こるなど知らずに。

 

 「桜!!」

 

 桜は唐突にその場で膝をついた。

 

 「あれ……?」

 

 足に力が入らない。立ち上がることも、足を動かすこともできない。急に力が抜けた。

 そして、

 

 「――――ッ!」

 

 体の中から何かを吸われるような感覚。

 とてつもなく辛く、泣きたくなるほど苦しい。

 

 「おい、桜!」

 

 士郎が呼びかける。が、桜は応答できない。痛みの方が上回っている。かろうじて息ができている状態だ。

 桜の肩を掴み呼びかけるも、結果は変わらない。自分にどうにもできないなら、誰かを頼るしかない。凜かライダーが一番いいのだがさすがに遠坂邸までは遠い。幸い教会が近いので士郎は桜を負ぶって教会に行くことにした。

 

 「――――な」

 

 瞬間、異常な寒気が士郎と桜を襲う。

 原因はすぐに判明した。真後ろにいるのだから。

 

 「バー…サーカー…」

 

 容姿が闇に覆われたように黒く変わっているが、あの巨大な体を見間違えるはずがない。間違いなく二年前の聖杯戦争で士郎が戦ったサーヴァントの中の一体、バーサーカーだ。

 

 「なんでいるんだ……、あの時消滅したはずじゃ…。そもそも聖杯戦争は…」

 

 聖杯戦争は終わった。この冬木での聖杯戦争は終わった。だがまだ続く。だれかが再開させる。終わらせまいと続きを始める。

 

 闇に覆われた巨人はその大きな剣を右手に握り、士郎と桜を見下ろす。

 

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