戦況は変化した。押していたはずのクーフーリンが押されているのだ。
理由は男の動きの変化。二本剣を使うようになってから手数が増え、動きの切れが格段に増した。
防御をしつつ状況を打破するために隙ができるのを待っているが、男は一項に隙を見せない。
「く……!」
強い。お互い本気を出していないにしても、この短い攻防で男がどれ程の強者なのかクーフーリンは理解した。
アーチャーとは違い二刀流用として作られていない長さがそれぞれ違う剣を、男は容易に双剣として使いこなしている。
何よりも厄介なのは男が魔力を自分の剣に流していること。武器の衝突時、彼の魔力が込められた剣が衝撃波のようなものを出し槍を弾く。一種の魔力放出のようなものだ。それによって、防御をするたび、防御をされるたびに体勢を崩される。
(どうしたもんか…)
ランサーは宝具を使えない。というのも宝具を使ってしまうと貴重な情報を持っているかもしれない男を殺してしまう可能性が高い。本気を出していないのもそれが主な理由だ。
対して男はまだ能力はわからないが宝具を持っている。現在使っている二本の剣のいずれかが宝具なのだろうが、見ただけではそれを判断することができないので警戒し、攻めあぐねていた。
攻防の最中、高速で何かが飛んできていることに彼らは気付く。
「――――マジか」
「――邪魔だな…」
二人はそれぞれ行動をする。
クーフーリンはその場から離れ。
男は振り向き、剣を横に振り払った。
剣と鋭利な何かがぶつかった時、道に響いたのは金属音ではなく爆発音だった。
間もなく男は爆風に呑まれる。
「――矢…いや剣か」
地面や壁が爆発でボロボロになっている中、平然と黒い煙から姿を現した男は、飛んで来ていたものが矢ではなく剣だったことに気付いた。
「やはりこの火力では無駄か」
声は上から聞こえた。
電柱の上に弓兵――エミヤは弓を持ち立っていた。
「おい、アーチャー。いいのか?」
道のありさまを見てエミヤに尋ねた。
「ああ。どうやらここは我々が先ほどまでいた冬木市とは別物だ。夜が明ければ元通りになっているだろう」
「どういうことだ?」
「説明は後だ。今はそれよりも…」
エミヤの視線の先には二本の剣を持った男がいた。
「戦っている最中に邪魔するなんて――待て、お前その顔…」
「なんだ?」
攻撃の一つでもしてくるかと思っていたが、そんなことはせず男はじっとエミヤの顔を観察している。
「――違うな。別物だ。あいつの方が苦しそうな眼をしていた。似てるのは顔だけみたいだな」
「なんのことだ?」
男は一人で納得しているだけで、説明が何一つない。
「気にするな。どうでもいい話だ」
ここでは関係のないことだと男は話の流れを断ち切った。
男はエミヤとアーチャーの二人を交互に見ると口を開く。
「――二対一か? まあ、構わないけどな」
態度からは余裕が感じられる。それほど実力に自信があるのだ。
「やるか」
クーフーリンは槍を構えた。
男も剣を持つ両手に力を入れる。
唯一エミヤだけは戦闘態勢には入らなかった。
「…二人を相手にする状況になっているというのにこれほど余裕があるとは、かのアーサー王に『私の見たどんな騎士よりも勝る』と言われた男なだけはある」
「――お前…」
エミヤの言葉に男は動揺を見せる。その様子を見ると、エミヤは畳みかけるように言葉をつづけた。
「不意打ちをしておいてなんだが少し話をしないか?」
「話だと?」
「ああ、そうだ。双剣の騎士――ベイリン。君と話をしたい。どうやら敵ではないようだしな」
男の真名。それはアーサー王も認めた強さを持つ騎士、ベイリン。
エミヤは男が否定しないことから自分の予想が当たったことを確認した。
「――気に障るのはあいつと同じか…」
男――ベイリンは舌打ちをすると剣に魔力を流すのをやめた。それでも警戒をしていないわけではなく、剣は握ったままだ。
「ランサー、君も槍を下げろ」
「……あいよ」
彼も構えをやめたが、槍は仕舞わずに持っている。
「よし。話は私たちのマスターと合流してからしてもらうが構わないか?」
「あ? お前たちのマスターは同じなのか?」
「そうだ。他にも数人サーヴァントがいる」
「なるほど…。なら仕方ない、話はお前たちのマスターのところに行ってからでいい。そっちの方が話が速く進みそうだからな」
彼らが敵ではないことはなんとなくわかっている。
そして少なくともここにはサーヴァントが彼を除くと三体いる。それらを従えているマスターなら、ここで起きている事態について把握しているに違いない。そう思い彼らはエミヤの言葉に従うことにした。
「助かる。マスターがいるのは新都だ。行くと――」
話終える前にエミヤは口を閉じた。
「サーヴァントか?」
「そのようだが…」
サーヴァントの反応が一つ近づいてきている。
今回はベイリンの時はしなかった嫌な予感がした。
「悪いがランサーと両儀式。私は霊体化する」
「あ? なんでだよ」
「あとは任せた」
「あ、おい! 待ちやがれ!」
クーフーリンの問いに無回答のままエミヤは霊体化をした。
「なんだ、あいつ」
「こっちが知りてえよ」
サーヴァントが近くまで来ているこの状況で霊体化したのがよくわからない。
「ったく…しゃあねえな」
一応武器を持ったまま、サーヴァントを待つことにした。
「敵だった場合は?」
「お前も手伝え。一応こっちの味方なんだろ?」
「一応な」
程なくして謎のサーヴァントは現れた。
「――動かないでください」
女性の声。
現れたのは長身で、綺麗な長髪の女のサーヴァント。
「ライダー。やっぱり三人ともサーヴァントなの?」
「はい。間違いありません」
「なんでまたサーヴァントが…」
二人の女性が現れた。
「あなたランサー!? なんでいるのよ、消滅したんじゃ…」
黒髪の少女の方はランサーの姿を見て驚いている。
「誰だ嬢ちゃん…って、イシュタルって名前だっけかあいつに似てるな。それにメドゥーサじゃねえか」
「私の真名を…」
クーフーリンの方は女性二人と比べて冷静な対応をしている。
「リン、やはり離れていてください。まだサーヴァントの気配がします」
「この三人以外にもいるっていうの!?」
「はい。最低でもあと一体はいます」
「なによ、それ…」
わけがわからない。そんな様子を少女は見せる。
「お二人さんよ、なんか勘違いしてるみたいだけど俺らは戦う気ないぜ?」
手に持っていた槍を消滅させ、戦闘の意思がないことを主張する。
「ほら、お前らもそれ仕舞え」
「ナイフか? 仕方ないな」
式もナイフを仕舞った。
「おめえもだよ」
「――――」
返事すらない。どうやらベイリンは武器を仕舞うつもりはないらしい。
「……こいつは武器持ってるが、見逃してくれねえか?」
「見逃すわけないでしょ! なんであんたが大聖杯がないのにまたいるのかはわからないけど、見過ごせない」
「その言われようからしてやっぱりここで召喚されたことがあるのか俺は」
覚えているわけではない。けれど知っているような気がする。それぐらいの感覚でいたのだが、今の少女の言葉からクーフーリンはここで自分が召喚されたことがあると言うのに確証を持てた。
「はあ…。どうしたら――」
面倒くさそうにしていたクーフーリンの顔が突如真面目なものになった。彼が戦闘中に見せる顔だ。
「ちっ!」
舌打ちをすると彼は走り出す。
メドゥーサは武器を構え、凜の前に出る。だが彼は攻撃をしようとしているわけではない。
その行動の真意を見抜いていたのは三人だけだった。
「避けろ!」
間に合わないと判断したクーフーリンが凜に向けて大声を発した。
「え…?」
予想もしていなかった言葉がクーフーリンから投げられ困惑する凜。そこでメドゥーサも異変に気付く。
いつのまにか凜の頭上には黒塗りの短刀があった。メドゥーサが守りに入ろうとした時にはもう遅い、間に合わない。
「ギヒッ…」
短刀を投げた張本人は笑い。凜の死を確信していた。
「…させねえよ」
一筋の光が風を切る音と共に凜の頭上を通過する。
低い声と同時に響いた対照的な高い音、金属音だ。
黒い短刀は誰にもあたることなく道に転がった。
「ナイスだ。双剣使い」
それをしてみせたのはベイリン。
左手に握っていた剣を正確に投げ、彼は短刀による攻撃を防いだ。
「剣を持っといて正解だったな」
もともと気味の悪い気配は感じ取っていたので剣は消さずに持ってた。それが功を奏したのだ。
「――さて、剣はどっか行ったがまあいいか」
ベイリンは歩き始めた。
剣を回収しに行ったのではなく、短刀を投擲してきた人物のもとへ。
「よお、アサシン」
全身を黒衣で包み、不気味な笑みを浮かべている髑髏の仮面をつけた、暗殺者が民家の屋根の上から双剣の騎士を見下ろす。
「いつからいたんだ? …って当然最初からだよな」
「――――」
まるで友人であるかのように軽く話しかけるベイリンに対してアサシンは無言で彼のことを見つめている。
「なんだ、冷たいじゃねえか」
「――――」
「返事ぐらいしろよ」
「――貴様と交わす言葉はない」
ようやく口を開いたアサシンの声色はひどく冷たかった。が、同時に別の感情も彼の声には混同していた。
「そういうなよ。やっと見知った顔に会えたんだ。それともなんだ、お前まだ根に持ってんのか? 終わったことなんだからもう忘れろよ」
「――――」
溢れる殺気。
面をかぶっていてもわかる。彼の表情には怒りと呼べる感情が浮かんでいる。
「――あ? 呪腕の…いや、ちげえな。誰だお前」
アサシンを見たクーフーリンは彼の見た目がカルデアにいる呪腕のハサンと酷似していると思ったが、彼の纏う悍ましい気配を感じとって全くの別物であることを見抜いた。
「雰囲気も違うけど。見た目も違うぞ、あいつ」
式は、彼が雰囲気だけでなく外見も呪腕のハサンとは異なっていることにも気づいた。
「あー、確かにな。右半身が、なんかこう…気持ち悪いな」
黒衣に隠れた彼の右半身は左半身と比べると盛り上がっている。
「やろうぜ、アサシン。俺のこと殺したいんだろ?」
「いいだろう。貴様はここで――」
突如アサシンは振り向いた。
彼が顔を向けた先には、男がいた。
「
アサシンがリーパーと呼んだのは黒い外套のサーヴァント。フードを深くかぶっているのと、夜ということもあり顔を見ることができない。
「何故――。いや、貴様がわざわざここまで来たということはマスターからの命があったのだな。了解した。戻るとしよう」
アサシンはリーパーからの言葉を発せられる前に、彼が何を言おうとしているのか理解して行動を始める。
「――待てよ」
屋根へと跳躍したベイリンは、この場から立ち去ろうとしているアサシンではなく新たに現れたリーパーに対して剣を振るった。
リーパーは超速の攻撃を難なく躱し、そのまま無駄のない動きで双剣の騎士を蹴り飛ばした。
「ハッ、やっぱりお前もいたのか。アーチャー…それともリーパーって呼んだ方がいいのか?」
十メートルは飛ばされたベイリンはなんとか着地して、自分を見下ろしているサーヴァントを睨みつける。
「――――」
リーパーは口を開かずに霊体化してその場から姿を消した。
その行動を見てベイリンは舌打ちをした。
「おい。知り合いか?」
「ああ」
「…そうかい」
ベイリンは立ち上がりながらクーフーリンの質問に軽い口調で答えた。
「さ、あいつらは消えたわけだが、どうするよ」
赤い瞳は二人の女性へと向けられた。
「リン。どうしますか?」
クーフーリンの行動、そしてベイリンが少女を護ったことから彼らが敵ではないということをメドゥーサは理解している。
「――――」
少女は悩んでいる。これからどうするか頭をフル回転させてる。
「――他にもサーヴァントがいるんでしょ。そいつはなんなの?」
「俺らの仲間だ。そいつも戦う気はないはずだぜ。今は出てきたくないとか言って隠れてるよ」
「――あなたたちは本当に戦闘する気はないのよね」
「今はないな。あんたらから攻撃して来たら話は別だが」
「――――マスターはどこに? それに何人いるの?」
「あ? ああ、そうか。普通は一人一騎だけなのか」
長いことカルデアにいるので通常の聖杯戦争のルールを忘れてしまっていた。
「マスターは橋渡った先にいる。一人だけだ」
「一人!? そんなの無理に決まってる! 嘘をつかないで」
「いや本当に一人なんだけどな…、どうするよ?」
「オレに振るなよ」
本当にマスターは一人だけしかいないので二人は困った。
「そのセイバー今さっき会ったばっかりだから知らないけど、オレとこいつともう一人隠れている奴のマスターは本当に同じだ。なんなら今連れてくるか?」
「………」
嘘はついていない。少女はそこで結論を出した。
「わかった。助けてもらったし、見逃すわ。でも条件として私たちについてきて」
「はあ? なんでだよ」
「あなたたちが何者でなんで冬木にいるのか聞きたいの。立ち話もなんでしょ?」
「どこに行くんだ?」
式が少女に聞く。
「私の家と言いたいところなんだけど、ちょっと遠いから近くにある知り合いの家まで来てもらうわ」
少女からの条件は難しいものではない。だが独断で決めていいものかと躊躇うものではあった。
「いいぜ」
式は少し悩んだ後、了承した。
「おい、いいのかよ」
「いいんじゃないか? オレたちもいまいち状況掴めてないんだろ? なら現地の奴らに聞いた方が効率よくないか?」
「…確かにな」
「じゃあ決定でいいのかしら」
「ああ、案内してくれ」
はい。というわけで双剣の騎士はベイリンさんでした。
彼のステータスは次回ぐらいに後書きに書くかもしれません。