年明けなのでようやく続きます。
本当は年末に投稿したかった……!くそう……!!
「ユウヤ君。かつて決闘は、人の魂を強くするための神聖な儀式だったと言われているんだ」
子供相手だからか柔らかい口調で、九十九一馬さんが語る。
その優しい声音のなかに、こちらを案じる心遣いや持ち前の豪胆さがにじみ出ている。
「付喪神という考え方がある。思いが込められた物には神様みたいな何かが宿るっていう話だ。それが転じて、人間の心にも不思議な力を持った存在がいると信じられていたんだ。冒険していると世界各地で実際にそういうモノから力を借りていた、という昔話を沢山耳にしたよ」
原典である漫画『遊☆戯☆王』における“カー”のようなものだろうか。
千年アイテムはなくとも、この世界の場合は【No.】で代用はできそうだ。【No.62 銀河眼の光子竜皇】の例だってある。人間時代のナッシュの話で出てきた海の神やミザエルのドラゴンも実はただ【No.】であるだけでなく、そういう類の存在だったのかも知れない。
「ある所では精霊。別の所では召喚獣。式神、使い魔、神……。呼び方はいろいろあったが、どれも石板や札を使って体の中や自然から呼び出して力比べや、知恵比べをしていたそうだ。俺たちが元いた遺跡はそうやって呼び出した精霊をより強く立派にするための決闘や、集めた精霊の保管をしていたらしい」
事実、あの遺跡はどこか見覚えのあるモンスターを描いた四角いレリーフが、所狭しと壁に敷き詰められていた。古代のナッシュ対ベクター戦は文字通り石板で決闘をしていたことを思いだす。ドローで天井から石板が落ちてくるイメージが先行するけれど、あれは確かに決闘だった。
「つまり、あそこは古代の決闘スペースだったっていうのが俺の立てた仮説だ」
―――で、このオカルト話の詰まるところは。
「目の前のモンスターたちは、ARビジョンじゃなくてその精霊ってことですか」
「おそらくな」
当然のように宙を漂う【クリボー】の群れ。俺たちを警戒心むき出しで取り囲む【超重武者】に【六武衆】に【忍者】たち……。他にも、彼らの背に隠れて山ほどいる。
見上げれば青や赤、橙に白に黒。色をつぎはぎにされた空が覆い、見下ろせば元居た石造りの遺跡の砂利道とはうって変わって、整地されたようなツルツルした黒紫の地面があった。モンスターたちの向こうには、四方を巨大な檻たちで組み上げられた壁が高くそびえ立っている。
ここは普通の場所じゃないと景色のすべてが訴えかけてくれば眩暈もする。
熱に浮かされて働かない頭で、なんでこんなところに居るのかを現実逃避に思い出す。
■■■■■
「―――これでがら空きになった所に【トレジャー・パンダ―】と【パンドラの宝具箱】でダイレクトアタック。これでピッタリ、二六〇〇ダメージです」
「正解だ!」
俺の後ろで「やったー!」とハイタッチする音がした。
キャンプ二日目の遺跡探検中、俺は遺跡にそぐわない長机で詰め決闘を解いたところだった。
遺跡を班の子供たちと共に進んで行った先の広い一室。他の客もまばらにいる中で「宝探しゲーム・中間CP!!」と書かれた紙を貼った机の前で一馬さんが待っていた。
その周りで全ルート共通の中間地点のため、先に着いていた遊馬先生やアンナたちが出された問題である詰め決闘を解けずに頭を悩ませていたのである。
最初は問題も簡単だし、昨日チャーリーに言われた言葉から、まだ私が動く時ではない……と今日は一歩引いてゲームは他の子たちに任せる気でいた。
しかし、直感で動くタイプの決闘者ばかりが集まっていたせいで俺以外はギブアップ。ヒントを出してもらうより早く、お前なら解けるだろ!?とアンナに詰め寄られてしまったのである。
別の班なんだからそれはダメなんじゃ、と断ろうとすると一馬さんが、班の垣根を越えて協力できるのならそれは良いことだぞ、と容認。結果、俺が三つの班の代表解答者みたいな形になった。
「じゃあ、これが中間チェックポイント通過の証。君の班の分だ」
「ありがとうございます」
一馬さんから差し出された【運命の発掘】を受け取る。
この世界は【エクシーズ・トレジャー】みたいな条件付きとはいえ大量ドローできる魔法カードが山ほどあるせいで、罠のドロー補助が驚くほど簡単に手に入るのだ。現に俺はこれと同じカードを七枚持っている。
最初はドロー補助を集めて【エクゾディア】組んで満足!と喜んだが、肝心のパーツが全種類レアカードなせいで、手札どころか一種類も手元に集まらなくてこんなんじゃ満足できねえぜ……と崩れ込んだのは四歳のころだ。
「ユウヤにいちゃんスゲー!こんなむずかしいのかんたんにといちゃうなんて!」
「えっ……!あーその、あれ。詰め決闘だって決闘だから相手がいるんだ。用意した相手がどうしたいか考えれば、答えが見えてきたりするよ」
「そーなのー?」
「今回は宝探しゲームだろ?だからきっと罠を全部はずしたあとに、【パンダ―】と【宝具箱】を一緒に通させたいのかもって思ったら解きやすかったんだよ」
「へー」
ぶっちゃけ簡単だった、なんて解けなかった子に言うのは良からぬと思ったので、興奮気味に聞いてくる最年少に適当な理由で答える。
すると、それを見ていた一馬さんが困ったように笑いだした。
「そこまでバレてたか。君はどうやら、目の前にあるもの以上に考えることができているんだな。遊馬と同い年なのに大したもんだ」
「あ、あはは……。今日はいつもより調子が良かっただけで……」
「へへ!ユウヤはスゴイだろー、遊馬の父ちゃん!」
「いや、なんでアンナが胸張るのさ」
中身が大人だからこその俺への褒め言葉に苦笑しながら言葉を濁すと、得意げにアンナが笑う。
適当に返事をしたが実際、この遺跡に入ってからは好調だ。
例えて言うなら、授業が少なかった日の帰り道。いつもよりも時間も体力もある中で何をしようかと帰路につくような身軽さと余裕がある。
そんな気分で歩くこの遺跡はすこぶる楽しい。通路の壁にあったレリーフを見ながら、あの絵柄は【心眼の女神】かなとか、わかり辛いけどあれは【クリボー】っぽいな何クリボーだろう勝手に出てきたりしないか、と想像しているとついつい班の子たちに置いていかれそうになるほどだ。
「はっはっはっは!明里たちから聞いていたが、しっかりしてるな。負けてられないぞ遊馬!」
「おう!今のは助けられちまったけど、次の問題は俺たちに任せとけユウヤ!」
「いや遊馬、みんな別々のルートだから次は一緒じゃ……あれ……?」
九十九親子のやり取りから暴投された借りを返す発言の途中、青い光が目についた。
感心している一馬さんの胸元が光っているのだ。
正確には彼の胸ポケットの中が発光している。携帯電話か小型のD・パッドかなにかだろうか。
「そこ、なにか光ってますよ?」
「何?まさか……!」
指差して伝えると、彼は慌てて胸ポケットから見覚えのある形をした発光物を取り出した。
瞬間、驚愕で俺の喉が鳴る。
青い光を淡く放ち不思議と引き込まれそうな神聖な雰囲気があるそれは、輪の下に二本線と逆三角を取り付けた黄色いナニカ。見ようによっては「皇」の字を模しているようでもあった。
どうみても『皇の鍵』だ。
「一体どういうことだ……?今まで何の反応も示さなかったのに……」
「それ、って……」
「ん?……ああこれは、何でもないんだ」
光り出した皇の鍵を訝しげに見つめる一馬さんは、俺の零した疑問を誤魔化した。
当然だ。息子の友達でキャンプ参加者である以外に関わりがない子供に、謎のアイテムの説明をしないのは当たり前の話である。
なので、隣の遊馬に訊ねた。頼む、よく似てるだけで、どこの土産物屋にもある無駄にカッコイイキーホルダーだと言ってくれ。
「遊馬……アレなにか知ってる?」
「父ちゃんが持ってる奴か?去年、父ちゃんが冒険中に見つけたモンだよ」
そういえば、皇の鍵は一馬さんが手に入れ、遊馬に渡された物だったはずだ。だから今、この人が持っていてもおかしい話ではないのだろう。
「……それって去年のいつ頃?」
「十月の終わりぐらい。父ちゃん、大ケガして帰ってきたから大変だったんだぜ」
「――――」
眩暈がした。
デュエルモンスターズ絡みの遺跡。遊馬たち。朝見た白紙同然の変なカード。光る皇の鍵。
【ウィジャ盤】の如く、これから何か起こるぞというメッセージを並べられているような気分だ。さっきまでの心地よさなど消し飛び、嫌な予感が背筋に脂汗を伝わせている。
「ユウヤおにいちゃん、早くいこーよ!置いてっちゃうよ!」
俺の揺れるマインドなどお構いなしに、うちの班の少女が奥への通路の前で俺を呼ぶ。
ゆっくり喋っていたからか、気がつけば机の周囲には俺と遊馬とアンナ、そして一馬さんだけになっていた。
返答しようと顔を向けるとその少女が、遺跡の奥から出てきた人影とぶつかりそうである。彼女はこちらを見たまま歩いていて気付いていない。
「キャッ……」
「アア?」
危ない、と声を出すには一足遅く、少女は男性とぶつかって尻もちをついてしまった。
「……チッ」
「あ……ごめんなさい……」
少女を苛立ち交じりに見下すその男性の顔を確認して、俺は目を見開く。
今朝、妙なカードを持っていたスキンヘッドの男が、そこにいたからだ。
「……まあ、いいぜぇ」
スキンヘッドの男の口角がニタリとつり上がる。その妖しい眼差しは少女だけでなく、この場にいる全員へと向けられている。
朝見た時とは明らかに違う。
視界に収めた時から、あの男に感じる不快さと同じものを最近俺は味わっている。
この短時間でどうやって手に入れたかなど推測するより早く、確信した。
今、あの男は【No.】を持っている。
悲鳴をあげるように叫びかけた。
「そいつから離れ……!」
「どうせ全員、この蝉丸様のカードになるんだからなぁ!」
男―――蝉丸が喜々とうたい上げると同時に、勢い良く掲げた手が眩むような閃光を放つ。
皇の鍵とは似ても似つかぬ赤黒く禍々しい光のせいで見えにくいが、その手にはカードらしきものが存在している。察するにあれが奴の【No.】だろう。
何をする気だと考える間もなく、変化は起こった。カードから、ひときわ強く輝く幾筋もの光線が人や壁のレリーフへ向けて伸び出す。
それが直撃したレリーフから、刻まれたモンスターが消えた。
さらに蝉丸の目の前にいた少女が光を受けた瞬間に、糸の切れた操り人形のように倒れた。奴が出てきた通路の先が薄っすら照らされ、そこにも彼女と同じように倒れる人間が何人も見える。
「う……うわあああぁ!?」
「きゃあああ!?」
「フッハハハハハ!!」
理解できない。それでもあの光に触れてはならない。
一拍遅れてそれがわかった客や子供たちの悲鳴と混乱の声が響く中に、蝉丸の嘲笑が混じる。パニックになって逃げ惑う人々を背中から打つように光線が走り、彼らは次々と倒れていく。
「何なんだよアイツ!?」
「遊馬!みんなを連れて外へ走れ!外の明里たちと協力して、人をここに近づけるな!」
「父ちゃん!?」
アンナが叫び、一馬さんが指示を出して蝉丸へと駆けだし、その姿に遊馬が狼狽えた。
そんなことは関係ないとばかりに一閃が俺たちの元へと迫る。このままでは俺かアンナに直撃する軌道だった。
「アンナ、危ない!」
「ユウヤ、危ねえー!」
「え、げふぇ!?」
「あ、どお!?」
アンナを光線から守るために突き飛ばそうとしたと同時、アンナも同じことを考えたらしく俺たちは互いを突き飛ばし合った。
「のわ!」
「ぐむ!?」
光線は避けられたものの、アンナはよろけて遊馬にぶつかり、俺は大きく吹き飛び決闘盤を構えていた一馬さんの背中へと激突。その衝撃で彼のその手から決闘盤と皇の鍵が宙を舞い、弧を描いて皇の鍵が俺の腹へと落ちる。
瞬間、皇の鍵の光が増し蝉丸の【No.】よりも強く輝いた。
「な……」
青い光が、空間を埋めていく。
風船のようにしかし光の速度で膨らむそれは、瞬く間にその場にある全ての物を飲み込んだ。
………………
――――光がおさまった後。
その一室では、壁面には彫られていた絵柄が一つ残らず消え、枠のような石が一面に埋め込まれるだけとなり、床には数十人もの人間が魂を抜かれたように倒れて眠っていた。
そこにはユウヤたちの姿も、蝉丸の姿もない。
ただ地面には忘れられたように倒れた机と決闘盤、そして皇の鍵が落ち、
部屋の中央中空。そこには不安定に輪郭を揺らがせる青い空洞が、ぽっかりと開いていた。
■■■■■
「ユ……く……ユウ……ん……ウヤ君……ユウヤ君!」
俺を呼ぶ誰かの声と揺すられる振動で目を覚ます。
最初に見えたのは黒紫の何か。そこに影が落ちていることに気づいてそれが地面であることと、自分がうつ伏せになって倒れていることを理解した。
「……一馬、さん?」
「良かった……目が覚めたか」
不鮮明な意識のまま声の主を見れば、安堵した一馬さんが俺を見下ろしていた。
身を起こして徐々に頭にかかったモヤが晴れていくと共に、気を失う直前の出来事を想起してまぶたが跳び上がった。
「そうだ、アンナ……遊馬!一馬さん二人は、他のみんなは!?」
「ユウヤ君、落ち着きなさい」
「落ち着いてなん、が……!」
「ユウヤ君!」
詰め寄ろうと持ち上げた俺の身体がそのまま崩れ落ちた。
身体が重い。頭もひどい風邪を引いた時のように重く、締め付けられるように熱い。立ち上がろうとするけれど腕にも脚にも力が上手く伝わらず、かたかたと震えるばかりだ。
突然の体調不良に戸惑っていると、一馬さんが手を貸してくれた。
「しっかりするんだ。立てるか?」
「あ……ありがとうござい、ます……」
引っ張りあげられて立ち上がり、ふらつく身体を気力で支える。
「厳しいことを言うが、気を抜くな。まだ、手放しで安心できる状況じゃないようだからな」
「……え?」
―――人間だ。
―――人間が“狭間”に落ちてきた。
―――メズラシイ。メズラシイ。
―――原因はあいつらか?
―――それ以外にあるか!
―――そうでしょうか?それにしては様子が……。
周りには俺と一馬さん以外の人間の姿はなく、代わりにデュエルモンスターズらしき生物たちが距離をはかりながら俺たちを包囲して、口々に理解できる言語で会話をしていた。
あまりの光景に、思わずD・ゲイザーを付けていないかと自分の顔に触れて確認する。
「……一馬さん、俺ダメみたいです。モンスターが人の言葉を喋ってる幻聴がします」
「問題ないぞ。俺にも同じ幻聴が聞こえてるからな」
「それ、二人そろってダメってことでは……」
「軽口が叩けるなら、イカれていても十二分だ」
ニッと笑ってサムズアップする一馬さんに、俺の症状に頭痛が追加された。
いやしかし、それぐらいの寛容さがなければこの異常事態を乗り切れないのかも、とその考え方を受け入れる方向に舵を切る。
カードゲームではよくある話、カードゲームではよくある話……。
「あれ、どう見てもARビジョンじゃありませんよね……?」
「ああ。彼らは“デュエルモンスターズの精霊”だろう」
「精、霊?」
そういうオカルトは、やはりこの世界でも同じなのだろうか。
訝しんでいた俺に対して一馬さんは懇切丁寧な精霊についての解説が始まり、今に至る。
「それがどうしてここに……?」
「それは俺たちが“次元の狭間”に……」
「そこの人間たちよ!」
一馬さんの話をしゃがれ声で遮りながら、モンスターの輪から小さな影が勢いよく飛び出した。
その姿は子供の頭くらいの大きさで、毛だらけの丸い体に手足が伸びるシルエット。【クリボー】の一種かと間違えそうになったが、その大きく開く三つ目が否定している。
「【クリッター】……?」
「これは一体何の真似だ!?」
大の大人である一馬さんを見下ろす高さで宙に浮く【クリッター】は、怒りを隠すことなく俺たちを怒鳴り散らした。
体格に合わないその威厳ある老人のような低い声に、俺を背に隠しながら前へ出た一馬さんが反論する。
「待ってくれ。何の真似と言われても、俺たちも気が付いたばかりで状況が……」
「惚けるでない!あれを前にして、かようなホラが通ると思うか!!」
「あれ、って?」
【クリッター】が指差す先へ促されるまま振り返った。何かがあるわけではなく、俺たちをモンスターたちごと囲うようにそり建つ高層ビルほどに高い壁があるだけだ。強いて何かあると言うなら、他と比べてその壁だけに赤い曲線で描かれた模様があることだろうか。
「は……?」
違う。模様、ではない。
鈍い頭を上下させ全貌が見えたことでようやくわかった。壁が書面であるかのように、一面を使って太くあまりにも大きく描かれたソレは、
“二つの数字”だ。
「【No.】を持ち込み儂たちをその中へ閉じ込めたのは、お主らなのかと聞いておるのだ!」
高く高くそびえる壁。そこに刻まれた『68』という【No.】の文字が、押しつぶすような存在感で俺たちを見下ろしていた。
今回の要約:「【No.】の中に隠れるのよ!」「閉じ込められた!」
No.68「私はまだ変身を残している」
蝉丸「俺もだ」
蝉丸(人間状態)の髪形?をどう書けばいいかわからず、とりあえずスキンヘッドとしています。数話後に当たり前のように変身するのでご了承ください。
いや誰やねんと言う方は、「遊戯王ZEXAL 蝉」で検索するか次話での説明をお待ちください。