「ここにいる理由はざっとこんな感じだ。で、マスターであるお前をここに連れて来ようとしたところにちょうど来たと」
立香にここまで来た経緯を式が知っている限りで説明した。
「あー、混乱してきた」
立香が話を聞いて思わずそんな声を漏らした。
少し離れた場所で少女から説明を受けている桜と士郎も同じような状況に陥っていた。
「そうそう。カルデアの方は今大忙しだぞ」
「また迷惑かけちゃってるのか…」
「だな」
事あるごとにカルデアに迷惑をかけているので、カルデアの職員達には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「はあ!? あれ全部サーヴァント!? しかも…」
今度は士郎から説明を受けていた少女が大声を出して驚愕していた。
「あのよ、いい加減話進めねえか?」
一人居間で座ってくつろいでいるアロハシャツの男が全員に提案した。
「――そうね。まず自己紹介からしましょうか。私は遠坂凜よ、よろしく」
「俺は藤丸立香です。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく藤丸君。あなたがこのサーヴァントたちの…マスターでいいのよね?」
この場にいるメドゥーサ以外のサーヴァント全てのマスターが立香一人であることを少女――凜はまだ信じられていないのだろう。言動からそれは窺える。
「はい」
とはいっても令呪がある時点で立香がマスターであることを疑う余地はない。
「お礼を言わないとね。二人を助けてくれてありがとう」
丁寧に、礼儀正しく、凜は頭を下げた。
「そ、そんな気にしなくていいですよ。通りすがりでしたから」
「本当に感謝して……あれ? あなた…」
凜は立香の顔を隅々まで観察する。
「なにか…?」
「あなたのサーヴァント大きな屋敷見てなかった?」
「…見てましたね」
夕方の出来事だ。凜に言われるまで完全に忘れていた。
「あれ私の家なのよ。彼はいないの?」
「多分霊体化してます。呼んでも出てこないと思いますよ」
そもそも呼ぶ気なんてない。ここで彼の名前を呼ぶとわけのわからないことになる。
「そう…」
「――――」
立香の目には凜が何故か残念がっているようにうつった。
「遠坂、立ってないで座って話さないか? 立香も」
「あ、それもそうね」
士郎の指摘を受けて凜は座布団に座った。
立香も士郎に言われた通り座る。
「さて、情報交換と行きましょうか藤丸君」
***
「特異点…レイシフト…人理修復…。駄目だ、本当に頭痛いわ」
凜が頭を抱える。
「えっと…つまり立香たちは別の世界の未来から来たと?」
「多分…そうです」
立香もここが別世界であるという話は式から先ほど聞いたばかりなので、自信はない。なので少し曖昧な返事になってしまった。
「並行世界…。はぁ…」
小さく呟くとまた凜は頭を抱えた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ…。世界から世界への移動よ? 魔法の領域なのよ?」
魔法。魔術とは異なる神秘。魔術師たちが目指す根源の渦から引き出される力。
メディアなどから魔術についての教えている立香ではあるが、あまりそれに関しての関心がない。というのも立香は魔術師ではないので、すごいなと思うだけでそんな力を欲してはいないのだ。
「――あなたたちがカルデアって機関で、サーヴァントたちの力を借りてそっちの世界の人理を守っている。で、何らかの事故でここにたどり着いた。そして二手に別れて探索していたところで片方はバーサーカーに襲われている士郎たちを助けて、もう片方はあなたたちもよく知らないサーヴァントを連れてきたと…」
全員の視線はベイリンの方へと向けられた。
「ベイリンだそうだ。そいつの関係者だろ」
そして移された視線。その先にいるのはアルトリアオルタ。
「………」
彼女からの返事はない。ただベイリンを見つめること数秒。ようやく口を開く。
「…まあ、そうだな」
それ以上の言葉はない。間の割には短い回答だった。
「――お久しぶりです。アーサー王」
ベイリンは実に礼儀正しい。戦闘時の彼の荒々しい様子を見た式やクーフーリンにはとても信じられない光景だった。
「ああ。だがその話し方はやめろ。私はお前が仕えていたアーサーではない。それにお前には合わんだろう? そんな口調は」
「――それもそうか」
嘘だったかのようにベイリンの態度は変わる。
敬意などない。そんなもの気にしていない。そんな初見の印象通りの男に戻っていた。
「えっと…、どんな関わりが?」
カルデアに来てからある程度歴史について勉強してきたのだが、ベイリンについて立香は知らなかった。
「円卓の騎士結成前に私に仕えていた騎士だ」
双剣の騎士、ベイリン。
かつて円卓の騎士結成前にアーサー王に仕えていたとされる騎士。アーサー王に最強の騎士とも言われた男。
そして、アーサーが危険視していた人物。
「へぇ、知らなかった」
立香が知らないのも無理はない話だった。
ベイリンはアーサー王伝説の初期に死亡する。場合によっては彼の活躍がカットされることもあるとかないとか。
「ハズレか…」
ベイリンは立香を値踏みするように見るとため息交じりにそう呟いた。明らかに立香を侮辱している。
ベイリン的にはとんでもなく優秀で状況を的確に把握している魔術師を期待していたが、それは見当違いだったと落胆した。立香は見るからに弱く、知識もかけている魔術師だったためだ。
「…あまり私のマスターを舐めるな。双剣の騎士」
「――ふーん…」
アルトリアの冷たい声。
それを見たベイリンは少し驚きつつも、面白いものを見る目でアルトリアを眺めていた。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでくれよ。俺のことを嫌いなのは知ってたけど、あんたがそんな感情的になるとは思ってなかっただけだ。反転化ってやつはおもしろいな」
「貴様――」
本当に王と騎士の主従関係だったのかと疑うほど険悪な雰囲気が衛宮邸の居間に充満している。
「――内輪もめなら後でしてもらえるかしら」
まだ話すことがあると場の空気を切り裂いたのは凜だった。
立香もマスターであるため黙っているわけにもいかない。
「アルトリア」
「………わかっている」
それ以上ベイリンに対して何も言うことはなく。
壁にもたれかかると、アルトリアは瞑目した。
「凜さん。続けましょう」
まだ話し合いは終わっていない。
離しておくべきことがまだ残っている。
「そうね。じゃあまず藤丸君。私たちは協力関係を築くということでいいのかしら?」
「はい」
現地の人物。それも魔術師ならば協力者として心強い。
「そう。それなら協力してバーサーカーを差し向けてきた奴を倒すということで」
凜は言い終えると、隣に座る桜の方をチラッと見る。
そして予想していなかった言葉を口にした。
「あと一つ話をしたら、今日はここまでにしましょう」
「え?」
間の抜けた声を立香は出した。
話を終えるには早すぎる。情報の共有をし、協力関係になっただけで、まだ話すべきことは他にもある。
「今日はもうこれで終わり。続きはまた明日の朝で」
「中途半端じゃないか?」
立香が思ったことを士郎も思ったらしく凜に尋ねる。
「そうね。でも最低限藤丸君たちが何者なのかは分かったし、ある程度の情報交換はできた。だから今日はもう休みましょう」
確かに疲労はあるが耐えられる。そもそもこの話し合いよりも休息を優先するなんておかしな話だ。
「疲れているでしょ?」
付け加えられたように言われた言葉がさしていたのは士郎のことではない。直接名前を口にしたわけではないが、おそらく凜が言っているのは桜のことだというのは立香でも察しはついた。
「…姉さん。私は大丈夫ですから」
「そうなの? でも士郎は疲れているわよね?」
同意しろという意味をはらんでいそうな笑みを向けられた士郎は頷いた。
「ああ。今日は疲れた。桜、休もう」
「先輩がそう言うなら…」
士郎が疲れたと言ったことで渋々桜も休むことに同意した。
「そういうことだから藤丸君、今日はあなたも休んで。部屋は士郎から後で案内してもらってね」
「――わかりました。でも危険じゃないですか?」
ヘラクレスがもし狙ってあそこに現れていたのだとしたら、標的は士郎もしくは桜ということになる。立香たちが撃退したが、あくまで撃退しただけ。また襲ってこないとも限らない。特に休んでいる最中に襲撃されたら最悪だ。
「危険ね。だからさっき言ったでしょ? 最後にあと一つ話をするって。それがこのことについてなの」
「なるほど」
「それで聞きたいんだけど、藤丸君の今連れてるサーヴァントの数は10でいいのよね」
「そうですけど…」
ついさっき来た式を入れればサーヴァントの数は10。そのことは最初の情報交換時にいってある。今のは確認だ。
「その中の数人に見張りを頼めるかしら。それが話したかったこと…というより頼みなんだけど」
「わかりました。いいですよ」
断る理由がない。彼らの身を護るのは当然だ。
それに頼まれなくても立香は数人のサーヴァントには周囲を見張ってもらうように言っていただろう。
「ありがとう。それとそのサーヴァントについては…」
いまいち立ち位置の不明なベイリンについてはどう対応するべきか。これには凜も正直困っていた。
「そっちも俺がなんとかしておきます」
躊躇う様子もなく立香言った。
「助かるわ。ありがとう」
重ねて礼を言う。
ベイリンの件に関してはこのような状況に慣れていそうな立香に任せることになったところで、今日の話し合いは終わり。
そうなるはずだった。すくなくとも凜はそうするつもりだった。
けれどそうはならなかった。
「――なあ。一ついいか」
もう終わり、という雰囲気を断ち切るように声を発したのは士郎だった。
「なんですか?」
立香にかけられた声だったため彼は反応する。
「聞きたいことがいくつかあるんだ」
「というと?」
「――まずあの金髪の男についてなんだが…」
金髪の男というのはギルガメッシュのことだ。だが居間を見回しても彼の姿はない。
「英雄王なら向こうへ行ったぞ」
アルトリアは細い人差し指の先を士郎たちの背後に向ける。
「――向こう…庭か?」
「………」
どうやらギルガメッシュが向かったのは庭のようなのだが、アルトリアが口を開いた瞬間、士郎、桜、凜の表情が少し暗くなっていた。
(やっぱり後で聞くか…。でもなぁ…)
どうも同じような場面がさっきからある。とてもいいと言える雰囲気ではないのでどうにか改善させるために話を聞くべきかと思ったが、他人の事情にずかずか入っていくのは流石に立香を躊躇わせる。
「――誰か王様のこと呼びに行ってくれる?」
ひとまず思考を切り替え話を元に戻す。
「私が行く」
「――ありがとう」
アルトリアは軽く手を振って部屋から出た。
彼女の後ろ姿を立香は何も言わずに見守った。
彼女が戻ってくるまではそう時間はかからなかった。けれど、居間にいた数人にはその時間が少し長く感じていた。
とんでもなくお久しぶりです。
年内に投稿したかったんですが、作業が多くて年を越してしまいました。
次回はなるはやで投稿します。